「誤判原因を究明する調査委員会」など
冤罪防止のための第三者による独立した公的機関を設置することなどすぐにやるべきだ。
2010年3月27日付の各紙社説
菅家さん無罪―誤判防ぐ仕組み作りを(朝日)
「足利」再審無罪 菅家さんの無念を冤罪防止に(読売)
足利事件無罪 次は第三者で検証を(毎日)
冤罪を繰り返さないために (日経)
足利事件 冤罪なくす教訓にしたい(産経)
菅家さん無罪 可視化の願い実らせて(東京)
足利事件再審判決 自白強要と冤罪の根を絶て(赤旗)
朝日新聞 2010年3月27日(土)付
社説:菅家さん無罪―誤判防ぐ仕組み作りを
「足利事件」の再審裁判で、宇都宮地裁は菅家利和さん(63)に無罪判決を言い渡した。当時4歳の女児を殺害したなどとして逮捕されてから、菅家さんは17年半、自由を奪われた。裁判長は異例の謝罪を行ったが、償うことのできない重い年月だ。
菅家さんが「犯人」とされたために、結果的に真犯人はわからないまま、事件は時効を迎えた。殺害された女児や家族らの無念も計り知れない。
なぜ、こんな誤判が起きたのか。徹底した検証が必要である。
菅家さんが有罪とされたのは、いったん自白したこと、犯人のものとされるDNA型と菅家さんの型が「一致」したことが根拠だった。再審ではこのDNA型鑑定に証拠能力がなく、自白も信用性が認められないとした。
冤罪の原因は自白偏重と証拠の不十分な吟味に尽きる。足利事件はその典型だ。
自白について、菅家さんは長時間の調べに「疲れ果てて認めてしまった」と言っている。取り調べのつらさに耐えられず、捜査員に迎合してしまったのだろう。DNA型は、当時は「1千人に1.2人」を特定できる程度の精度だったが、間違っていると、多くの人が考えなかった。
捜査当局には自白に引きずられず、客観的証拠と付き合わせる基本を徹底してほしい。いま、DNA型鑑定の精度は極めて高くなった。しかし過信してはならない。標本採取には細心の注意が必要だし、将来の再鑑定に備えて厳重な管理も欠かせない。殺人罪などの時効が廃止される見通しの状況下では、なおさらのことだ。
そのうえで、取り調べを録音・録画する可視化を法制化することが一刻も早く必要だ。取り調べに弁護人が同席することも検討すべきだ。
冤罪事件は後を絶たない。再発防止のため、警察庁、最高検は検証作業をしている。足利事件についても近く公表される。それ自体は評価できるが、内部の調査だ。裁判所も捜査の誤りを見過ごした。その問題点を「再審」の枠組みだけで検証するのは難しい。
日本弁護士連合会は今回の判決を前に、調査委員会の設置を求める意見書を出した。誤判の原因究明とともに、防止のための方策を提言するための第三者による独立した公的機関として提案している。法務省、最高裁はきちんと受け止め、法曹三者で検討を始めるべきである。国会や政党も設置に向け動き出してほしい。
刑事裁判には裁判員制度が導入された。市民の新鮮な感覚で冤罪を防止しようという期待もこもる。それでも裁判員が間違わない保証はない。冤罪防止のための新たな仕組みづくりは急務である。それは菅家さんと、すべての冤罪被害者への最大の償いでもある。
(2010年3月27日02時28分 読売新聞)
「足利」再審無罪 菅家さんの無念を冤罪防止に(3月27日付・読売社説)
3人の裁判官が立ち上がり、「誠に申し訳なく思います」と謝罪した。この極めて異例の光景を教訓に、司法界全体が冤罪の再発防止に努めねばならない。
1990年に4歳の女児が殺害された足利事件の再審で、宇都宮地裁は菅家利和さんに無罪を言い渡した。検察側が上訴する権利の放棄を地裁に申し立て、受理されたため、菅家さんの無罪がようやく確定した。
無罪になったとはいえ、いったんは無期懲役が確定した菅家さんは17年半もの間、拘置・服役を強いられた。事件の時効が既に成立しているため、仮に真犯人が分かっても、立件はできない。
こうした事態を招いたことは、司法界の大きな汚点である。
女児のシャツから検出されたDNA型と菅家さんの型が一致するという鑑定結果と、菅家さんの自白が立証の両輪だった。
これに対し、判決は、DNA鑑定の結果について、「証拠能力が認められない」と判断した。自白についても、「信用性が皆無であり、虚偽であることは明らか」と結論付けた。
当時のDNA鑑定は、現在よりも格段に精度が劣っていたが、捜査現場では犯人を割り出す新兵器として期待されていた。
DNA鑑定への過信と、鑑定結果を示して自白に追い込む捜査手法が招いた冤罪といえる。
警察庁、最高検は足利事件の捜査の検証結果を近くまとめるが、求められているのは、自白偏重の捜査からの脱却である。取り調べを録音・録画する可視化のあり方についても、議論を深めていく必要があろう。
菅家さんは、当初の公判の途中で否認に転じた。最高裁に至るまで、自白の信用性に疑問を抱かなかった裁判所の責任も極めて重いことは言うまでもない。この日、裁判長も「真実の声に耳を傾けなかった」と語った。
自白は、捜査当局の誘導や強要によるものではないのか。裁判員裁判が始まった現在、裁判員もこうした視点を忘れずに事実認定に臨む必要があるだろう。
今回の再審では、検察側が争う姿勢をみせなかったにもかかわらず、地裁はかつて菅家さんを取り調べた検事らの証人尋問を実施した。取り調べを録音したテープを法廷で再生することも認めた。
こうした地裁の姿勢は、冤罪を引き起こした原因の究明に一定の役割を果たしたといえよう。今後のモデルケースとしたい。
毎日新聞 2010年3月27日 東京朝刊
社説:足利事件無罪 次は第三者で検証を
3人の裁判官が法壇上で菅家利和さんに頭を下げた光景が、この裁判のすべてを物語る。
足利事件の再審公判で菅家さんに無罪が言い渡され確定した。いわれのない罪で逮捕され、17年半も自由を奪われた菅家さんにやっと春がきたことを心から喜びたい。
昨年10月に再審公判が始まった際、検察側は最小限の審理で早く判決を言い渡すべきだと主張した。一方、弁護側は誤判の理由を法廷で明らかにするよう求めた。
宇都宮地裁は、弁護側の主張通り、「当初のDNA鑑定は未熟」とする鑑定人を尋問し、検事の取り調べテープも法廷で再生した。一定の検証がされたと評価できよう。
無罪確定が遅れた責任は裁判所にある。弁護側が拘置中の菅家さんの毛髪を鑑定に出し、被害者の着衣に残っていたDNA型と一致しないとの結果が出たのは97年だった。
だが、最高裁は00年、鑑定に言及せず上告を棄却して無期懲役が確定した。宇都宮地裁が再審請求を棄却するのはさらに8年後である。この間、05年に公訴時効が成立した。釈放が遅れただけでなく、真犯人を逮捕する機会も失ったのである。
佐藤正信裁判長は「裁判官として誠に申し訳なく思います」と謝罪した。裁判官の謝罪は異例だが、やはりけじめは必要だった。
ただし、これで冤罪(えんざい)の全容解明にはなるまい。警察はどう自白を迫ったのか。菅家さんと型が一致したと結論づけた当初のDNA鑑定の証拠能力はどう検討されたのか。裁判所の再鑑定決定の判断が遅れたのはなぜか。いくつもの疑問が残る。
各機関の内部調査では限界がある。日本弁護士連合会は今月、「誤判原因を究明する調査委員会」の設置を求める意見書をまとめた。第三者の目で検証しようとの提言だ。実際に海外では行われている。政府はぜひ設置に動いてほしい。
最新のDNA鑑定により米国では昨年6月時点で240人の冤罪が晴らされ、うち17人が死刑囚だという。一方で、神奈川県警がDNAの誤登録が原因で別人の逮捕状を取る事態が最近発覚した。精度が上がっても、扱うのは人であり過信は禁物だ。
DNA鑑定に携わってきた科学者や科学警察研究所の技官は、事件を検証してほしい。それが最先端の技術を今後に生かす道だ。
教訓は多岐にわたる。自白偏重の捜査へ警鐘を鳴らした。テープ再生は、取り調べの全面可視化の必要性を改めて示した。報道機関の責任も免れない。菅家さんの逮捕時、犯人視報道があった。もっと早く菅家さんの声に耳を傾けてほしかったとの批判もある。今後に生かしたい。
日経新聞 2010/3/27付
社説:冤罪を繰り返さないために
女児が誘拐され殺された足利事件で冤罪(えんざい)を被り、17年半も服役させられた菅家利和さんに再審無罪の判決があった。
無期懲役刑を確定させた最高裁まで3回の裁判と、最初の再審請求裁判とで、誤判は計4度続いた。ようやく真実に光が当てられたのは再審請求の抗告審(東京高裁)で、元の裁判の有力証拠だったDNA鑑定をやり直した結果だ。
しかし、誤判の最大の原因は、精度が低いうえに判定手法にも疑問のあった、当時のDNA鑑定を過信したことではない。「自白は証拠の王」とする古い発想から抜けきれない捜査と裁判のあり方が、無実の人に罪を着せたのである。
捜査官は、精度の貧弱なDNA鑑定を菅家さんに突きつけて虚偽の自白をとった。法廷で自白を翻すと、検察官が拘置中の菅家さんを取り調べ自白を維持するよう迫った。この取り調べは、今回の無罪判決で違法と断じられている。
裁判官は、自白を翻した法廷での言葉よりも捜査官が作った自白調書を信用し、DNA鑑定を、精度が低いのを承知のうえで、自白の信用性を支える証拠として評価した。
再審の裁判では、取り調べを録音したテープが証拠になり法廷で再生された。それにより「明らかとなった、当時の取り調べの状況」を、無罪判決は、自白調書の信用性を減殺するものと認めた。
この事件は現在なら、裁判員裁判の対象だ。取り調べの実情など知らない裁判員に、捜査官への自白と法廷での否認のどちらを信じるかを決めてもらう場合、自白を得た取り調べの様子が分かる資料は不可欠の判断材料だ。取り調べを録音録画する「可視化」は、裁判員に誤判の重荷を背負わせないよう、早く実現させなければならない。
最近、警察庁の管理するDNA型記録システムに誤情報が登録された失態があった。警察がDNA検体を取り違えたのが原因だった。そんな雑な物証の扱いをしていては、自白に頼らない犯罪捜査など望めない。
冤罪を繰り返さないために、捜査当局には「可視化」を受け入れる意識変革と、捜査手法の改革が要るのではないか。
産経新聞 2010.3.27 04:17
【主張】足利事件 冤罪なくす教訓にしたい
足利事件の菅家利和さんの無罪が確定した。法曹界全体をはじめ事件の関係者が猛省し、冤罪(えんざい)防止に向けて最大の努力を行わねばならない。
菅家さんは栃木県足利市で平成2年に4歳女児が殺害された事件でいったん無期懲役が確定した。昨年6月、17年半ぶりに釈放され、宇都宮地裁は無罪を言い渡した。今回は、それを法的に決着させるための再審判決だった。
従来の再審は、被告の名誉を早期回復することが目的とされた。しかし足利事件では、菅家さんと弁護側が冤罪となった原因の究明を主張し、同時に、誤った判断を下した裁判官の謝罪なども求める異例のケースとなった。
担当した同地裁の佐藤正信裁判長は、菅家さんの心情に最大限に配慮したといえる。取り調べ検事の証人尋問や、取り調べの模様を録音したテープを再生し、法廷で証拠調べする措置をとったのも、その表れだった。
この日の判決で、捜査段階の有力な証拠とされたDNA型鑑定の科学的信頼性が否定され、証拠能力も認められなかった。菅家さんの自白も、この旧鑑定の結果を告げられたことによるものであり、信用性は皆無であると結論づけた。当然の判断だろう。
判決文を朗読した佐藤裁判長は菅家さんに、「17年半もの長きにわたり自由を奪う結果となり、誠に申し訳ない」などと謝罪し、深々と頭を下げた。裁判官として、精いっぱいの反省の気持ちを伝えたものと理解したい。
取り調べを担当した警察・検察当局ばかりでなく、DNA型鑑定に何ら不信を抱かなかった裁判所の責任も大きい。最高裁は平成12年の上告審で、「DNA型鑑定は科学的に信頼される方法で行われた」として、菅家さんの上告を棄却する決定を下した。
この段階でもう少し慎重に審理し、鑑定結果に疑問を持てば、もっと早く菅家さんを救済できたかもしれない。
また捜査段階でのメディアの報道についても行き過ぎがなかったか、再検討する必要がある。
菅家さんは無罪が確定したが、事件は真犯人が不明のまま時効になった。足利市周辺では昭和54年以降、女児計4人が殺害され、いずれも未解決のままだ。
捜査当局は、冤罪防止に細心の注意を払いつつ、凶悪事件の解決に全力を傾けてもらいたい。
東京新聞 2010年3月27日
【社説】菅家さん無罪 可視化の願い実らせて
無実なのに十七年半も自由を奪った悲劇は繰り返してはならない。足利事件の再審判決で「無罪確定」となった菅家利和さんは、取り調べの可視化も願う。冤罪(えんざい)を防ぐため、実現へ加速させたい。
無実の人がなぜ犯人とされ、服役させられたのか。菅家さんが求めた誤判原因の解明は、再審公判の大きなテーマだった。そのため、元担当検事らの証人尋問などで、結審まで六回の開廷をした。浮かび上がったのは、DNA型鑑定への過信と虚偽自白をさせた取り調べの問題点だ。
DNA鑑定は当時、識別能力が低かったのに、犯人とする決め手になった。再審公判でその証拠能力は否定されたのだから、同様の鑑定方法が採られた他の事件に冤罪が潜んでいる可能性はある。再チェックは必然といえる。
その後、DNA鑑定の精度も飛躍的に向上した。だが、今月、神奈川県警でDNA型データを誤って登録したため、事件と無関係の人に逮捕状が出されていたことが発覚した。保管や取り扱いがお粗末なら、「過信」が禁物であることに変わりはない。
何より、取り調べの問題は、今なお捜査の現場に残っている。冤罪の多くは捜査側の見込みや誘導などにより、ウソの自白が引き出されることによる。再審の法廷では、当時の菅家さんの取り調べでの録音テープが再生された。否認に転じた菅家さんを再び“自白”させた場面だった。
現在、警察や検察で「一部録画」されているが、捜査当局に都合のよい部分だけだという批判がある。実際、無実の菅家さんは“自白”し、それを再生テープがとらえている。「一部録画」の問題点をあぶりだしているわけだ。
民主党は野党時代に可視化法案を二度、参院で可決した。だが、いまだ法務省などでは勉強段階で、法案提出の道筋が見えない。前進どころか、停滞ではないか。
裁判員裁判にも教訓を与えている。被告人が無罪主張をする事件がさらに出てこよう。無実を訴えても、信じてもらえない絶望感や無力感で、虚偽自白することがある。それを裁判員は心に常に念じてほしい。
報道する者も、捜査側だけでなく、被告側の主張にも十分に耳を傾けねばならない。
足利事件では、捜査当局にも精緻(せいち)な検証作業が求められている。冤罪を生んだ構造解明こそ、再発防止につながり、検察・警察の信頼を取り戻すカギとなろう。
2010年3月27日(土)「しんぶん赤旗」
主張:足利事件再審判決 自白強要と冤罪の根を絶て
身に覚えのない女児殺害の罪で17年半も獄中に捕らわれ続けた菅家利和さんに、ようやく無罪の判決が出されました。「足利事件」での、宇都宮地裁の再審です。
検察側は上訴権を放棄したため、菅家さんの無罪が確定しました。判決は、菅家さん「有罪」の根拠とされた警察庁科学警察研究所のDNA鑑定の証拠能力を認めず、捜査段階の「自白」についても「虚偽は明らか」と認定しました。また裁判所の責任についても、裁判長が起立し、頭を下げて謝罪しました。悲劇をくりかえさないため、自白強要と冤罪(えんざい)の根を徹底して絶つことが求められます。
背筋寒くなる悲惨な体験
栃木県足利市で当時4歳の女児が行方不明になり、翌日遺体となって発見されたのは1990年5月です。警察は翌年末になって、菅家さんを誘拐と殺人などの疑いで逮捕しました。逮捕の決め手とされたのは、DNA鑑定と、菅家さんの「自白」でした。
菅家さんは裁判の途中から「自白」を撤回し、無実を主張しました。しかし、宇都宮地裁、東京高裁、最高裁はいずれも認めず、2000年7月菅家さんの無期懲役が確定、いらい09年に東京高裁が再審を認め釈放されるまで、菅家さんは自由を奪われました。
東京高裁が再審を認めたのは、DNAの再鑑定で、菅家さんの無関係が証明されたからです。菅家さんや弁護団は、科警研がおこなったDNA鑑定の信頼性に疑問を提起し、資料の保存や再鑑定を求め、無罪や再審を主張してきました。不確かな鑑定を証拠に有罪と決め付け、再鑑定も拒否して再審を認めなかった、警察や検察、裁判所の責任は重大です。
なぜ判断を誤ったのか、昨年10月から始まった宇都宮地裁での再審では、この一点に焦点が当てられました。法廷で取り調べ段階での録音テープが再生され、菅家さんがどんなに否認してもDNA鑑定をたてに追い詰める取調官の発言や、その追及に虚偽の自白を余儀なくされる菅家さんの様子が生々しく再現されました。
DNA鑑定は万能ではありません。にもかかわらず、菅家さんがどんなにやっていないと否認しても、そのことばが信じてもらえないために追い詰められ、自ら警察や検察の筋書き通り「自白」させられてしまう事実に、背筋が寒くなる思いです。菅家さんの悲惨な体験は、ことばに言い尽くせないほど重いものがあります。
再審判決は、DNA鑑定や「自白」の誤りを認めるとともに、検察の取り調べにも一部違法なものがあったとしています。判決をうけとめ、警察や検察が誤判の原因を掘り下げ、二度と繰り返さない対策をとることが求められます。
密室での取り調べなくせ
とりわけ重要なのは、密室での取り調べをなくすことです。菅家さんを無実の罪で長期間獄中に閉じ込めた「足利事件」だけでなく、冤罪事件が後を絶たないのは、警察や検察の取り調べが密室でおこなわれ、自白の強要がまかり通っているからです。
無実のものが犯人にされ、真犯人が野放しにされる冤罪事件が繰り返されてはなりません。録音・録画で取り調べを全面可視化するなど、密室での自白強要をやめさせることは不可欠であり、政府はその実現を急ぐべきです。
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