<各紙社説>
朝日)辺野古アセス―またまた見切り発車だ(12/28)
読売)「普天間」評価書 基地や振興で包括的な合意を(12/28)
毎日)未明の評価書搬入 愚かなアリバイ作りだ(12/29)
日経)猶予許されぬ普天間の移設 (12/28)
産経)辺野古評価書 宅配では誠意が伝わらぬ(12/28)
東京)辺野古評価書 強行では返還が進まぬ(12/28)
赤旗)アセス評価書搬入 この“朝駆け”は非道極まる(12/29)
朝日新聞 2011年12月28日(水)付
社説:辺野古アセス―またまた見切り発車だ
沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題で、民主党政権がまた「見切り発車」を重ねた。
名護市辺野古沖を埋め立てて代替滑走路をつくるための環境影響評価(アセスメント)の評価書を県に送ろうとしたのだ。
沖縄県議会が全会一致で反対決議をするなど、地元の拒否姿勢は明確だ。11月には、沖縄防衛局長が提出時期をめぐって「犯す前に犯すよと言いますか」という趣旨の暴言をはき、反発の火に油を注いでいた。
反対派の市民らに、配送業者による県庁への搬入が阻止されるという異常事態は、この問題の難しさを象徴している。
それでも野田政権が行政手続きを進めるのは、「年内提出」を米国に事実上約束していたからだ。しかし、その米国では上下両院が、辺野古移設とセットの沖縄海兵隊のグアム移転費用を12会計年度予算から削除した。膨大な財政赤字を抱え、軍事費といえども聖域ではなくなっているのだ。
沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事は、評価書の提出自体は容認した。しかし、県外・国外移設を求める立場は崩しておらず、埋め立てを認めない意向も明言した。
来年度の沖縄振興予算が大幅に増額されたことは評価しても、辺野古反対を掲げて再選した経緯からいって、県民世論の大勢に反して受け入れることはあるまい。
沖縄は来年、5月に本土復帰40年を迎え、6月には県議選がある「政治の季節」になる。野田政権はアセス完了後、来夏にも、知事への埋め立て免許申請を視野に入れるが、そんなことをすれば、沖縄の不信と反発をいっそう大きくするだけだ。
日米両政府は、いまこそ立ち止まるべきだ。
辺野古案は沖縄の負担軽減と在日米軍の抑止力維持という、矛盾する二つの目的を両立させようと、両政府が長い交渉を経てまとめたものだ。その努力を踏まえれば、白紙から見直しても簡単に新しい解決策を見つけるのは難しいだろう。
だが、それ以上に現状には展望がない。
来年は米国、中国、ロシア、韓国、台湾で、最高指導者を選ぶ選挙や指導層の交代が予定されている。北朝鮮の代替わりもあり、東アジア情勢は不透明感を増している。
日米関係が揺らげば、地域の安定を損ない、双方の外交基盤を弱めるだけだ。
打開策を探る作業は困難で、細心の注意を要するが、立ち向かうしか道はない。日米の政治指導者は、そう覚悟すべきだ。
(2011年12月28日01時24分 読売新聞)
「普天間」評価書 基地や振興で包括的な合意を(12月28日付・読売社説)
本来、淡々と実施されるべき行政手続きが、政治問題化して、混乱を招いたのは残念だ。
政府は、米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古移設に関する環境影響評価書を沖縄県に発送した。配送業者の車は県庁に着いたが、移設反対派の市民団体に阻まれ、評価書は搬入できなかった。
仲井真弘多知事は、関連法令に従って評価書を受理する方針を表明している。正当な行政手続きが反対派の妨害行為で滞ったのは、法治国家として問題だ。
評価書は、代替施設における新型垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを含む全機種の騒音が、国の環境基準を下回るとしている。代替施設の埋め立て工事の環境への影響も限定的とされる。
代替施設工事に伴う環境問題は、科学的根拠に基づき、冷静に議論されるべきだろう。
評価書の提出は、移設手続きの一つの節目にすぎない。
肝心なのは、公有水面埋め立ての許可権限を持つ仲井真知事が、辺野古移設を容認することだ。知事は27日、「承認には、まずならない」と述べ、埋め立てを許可しない可能性に言及した。
政府は沖縄の負担軽減と日本の安全保障を両立させるため、知事の説得に全力を尽くすべきだ。
辺野古移設が頓挫すれば、普天間飛行場の現状が長年、固定化される。海兵隊8000人のグアム移転と、普天間など米軍6施設の返還も白紙に戻ってしまう。
政府と沖縄県はまず、この点で認識を一致させる必要がある。普天間問題の実質的な進展がない限り、米連邦議会がグアム関連予算の凍結を解除しないからだ。
辺野古移設と海兵隊移転を同時並行で進めるか、どちらも断念するか、の二者択一しかない。どちらの選択が良いのか、政府と沖縄県は冷静に話し合ってほしい。
政府は、来年度の沖縄振興予算を大幅に増加させた。普天間問題の前進を期待し、沖縄県に異例の配慮をしたものだが、これは来年度に限った措置にすぎない。
米軍施設返還後の跡地を利用した地域振興など中長期的な沖縄の将来像について協議を深め、沖縄県との接点を探る必要がある。
普天間以外の米軍再編や米軍訓練の県外・国外移転による地元負担の軽減や、日米地位協定の運用見直しなども話し合い、包括的な合意を追求してはどうか。
仲井真知事の決断が重要だ。何が沖縄と日本のためになるのか、慎重に判断してもらいたい。
毎日新聞 2011年12月29日 東京朝刊
社説:未明の評価書搬入 愚かなアリバイ作りだ
本来、政府職員が持参して提出すべきものを配送業者に委ね、これが失敗すると、通常の業務時間外の未明(午前4時過ぎ)に県庁守衛室に運び込む……。
米軍普天間飛行場の移設計画に基づく環境影響評価(アセスメント)評価書の沖縄県への提出をめぐるドタバタは、沖縄が反対する同県名護市辺野古への「県内移設」を推進する難しさを象徴している。
反対派住民の抗議行動による混乱を避けたい、というのが政府の言い分である。仲井真弘多知事は評価書提出は行政手続きであるとして認める意向を表明していた。しかし、そのやり方はとても正常とは言い難く、拙劣に過ぎる。普天間問題の解決を目指す政府の誠実さ、真剣さを問う声が上がるのは当然だろう。
搬入されたのは、県条例が定める評価書の必要提出部数(20部)に足りない16部だった。政府は追加提出の方針である。県は対応を検討したが、結局、受理を決めた。
政府がここまで「年内提出」にこだわったのは、それが対米公約になっているからだろう。
評価書の提出を女性への性的暴行にたとえた前沖縄防衛局長の不適切発言、普天間問題のきっかけとなった少女暴行事件を「詳細には知らない」と述べた防衛相の国会答弁。沖縄ではこれらの発言に対する怒りが渦巻いている。沖縄との信頼回復をなおざりにしたままの評価書提出は、野田政権の米政府向けアリバイ作りとしか言いようがない。
7000ページに及ぶ評価書には、沖縄県が危険性や騒音問題を懸念する垂直離着陸輸送機「MV22オスプレイ」について問題なしとする記述もある。これで沖縄側を説得できるとは到底、思えない。
評価書に対しては、仲井真知事が滑走路部分については45日以内、埋め立て部分は90日以内に意見を提出する。これで、政府が埋め立てを知事に申請する条件が整う。しかし、知事は埋め立てを承認しない考えを表明している。展望が見えないまま辺野古への移設の手続きを進めることに、強い疑問を覚える。
政府と沖縄との溝は深くなるばかりだ。もっとも懸念されるのは、移設計画が頓挫し、「世界一危険な基地」普天間が固定化されることである。
米議会は、在沖縄海兵隊のグアム移転経費を12会計年度の国防予算から全額削除したが、13年度も同様の措置が取られれば、普天間の固定化がますます現実味を帯びてくる。
辺野古への移設か、普天間の固定化か--この二者択一で沖縄に圧力をかける手法では展望は開けない。野田佳彦首相は、この現実を踏まえて普天間問題に取り組むべきだ。
日経新聞 2011/12/28付
社説:猶予許されぬ普天間の移設
米軍普天間基地の移設問題の出口が見えない。このままでは現行の移設案が白紙となり、行き場のないまま基地がいまの場所にとどまるという、最悪の事態になりかねない。
防衛省は普天間基地を沖縄県名護市辺野古に移すために必要な環境影響評価書を、同県に発送した。政府は来年前半にも、移設先の海面の埋め立て許可を仲井真弘多知事に申請したい考えという。
しかし、移設に反対する沖縄の姿勢に、いっこうに軟化の兆しは見られない。こうした事態を招いた責任は政府、とりわけ鳩山由紀夫元首相にある。鳩山氏は政権交代前、何の目算もないまま「県外移設」を約束し、地元の期待をあおった。
その後を継いだ菅直人前首相も自ら行動しようとせず、最近では前沖縄防衛局長の不適切な発言もあった。これでは沖縄の人々が反発するのは当然だ。
そのうえで沖縄側にも考えてほしいことがある。いまの移設案が葬られた場合、いちばん影響を受けるのは沖縄だということだ。
辺野古への移設を断念すれば、普天間基地は少なくとも当面、いまの場所に残らざるを得ない。仮に日米で移設先を再交渉できたとしても、すぐに妙案が見つかる保証はない。
普天間基地の周辺には家や学校が密集している。基地の現状が固定されれば、地元の人々は何の見通しもないまま、事故の危険と隣り合わせの生活を強いられる。
移設の実現に残された猶予は長くない。米議会は普天間移設とセットになっている沖縄からグアムへの米海兵隊移転の予算凍結を決めた。移設が進まなければ予算が完全に削除されかねない。
こうしたなか、政府は2012年度の沖縄振興予算を今年度より25%以上増やした。普天間問題とは連動していないというが、これだけ予算を配分する以上、同問題でも進展が期待される。そのためにも政府はもちろん与党も沖縄の理解を得る努力を尽くすべきだ。
産経新聞 2011.12.28 03:15 (1/2ページ)[主張]
【主張】辺野古評価書 宅配では誠意が伝わらぬ
防衛省がまとめた米軍普天間飛行場移設に必要な環境影響評価書の運送が沖縄県庁前で反対派に阻止されるという異様な事態になった。
評価書提出は環境影響評価法に基づく行政手続きだ。仲井真弘多県知事も法に従って受理する意思を表明していた。にもかかわらず、一部反対派の違法といえる阻止行動は法治国家として許されない。政府と県は決然と手続きを進めるべきだ。
また、この事態を招いた第一の責任は、移設に明確な指導力を発揮してこなかった政府にある。野田佳彦首相は改めて政治生命を懸ける覚悟で地元の説得などに全力を挙げねばならない。
評価書は、日米合意に基づき名護市辺野古に建設する代替施設が環境や住民生活に及ぼす影響や対策をまとめたものだ。米軍が導入する新型輸送機やジュゴンの生息環境などについても「支障や影響はない」としている。知事は最大90日以内に意見書で回答する。
来年春にも政府が埋め立て申請に進むために、評価書の提出は重要なかぎを握る。移設問題の「明確な進展」を示す上で、野田首相の対米公約ともなっていた。
ところが、沖縄防衛局長や一川保夫防衛相自身の相次ぐ暴言問題が地元の反対運動を勢いづけ、これに政府側がひるんだことが異常な事態を招いたといえる。
当初は「必要なら現地に出向いて説明する」とした一川氏が評価書送付を宅配会社に委ねたのは情けない。与党内でも「政務三役などが堂々と持参すべきだった」と厳しく批判されたのは当然だ。姑息(こそく)としかいいようがない。
県側にも問題がある。24日の沖縄政策協議会で沖縄振興費や一括交付金の大幅増を獲得し、日米地位協定見直しも進んだ。評価書受理を知事自らが示しており、粛々と法の手続きを進めるべきだ。
違法な阻止活動に流されていては、法治国家の面目を世界に失うばかりではない。普天間が現状のままで固定化される危険にも思いをめぐらす必要がある。
移設先の辺野古などでは移設を容認し、歓迎する住民も少なくない。防衛相以下、政府に今求められるのは、足繁く現地に通い、住民の一層の理解を求める努力と誠意を積み重ねることだ。
とりわけ野田首相は一度も沖縄入りしていない。一刻も早くそうした姿勢を見せてもらいたい。
東京新聞 2011年12月28日
【社説】辺野古評価書 強行では返還が進まぬ
防衛省が米軍普天間飛行場を名護市辺野古に移設するための環境影響評価書を沖縄県に送った。仲井真弘多知事ら県民の多くが反対する中での強行だ。これでは普天間飛行場返還が進むはずはない。
沖縄県庁を取り巻く「怒」のカード。評価書の到着を阻止しようと、荷物が搬入されるたびに運送業者を取り囲む移設反対派たち。こうした光景が評価書提出をめぐる異常さを象徴している。
公有水面埋め立ての許可権を持つ仲井真知事は来年六月にも予定される埋め立て申請後、一年以上かけて検討して結論を出す見通しだが、すでに許可しない考えを示している。
そもそも、出発点が間違っている。重要なことは、住宅地や学校に取り囲まれて危険な普天間飛行場の日本側への返還と、在日米軍基地の約74%が集中する沖縄県民の負担軽減だ。
普天間が返還されても、辺野古に新しい基地ができれば、県全体としては基地負担の軽減にはならない。知事らが県内移設に反対する理由はそこにある。
さらに移設先にされた名護市の稲嶺進市長や市議会、沖縄県議会などが軒並み辺野古への県内移設に反対している。知事が賛成に転じる状況ではない。
にもかかわらず、野田内閣は評価書提出を年内に、それも業者に頼んでまで、なぜ強行したのか。
それは、辺野古への移設に向けた「目に見える進展」を求める米政府に、野田佳彦首相が評価書の年内提出を約束したからだろう。
政府が自国民たる沖縄県民ではなく、外国である米政府の方を向いて仕事をするとは何事か。
政府は、二〇一二年度予算案で沖縄振興費を二千九百三十七億円に増額し、うち千五百七十五億円を沖縄県が求めていた、使い道の自由度が高い一括交付金とした。
また、在日米軍に勤める民間米国人(軍属)による公務中の犯罪について日本側が裁判権の行使を米側に要請できるようになった。
十分ではないが、沖縄県民の願いに応え、痛みを和らげようとする政府の努力は認める。
しかし、それらは政府として当然の仕事であり、引き換えに新たな米軍基地の受け入れを迫る「アメとムチ」であってはならない。
首相が今なすべきは、沖縄県での新たな米軍基地建設ではない。米政府に県内移設の困難さを率直に説明し、同盟関係の棘(とげ)となっている普天間飛行場の返還に向けた新たな道を探ることである。
しんぶん赤旗 2011年12月29日(木)
主張:アセス評価書搬入 この“朝駆け”は非道極まる
沖縄県民が熟睡している真冬の未明4時すぎに、閉庁して警備員しかいない県庁庁舎へ、環境影響調査(アセスメント)評価書の入った段ボール箱を、多数の防衛省職員で一気に運び込む―この“朝駆け”は非道が過ぎます。
ことは米軍普天間基地の「移設」を理由に、名護市辺野古へ新基地を建設するための事前の手続きです。県民は圧倒的に反対しています。ただでさえ米軍基地が集中する沖縄へ新しい基地を押し付けているのに、政府・防衛省には県民の痛みがまったくわかっていません。評価書提出は撤回し、新基地建設は白紙にすべきです。
県民の痛みがわからない
だいたい、アメリカに「見るべき進展」を求められ、「年内提出」を約束したからといって、アセス評価書を年末ぎりぎりになって提出しようとすること自体、異常です。しかも防衛省職員が直接届けるのではなく宅配便を使って届ける姑息(こそく)なやり方をとって抗議され、今度は仕事納めの28日未明に暗闇にまぎれて庁舎に搬入するなど、許されることではありません。
条例では評価書を届けて担当課から受領の確認をもらわなければならないのに、搬入した箱には宛先もなく、長時間守衛室に積まれたままになったのは、事態の異常さを浮き彫りにしています。
評価書提出の時期をめぐり、「犯す前に犯すというか」と女性と沖縄県民を傷つける暴言をはいた防衛省の沖縄防衛局長(当時)は更迭されましたが、県民が寝静まっている未明を狙った評価書搬入は、防衛省がこの言葉通りの蛮行を働いたことを見せ付けています。
前代未聞ともいうべき異常事態は、沖縄に米軍の新基地を押し付けるという日米の合意が、どんなに県民の意思を踏みにじるものであり、道理のないものなのかを証明しています。もともと市街地のど真ん中に位置し、事故や米兵による犯罪も絶えず、アメリカでさえ「世界一危険」と認める普天間基地を撤去することは、十数年前からの日米の合意です。全国の米軍基地の74%が集中する沖縄の異常を解決するには普天間基地を即時・無条件で撤去すべきなのに、撤去するなら代わりに新基地をよこせと“居直り強盗”まがいの態度に出たのが日米政府です。
名護市辺野古への新基地建設に反対する沖縄県民はこの15年、建設のための杭(くい)1本打たせてきませんでした。2年半前の総選挙では普天間基地の「国外・県外」への移設を掲げ政権を交代した民主党が、普天間基地の県内「移設」を再確認し、新基地建設を推し進めてきたのは、まさにアメリカに追随し、国民との公約を裏切るものです。アメリカから進展を迫られ、異常な評価書搬入に及んだのは、この政権の対米追随姿勢をあらためて浮き彫りにしただけです。
新基地建設計画の撤回を
沖縄県は評価書を受け取ることになりましたが、評価書が押し付けられたからといって、それで新基地建設計画が進むわけではありません。新基地建設を進めるためには防衛省が公有水面の埋め立てを申請しなければなりませんが知事は認めないと発言しています。
県民が望まず、実現の見通しも立たない新基地建設計画は撤回すべきです。県民が切望するように普天間基地の無条件撤去を求めることこそ政府の責任です。
0 件のコメント:
コメントを投稿