毎日新聞 2021/8/2 21:42(最終更新 8/2 21:42)
熱海土石流 盛り土、実体は産廃 安全対策なく基準も守られず
https://mainichi.jp/articles/20210802/k00/00m/040/300000c
大規模な土石流が発生した静岡県熱海市伊豆山の現場=2021年7月4日午前11時42分、本社ヘリから撮影
静岡県熱海市の土石流災害を巡り、県は、崩落した土砂の大半が起点周辺にあった盛り土だったとの見方を示した。盛り土はどういった経緯で造成されたのか。被害は防げなかったのか。関係者に投げかけられた問いは重い。
県、指導を繰り返したが…
「盛り土という表現はよくない。産廃捨て場だ」。起点周辺の土地を以前所有し、盛り土を造成したとされる神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)の元幹部が取材に語った。
元幹部によると2009年ごろ、この土地には熱海市内にあった社員寮の解体で出たコンクリートがらやプラスチック片、ガラス片が大量に持ち込まれた。「建設残土の受け入れを商売にしていた」「乗用車を数台埋めた」などと聞いたこともある。社長がパワーショベルを運転して作業に当たるのを目にした。「(盛り土の)高さは50メートル以上あるはずだ。排水溝や擁壁もなかった」と、安全対策が講じられていなかった可能性を指摘する。
盛り土は建設残土とされ、海岸から約2キロの逢初(あいぞめ)川最上部に位置していた。一帯は06年にこの会社が取得し、11年2月に東京都の企業グループ前会長に売却された。
盛り土について、県は総量が7・4万立方メートルで、崩落した土砂5・5万立方メートルのうち盛り土が5・4万立方メートルを占めると推計。不動産管理会社は盛り土の高さを15メートルと市に届け出たが、県は3倍超の52メートルあったとみている。また、県は土地の所有者が変わってからも、周辺で盛り土や地面を削り取る切り土が行われていたとの見方を示す。
盛り土には木くずなどが含まれており、県と市は県土採取等規制条例などに基づき指導を繰り返した。条例は土砂の崩壊、流出などによる災害が発生する恐れがあれば「措置命令」などを出すことができると規定。だが、こうした措置に踏み切ったかどうかは、県と市は「調査中」などとし、明らかにしていない。土地の所有者が変わる11年2月までに県、市の担当者は複数回にわたり現地に入った。盛り土の造成はそれまでに進められたとみられる。
不動産管理会社は市内各地に土地を所有し、土砂を巡るトラブルは他にも起きている。12年には市内の宅地開発工事現場(上多賀地区)で土砂が崩落し、寺の墓地や民家の敷地に流入した。17年4月には別の場所(下多賀地区)で申請区域外に土砂を運び込んだとして、県が森林法に基づく中止命令を出した。だが状況は改善されなかった。
毎日新聞は会社側に取材を申し込んだが、2日時点で回答は得られていない。一方、現所有者の代理人の河合弘之弁護士は「何が原因かは分からないという立場。(県などの)調査を見た上で対応を判断したい」と話した。【太田圭介、金子昇太、森永亨、井口慎太郎】
どう考える責任の所在
熱海市の土石流災害を巡っては、「盛り土が被害を増大させた」「人災だ」との指摘が出ている。責任の所在をどう考えればいいのか。
各地で発生した土砂崩れなどを巡る訴訟は、土地などの管理者や自治体に法的責任を負わせるかどうかで判断が割れている。
豪雨で山の斜面が崩れて住民が死亡した事故を巡る訴訟では、静岡地裁が1992年3月、山の斜面に設置された観光用リフトを管理していた鉄道会社に賠償を命じる一方、静岡県の責任は否定した。高速道路を通行中の車両が土砂崩れに巻き込まれた死亡事故を巡る訴訟では、福岡地裁小倉支部が2012年6月、道路を管理する西日本高速道路に賠償命令を下した。大雨による建設残土の土砂崩れで住民が死傷した事故を巡る訴訟では、広島地裁が12年9月、広島県と東広島市に賠償を命じた。だが2審・広島高裁判決(13年12月)は、原告側の逆転敗訴となった。
大雨によって大規模な土石流が発生した住宅街=静岡県熱海市伊豆山で2021年7月3日午後5時16分、本社ヘリから竹内紀臣撮影
今回問題となっている盛り土の造成者の法的責任はどうか。京都大大学院の潮見佳男教授(民法)は、静岡県が盛り土の高さについて原則15メートル以内との基準を定めている点に着目する。「土砂災害のリスクを想定した基準と考えられる。順守していなければ不法行為に当たる可能性がある」と指摘。繰り返し熱海市の指導を受けたとされる点にも問題があるとみる。
土石流が発生した起点周辺の土地の現所有者については、民法の「工作物責任」に問われる可能性があるという。占有する土地の工作物に瑕疵(かし)があり他人に損害を与えた場合、無過失でも課される責任のことだ。
潮見教授は、仮に両者が訴えられた場合、不法行為や工作物責任のほか、盛り土の存在と土砂災害の因果関係の立証が訴訟の結果を左右するとの見方を示す。一方で民事裁判よりも厳格な事実認定が求められる刑事裁判は「立証のハードルは高いだろう」とみる。
県と市の責任はどうか。横浜国立大の板垣勝彦准教授(行政法)は、いずれも過失を問われうるとの立場を取る。盛り土は以前から積み上がり、大雨で崩落する「予見可能性」があったと考えられる▽盛り土を除去するために「行政代執行」をすることもできたので「結果回避義務違反」に当たる可能性がある――との理由からだ。「本来的に責任を問うべきは盛り土の造成者と現在の土地所有者だが、賠償の資力があるかは疑わしい」とも指摘する。【岩崎邦宏】
土石流災害と盛り土を巡る経緯
2006年9月 神奈川県小田原市の不動産管理会社が、後に土石流の起点となる静岡県熱海市伊豆山地区の土地を取得
2007年3月 同社が熱海市に盛り土の計画届け出書を提出
2007年5月 造成面積が届け出を超えたとして静岡県が是正指導
2009年3月 土砂の搬入が始まる
2010年8月 盛り土の造成工事がおおむね完了▽盛り土に産業廃棄物の混入が判明し、県と市が撤去を指導
2010年9月 市が工事の中止を要請
2010年10月 同社が従わず、市は土砂搬入の中止を指導
2011年2月 同社は是正しないまま土地を売却。新たな所有者は東京都の企業グループ前会長に
2012年5月 同社が所有する同市上多賀地区の土地から、寺の墓地や宅地に大量の土砂が流入
2017年1月 同社が所有する同市下多賀地区の土地で、県が形質の変更を許可
2017年4月 同地区で届け出外の場所に土砂を運んだとして県が中止命令
2021年 7月 土石流災害が発生
時事通信 2021年08月06日07時04分
盛り土対策で省庁会議新設 熱海土石流受け安全総点検へ―政府
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021080500938&g=eco
大規模土石流が発生した被災地を視察し、被災住民(左)から話を聞く菅義偉首相(中央)=7月12日、静岡県熱海市
政府は5日、静岡県熱海市で発生した土石流被害を受け、盛り土の安全対策に関する関係省庁会議を8月中旬にも設置する方針を固めた。盛り土の可能性がある箇所を国土交通省が抽出し、データを各省庁や自治体と共有。危険性の有無を総点検し、盛り土の規制の在り方についても検討する。
盛り土めぐり賠償請求検討 被災者が行政の対応批判―熱海土石流
熱海の盛り土について、県は「工法が不適切だった」としており、土砂崩落を引き起こした一因になったとの指摘もある。こうした不適切なものも含め、盛り土が全国にどれだけあるか詳しい実態は分かっていない。
このため国交省は、デジタルデータを活用し、盛り土など土地改変が行われた可能性がある箇所を全国から抽出。2000年ごろまでと比べて標高が5メートル以上変わった地点を洗い出し、近く結果をまとめる。
政府はこれを受けて新たに会議を立ち上げ、農林水産省や環境省など関係省庁、自治体間でデータを共有。崩落の恐れがないかなどを点検し、結果を踏まえて安全対策を講じる。
会議では、土地利用の観点から、現行の仕組みでは対応が難しい盛り土の規制についても検討する。現行の法律には宅地造成や森林開発に関する規制があるほか、条例で独自に土砂埋め立ての制限を設けている自治体も多い。ただ条例は自治体ごとに安全基準が異なるなど実効性に限界があるとの指摘もある。全国知事会は法律で一律の基準や規制を設けるよう国に求めている。
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