2015年9月16日水曜日

辺野古 埋め立て承認 取り消し表明 手続き開始 (1)  150913-16

歴史を変える重い決断 苦難の歴史こそ原点だ 岐路に立つ沖縄の尊厳 自決権持つ存在と示そう

<各紙社説・主張>
朝日新聞)辺野古移設―既成事実化は許されぬ(9/15)
日本経済新聞)国も沖縄県も同じ行政なのに(9/16) 
東京新聞)辺野古取り消し 苦難の歴史こそ原点だ(9/15)
しんぶん赤旗)「辺野古」取り消し 「沖縄の心」体した知事の決断(9/16)
琉球新報)知事取り消し表明 岐路に立つ沖縄の尊厳 自決権持つ存在と示そう(9/15)

沖縄タイムス)[知事の決断と民意]工事強行は破局への道(9/16)
沖縄タイムス)[取り消し手続き開始]歴史を変える重い決断(9/15)
琉球新報)辺野古工事再開 民主主義踏みにじる愚行(9/13)
沖縄タイムス)[辺野古工事再開]対立激化し重大局面に(9/13)




以下引用



朝日新聞 2015年9月15日(火)付
社説:辺野古移設―既成事実化は許されぬ


 沖縄県の翁長雄志知事はきのう、仲井真弘多(ひろかず)・前知事による名護市辺野古埋め立て承認を取り消す手続きを始めた。
 米軍普天間飛行場の移設計画をめぐって、この1カ月、政府と沖縄県の集中協議が続いたものの、物別れに終わった。
 政府は間髪を入れず、中断していた移設作業を再開。県の埋め立て承認取り消しは、これに対抗してのことだ。
 政府と県がこれほど泥沼の対立に踏み込むのは異常事態である。承認が取り消されれば、さらに法廷闘争に発展する可能性が高い。
 政府は埋め立てを既成事実化しようとする動きを直ちにやめ、改めて県と話し合いのテーブルにつくべきだ。
 作業を続ければ、県民の反発は増幅する。辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前では連日座り込みが続き、大浦湾ではカヌー隊や抗議船の海上抗議行動が続く。不測の事態を招くことは避けなければならない。
 国会前では先週末、主催者発表で2万2千人が「辺野古の新基地反対」を訴えるなど、沖縄への共感は広がっている。
 対立が激しければ、それだけ強いしこりが残る。在沖米軍幹部はしばしば「良き隣人として」と発言するが、県民の理解がなければ日米同盟の基盤は危うくなる。
 翁長氏は21日、ジュネーブの国連人権理事会で演説する。戦後、日米両政府によって沖縄が過重な基地負担を背負わされた経緯を国際社会に訴える。安全保障の問題とは別に、人権や自己決定権の視点を強調する。
 米議会には数年前まで、辺野古移設の実現を疑問視する声があった。だが、前知事の埋め立て承認もあって移設支持が強まった経緯がある。
 普天間返還の答えを探るためには、米国を議論に巻き込み、ハワイやグアム、豪州なども含め、海兵隊全体の巡回配置の中で在沖海兵隊のあり方を再検討する必要がある。
 政府と県は、基地負担軽減や振興策を話し合う場を設けることでは合意した。翁長知事の当選後しばらくのように、政府が協議を拒否する状態よりはましだが、この対立の中で、うまく機能するとは思えない。
 やはり政府が埋め立てを中止し、率直に県と話し合える場をつくるべきだ。その中で、米国や東アジアの国々との関係まで視野を広げ、過去の歴史から将来の関係までを見据えた安全保障思想を生み出せないか。
 そのための新たな議論のテーブルづくりこそ求められる。
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日本経済新聞  2015/9/16付
社説:国も沖縄県も同じ行政なのに


 米軍普天間基地の移設問題はこのまま法廷闘争に突入するしか手がないのだろうか。行政組織の一員という意味では政府も沖縄県も同じ立場のはずだ。互いに意固地にならず、少しずつでも歩み寄ることが大事だ。
 普天間基地は沖縄県宜野湾市の市街地にある。2004年には米軍ヘリコプターが近くの大学キャンパスに墜落する事故が起きた。普天間の運用停止は一刻も早く実現しなくてはならない。
 他方、中国の活発な海洋進出を考慮すれば、抑止力の低下を招く事態は避けねばならない。この2つの要素を両立させようと政府が立案したのが、人口が比較的少ない同県名護市辺野古沿岸に基地を移す計画だ。これをいまさら覆すのは現実的ではない。
 翁長雄志知事は前知事が下した移設先の埋め立て許可を取り消す手続きに入ると表明した。自身の判断の是非を問う県民投票の実施も検討中だそうだ。
 こうしたやり方がよい結果に結びつくとは思えない。
 政府と県は以前にも法廷で争ったことがある。1995~96年にあった代理署名拒否訴訟だ。米軍への用地提供に応じない地主に代わって知事がする応諾の署名を当時の大田昌秀氏が拒み、政府が裁判所に訴えた。
 最高裁は政府に軍配を上げ、大田氏も最後は署名をした。政府と県の双方に感情的なしこりが残った。これと同じことを繰り返すのはあまりにも不毛である。
 1カ月の集中協議期間が終わる際、政府と沖縄県はなお話し合いを続けるための枠組みをつくることで合意した。このパイプを生かして接点を探るべきだ。
 政府は県南部の米軍基地はできるだけ広範囲かつ早期の返還が実現するように努める方針だ。そのことが沖縄県民に理解されれば、普天間移設への反発も少しは和らぐのではないか。
 どうすれば沖縄の基地負担を軽くできるか。政府と県が連携して考えてほしい。
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東京新聞 2015年9月15日
【社説】辺野古取り消し 苦難の歴史こそ原点だ


 米軍普天間飛行場の「県内移設」を認めない決断は重い。翁長雄志沖縄県知事が名護市辺野古沖の埋め立て承認取り消しに向けた手続きに入った。安倍政権はすべての作業を直ちに中止すべきだ。
 前知事によるものとはいえ、県が一度許可した辺野古沖の埋め立て承認を取り消すのは、やむにやまれぬ気持ちだったに違いない。
 翁長氏はきのうの記者会見で、八月から一カ月間行われた、辺野古移設をめぐる政府と県との集中協議を「私が言葉を尽くしても、聞く耳を持たないのか、そういう感受性がないのか、理解いただけないということだけは感じた」と振り返った。
 集中協議で、県側は沖縄が歩んできた苦難の歴史を訴えた。
 戦後、米軍の軍政下に置かれた沖縄では、住民の土地が米軍用地として「銃剣とブルドーザー」で強制的に収用されたことや、沖縄駐留の海兵隊は反対運動の激化に伴って日本本土から移駐してきたこと、などだ。
 本土復帰後も、狭隘(きょうあい)な土地に在日米軍専用施設の74%が引き続き集中し、県民は騒音や事故、米兵による犯罪など、米軍基地に伴う重い負担を強いられてきた。
 沖縄県民が歩み、今も強いられている苦難の歴史と向き合わなければ、米軍基地負担をめぐる不平等感は解消できまい。しかし、政府側の対応は不誠実極まりない。
 沖縄基地負担軽減担当相を兼ねる菅義偉官房長官は、沖縄側の主張を「賛同できない」と一蹴し、「戦後、日本全国が悲惨な状況の中、皆さんが苦労して豊かで平和な国を造り上げた」と指摘した。
 焦土の中から復興を成し遂げ、平和国家を築き上げた先人の努力はたたえられるべきではある。
 同時に、沖縄が国内で唯一、住民を巻き込んだ大規模な地上戦の戦場となり、県民の四分の一が亡くなった凄惨(せいさん)な歴史や、戦後、米軍政下で強いられた「特別の時間」に思いを至らせなければ、米軍基地の集中で今も続く、県民の「魂の飢餓感」は癒やされまい。
 ましてや集中協議が決裂したからといって、一時中断していた作業を直ちに再開するようでは、沖縄の声に耳を傾ける誠意がそもそもあったのか、疑わしい。
 翁長氏は国連人権理事会でも沖縄をめぐる現状を訴えるという。そこまで追い詰められている証左だろう。政府が今すべきは、埋め立て承認の取り消しに法的対抗措置をとることではなく、沖縄の歴史を学び直すことである。
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しんぶん赤旗 2015年9月16日(水)
主張:「辺野古」取り消し 「沖縄の心」体した知事の決断


 沖縄の米海兵隊普天間基地(宜野湾市)に代わる名護市辺野古への新基地建設問題で、翁長雄志知事が、仲井真弘多前知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消すため、手続きを開始したことを明らかにしました。新基地建設工事を一時中断して行われていた集中協議で、安倍晋三政権が、県側の訴えに全く耳を貸さず、工事再開を強行したのを受けての措置です。「沖縄県民の心」を体して「ありとあらゆる手段を講じて辺野古に基地を造らせない第一歩」(翁長知事)です。
政府は何の反論もできず
 仲井真前知事が一昨年末に行った辺野古沿岸部の埋め立て承認をめぐっては、昨年11月の知事選で「新基地建設阻止」の公約を掲げ、圧勝した翁長知事の下に第三者委員会が設置され、「(埋め立て承認には)法的瑕疵(かし)がある」と結論付けた報告書を7月にまとめました。これを受けて翁長知事は埋め立て承認を取り消す意向を示し、追い詰められた政府は、工事を8月10日から1カ月間中断し、沖縄県との集中協議を行ってきました。
 集中協議で改めて浮き彫りになったのは、辺野古への新基地建設を「唯一の解決策」とする安倍政権の主張の不当性です。
 翁長知事は普天間基地の問題について、米軍が沖縄戦のさなかに住民の土地を強制接収し、建設したのが原点だと訴えました。沖縄県民の土地を奪って造った基地が「世界一危険」になったからといって、県民に新たな基地を差し出せと迫る日米両政府の理不尽さは明らかです。
 政府は、米海兵隊が沖縄に駐留する必要性として、「機動性」や「一体性」を強調します。しかし、翁長知事は、海兵隊部隊を輸送する強襲揚陸艦は佐世保基地(長崎県)が母港で、戦闘機も岩国基地(山口県)に配備されており、沖縄の海兵隊には機動性も一体性も欠けている事実を指摘しました。
 翁長知事の訴えに対して、政府は19年前の普天間基地「移設」の日米合意を持ち出すだけで何の反論もできませんでした。辺野古の新基地建設に一切、道理がないことを自ら証明しています。
 集中協議の「決裂」を受け、即座に政府が工事の再開を強行したのは、沖縄の声に「聞く耳を持たず、感受性もない」(翁長知事)ことを示すものです。
 翁長知事は、防衛省沖縄防衛局への通知で、▽辺野古での建設には実質的な根拠が乏しい▽埋め立てがされれば貴重な自然の回復はほぼ不可能であり、航空機騒音の増大は住民に大きな被害を与える▽全国の米軍専用基地面積の73・8%を抱える沖縄の過重負担の固定化につながる―ことなどを挙げました。翁長知事が「(埋め立て)承認に取り消しうべき瑕疵がある」と判断したのは当然です。
全国でたたかいさらに
 安倍首相は、翁長知事の埋め立て承認の取り消し表明を受け、直ちに辺野古への新基地建設を「進めていく」と語りました。翁長知事は、こうした安倍政権の民意無視の強権姿勢を、沖縄での米軍占領下の土地強奪になぞらえ、「海上での銃剣とブルドーザー」による基地建設だと批判しました。
 新基地建設の強行をストップさせるため、たたかいと世論を日本全国で一層大きく広げていくことが何より必要です。
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琉球新報 2015年9月15日 6:01 
<社説>知事取り消し表明 岐路に立つ沖縄の尊厳 自決権持つ存在と示そう


 沖縄は抜き差しならない重大な局面に入った。
 翁長雄志知事は辺野古新基地建設をめぐり、前知事の埋め立て承認の取り消しに向け手続きを始めた。就任後最大の行政権限行使だ。政府が対抗措置を取るのは確実で、法廷闘争に突入する。
 これは単なる基地の問題ではない。沖縄が、ひたすら政府の命ずるままの奴隷のごとき存在なのか、自己決定権と人権を持つ存在なのかを決める、尊厳を懸けた闘いなのである。知事はもちろん、われわれ沖縄全体が今、近代以来の歴史の分岐点に立っている。
耳疑う発言
 ここまでを振り返る。前知事仲井真弘多氏は、米軍普天間飛行場の県外移設を公約にして2010年、再選された。だが13年末、「辺野古移設に反対とは言っていない」という詭弁(きべん)を弄(ろう)し、公約を翻して新基地建設の埋め立てを承認した。病気と称して都内の病院に入院し、病院を抜け出し菅義偉官房長官らと密会した揚げ句のことだ。政府がどう説得したかは知らぬ。いずれにせよ民主主義的正当性と透明性を欠く承認だった。
 翌14年、新基地反対の翁長氏が知事に当選したが、政府は作業を強行した。県の第三者機関がことし7月、前知事の承認に瑕疵(かし)があるとの報告をまとめ、承認取り消しが秒読みになると、政府は県との集中協議に入り、協議が決裂すると即座に作業を再開した。それを受けての知事の決断なのである。
 政府は地方自治法に基づき、取り消し処分の是正を県に指示するだろう。指示に従わないと訴訟を提起し、代執行に持ち込もうとするはずだ。「統治行為論」に見られるように裁判所は政府寄りの判示を繰り返しているから、その訴訟も沖縄側にとって厳しいと予想される。その上でなお反対を堅持し、建設を阻止できるか、知事だけでなく沖縄全体が問われる。
 それにしても今回の政府の発言には耳を疑う。安倍晋三首相は即座に移設作業を「進めていく」と明言した。菅氏は知事の対応について「普天間の危険性除去に関する政府や沖縄の努力を無視しており、非常に残念だ」と述べた。相手の意思を「無視」し、問答無用で行動したのはどちらの方か。「加害者」が「被害者」を装うのはやめてもらいたい。
 民意を踏みにじる政府の強権姿勢がここまであからさまなのも珍しい。しかし、逆説的だが、沖縄に対する政府の本当の姿を明らかにしたという「効用」もあった。
「道具」の再現
 1879年までに明治政府は、武力を用い、独自の王国だった琉球を強引に併合した。太平洋戦争では本土決戦を先延ばしにするため沖縄を「捨て石」にした。戦後、講和条約を結ぶ際には、自らの独立と引き換えに、沖縄を米軍の占領統治下に差し出した。
 普天間飛行場は県内のほとんどの基地と同様、沖縄戦で住民が収容所に入れられている時に米軍が勝手に建設したものだ。それ以外の基地は、1950年代、「銃剣とブルドーザー」で米軍が家や畑を強制接収して造ったものである。沖縄の住民が自ら差し出して建設された基地など一つもない。
 近代以降の歴史を通じて沖縄は、その意思をついぞ問われないまま、常に誰かの「道具」にされ続けた。今回の政府の姿勢はその再現である。沖縄は今後も民意を聞くべき対象ではないとする意思表示にほかならない。
 例えて言えば、あの過酷な原発事故の後、地元町長も知事も反対しているのに、政府が新たな原発建設を福島県で強行するようなものだ。こんな位置付けは、沖縄県以外では不可能だ。沖縄は今後もこうした位置付けを甘受するか否かが問われているのである。
 知事は国連でこうした扱い、歴史的経緯を演説するはずだ。厳しい環境にあってわれわれは「諸国民の公正と信義に信頼」するほかない。粘り強く、沖縄も自己決定権と人権を持つ存在だと訴えたい。
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沖縄タイムス 2015年9月16日 05:30
社説:[知事の決断と民意]工事強行は破局への道


 翁長雄志知事は14日の記者会見で、前知事が行った名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消すことを表明したが、歴史的な決断を後押ししたのは、民意の変化である。
 変化は、さまざまな分野で観察することができる。
 県企画部が2012年10月に実施した県民意識調査によると、在日米軍基地の集中を差別的状況だと思うかとの問いに「そう思う」と答えた人は49・6%、「どちらかと言えばそう思う」は24・3%で、差別的だと答えた県民が7割を超えた。
 そもそも、安保容認を公言する根っからの保守政治家が辺野古への新基地建設を阻止するため「あらゆる手段」を行使する、と主張すること自体、保革対立の構図が支配的だった冷戦期には考えられないような空前の変化である。
 県内革新政党の支持率は全体としては決して高くなっていないにもかかわらず、昨年の名護市長選、知事選、衆院選で「辺野古反対」を訴える候補が完全勝利したのは、保守層や無党派層がなだれ現象を起こしたからだ。
 1996年の返還合意から今年で19年になるが、翁長県政誕生以降に起きている事態は、これまでとまったく様相が異なる。
 民意に支えられたその徹底性ゆえに、沖縄の異議申し立ては、その場を取り繕うだけの弥縫(びほう)策や振興策との取引などではもはや収拾できない。 「Aの施設をBに移す」といったような不動産的解決ではなく、米軍基地の在り方や地位協定を根本から見直すなどの外科的取り組みが必要だ。
    ■    ■
 県と政府が基地問題をめぐって抜き差しならない対立関係に陥ったのは今回が初めてではない。
 大田昌秀元知事の時もそんな時期があった。未契約米軍用地の強制使用手続きをめぐって政府と県が争った代理署名訴訟は、全国的な注目を集めた。
 稲嶺恵一元知事も、県がまとめた軍民共用などの条件付き県内移設案が政府の一方的な判断で反古(ほご)にされて以降は、政府との折り合いが悪くなり、代替施設のV字案(現行案)には賛成しなかった。今回の翁長知事の承認取り消しは、過去にない熾烈(しれつ)な対立になるはずだ。
 自民党の中には、自民党を出て行った翁長知事に対する感情的な反発が今も根強く残っている。知事の得点になるようなことはするな、という感情むき出しの対応が対立を深めている点も見逃せない。
    ■    ■
 政府は、埋め立て承認の取り消しには従わず、法的な対抗手段を講じた上で、早急に埋め立て本体工事に着手する予定である。反対行動の激化を想定して海上保安庁の海上警備を強化するかもしれない。そのとき、どういう事態が発生するか。深く懸念するのはその点である。
 政府は沖縄の奥深くで生じている民意の変化=地殻変動を見誤ってはいけない。海上で不測の事態が起こる可能性があることを承知の上で、それでもなお埋め立て工事を強行すれば、日米同盟そのものが深刻な危機に直面するだろう。
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沖縄タイムス 2015年9月15日 05:30
社説:[取り消し手続き開始]歴史を変える重い決断


・「国民全体で日本の安全保障を考える気概も何もない」と翁長知事
・復帰の際にも基地の固定化を憂う屋良主席が同様の言葉で訴えた
・承認取り消しは過重な基地負担を強いる政府への抵抗権の行使だ

承認取り消しを表明する翁長雄志知事の会見には大勢の取材陣が詰め掛けた=14日午前10時8分、県庁
 翁長雄志知事は14日、記者会見し、仲井真弘多前知事が行った名護市辺野古の埋め立て承認を取り消す手続きに入ったことを明らかにした。
 第三者委員会の報告をもとに、なぜ辺野古なのかの根拠が示されず、環境保全措置も不十分だなどとし、「承認には瑕疵(かし)がある」と最終判断した。
 沖縄防衛局への意見聴取をへて、来月上旬にも正式に取り消す考えだ。
 会見で翁長知事は、海が埋められ基地が固定化し、沖縄が要塞(ようさい)化することに危機感を示し、「海上での銃剣とブルドーザーだ」と指摘。米軍普天間飛行場の移設をめぐり1カ月の集中協議を提案しながら、不誠実な対応に終始した政府への不信感をあらわにした。
 「国民全体で日本の安全保障を考える気概も何もない」「沖縄の歴史、県民の心、基地形成の経緯を話しても、返ってくる言葉はほとんどなかった」
 翁長知事の説明を聞いていて、ふと思い起こしたのは、復帰の前年、琉球政府が沖縄の声を日本政府に伝えるため作成した「復帰措置に関する建議書」のことだ。
 「沖縄返還協定は基地を固定化するものであり、県民の意志が取り入れられていない」「沖縄はあまりにも国家権力や基地権力の犠牲となり手段となって利用されてきた」
 建議書を携えて屋良朝苗主席が上京したその日、国会で返還協定が強行採決され、建議書は生かされなかった。
 44年後に今度は翁長知事が同様の言葉を繰り返したのである。
 承認取り消しは、沖縄だけに過重な基地負担を強いる政府の理不尽な政策への「ノー」の意思表示であり、合法的な抵抗権の行使だ。政府と県の関係、米軍基地と地方自治の在り方を根底から問う重大な問題提起でもある。
    ■    ■
 集中協議では普天間問題の原点がどこにあるかが大きな論点になった。
 米軍による土地の強制接収を説明する翁長知事に対し、菅義偉官房長官は1996年の日米合意が原点との考えを示し、譲らなかった。
 「魂の飢餓感」という言葉を使って県民の心情に理解を求め、「沖縄を領土としか見ていないのではないか」と訴えた言葉は政府には届かなかった。
 それどころか、日本の主権の及ばない米軍支配の下で基地が建設されたことを強調した翁長知事に対し、何を思ったのか菅氏は「戦後は日本全国が悲惨な中、皆が大変苦労して平和な国を築いた」ととんちんかんな反論。苛烈な沖縄戦、続く27年間の米軍支配で人権が侵害され続けてきた沖縄の戦後史に対する無理解と認識不足を露呈した。 
    ■    ■
 これほど米軍の専用施設が集中する地域は沖縄だけである。
 米軍基地が集中することによって住民は米軍による事件事故や航空機墜落の不安、騒音被害などに日常的にさらされているが、問題はそれだけにとどまらない。
 2013年8月、宜野座村のキャンプ・ハンセンで起きた米空軍ヘリ墜落事故で、県の土壌調査が認められたのは事故から7カ月後だった。現場近くの大川ダムでは1年余りも取水停止を余儀なくされた。
 辺野古沖の臨時制限区域に国が投下したコンクリートブロックがサンゴ礁を傷つけているとして、県が求めていた潜水調査が認められたのも申請から5カ月以上たってから。その臨時制限区域は反対派住民を閉め出そうと、昨年、日米両政府が一方的に設置したものだ。 
 基地があることで、さまざまな場面で住民生活が制約され、地方自治が侵害されているのである。これは明らかに憲法の精神に反する。
 承認取り消し手続きの開始によって、辺野古新基地問題はこれまでとは異なる新たな段階に入った。この先、国との法廷闘争は避けられそうにない。
 民意を背景に信念を貫く知事への支援の輪をどのように広げていくか、反対運動を続ける市民団体にとっても正念場を迎える。
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琉球新報 2015年9月13日 6:02 
<社説>辺野古工事再開 民主主義踏みにじる愚行


 政府は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向け、県との集中協議のため1カ月中断していた新基地建設へ向けた関連工事を再開した。
 県が新基地建設の中止を求め続ける中、政府は工事再開を強行した。極めて遺憾だ。安倍政権は沖縄の民意を一貫して無視し、民主主義を踏みにじる愚行をいつまで重ねるのか。怒りを禁じ得ない。
 沖縄防衛局は「政府と県の集中協議期間が終了し、県の調査も終了したため、再開した」と説明しているが、工事を加速し、新基地建設の既成事実化を図るのが狙いだろう。来週にも埋め立て工事の前段となる海底ボーリング調査を再開する予定だ。
 新基地建設をめぐる県と安倍政権の集中協議は、完全な平行線をたどり、安倍晋三首相が出席した5回目で決裂した。政府側は、前知事による埋め立て承認に固執するばかりで、その後の名護市長選、同市議選、県知事選、衆院選で新基地建設拒否の候補者が圧勝し、沖縄の民意が何度も示されたことについて言及はなかった。本来なら政府は県と真摯(しんし)に向き合い、民意を直視すべきだったはずだ。
 協議は最初から結論ありきで、翁長雄志知事に理解を得る努力をした形跡を残すアリバイづくりだったと言われても仕方あるまい。
 翁長知事は、前知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認の取り消しを14日にも表明、必要な手続きに着手する方針だ。
 弁護士や環境学者ら有識者の第三者委員会は既に、手続きに「瑕疵(かし)あり」との報告書を提出している。政府の強硬姿勢に対抗するため、翁長知事はそれに基づき、埋め立て承認の取り消しを速やかに行えばよい。妥協や取引することなく、普天間飛行場の即時無条件全面返還を政府に要求すべきだ。
 政府は「辺野古が唯一の選択肢」とかたくなな姿勢を取り続けている。だが新基地建設の反対運動は県内ばかりでなく、国内、海外でも草の根レベルで盛り上がっている。12日午後に行われた国会包囲行動には2万2千人(主催者発表)が参加し「辺野古新基地ノー」の声を上げた。世界の識者109人も新基地阻止に賛同している。
 翁長知事は21、22の両日に国連人権理事会で演説する。そこで沖縄の民主主義的正当性を強く訴え、民意を無視する日本政府の理不尽さを内外に示してほしい。
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沖縄タイムス 2015年9月13日 05:30 
社説[辺野古工事再開]対立激化し重大局面に


• 工事を停止し、協議を続けることは民主国家として当然のことだ
• 知事の埋め立て承認取り消しは、やむにやまれぬ意思表示である
• 緊迫化する安保法案と合わせ、国の政策を根本から問い直す機会だ
 米軍普天間飛行場返還に伴う名護市辺野古の新基地建設問題は、政府と県の集中協議期限が切れ、重大な局面を迎えた。
 政府は12日朝、集中協議のため8月10日から9月9日まで中断していた作業を約1カ月ぶりに再開した。
 立ち入り制限区域を示すフロート(浮具)や仮設桟橋を設置したあと、来週にも、残る5地点の海底ボーリング調査を再開する。
 話し合いがかみ合わず、期間中に成果を得ることができなければ、協議を延長する。そうするのが普通だ。ましてや、各種世論調査で6~7割の県民が辺野古移設に反対し、県知事選、名護市長選、衆院選でも「辺野古ノー」の民意が圧倒的な形で示されたのである。
 工事を引き続き停止し、協議を継続することは、民主国家としてあまりにも当然のことである。地元の合意なしに米軍基地を造ることは、あってはならないからだ。
 しかし、安倍政権はそうはしなかった。そんなことさえしなかった。期限切れを理由に、機械的に、粛々と、工事を再開した。血の通った政治とはおよそ正反対の強権的な振る舞いである。
 最初からそうなることを想定し話し合いの形だけを取り繕ったとすれば、政府は県民をもてあそんだことになる。
 翁長雄志知事は週明けの14日にも、前知事による埋め立て承認の取り消しを正式に表明する。
 知事権限を最大限に行使した抵抗であり、やむにやまれぬ意思表示である。
    ■    ■
 仲井真弘多前知事による埋め立て承認について県の第三者委員会は(1)埋め立ての必要性に合理的な疑いがある(2)環境保全措置は適正と言い難い-などと指摘。埋め立て申請は法の要件を満たさず、これを承認した手続きに四つの法的瑕疵(かし)がある、との結論をまとめ翁長知事に提出した。
 県が承認を取り消せば、政府は埋め立ての法的根拠を失う。行政不服審査法に基づく審査請求など、政府がすかさず対抗措置を打ち出すのは確実である。
 県は11日まで、コンクリートブロックによるサンゴ礁の損傷状況を調査するため辺野古で潜水調査を実施した。その結果次第では、前知事が出した埋め立て予定地の岩礁破砕許可を取り消す可能性もある。
 知事権限を行使して埋め立て工事に待ったをかける一方、知事は国連人権理事会で演説し、沖縄の実情を国際社会に訴える予定だ。
    ■    ■
 辺野古問題をめぐって政府と県の攻防が一段と激化するのは間違いない。
 キャンプ・シュワブゲート前での抗議行動に呼応し、国会議事堂周辺では「止めよう!辺野古埋め立て9・12国会包囲」が行われ、主催者発表で約2万2千人が参加した。
 週明けから安全保障関連法案をめぐる動きも「17日採決」をめぐって一気に緊迫化する。
 「安保法案」と「辺野古」が運動の場でドッキングし始めてきた。安保・外交政策を根本から問い直す機会である。
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