2012年3月2日金曜日

野田首相 沖縄初訪問 基地集中の差別構造推進者が首相の座にある不幸

野田首相が沖縄に初めて訪問した。

・・・沖縄の民意を顧みず、基地集中の差別構造を維持・推進する政治家が首相の座にあるのは不幸としか言いようがない。
・・・首相は「抑止力を維持する」とも述べた。海兵隊が沖縄にいなければ抑止力が弱まると主張する見解を無批判に受け入れている。これこそ最大の誤りだ。(琉球新報)


・・・首相は沖縄訪問二日前、移設先を辺野古とする理由を「沖縄の地理的特性を考えると、そこに存在する海兵隊の抑止力維持はとても大事」と述べた。
しかし、海兵隊の沖縄駐留が抑止力にならないことは、米国の著名な学者らが県外移駐を提唱していることからもすでに明らかだ。
そればかりか、海兵隊のグアム先行移駐で合意した際の日米共同発表では、海兵隊を西太平洋地域に分散配置する理由に、攻撃に耐えてなお機能を維持する、運用面での「抗堪(こうたん)性」を挙げている。
海兵隊にとって、軍事力の増強著しい中国に近い沖縄が万が一攻撃されても、分散配置しておけば対応は可能ということだろう。この場合、地理的特性はむしろ脆弱(ぜいじゃく)性として認識されている。
日本政府はなぜ米政府の戦略転換から目を背けて県内移設にこだわり続けるのか。理解に苦しむ。
首相はすでに破綻した海兵隊抑止力論に固執せず、米政府に対して国外・県外移設の提起を決断すべきだ。首相の沖縄訪問がその転機となるのなら救いである。(東京)


<各紙社説>
琉球新報)野田首相初来県 許されぬ差別構造の放置(2/28)
沖縄タイムス)[野田首相初来県]上空から何を見たのか(2/28)
琉球新)野田首相に望む 「普天間」は県外に/民意踏まえて政策変更を(2/26)
沖縄タイムス)[野田首相初来県]混乱の元凶を直視せよ(2/26)
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朝日)首相沖縄訪問―負担軽減を早く確実に(2/28)
読売)首相沖縄訪問 関係改善テコに普天間進展を(2/28)
毎日)首相の沖縄訪問 「辺野古が唯一」は無策(2/28)
日経)「普天間」でもっと手を尽くせ (2/28)
産経)首相の沖縄入り 普天間移設さらに努力を(2/28)
東京)首相沖縄初訪問 謝罪では普天間返らぬ(2/28)





琉球新報 2012年2月28日            
社説:野田首相初来県 許されぬ差別構造の放置
就任後初めて来県した野田佳彦首相が、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を堅持する方針を仲井真弘多知事に伝えた。沖縄の民意を顧みず、基地集中の差別構造を維持・推進する政治家が首相の座にあるのは不幸としか言いようがない。
普天間飛行場について首相は「固定化させず負担軽減を具体的に進める」と述べる一方で「日米両政府は辺野古移設が唯一、有効と確認しながら進めている」と説明した。言い換えれば「固定化回避の方法は県内移設しかない」ということだ。
首相は「抑止力を維持する」とも述べた。海兵隊が沖縄にいなければ抑止力が弱まると主張する見解を無批判に受け入れている。これこそ最大の誤りだ。
戦後、海兵隊が駐留していたのは沖縄ではなく本土だった。反基地運動の高まりを受け、1950年代半ばに第3海兵師団が岐阜、山梨などから移ってきた。米軍施政下にあった沖縄なら、米国の意のままに基地を建設できたからだ。政治的判断が主な理由だ。沖縄はサンフランシスコ講和条約によって日本から切り離されていた。
首相が言う地理的優位性は、その気になれば、沖縄以外のどの地域でも沖縄と同程度に見いだせる。何とも都合のいい言葉だ。
政府は、在日米軍再編見直しをめぐり在沖海兵隊の一部を米軍岩国基地(山口県岩国市)に移したいと米側から打診されたが、地元の意向を尊重し、拒否することを決めた。山口県民も沖縄県民も同じ日本国民だ。ならばどうして沖縄の民意には耳を傾けないのか。
県内移設に対しては、仲井真知事だけでなく、稲嶺恵一前知事、大田昌秀元知事も反対の立場を鮮明にしている。稲嶺進名護市長の拒否姿勢は揺るぎない。
政府の選択肢としては(1)辺野古移設の不調を理由に「普天間」を固定化させる(2)固定化回避の名の下に移設を強行する(3)知事の要望を踏まえ、県外・国外移設に舵(かじ)を切る―の三つが考えられる。現状固定化と移設強行はどちらも県民の願いを踏みにじる暴挙だ。県外・国外への移設や無条件返還を粘り強く訴え、阻止しなければならない。
今後、政府が一部の事大主義勢力を巻き込んで仲井真知事に受け入れを迫ってくる可能性もある。知事は県民の意を体し、毅然(きぜん)とした態度で政府と向き合ってほしい。


沖縄タイムス  2012年2月28日 09時12分
[野田首相初来県]上空から何を見たのか
「知事はじめ沖縄県の皆さまに大変ご迷惑をおかけしました」。県庁に仲井真弘多知事を訪ねた野田佳彦首相は、立ち上がり、深く頭を下げた。
民主党政権下での米軍普天間飛行場の移設問題をめぐる迷走。前沖縄防衛局長の不適切発言。これらが謝罪の理由だ。その上で、「沖縄の負担軽減」に努める決意を強調した。野田首相は物腰が柔らかく、言葉も丁寧だ。
だがその一方で、普天間を名護市辺野古へ移設させる現行計画を「日米両政府は唯一、有効と確認しながら進めている」と述べ、県外移設には一顧だにしなかった。いくら低姿勢であろうと、沖縄にとっては基地の押し付けである事実に変わりない。
滞在中、移設先として固執する辺野古に直接足を運ばず、上空からの視察にとどまった。住民の声を直接聞く機会を設けることもなかった。
今回の初来県で、政府の方針が明瞭になった。知事との会談で、野田首相は、那覇空港の滑走路増設の必要性を指摘し、沖縄振興特別措置法と駐留軍用地返還特別措置法の両改正案の年度内成立に意欲を示した。
基地返還と振興策をセットにし、可能な基地返還を一つずつ先行させ、振興策も県の要望を積極的に受け入れる形で進める。沖縄の政府不信を徐々に和らげ、外堀を少しずつ埋め、本丸である辺野古移設を実現しようとする考えだ。アメを先行させ、後でムチを振るう構図である。
辺野古一辺倒の姿勢は、政府に対する県民の不信感を高めるだけだ。
そもそも普天間の辺野古移設計画は、日米特別行動委員会(SACO)合意に基づくものだった。これが頓挫し、個別の再編案を「パッケージ」にした、新たな米軍再編に基づく移設案がまとめられた。この案も実現が困難になり、今回の再編計画見直しが発表された。この間、地元沖縄は蚊帳の外に置かれ、振り回され続けてきた。
再編見直しをめぐり、沖縄の米海兵隊の一部を米軍岩国基地に移したいとの米側の打診に対し、政府は即座に拒否を決めた。山口県と岩国市から強い反発があったためだ。
本土に飛び火しそうになると慌てて打ち消し、沖縄に対しては、辺野古が「唯一、有効」だとして譲らない。沖縄の怒りはここにある。
「抑止力を維持する」とはどういう意味か、なぜ辺野古なのか。ゼロベースでの議論もなく、辺野古しかないという考えは到底認められない。
仲井真知事は会談後、「県外移設すべきとの考えを変えるつもりは毛頭ない」と記者団に述べ、両者の溝の深さが浮き彫りになった。
ただ、気になるのは、会談前日に非公式で行われた野田首相と仲井真知事2人だけの会食だ。仲井真知事は、県内移設は「難しい」と伝えたというものの、詳細は「よもやま話ですよ」とけむに巻いた。
1時間半もの間、鍵を握る2人の間で何が語られたのか、明らかにすべきだ。知事が政府に取り込まれることのないよう、県民は注視している。


琉球新報 2012年2月26日            
社説:野田首相に望む 「普天間」は県外に/民意踏まえて政策変更を
野田佳彦首相が就任後初めて26~27日に来県する。この際、首相に求めたいのは、米軍普天間飛行場の県外・国外移設や無条件返還を望む大多数の県民の意向を受け止め、在日米軍再編合意を抜本的に見直すことだ。
沖縄には在日米軍専用施設面積の74%が集中している。県民は日常的に軍用機の騒音にさらされ、軍人・軍属による事件・事故に脅かされている。日米安全保障条約に基づく基地負担の大部分を、いや応なしに担わされているのが国土の0・6%にすぎない沖縄だ。そのような「差別構造」を放置するのは許されない。
「地理的特性」は詭弁
県は20日、辺野古移設に向けた防衛省の環境影響評価書に対し「(新基地建設計画は)環境の保全上、重大な問題がある」と指摘し「(防衛省の保全措置では)事業実施区域周辺域の生活環境および自然環境の保全を図ることは不可能」と結論付ける知事意見を沖縄防衛局に提出した。科学的知見に裏付けられた意見に首相はどう向き合い、対処するのか。
仲井真弘多知事は再三再四、県内移設が事実上不可能であると指摘し、県外に移すよう政府に要求してきた。27日に予定される会談で首相に直接説明する方針だ。
今やボールは沖縄ではなく政府の側にある。地元の意向を尊重するのか、それとも踏みにじるのか、二者択一を迫られた格好だ。後者の道を進みつつある政府の姿勢は理不尽としか言いようがない。
野田首相は24日の報道各社の共同インタビューで、普天間飛行場の移設先が辺野古でなければならない理由を問われ「わが国周辺の安全保障環境は厳しさを増しており、これは沖縄の皆さまにも理解していただけると思う。沖縄の地理的特性を考えると、そこに存在する海兵隊の抑止力維持はとても大事だ」と述べた。官僚の見解をそのまま話したのだろうが、全く説得力はない。仲井真知事も24日の2月定例県議会で、政府が言う「地政学的な優位性」について「全くナンセンス。俗論以外の何物でもない」と断じている。
そもそも、太平洋戦争で本土防衛の捨て石とされ、米軍に占領されていなければ、広大な基地が建設されることはなかった。基地集中の大きな理由の一つは、もともと本土にいた部隊が沖縄に移駐してきたことにある。海兵隊・第3海兵師団は岐阜、山梨に駐留していたが、基地反対運動の激化によって1950年代に沖縄に移った。米軍が支配する島だったからだ。駐留の意義など後から取って付けた詭弁(きべん)にすぎない。
過ちを改めよ
政府が何よりも急がなければならないのは普天間飛行場の危険性除去だ。県内移設にこだわって時間を空費しているうちに再びヘリが墜落すれば取り返しがつかない。
首相は辺野古移設に県民の理解を得たいと表明しているが、どのような目算があるのか。振興策などのアメをちらつかせれば解決すると考えているなら大間違いだ。
せっかく沖縄まで足を延ばしながら、移設先とされる名護市の稲嶺進市長との会談を設定していないのは解せない。移設に反対する地元首長の意見など聞く耳持たないということか。
野田首相は、鳩山由紀夫氏(元首相)が「最低でも県外移設」と約束しながら県内移設へ回帰したことを知事にわびるつもりだという。「申し訳ない」と言われたところで何の意味もない。
残念なのは普天間移設問題が政争の具として矮小(わいしょう)化されている点だ。自民党も、鳩山氏の発言がなければ普天間は前進していた-などと的外れな論法を振りかざすばかりで、民主党と大差ない。
事の本質は、戦後67年たってなお広大な米軍基地が存在する地域差別をいかに解消するかにある。「県内移設」の誤りは明らかだ。首相は「過ちては改むるにはばかることなかれ」という箴言(しんげん)を肝に銘じ、自ら実践してほしい。


沖縄タイムス  2012年2月26日 09時55分
[野田首相初来県]混乱の元凶を直視せよ
きょう初来県する野田佳彦首相は「まずはおわびをすることがスタート」と述べている。なぜこうなったのか。
「まさにご苦労された責任者。ご教授いただきたい」
先の衆院予算委で首相は、2006年の在日米軍再編ロードマップ策定時に防衛庁長官を務めた額賀福志郎氏(自民)の質問をかわし、こう答弁した。
額賀氏に「苦労を掛けた」という認識の県民はどれだけいるだろうか。国会と沖縄のギャップを強く感じる。
当時の那覇防衛施設局長、佐藤勉氏は備忘録に以下の場面を書き記している。
佐藤氏が局長赴任あいさつで長官室を訪れると、額賀氏は「従来は沖縄の意向を確認し、それを反映した施策を推進したが、この手法はとらない。頭越しにはやらないのが従来のスタンスだったが、今回は政府の責任で案をつくり地元の理解を求める」と告げたという。佐藤氏は「従来とは違うと強く認識した。沖縄を甘やかすことはしない、毅然(きぜん)としてやるんだという意思の表れ」だと感じた、と本紙の取材に答えている。
額賀氏は同委員会で「普天間を政争の具にした」「メンツ、感情で結局迷走させた」など恨み節を並べたて、「とても民主党に安全保障は任せられない」と切り捨てた。
額賀氏の自負はどこから来るのか。当時、実質的に日米交渉を担ったのは防衛事務次官の守屋武昌氏だ。官僚主導の下、丁寧に地元の了解を得る手法を放棄したことが、現在に至る普天間問題の混乱の元凶といえるのではないか。
普天間移設に関する額賀氏の質問に、野田首相は「県外を追求したが、辺野古に至った曲折はおわびしなければいけない」と陳謝した。
額賀氏に陳謝するのは筋違いも甚だしい。県民に対する陳謝であれば、論点を誤らないでもらいたい。
「最低でも県外」を唱え、挫折した鳩山由紀夫元首相に普天間問題の停滞の責任を帰する論調は中央メディアでもかまびすしい。しかし、県民にうっせきした不満は、鳩山氏が「最低でも県外」と言い出したことや、移設先が一時迷走したことに由来するのではない。安保を聖域化し、自公政権の政策をそのまま踏襲する民主政権の不甲斐(ふがい)なさに向けられているのである。
額賀氏に「ご教授」願う野田首相の姿勢は、県民意識との乖離(かいり)があまりに大きい。首相は来県を機に県民の声に耳を傾け、何を求めているのかを肌で感じてもらいたい。
野田首相の「おわび」に該当する事例は、この数カ月に限っても次々浮かぶ。沖縄防衛局長の暴言や選挙介入、防衛相の不見識…。国の基地行政の劣化と機能不全は、かつてないほど顕在化している。
首相がこうした個別案件をわびる一方、辺野古移設推進に協力を求めるのは論理矛盾である。沖縄の民意に逆らって無理を重ねてきた移設作業が、県民とのあつれきを生む源になっているからだ。
官僚主導からの脱却を図らない限り、普天間問題を解く処方箋は永遠に見つからないだろう。

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朝日新聞 2012年2月28日(火)付
社説:首相沖縄訪問―負担軽減を早く確実に
就任から半年、ようやく野田首相が沖縄を訪問した。
税と社会保障の一体改革などの難題を抱えているとはいえ、あまりに遅い対応だった。普天間の移設先とされる名護市の市長にも会わなかった。
首相は仲井真弘多(ひろかず)知事との会談で、政権交代以降の普天間をめぐる迷走や、前沖縄防衛局長の女性蔑視の暴言について、深々と頭を下げた。
「おわび」から入らなければならない事態が、動かない沖縄問題を象徴していた。
それなのに、首相は普天間を固定化させないためには、辺野古移設が「唯一有効な方法」だと、これまでの政府の姿勢を繰り返した。代替案がない現状の厳しさはわかるが、説得力はまるでない。
予想された通り、あくまで県外移設を求める知事とは平行線に終わった。
知事は先週、国の環境影響評価に対し、辺野古移設に反対する意見書を出したばかりだ。
「生活、自然環境の保全を図ることは不可能」という沖縄の専門家の知見に基づいている。将来、政治的な事情の変化で覆る内容ではあるまい。
普天間をめぐる日米合意の実現は、ますます遠のいている。
この現実を、首相は真剣に受け止めなければならない。
そして、今春の訪米に向け、より抜本的な米軍再編の見直し策を練り、「辺野古移転断念」に踏み切るべきだ。
この大転換がなければ、沖縄問題の進展は望めない。同時に、首相が取り組むべきは、在日米軍基地の74%が集中する沖縄の負担軽減である。
カギを握るのが、さきに普天間問題と分離された、嘉手納基地以南の5施設の先行返還だ。どの施設を、いつまでに返すのか。速やかに、具体的な成果をあげることを期待する。
基地機能の維持を求める米側との交渉は容易ではないが、首相を先頭に日本政府の総力を示すときだろう。
同時に、日米で合意した基地騒音の軽減が、米軍の運用によって事実上骨抜きにされている実態にも、厳しく対処してほしい。沖縄県民は目に見える結果を待っている。
沖縄防衛局長の講話問題は、どうなったのか。宜野湾市長選で暗に特定候補への投票を促したと見られても仕方ない。更迭しなければ、沖縄へのおわびも信頼回復への努力も、言葉だけだと受け取られるに違いない。
沖縄の信頼を取り戻すには、できることから、ひとつずつ実行することだ。


(2012年2月28日01時11分  読売新聞)
首相沖縄訪問 関係改善テコに普天間進展を(2月28日付・読売社説)
沖縄県との関係改善を米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の進展につなげることが肝要だ。
野田首相が就任後初めて沖縄県を訪問し、仲井真弘多知事と会談した。
首相は、普天間問題の迷走について陳謝した。知事は、2012年度の沖縄振興予算の大幅増などを「快挙」と歓迎し、「心から感謝する」と語った。
仲井真知事には、さらなる沖縄振興策への期待があるのだろうが、鳩山元首相の失政で生じた民主党政権への沖縄の不信感は、かなり払拭されたのではないか。
野田政権は、沖縄振興策の拡充に加え、米国人軍属の裁判権をめぐる日米地位協定の運用を改善した。普天間問題と海兵隊のグアム移転を切り離し、県南部の米軍施設先行返還への道も開いた。
菅政権が無為無策だったのに対し、野田政権が沖縄の多くの要望に一歩一歩応えてきたことは高く評価できる。ただ、やはり肝心なのは普天間問題である。
首相は会談で、辺野古移設が「唯一有効な方法」と述べ、改めて理解を求めた。知事は「辺野古はものすごく時間がかかる」として、従来通り県外移設を主張し、議論は平行線に終わった。
沖縄県は先週、辺野古移設に関する政府の環境影響評価について騒音対策など25項目、175か所が不適切で、「環境保全は不可能」との知事意見書を示している。
辺野古移設の実現に不可欠な知事の許可を取り付けるためのハードルは、依然として高い。
それでも、過去15年以上に及ぶ日米両政府の検討でも、辺野古以外に、現実的な移設先は見つかっていない。辺野古移設の頓挫は、普天間飛行場の長期間の固定化という最悪の展開を意味する。
今なお、条件付きで辺野古移設を容認する周辺住民や関係者が少なくない点も考慮すべきだ。
今年5月、沖縄は本土復帰40周年の節目を迎える。名護市では太平洋・島サミットが開催される。政府は、様々な機会を利用し、沖縄振興策や米軍基地の地元負担の軽減を進める中で、辺野古移設への理解を広げる必要がある。
首相が会談で指摘したように、日本の安全保障環境は近年、一段と厳しくなった。北朝鮮の核や中国の軍備増強によって、在沖縄海兵隊の抑止力を維持し、日米同盟を深化する意義は増している。
野田首相は、沖縄の地政学的な重要性や、沖縄振興を特別に重視する必要性について、国民全体にきちんと説明せねばならない。


毎日新聞 2012年2月28日 東京朝刊
社説:首相の沖縄訪問 「辺野古が唯一」は無策
野田佳彦首相が就任後初めて沖縄県を訪問し、仲井真弘多同県知事と会談したが、米軍普天間飛行場の移設問題の前進はなかった。
首相は、「普天間を固定化させない」と強調したうえで、「辺野古移設が唯一、有効な方法」と述べ、同県名護市辺野古への移設に理解を求めた。知事は「辺野古は時間がかかる。県外移設を検討、実現してほしい」と主張、かみ合わなかった。
首相は、民主党政権下の普天間をめぐる迷走や前沖縄防衛局長の不適切発言を謝罪し、在沖縄米海兵隊のグアム移転と米軍嘉手納基地以南の5施設・区域返還を普天間移設から切り離して先行実施する方針や、沖縄振興策にも言及した。負担軽減や振興策の実施で沖縄の信頼回復を図り、沖縄が辺野古案を受け入れる環境整備としたい考えのようだ。
しかし、事態が動く気配はない。知事は、沖縄振興予算の拡充を評価する一方で、普天間問題では「(県外移設の)主張を変えるつもりはない」と語った。辺野古案が困難である現実を、首相は直視すべきだ。
辺野古移設に反対する沖縄の政治状況や知事発言を踏まえれば、辺野古案に固執すればするほど、普天間の固定化回避という首相の約束が実現不可能になるのは明らかだ。
まさか、辺野古案を掲げ続け、普天間の恒久化を表明しない限り、普天間を使用し続けても固定化でない、と主張するつもりではあるまい。そこは首相の誠意を信じたい。
辺野古移設に必要な公有水面埋め立て申請を知事が許可しない、あるいは、政府が申請もできない状況に至るなど、辺野古案がストップしたまま普天間を継続使用するなら、それは事実上の固定化である。
これを避けるには、辺野古案の見直しを検討し、米側に提起するしかない。辺野古案を「唯一」とする姿勢のままでは、事態の進展と普天間の固定化回避は期待できない。
また、首相は、移設先がどこになるにせよ、実現までの普天間周辺住民の危険性除去・軽減対策が必要であることを忘れてはならない。
普天間移設と海兵隊グアム移転などの切り離しによって、普天間移設の実現には、これまで見込んでいた以上の年月がかかることが予想される。
現状では、その間、「世界一危険な基地」の周辺住民は引き続き、人命にかかわる危険と、騒音などの生活被害にさらされることになる。
万一、普天間に近接する沖縄国際大学へのヘリ墜落(04年)のような重大事故が再び起きれば、日米安保体制の円滑な運営や、首相が強調する「抑止力の維持」にも大きな影響を及ぼす。普天間機能の当面の分散移転など対策を検討すべきだ。


日経新聞 2012/2/28付
社説:「普天間」でもっと手を尽くせ
ある解決案が厚い壁にぶつかると、往々にして実現をあきらめるよう求める声が出る。だが、良い代替案を用意せずにその案をつぶせば、事態は改善しないどころか、もっと悪くなりかねない。
懸案である米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の移設問題でも、同じことが言えるだろう。
沖縄県を訪れた野田佳彦首相は仲井真弘多知事に会い、現行の同県名護市辺野古沖への移設案に理解を求めた。だが、知事からは歩み寄りを得られなかった。
こうした状況を踏まえ、中央政界の内外からも現行案を断念せざるを得ないとの意見が聞かれる。
しかし、もはや無理だと言い切れるほど、民主党政権は手を尽くしたのだろうか。そもそも野田首相が約半年前に就任して以来、閣僚は数回にわたり沖縄入りしたが、首相はこれが初めてだ。
民主党の努力もはなはだ不十分だ。2月の宜野湾市長選では、同党の沖縄選出の国会議員が、普天間の県内移設に強硬に反対してきた候補の応援に回った。自分の所属議員すら説得できず、どうやって沖縄の理解を得られるのか。
では、どうするか。普天間の移設が頓挫し、危険な基地の現状が固定化されることだけは避けたい。少なくともこの思いでは、沖縄と政府は同じはずだ。だとすれば、野田政権はそうした事態を防ぐためにはなぜ、現行案が最良の選択肢なのか、より詳しく説明し、理解してもらうしかない。
現行案に反対する人たちは県外や国外への移設先を探すべきだという。だが、自民党政権以来、さまざまな代案が浮かんでは消え、いまの案に行き着いた経緯がある。県外移設をかかげた鳩山政権も迷走の末、現行案に戻った。
仮に米側との再交渉にこぎつけたとしても、代替案が見つかる保証はない。
沖縄の協力を得るには、基地負担を全国で分かち合っていく努力も必要だ。沖縄以外への米軍の訓練移転などが進むよう、他の自治体も積極的に協力してほしい。


産経新聞 2012.2.28 03:15 [主張]
【主張】首相の沖縄入り 普天間移設さらに努力を
就任後初めて沖縄県を訪ねた野田佳彦首相は、仲井真弘多県知事との会談で米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設が「唯一有効な方法」と説得したが、知事側は県外移設を求めたため、話は平行線のまま終わった。
首相が普天間移設のために自ら足を運んで説得に着手し、歴代民主党政権の迷走を謝罪したのは当然といえる。ただ、就任約半年後の訪問は遅きに失した面があり、地元の信頼回復には至らなかった。
その大きな要因は、民主党沖縄県連がいまだに「県外移設」を掲げるなど、政府・党中央と県連のはなはだしい言行不一致にあり、首相は直ちにこれを正すべきだ。その上で日本の安全のために何度でも沖縄を訪ね、是が非でも移設を実現してもらいたい。
民主党は3年前の総選挙の際、鳩山由紀夫代表が「普天間をできれば国外、最低でも県外」と語った。しかし、日本の安全や日米同盟の堅持に米軍の抑止力が不可欠な現実を無視できず、日米合意に基づく辺野古移設に回帰した。
にもかかわらず、党県連が定期大会で「県外移設」を再確認したのは、野田首相の沖縄入りの前日のことだった。
先の宜野湾市長選でも、地元選出国会議員の一部が「普天間の即時閉鎖と県外移設」を掲げた候補の支援に回り、党・政府の方針と正反対の言動を続けてきた。
首相との会談で、仲井真知事が現行合意に戻った経過に「民主党として納得いく説明がない」と重ねて問うたのも、まさにそのことだろう。これに対し、首相が「結果的に今の日米合意に至った」としか説明しなかったのは極めて不十分といわざるを得ない。
首相は地元振興と基地負担軽減を柱に「論より証拠」で信頼を回復する意欲を語ったが、まずは政権党として地元県連にいたるまで政策を一本化するのが先決だ。
首相は日本の安保環境の厳しさや抑止力の必要性も説明したが、中国海軍の海洋進出に拍車がかかり、金正恩新体制に移った北朝鮮も核・ミサイル開発中心の「先軍政治」を改める気配はない。日米の抑止力を強化充実させる必要は日ごとに強まっている。
辺野古の空中視察にとどめたのも物足りない。普天間の現状固定化を避け、国民の平和と安全を守るには移設が不可欠だ。それを現地で堂々と訴えてほしかった。


東京新聞 2012年2月28日
【社説】首相沖縄初訪問 謝罪では普天間返らぬ
野田佳彦首相が初めて沖縄県を訪問した。米軍普天間飛行場の県内移設に理解を得るのが狙いだが、県側の軟化は望み薄だ。普天間返還の実現には、現行の移設計画を根本から見直す必要がある。
国会審議の合間を縫っての沖縄訪問となった。平和祈念公園や旧海軍司令部壕(ごう)など激烈を極めた沖縄の戦跡を訪れたり、市街地が迫る巨大な米軍基地を視察したりと、今も続く沖縄県民の苦しみの一端に触れたことだろう。
首相が今回の訪問から多くを学ぶのであれば、その意義も認められよう。ただ、より早期の訪問が望ましかったのではないか。
就任後半年近くたっての沖縄訪問は、消費税率引き上げに血道を上げてきた首相にとっての沖縄問題の優先順位の低さを、目に見える形で表してしまった。
首相は仲井真弘多県知事との会談で、鳩山由紀夫元首相が県外移設を掲げながら結局、名護市辺野古への県内移設で米政府と合意した「迷走」を陳謝し、田中聡前沖縄防衛局長の沖縄「犯す」発言についても謝罪した。
政府に対する沖縄の信頼回復は為政者として当然としても、それで県側が県内移設受け入れに転じる状況でないことは知事自身が語る通りだ。ここは知事が言うように「県外移設を検討」した方が、普天間返還の早道ではないか。
首相は沖縄訪問二日前、移設先を辺野古とする理由を「沖縄の地理的特性を考えると、そこに存在する海兵隊の抑止力維持はとても大事」と述べた。
しかし、海兵隊の沖縄駐留が抑止力にならないことは、米国の著名な学者らが県外移駐を提唱していることからもすでに明らかだ。
そればかりか、海兵隊のグアム先行移駐で合意した際の日米共同発表では、海兵隊を西太平洋地域に分散配置する理由に、攻撃に耐えてなお機能を維持する、運用面での「抗堪(こうたん)性」を挙げている。
海兵隊にとって、軍事力の増強著しい中国に近い沖縄が万が一攻撃されても、分散配置しておけば対応は可能ということだろう。この場合、地理的特性はむしろ脆弱(ぜいじゃく)性として認識されている。
日本政府はなぜ米政府の戦略転換から目を背けて県内移設にこだわり続けるのか。理解に苦しむ。
首相はすでに破綻した海兵隊抑止力論に固執せず、米政府に対して国外・県外移設の提起を決断すべきだ。首相の沖縄訪問がその転機となるのなら救いである。

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