過重な米軍基地負担に苦しむ県民の思いを踏みにじる暴挙だ。
各紙社説・記事等を紹介する。
<各紙社説・主張>
朝日新聞)オスプレイ配備―沖縄の怒りを侮るな(10/2)
毎日新聞)オスプレイ配備 沖縄の不信に向き合え(10/2)
産経新聞)オスプレイ配備 尖閣からめて説得進めよ(10/3)
東京新聞)オスプレイ 沖縄に配備する暴挙(10/3)
しんぶん赤旗)オスプレイ配備強行 県民の痛みがわかっていない(10/3)
<各紙社説・論説>
北海道新聞)オスプレイ容認 民意顧みぬ強行配備だ(10/3)
秋田魁新報)オスプレイ配備 沖縄の意を真剣に酌め(10/3)
河北新報)オスプレイ配備/国は責任を担い切れるのか(10/3)
信濃毎日新聞)オスプレイ 国民は納得していない(10/2)
京都新聞)オスプレイ配備 沖縄県民の怒り当然だ(10/2)
神戸新聞)オスプレイ/配備の強行は禍根を残す (10/2)
山陽新聞)オスプレイ配備 沖縄との溝さらに深く(10/4)
中国新聞)オスプレイ普天間配備 住民無視にも程がある(10/3)
愛媛新聞)オスプレイ配備 なお沖縄に犠牲を強いるのか(10/2)
徳島新聞)オスプレイ配備 安全性は確保できたのか(10/3)
高知新聞)【市街地ヘリ飛行】守られない安全策では(10/4)
高知新聞)【オスプレイ配備】沖縄だけの問題ではない(10/2)
西日本新聞)オスプレイ配備 負担の分担 本気で進めよ(10/2)
熊本日日新聞)オスプレイ配備 さらなる緊張招いた強行(10/2)
宮崎日日新聞)オスプレイ沖縄配備 政府は運用状況監視徹底を(10/4)
南日本新聞)[オスプレイ配備] 政府は重い責任自覚を(10/2)
<沖縄では連日のように社説を掲げる>
沖縄タイムス)[オスプレイ飛来]住民を危険にさらすな(10/2)
沖縄タイムス)[MV22きょう飛来]民意は踏みつぶされた(10/1)
沖縄タイムス)[ゲート前抗議]マグマが噴出し始めた(9/30)
琉球新報)日米合意逸脱 配備撤回しか県民守れず(10/4)
琉球新報)オスプレイ抑止力 構造的差別維持する詭弁だ(10/3)
琉球新報)オスプレイ飛来 恐怖と差別強いる暴挙/日米は民主主義を壊すな(10/2)
琉球新報)配備阻止行動 非暴力的手段を徹底しよう(9/30)
<強行配備時の報道記事>
赤旗)沖縄 怒り沸騰 オスプレイ配備強行の暴挙(10/2)
共同)普天間周辺で最大89デシベル オスプレイ飛来時の騒音(10/2)
東京)オスプレイ沖縄猛反発 安全軽視 見切り配備(10/2)
読売)「沖縄の総意なぜ無視」オスプレイ配備に県議ら抗議(10/2)
朝日)オスプレイ「魔物が来た」 沖縄一丸、政府に抗議(10/2)
朝日)「この苦しみ、わかるか」 爆音の下、本土への叫び(10/2)
朝日)「オスプレイ帰れ」「沖縄を愚弄」 怒号の中、配備強行(10/1)
毎日)オスプレイ普天間配備:沖縄に怒りと失望/「おばあ」演じた平良とみさん・平和求め、ため息(10/2)
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朝日新聞 2012年10月2日(火)付
社説:オスプレイ配備―沖縄の怒りを侮るな
米軍の新型輸送機オスプレイの第1陣が沖縄県の普天間飛行場に着陸し、本格運用に向けた準備が始まった。
野田首相は、「安全性は十分確認できた」との談話を出したが、沖縄県民は不安と反発を強めている。
政府と地元との認識の差はあまりに大きい。これを侮ることは、県民生活や日米同盟の将来を考えても、危険である。
普天間飛行場の主な三つのゲートでは、先週から市民団体の抗議行動が続いている。基地機能をまひさせようと、住民たちは車をバリケード代わりにゲートを封鎖し、県警が強制排除する事態になっている。
ゲート前の抗議集会に連日、翁長雄志(おながたけし)那覇市長ら市町村長たちが、党派を超えて駆けつけている。きのうは仲井真弘多(なかいまひろかず)知事も飛行場わきの宜野湾市役所の屋上から、オスプレイの飛来を見守った。
「県民の不安が払拭(ふっしょく)されないまま強行する手法は、どう考えてもおかしい。自分の頭に落ちてくる可能性があるものを、だれがわかりましたと言えますか」と知事は憤る。
政府はオスプレイの運用にあたり、可能な限り人口密集地の上を飛ばないようにすることなどで米側と合意した。
だが、沖縄県民はこれまでの米軍の飛行や事故の経験から、それは守られない約束であることを痛いほど知っている。
沖縄県民が怒るのは、新型機の安全性の問題だけからではない。米軍基地を沖縄に押し込める構造。それがいつまでたっても改まらない。これらを差別的だと感じていた不満が、一気に噴き出したのだ。
だからこそ、先月の県民大会には、お年寄りから子供まで、組織されない人たちもふくめて数万人もが集まった。参加者の広がりや、抗議にこめられた思いの強さは、これまでとは明らかに質が異なる。
野田首相はきのうの記者会見で、「普天間飛行場の一日も早い移設・返還をはじめ、沖縄の負担軽減や振興にいっそう力を入れていく」と述べた。
首相がこれらを実行するのは当然だが、名護市辺野古への移設を進めようというのなら、見当違いだ。
政府内には、いずれ仲井真知事が辺野古移設を決断してくれるとの期待がある。だが、それは甘いというほかない。
いまや辺野古があり得ないことは、県民の総意に近い。そこを見誤っては普天間返還は遠のくばかりだ。首相は沖縄の現実を直視しなければならない。
毎日新聞 2012年10月02日 02時30分
社説:オスプレイ配備 沖縄の不信に向き合え
米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが、一時駐機していた米軍岩国基地(山口県岩国市)から沖縄の米軍普天間飛行場に移動を開始した。1日の6機に続いて残り6機も近く普天間に移動し、今月中に配備(本格運用)が完了する。
安全性などについて沖縄の理解が得られないまま、抗議を無視しての強行配備は、極めて残念である。
野田佳彦首相はこの日発表したメッセージの中で、「同機の安全性は十分確認できた」と述べた。しかし、政府の繰り返しの安全宣言にもかかわらず、沖縄では不安と不信の声が収まりそうにない。政府は、その理由を改めてかみしめるべきだ。
第一は、市街地にある普天間飛行場への配備に対する不安である。周りには住宅や公共施設が密集し、オスプレイはこの上空を飛行する。今年になって2回の墜落事故を起こしたオスプレイが頭上を飛ぶことに、周辺住民が強い不安を抱くのは当然だろう。普天間への移動を確認した仲井真弘多沖縄県知事は、「県民の不安が払拭(ふっしょく)されない中で(移動を)強行するのは、理解を超えた話だ」と政府を批判した。
首相はメッセージで、普天間の「一日も早い移設・返還」を強調した。しかし、沖縄は普天間の県外移設を求めており、名護市辺野古への「県内移設」計画を進める政府とは大きな隔たりがある。政府内には、沖縄が辺野古移設を受け入れなければ普天間は固定化せざるを得ない、との声もある。県内移設か、オスプレイの市街地飛行か−−。この二者択一を迫る政府の姿勢は、沖縄が不信を募らせる要因となっている。
第二は、米軍基地の過重な負担に対する沖縄の強い不満である。沖縄に基地が集中する現状は「差別」と受け取られ、この感情は県内の保守層にも広がっている。オスプレイの安全性に対する住民の懸念を無視した配備強行は、この感情を逆なですることとなった。
首相メッセージは、「オスプレイの本土への訓練移転」など「全国でもその負担を分かち合っていく」と述べた。その通りだ。オスプレイに限らず、本土が沖縄の基地負担を引き受け、大幅な負担軽減を実現することなしには、積み重なった不信を解消することはできないだろう。本土の説得は政府の役割である。これに本腰を入れて取り組んでもらいたい。
オスプレイの配備強行で政府と沖縄の関係がさらに悪化することを懸念する。政府は普天間の辺野古移設に向け、知事への埋め立て申請などの準備を進めている。しかし、その前にやるべきことがある。沖縄の不信に正面から向き合い、それを取り除くために全力をあげることだ。
産経新聞 2012.10.3 03:11
【主張】オスプレイ配備 尖閣からめて説得進めよ
米軍新型輸送機MV22オスプレイの第1陣12機の沖縄県・普天間飛行場への配備が始まった。
野田佳彦首相は「米海兵隊の能力の中核を担う優れた装備で、わが国の安全保障に大きな意味を持つ」と述べた。先月の安全宣言などを踏まえ、日米が同盟の抑止力を飛躍的に高めるオスプレイの本格運用へ向けて踏み出したことを評価したい。
地元の反対が続いているが、尖閣諸島奪取を狙う中国の攻勢を防ぐためにも早期運用が不可欠であることは言をまたない。安全性を確保しつつ、首相や森本敏防衛相らが先頭に立って地元説得に全力を投じてもらいたい。
オスプレイは、老朽化が進む現行のCH46ヘリと比べ速度、積載量、行動半径が2~4倍になる画期的な輸送機だ。とりわけ行動半径が600キロに広がり、尖閣有事に普天間からノンストップで即応できるなど、中国の海洋進出や北朝鮮を牽制(けんせい)・抑止する能力が格段に強化される点は大きい。
日本の安保環境が悪化する中で離島防衛のカギを握る輸送力、展開力、速度のどれをみても日米に必須といえ、こうした軍事・戦略上の意義を認識しておきたい。
問題は、国内や地元の反対論には「オスプレイ=危険」のレッテルを貼り、尖閣を含む沖縄や日本全体の平和と国民の安全を守る必要性には耳を貸そうとしない姿勢がみられることだ。
米軍は月内に本格運用に入り、2014年までに計24機を配備する方針だが、仲井真弘多知事らは遺憾の意を表明、住民らが抗議集会を開いた。その背景には、民主党政権下で迷走を重ねた普天間移設問題も響いている。
だが、普天間が現状で固定化される懸念も併せて考えるなら、唯一最良の解決策は日米合意に沿って普天間を速やかに名護市辺野古へ移設する以外にはない。
日米両政府はオスプレイの飛行訓練に日本の航空法を適用、市街地の安全や騒音にも配慮することで合意した。地元負担軽減のために訓練の一部の本土移転も協議中だ。こうした対策を積み重ねて地元の信頼を回復し、普天間移設へつなげる誠意と努力が大切だ。
首相が「普天間の一日も早い移設や沖縄振興に一層力を入れて取り組む」と語ったのは重い。日本の平和と安全のために、言葉だけでなく行動で示してほしい。
東京新聞 2012年10月3日
【社説】オスプレイ 沖縄に配備する暴挙
米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの沖縄配備が始まった。過重な米軍基地負担に苦しむ多くの県民が強く反対する中での配備強行だ。県民の思いを踏みにじる暴挙には怒りを覚える。
野田佳彦首相はオスプレイ配備が提起する数々の問題の重要性を理解していないのではないか。
山口県の岩国基地に駐機していたオスプレイ十二機のうち九機が沖縄県宜野湾市の普天間飛行場に移動した。残る三機も近く配備されるという。
量産・配備後も事故が続き、安全性が確立されたとは言い難い軍用機だ。それをよりによって、市街地に囲まれ、米国防長官も「世界一危険」だと認めて日米両政府が返還に合意した普天間飛行場に配備するとは、どういう考えか。
普天間飛行場の主要三ゲート前では、抗議のため車両でゲートを封鎖した住民と、排除しようとする警察官との間で激しいもみ合いが起きた。沖縄県民の怒りを、日米両政府は軽んじてはならない。
首相は、日本政府独自の調査を経て「安全性は十分確認できた」と宣言した。米軍側から通り一遍の聞き取り調査をしただけで安全が確認できるのだろうか。
さらに留意すべきは、たとえオスプレイが安全だとしても、普天間に配備すべきではないことだ。
沖縄には在日米軍基地の74%が集中し、県民は重い基地負担に苦しむ。普天間は一刻も早く日本側に返還されるべきものであり、負担軽減につながらない新型軍用機の配備が許されるはずがない。
それとも普天間に新たな負担を押し付けて、沖縄県側に名護市辺野古への移設を認めさせようともくろんでいるのだろうか。とても許される政治手法ではない。
海兵隊は機動的に展開する部隊である。アフガニスタンやイラクに配備され、沖縄を空けることも多かった。沖縄駐留が抑止力となっているかどうか疑わしい。
オスプレイは長い航続距離が売り物だ。例えば米領グアムなどに「後方」配備しても、海兵隊の機能は損なわれないのではないか。
基地提供は日米安全保障条約に基づく日本側の義務だが、一地域に過重な負担を強いることは、安保体制の円滑な運営にいずれ深刻な支障をもたらすだろう。
オスプレイは本土でも低空飛行訓練を予定している。沖縄県民だけの問題ではない。日本国民全体が傍観せず、自らの問題として考えるべきである。
しんぶん赤旗 2012年10月3日(水)
主張:オスプレイ配備強行 県民の痛みがわかっていない
米海兵隊が岩国基地(山口県)に一時駐機していた新型輸送機オスプレイ12機のうち、1日に6機を、2日に3機を沖縄の普天間基地に移駐させました。配備を強行したことに沖縄県民の怒りが噴き上げています。
岩国基地に残る3機のうち2機は部品交換などの追加整備が必要で、移駐が終わるまで数週間かかるといいます。こんな状態で配備を押し付けるなどとんでもないことです。反対を押し切って強行した日米両政府への不信と反発はかつてなく激烈です。
民主主義と人道に反する
沖縄県民は先月参加者が10万人を超える大規模な県民大会で、配備は「とうてい容認できるものではない」と決議したばかりです。県議会は1日にも緊急抗議決議をあげました。県下の地方議会すべてが反対決議をあげ、仲井真弘多県知事や佐喜真淳宜野湾市長など首長も抗議しているのに、問答無用でオスプレイを県民に押し付けるのは民主主義と人権をじゅうりんする暴挙です。
米海兵隊がオスプレイを順次普天間基地に移駐させているのは、予定通り10月中の本格運用を狙うからです。森本敏防衛相や野田佳彦首相がアメリカのいい分をうのみにした「安全宣言」をだして、配備の強行に手を貸した野田政権の責任はきわめて重大です。
オスプレイはちょっとしたことでも操縦が不能になり、墜落をくりかえしている危険な欠陥機です。重大な事故を起こすことを県民が懸念するのは当然です。仲井真知事が「自分の頭に落ちてくる可能性があるものを誰が分かりましたといえますか」と怒りをあらわにしているのは当たり前です。
日米両政府は、低空飛行はできるだけ避けることや市街地上空での飛行を避けるなどの「運用ルール」を結んでいますが、それが守られる保証はありません。実際、オスプレイは普天間基地に向かうさい、沖縄の人口密集地上空を飛び、もっとも墜落の危険が高いとされるヘリモードへの転換も行いました。安全のために「できる限り避ける」としていた日米の合意をほごにしたことは、沖縄県民の命を軽んじる米軍の横暴さを示すものです。
沖縄県民には米軍機がなんども墜落し、少なくない県民が犠牲になった記憶が残っています。1959年の宮森小学校への墜落事故では、後遺症で亡くなった人も含めて子どもや市民18人が亡くなりました。2004年にも普天間基地そばの沖縄国際大学にヘリが墜落し、周辺住民を恐怖に陥れました。いつ落ちるかわからないオスプレイを県民に強いるのは、人道上許されない無法な仕打ちです。
安保なくせの声強めて
憲法は国民に「平和のうちに生存する権利を有する」と明記しています。日米両政府が日米安保条約=日米軍事同盟を盾に県民と日本国民にオスプレイを押し付けたのは、沖縄県民が平和のうちに暮らす権利をふみにじるものです。
世界一危険な普天間基地に危険な欠陥機を配備すれば、墜落しない保証はまったくありません。
オスプレイ配備撤回と普天間基地撤去を迫るとともに、日米両政府が問答無用で危険な軍用機を押し付ける日米安保条約なくせの声を、いまこそ強めることが求められています。
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北海道新聞 2012年10月3日
社説:オスプレイ容認 民意顧みぬ強行配備だ(10月3日)
民意は踏みにじられた。
米海兵隊は安全性が疑われる垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを山口県の米軍岩国基地から沖縄県の米軍普天間基地に段階的に移動させ、配備を開始した。
地元の不安、抗議を無視した暴挙である。沖縄県民は一丸となって怒りをあらわにしている。
事故が起きてからでは遅い。住宅に囲まれ「世界一危険な基地」である普天間での運用は認められない。
日本政府は米国の方針を沖縄に押しつけるばかりで、沖縄の負担は増す一方だ。米軍普天間飛行場の県外、国外への移設を含め、具体的な負担軽減策を示さなければならない。
沖縄県の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事は森本敏防衛相に「配備計画は絶対に受け入れられない」との要請書を提出した。普天間基地周辺では住民らがゲート封鎖などの抗議行動を続けた。
県民の強い抵抗には理由がある。
日米両政府は以前、沖縄の嘉手納、普天間両基地の米軍機による夜間騒音制限で合意したが、その後も騒音被害は続いた。市街地上空を飛ばないよう飛行ルートを設定しても、実際は住宅密集地の真上を飛ぶ例が後を絶たなかった。
こうした経緯があるだけに、沖縄県民の不信は根強い。
今回、政府はオスプレイの「安全宣言」を行った。飛行経路はできる限り人口密集地域上空を避けることで日米が一致した。だが岩国基地での試験飛行ですでに市街地上空を飛ぶ姿が目撃されている。
在沖縄米軍再編の基本は地元負担の軽減だったはずだ。オスプレイ配備は住民の不安を増大させ、再編の流れに逆行している。
県民はオスプレイ配備が普天間基地の固定化につながるとの懸念を抱いている。あってはならないことだ。米議会にも異論がある名護市辺野古への移設計画は断念し、県外、国外へ移設を模索するほかない。
日米両政府は在沖縄米海兵隊員のグアム移転と沖縄本島中南部の米軍施設・区域の返還を、普天間移設と切り離して先行実施することで合意した。実現に向け、時期などの具体策を明らかにしなければならない。
防衛相は年内に辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)手続きを終了させる意向とされる。反基地感情が高まる中で移設先の埋め立てを申請しても、沖縄県知事がすんなり認可するとは思えない。
政府に求められるのは、沖縄県民の目線で米軍基地問題を考え直す謙虚な姿勢である。
首相はオスプレイ配備にあたり「沖縄の負担軽減や振興に一層力を入れて取り組む」と語った。言葉よりも実行力を示してもらいたい。
秋田魁新報 (2012/10/03 付)
社説:オスプレイ配備 沖縄の意を真剣に酌め
沖縄の切なる思いは、またも踏みにじられた。県民の激しい抗議行動が続く中、米軍の新型輸送機MV22オスプレイが市街地にある普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された。
安全性に対して地元の理解が得られないまま配備が強行されたのは、極めて遺憾と言うしかない。住民の思いより在日米軍の意向が優先される日米同盟の現状が、あらためて浮き彫りになったと言える。
新たな負担の押し付けによって、政府と沖縄の関係が一層悪化するのは必至だ。政府は安全確保に万全を期すのはもちろん、沖縄の負担軽減を早急に具体化させなければならない。そうでなければ噴出した県民の怒りはさらに増幅し、亀裂は修復し難いものになろう。
オスプレイ配備について沖縄県民を大規模な反対運動に突き動かしているのは、日米両政府への不信感に他ならない。
日本政府は先月中旬、今年発生した2件の墜落事故を踏まえた上で「オスプレイ運用の安全性は十分確認された」と安全宣言。同時に日米で合意した安全策も示したものの、決して納得できる内容とは言えない。
安全策は深夜・早朝の飛行制限、人口密集地を避けた飛行経路設定などだが、いずれも「可能な限り」「運用上必要な場合を除き」といった条件が付いている。つまり安全策が守られるかは米軍の裁量にかかっており、日本側が強制的に順守させるのは難しいのが実態だ。
1996年には日米が嘉手納・普天間両飛行場の騒音防止協定を締結したが、飛行時間帯などは十分守られていない。今回のオスプレイに関しても一時駐機した岩国基地(山口県岩国市)での試験飛行では「事前説明ルートと異なる市街地上空を低空飛行した」という抗議の声が住民から多数上がった。
こうした不条理な現実に長年さらされてきた沖縄だけに、仲井真弘多(なかいまひろかず)知事が「県民の不安が払拭(ふっしょく)されない中で(オスプレイ配備を)強行するのは、理解を超えた話だ。安全保障と県民の安全は別問題だ」と憤りをあらわにしたのも当然だろう。
しかし、日本政府が県民の不安に正面から向き合ってきたとは言い難い。墜落事故が相次いでも日米両政府は沖縄への配備を見直す姿勢すら見せず、「配備ありき」を印象付けた。
これに、普天間移設問題に関する日本政府の迷走など過去の失策が重なる。オスプレイ問題の背景には、根強い不信の連鎖があることを日本政府は重く受け止めなければならない。
オスプレイ配備に当たり、野田佳彦首相は「本土への訓練移転を具体的に進めるなど、全国でも負担を分かち合っていくよう努力したい」との考えを示した。基地負担の軽減は最優先で取り組むべき課題だが、何よりも沖縄の意を体して米側と渡り合っていかなければ根本的な解決にはつながるまい。
河北新報 2012年10月03日水曜日
社説:オスプレイ配備/国は責任を担い切れるのか
米軍岩国基地(山口県岩国市)に駐機していた新型輸送機オスプレイが、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された。
日本国内で機体の安全性が問題視される以前と変わらぬ「10月運用開始」というスケジュールに拘泥する形で、沖縄に飛来した。
県民が求めていた具体的な安全確保策や、沖縄に集中する米軍基地の負担軽減策は今回も前進していない。
地元に残ったのは「安全軽視」というメッセージだけだったのではないか。政府が沖縄県民に対して誠意ある対応をしたとはとても思えない。
中国の海洋進出や米国防戦略のアジアシフトに伴って、オスプレイの配備が日米安保体制に必要不可欠だというのが日本政府の立場だ。だが、通り一遍の手順を踏んだだけでは沖縄、国民の理解は得られない。
オスプレイに装備を更新する意義、さらには日米同盟が想定する国土防衛の在り方を、繰り返し何度でも説明する努力が、政府には決定的に欠けていた。
宜野湾市の佐喜真淳市長は「配備ありきで進んだことに憤りを感じる」と怒りをあらわにした。仲井真弘多知事も「県民の不安が払拭(ふっしょく)されない中で強行するのは、理解を超えた話だ」と政府の対応を糾弾した。
先月の県民集会には、主催者発表で10万人が集結している。「差別」という言葉が多用されるほど、沖縄の怒りは頂点に達している。
沖縄県民は、本土復帰から40年にわたって基地負担を余儀なくされ、現在も普天間移設問題で裏切られたとの思いを募らせている。今回の稚拙な説得は、こじれた関係を正常化するのではなく、政府と沖縄県民の溝を広げる方向に働いたと言わざるを得ない。
日米当局は、装備変更としては異例の熱心さをもってオスプレイの安全性をアピールした。
墜落事故の原因が速やかに日本側でも発表された。森本敏防衛相は米国を訪れ、オスプレイに試乗。「政府として安全を確認した」とお墨付きを与えた。
政府にすれば、必要な手順は踏んだとの認識なのだろう。だが、なぜ沖縄の負担を増やすのか、なぜ市街地の普天間かという疑問は解消しないまま残る。
安全軽視の末に事故が起きれば、日米同盟自体が修復し難いダメージを被る可能性を否定できない。日程に追われた見切り発車にメリットは何一つない。
本格運用が始まれば、超低空飛行なども予定される訓練空域は、東北上空を含む全国各地に広がる。
「沖縄のみの負担で国土全体の安全保障が図られることは本意ではない」(森本防衛相)。言うまでもなく、沖縄の基地負担の軽減は、安全保障分野での負担を日本全体に分散させることに直結する。
沖縄の痛みはもう限界だ。基地機能の分散という難題に取り組む体力が、民主党政権に残っているのか。沖縄県民は言葉ではなく、実行を求めている。
信濃毎日新聞 2012年10月02日(火)
社説:オスプレイ 国民は納得していない
米軍の新型輸送機オスプレイの普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)配備が始まった。
基地負担の軽減を求める沖縄の民意を無視した強行配備である。新たな負担を背負うことで反発はより強まるだろう。
野田佳彦首相は、深刻な事故が相次いだにもかかわらず、「(オスプレイの)安全性は十分確認できた」とのメッセージを出している。日本政府の安全検証は十分なものとはいえず、国民への丁寧な説明もなかった。
本格運用が始まれば、長野県内を含む日本各地で低空飛行訓練などが行われるとみられる。騒音など、影響は大きい。
何より、米政府の配備方針を追認し、国民の安全を軽視する姿勢は理解できない。あらためて独自の安全確認の実施と国民への説明を政府に求める。
オスプレイの問題は安全面ばかりではない。日米両政府は先日、最低安全高度の順守や深夜・早朝飛行の抑制、飛行経路など、運用面での取り決めで合意した。が、これが守られる保証はない。米軍機の運用をめぐっては、これまで日米間で合意したルールが有名無実化し、米軍の都合が優先されている実態があるからだ。
沖縄からは不信の声が上がっている。訓練飛行に入れば、各地で問題が起きるかもしれない。厳しく監視する必要がある。
気になることがある。沖縄県の尖閣諸島をめぐる日本と中国の対立に絡めて、オスプレイ配備の必要性を訴える声が日米双方から出るようになったことだ。オバマ政権の閣僚も「日本の防衛に重要」などと訴えている。
先日公開された外交文書で沖縄返還交渉が本格化する前、米側が日本の防衛よりも自国の極東戦略にとって沖縄の基地が必要、との認識を持っていたことが明らかになった。こうした考えは今もそう変わらないのではないか。
米がアジアへの関与を強めるのは経済・軍事の両面で台頭する中国に対抗する目的がある。あくまでも国益のためだ。が、財政状況は厳しく、手薄になる部分を自衛隊が「穴埋め」する―との戦略を描いているとされる。
オスプレイ配備の裏に見え隠れする米国の思惑には注意が要る。オスプレイが見切り発車で配備されたように、国民の理解を得ないまま、日本が米国の戦略にさらに強固に組み込まれていく恐れがある。オスプレイは日本の安全保障のあり方を問う軍用機であることにも目を配りたい。
[京都新聞 2012年10月02日掲載]
オスプレイ配備 沖縄県民の怒り当然だ
米軍海兵隊の新型輸送機オスプレイ6機が、岩国基地(山口県)から普天間飛行場(沖縄県)に配備された。台風の接近で延期こそされたが、米軍は当初計画通りに近く本格運用を始める方針だ。
配備に反対する沖縄県民の声は高まる一方だ。9月に開かれた県民大会には10万人を超える参加者が集まり、普天間飛行場では抗議集会や座り込み行動で、ゲートが封鎖される事態も起きている。
市民や国会議員、自治体首長まで立場や党派を超えた反対運動が容易に収まるとは思えない。仲井真弘多知事は配備が強行されて、事故などがあった場合、「全基地即時閉鎖」の動きに行かざるをえない、と表明している。
日米両政府は、日本の安全保障に大きな意味があるとアピールするが、在日米軍基地の存在そのものを揺るがす問題に発展しかねない懸念がある。県民の声に耳を傾け、配備計画を再考すべきだ。
当初から配備ありきの両政府の姿勢が、県民の根深い怒りを招いたことは間違いない。
オスプレイと「世界一危険な」普天間飛行場の辺野古移設はセットだったとされる。ところが、民主党政権への交代後、移設が困難になっても、政府は曖昧な態度を続け、米軍が配備計画を発表するとすぐさま容認の姿勢を示した。
相次ぐ墜落事故に対し、森本敏防衛相らは安全性を確認したと発表したが、米側の配備スケジュールを前提にした調査が信頼されるはずもない。結局、「沖縄の負担軽減」を繰り返しながら、言葉とは正反対に、危険と隣り合わせの普天間への配備計画だけが実現した。沖縄県民の怒りは当然だ。
米軍は本格運用開始後、キャンプ富士(静岡県)と岩国基地に毎月数機を派遣し、本州、四国、九州で飛行訓練を行う計画という。全国の自治体に反発や懸念が広がっているのも当然だが、沖縄の痛みを日本全体で考え直す契機にしなければなるまい。
配備計画は見直すべきだが、現実に運用が始まる以上、日米政府間で合意した安全確保策が守られるよう注視する必要がある。
低空飛行訓練で航空法の安全高度150メートル以上を順守し、原発施設や人口密集地の上空は回避するなどの内容だが、岩国基地での試験飛行中に住宅地上空を飛行したとの目撃があり、本格運用前から合意の実行が危ぶまれている。
沖縄では、締結済みの騒音防止協定さえ守られていない実態がある。合意に反した飛行があれば、政府が即座に強く抗議し、安全確保策を守らせることが、沖縄県民に示すべき最低限の誠意だ。
神戸新聞 (2012/10/02 08:37)
社説:オスプレイ/配備の強行は禍根を残す
米軍の新型輸送機オスプレイがきのう、一時駐機していた山口県・岩国基地から沖縄の普天間飛行場に移った。沖縄をはじめ、全国で広がる反対の声に背を向ける形での強行配備である。
沖縄では市民が飛行場ゲートを一時封鎖した。これまで「人間の鎖」で基地が包囲されたことはあるが、沖縄の長い歴史でも初めての基地封鎖だった。
それほど沖縄の怒りは根深い。この状況に至った経緯を、日米両政府は重く受け止めなければならない。
オスプレイの沖縄配備については、早くから反対の声が上がっていた。高速で長い距離を飛行できる利点から、米政府は「日本防衛や自然災害への対応能力を高める」と言う。一方で、開発段階から事故やトラブルが続き、今年に入っても2件の墜落事故が相次いだことから、安全性への疑念は消えていない。
普天間飛行場は住宅などが密集する世界一危険な基地である。一度配備されると、閉鎖・返還で合意している普天間飛行場が継続使用され、固定化につながりかねない。そんな不信も根強い。
政府が独自調査に基づく「安全宣言」を行ったのも、不信を拭う狙いがあっただろう。だが、米側の事故調査報告を追認しただけで、かえって沖縄の反発を強めた。
普天間配備の見切り発車で、海兵隊は月内にも本格運用を始め、全国で低空飛行訓練に入る。機体に問題はないといっても、操縦の難しさによる事故が起こらないとは言えない。依然、不安を残すことを憂慮しないわけにはいかない。
両政府は、安全対策として人口密集地を避けて可能な限り海上を飛ぶことや最低安全高度の順守、深夜早朝の飛行制限などを挙げる。沖縄の人たちは「この種のものが守られたためしはない」と話す。長い経験が言わせるのだろう。
仲井真弘多知事は「事故が起きた場合は全基地即時閉鎖へ動かざるを得ない」と断言する。これほど強い知事の言葉は異例だ。沖縄が島ぐるみで配備に反対する背景に、同盟優先の政府の前のめりな姿勢があることを忘れてはならない。
野田佳彦首相は普天間飛行場の一日も早い移設・返還と、沖縄の負担軽減や振興に力を入れる姿勢を示した。首相の言うオスプレイの本土への訓練移転を具体的にどう進めるのか、負担を分かち合うための道筋を早く描く必要がある。
そのためには基地負担の在り方を根本的に考え直さなくてはならない。議論の下地を作る責任を政府は負っている。
山陽新聞 (2012/10/4 8:53)
[社説]オスプレイ配備 沖縄との溝さらに深く
激しい抗議の中で、米軍の新型輸送機MV22オスプレイの米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)配備が進んでいる。今月中には12機がそろい、本格運用が始まる見通しという。沖縄県民の不安や怒りの声を無視した強行は、さらに溝を深めることになろう。
回転翼機と固定翼機の機能を併せ持つオスプレイは、開発段階から事故が相次いだ。今年になってからも、モロッコや米フロリダ州で墜落、死傷者を出すなど安全性を疑問視する声は多い。沖縄県では10万人規模(主催者発表)の県民大会開催をはじめ強く計画の撤回を求めてきた。
老朽化した輸送用ヘリコプターの代替機として配備を急ぐ米軍は、12機を一時駐機のため米軍岩国基地(山口県岩国市)に搬入。日米両政府はモロッコなどの事故原因調査をはじめとする安全性の確保を飛行の前提とすることで一致をみた。
その結果、両政府は事故原因は「人為ミス」で機体に不具合はなかったと発表。運用に向けては可能な限り海上を飛ぶことや深夜、早朝の飛行は必要最小限に制限することなどで合意、日本政府は国内での運用を認める「安全宣言」を出した。
だが、これでオスプレイに対する疑念が消えたとは到底言えまい。たとえ人為ミスだとしても、なぜ多発するのか。機体にミスを誘発する要因があるのか。ミスを補う機能に欠けていないかなど疑問は残る。構造的欠陥を指摘する米国の専門家もいる。
米政府の調査結果や日本政府の検証は納得のいく説明には程遠い。沖縄の人々には、「まず配備ありき」で突き進む米軍と、「独自の視点で厳正に検証する」としながら日米同盟重視で追随する日本政府の姿が強く印象づけられたことだろう。
なぜ周囲に住宅などが密集して「世界一危険な基地」とされる普天間に配備するのか理解し難い。沖縄には在日米軍基地の4分の3が集中、県民は負担軽減を訴えている。さらなる負担を強いることは避けなければならない。
日米両政府は普天間飛行場の機能を辺野古地区(沖縄県名護市)に移したい考えだ。これに対し、沖縄側は「県外移設」を訴えている。配備をめぐる一連の経緯はオスプレイに対する県民の懸念をてこに、辺野古移設か、普天間の固定化かの二者択一を迫る印象さえ受ける。こうしたやり方では県民の理解や協力は得られず、ひいては日米同盟にも影を落としかねまい。
配備早々、日米が合意した安全確保策への「違反」も確認された。こうした米軍の「合意破り」がなし崩し的に行われぬよう、日本政府は違反があれば直ちに運用の見直しを迫るなど強い姿勢で臨むべきだ。あくまで普天間への配備撤回が筋だが、沖縄の負担軽減を掲げながら、真摯(しんし)に向き合ってこなかった日本政府の最低限の責任であろう。
中国新聞 '12/10/3
社説:オスプレイ普天間配備 住民無視にも程がある
米海兵隊岩国基地(岩国市)に一時駐機していた垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ3機がきのう、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された。
前日に先行した第1陣の6機と合流した。あと3機が岩国に残るが、米側の思惑通りに既成事実が積み重ねられていく。
沖縄県民は怒り、嘆いている。米側の言いなりになるばかりで、沖縄の痛みから目を背け続ける日本政府に対してだ。
沖縄返還から40年。一向に本土並みにならない現実を前に、県民からは「差別だ」との憤りも聞こえてくる。墜落事故が相次ぐオスプレイの普天間配備はまさにその象徴ともいえよう。
その声を私たちも真摯(しんし)に受け止めなければならない。政府はこれ以上の負担を押しつけるのではなく、配備の撤回を粘り強く米側に求めてもらいたい。
ふに落ちないのは岩国に3機が残ったこと。うち2機は部品を取り寄せて交換するという。飛行もままならぬ欠陥機が陸揚げされていたのだろうか。
森本敏防衛相が「具体的なトラブル内容は米軍から連絡がない」というのも首をかしげる。日本政府の「安全宣言」もおざなりだった証しとならないか。
日米両政府はきちんと事情を説明すべきだ。普天間のゲート入り口に座り込む住民を排除しても何ら解決にはならない。
野田佳彦首相は「本土への訓練移転を進めるなど、全国でも負担を分かち合っていく」と述べた。だが具体策は見えず、説得力は感じられない。
むしろ今回の配備により普天間の危険性をクローズアップし、県内移設を進めるてこにする。それが日本政府の思惑に違いあるまい。
しかし沖縄の県民世論は「あくまで県外」に傾いている。政府はそれを分かっていながら配備を容認し、地元無視だと県民が憤るのも予想していたのではないか。ここにきて「抑止力」の言葉を盛んに使って配備の正当性を強調しているからだ。
政府が先月発表した安全宣言にも、その配備が海兵隊を含む在日米軍全体の抑止力を高める、とある。
とはいえ専門家の間でも異論は少なくない。紛争地に部隊や装備を運ぶ機体である。尖閣諸島など離島防衛には不向きだ。
確かにオスプレイは在日米軍の質的な変容を一段と進めるだろう。ヘリに比べ圧倒的に能力が強化され、米国の対外戦略にとって沖縄の拠点性は高まる。
それを抑止力と呼ぶにしても、日本を防衛するという日米安保の本質とかけ離れてしまわないか。むしろ隣国が軍拡に走る口実を与えかねない。
住民本位から程遠いことは、岩国にいた間の試験飛行でもみられた。「可能な限り水上を飛ぶ」とする日米合同委員会での取り決めに反し、市街地上空を飛んでいたとの目撃情報が相次いだ。
野田首相はまず米軍側に、きちんと約束を守るよう申し入れるべきではないのか。
オスプレイの沖縄配備については米紙ニューヨーク・タイムズも社説で「(県民の)傷口に塩を塗り込むものだ」と批判し、県外配備を求めている。
日米両政府は内外、とりわけ沖縄県民の声に耳を傾け、配備の撤回と米軍基地の縮小に本腰を入れるときだ。
愛媛新聞 2012年10月02日(火)
社説:オスプレイ配備 なお沖縄に犠牲を強いるのか
米軍の新型輸送機MV22オスプレイが沖縄県宜野湾市の普天間飛行場に配備された。米軍は10月中にも本格運用するとしており、沖縄側はいっそう反発を強めている。
事故が相次ぎ危険性を指摘されているオスプレイが、世界一危険と指摘される普天間飛行場へ来る不安と怒り。沖縄県民の声が日米両政府に届くことは、ついになかった。
米軍は当初から配備ありきの方針を崩さず、日本政府は追従姿勢に終始した。撤回を迫る自国民の声より、米国事情を優先した日本政府にはあらためて猛省を迫りたい。
オスプレイ配備は、単に輸送機の新型置換にとどまらない。日米安全保障条約を御旗に、両政府がいっそう沖縄に負担を強いる構図がより鮮明化したといえよう。
配備を前に、ゲート前で抗議の座り込みをしていた住民を警官隊が排除した。米軍のため自国民を愚弄(ぐろう)するこの国の、どこに正義があろう。
沖縄の怒りは、既に次元を超えた段階に入っている。両政府には沖縄の切実な声を正面から受け止めた上で基地を削減し、さらに安保条約の見直しを急ぐよう求めたい。
オスプレイ問題では、沖縄の怒りが必ずしも全国で共有されていない現実も浮き彫りとなった。配備を機に、沖縄と本土との「温度差」についても認識しておきたい。
先日、那覇市でマスコミ倫理懇談会全国協議会が開かれた。会議ではオスプレイ配備や普天間移設などをめぐり、沖縄と本土との立ち位置の相違が鮮明になったのだ。
地元紙の記者や識者は、本土の見解は本質を外していると指摘した。危険だから反対なのではない。配備自体が理不尽であり、これ以上の負担増にこそ反対なのだ、と。
自戒を込め「安全宣言」がいかに無意味であったかに思いをはせたい。野田佳彦首相は「理解をお願いしたい」と述べたが、論点が違おう。
沖縄は本土の捨て石であり構造的に差別されてきた―。大会で講演した大田昌秀・元沖縄県知事も強い口調で訴えた。「戦後、一度も人間扱いされなかった」―。しかしその訴えの5日後、オスプレイは普天間に降りたのだ。
米軍は今後、日本各地で低空飛行訓練を行うという。懸念が全国に広がる中、沖縄の怒りと苦悩を今後は日本全体で共有しなければならない。
大田氏はこうも言う。沖縄で、独立論が浮上している。「こんな日本についていてもいいことはない」と。そんな日本をどう変えるのか。
「基地問題は日本の民主主義の成熟度を示す鏡だ」―。沖縄からのこの問いかけを、今こそ日本政府は正面から受け止めねばならない。
むろんそれは、国民一人一人にも向けられている。
徳島新聞 2012年10月3日付
社説:オスプレイ配備 安全性は確保できたのか
米軍岩国基地(山口県岩国市)に一時駐機していた新型輸送機MV22オスプレイ12機のうち、9機が普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された。米軍は到着した機体から通常の訓練を開始する方針だ。
安全性に対する不安は払拭(ふっしょく)されないままだ。沖縄県の仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)知事が強い口調で「理解を超えた話」とまで言い切ったのもうなずける。
沖縄には在日米軍基地の74%が集中し、基地の危険性の除去を訴え続けているにもかかわらず、新たな負担を強いられることになった。県民はやりきれない思いだろう。
米側の方針通りに配備を追認し、県民の不信感と怒りを招いた野田政権の責任は極めて重い。
日米両政府が「機体に問題はない」などと安全宣言をしてから半月足らずでの強行配備だ。仲井真知事はかねて、「事故が起きた場合は全基地の即時閉鎖を求める動きになる」と警告しており、安全のお墨付きを与えた政府は大きなリスクを負ったことになる。
沖縄配備に先立ち、日米両政府は運用面での安全配慮を取り決めた。可能な限り学校や病院を含む人口密集地の上空を避けることや、通常は米軍機に適用されない航空法の安全高度150メートル以上の飛行順守などを盛り込んでいる。
しかし、普天間飛行場は宜野湾市の真ん中にあり、市街地上空の飛行は避けられない。飛行場には小学校も隣接しているだけに、住民が不安視するのは当然だ。
さらに、合意内容には「可能な限り」という条件付きの文言が並び、合意履行の判断は米軍に委ねられている。このため実効性には疑問符が付く。順守されているかどうか、政府は状況把握に努める必要がある。
オスプレイは今月中にも本格運用され、近い将来、徳島を含む日本各地を低空で飛び回ることになる。そのエリアに入る全国の住民にとっても安全性は切実な問題だ。
今年相次いだ墜落事故からは、複雑な構造のオスプレイの操縦の難しさと、パイロットの技量の未熟さが明白になっている。「ほんのわずかなパイロットのミスも許されない」と指摘する専門家もいる。
危険なのは住宅密集地だけではない。気流の変化が激しい山間部の訓練もそうだ。本県は紀伊半島から愛媛に至る「オレンジルート」にあたっており、県南・県西部の住民は危機感を募らせている。
県は先月末、安全性について説明に訪れた防衛省中国四国防衛局の担当者に対し、「防災ヘリやドクターヘリとニアミスする恐れがある」などとしてあらためて訓練が行われないよう求めた。日米両政府は、県民の不安を真剣に受け止めてほしい。
今回のオスプレイ配備をめぐっては、日米同盟の現状を浮き彫りにするとともに、両政府に対する不信感を募らせる結果となった。とりわけ、沖縄の反発はかつてないほど強まっており、溝は深まるばかりだ。
こうした状況は、今後の基地問題全体にも影響を及ぼす。政府は「地元の声に耳を傾け、丁寧に説明する」としているが、これまでのように言葉だけだと不信感を増大させることになる。そのことを肝に銘じ、慎重に対応してもらいたい。
高知新聞 2012年10月04日08時24分
社説:【市街地ヘリ飛行】守られない安全策では
配備直後からこんな状態で、沖縄の住民の安全は守られるのだろうか。
1日に普天間飛行場(宜野湾市)への配備が始まった米軍の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが、事前に日米合意した安全確保策に反して飛行していたことが分かった。
日米合意では、プロペラを上向きにした「垂直離着陸(ヘリ)モード」飛行は基地や訓練場内に限定している。
過去の墜落事故はヘリモード時と、プロペラを前向きにした「固定翼モード」からヘリモードへの転換時に多く起きている。そうした状況を踏まえ、安全策は人口密集地でのヘリモードの飛行を制限した。
ところが配備早々、複数機が市街地上空をヘリモードで飛行していた。転換も市街地で行われていたという。
政府がオスプレイ運用について安全宣言を出し、沖縄の県民らに配備への理解を求めたのは、日米合意した安全策順守を前提にしたはずだ。
それが配備と同時にいとも簡単に破られる。いったい何のための合意だったのか。沖縄の住民が強く反発するのは当然だ。
先月の安全策発表後、沖縄では順守を疑問視する声が上がった。米軍機運用をめぐるこれまでの日米合意が、有名無実化している例があったからだ。
8年前の沖縄国際大へのヘリ墜落事故後、日米は普天間周辺の飛行を、住宅が比較的少ないルートとすることで合意した。だが実態は、経路を大きくはみ出す飛行が多く確認されている。夜間・早朝の飛行を制限する騒音防止協定も守られてはいない。
そもそも今回の安全策は、ほかの日米協定と同様に「(米軍が)運用上必要な場合を除き」という条件が付いている。米軍が「必要」とすれば、合意には縛られない。住民にすれば、最初から安全策とは呼べない合意だったのかもしれない。
オスプレイの低空飛行訓練は、本県山間部を含め九州、本州でも計画されている。最低限守られるべき安全策がほごにされては、国民の不安は増すばかりだろう。
仲井真・沖縄県知事は安全策の見直しを政府に求めるようだ。配備早々の「合意破り」に当然の動きだろう。日米合意は「地域住民の安全に最大限配慮する」としている。沖縄の声に、政府がどう応えていくのか。徹底されない安全策など意味がない。
高知新聞 2012年10月02日08時27分
社説:【オスプレイ配備】沖縄だけの問題ではない
「安全性だけの問題ではない。これ以上、沖縄に米軍や基地の負担を押し付けないでほしい…」
米軍の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ配備直前の先週、沖縄県宜野湾市の普天間飛行場ゲート前で地元の70代の男性は、強い口調でそう話した。
台風17号の影響で、岩国基地(山口県)からの飛行は見送られたが、閉鎖中のゲート前では多くの人が座り込みなどで抗議活動を行っていた。
そして台風通過後のきのう、オスプレイの普天間配備が始まった。米軍は当初の予定通り、今月中に本格運用を開始する見込みだ。
政府は墜落事故の米側検証を追認する形で「安全宣言」を出した。低空飛行訓練は航空法の安全高度150㍍以上を守り、人口密集地の上空は回避するなど日米合意した安全確保策も示した。
ただ住民の声を聞けば、安全性への不安だけで配備に反対しているのではないことが分かる。
戦後27年間、米施政権下に置かれ、今でも国土の1%に満たない土地に、在日米軍基地の74%が集中している。民主党政権となり、「最低でも県外」とされた普天間飛行場の移設は、自公政権時代と同じ名護市辺野古への県内移設案に戻ってしまった。
人口密集地にあり「世界一危険」とされるその普天間に、新たな「危険」が持ち込まれる。なぜ沖縄が、さらに負担を強いられるのか。地元の反発は機体が安全なのかどうかを超えたレベルで起きている。
配備反対で10万人以上が参加した先月の沖縄県民大会では、長年の米軍基地一極集中に対し、県民代表から「構造的な沖縄差別だ」という声が上がった。地元の状況を、沖縄以外の国民はどれほど理解しているのか。厳しい指摘は、そんな問い掛けでもある。
今回のオスプレイ配備は、沖縄だけの問題ではない。
米軍は、低空飛行訓練を本県の山間部を含めて本州や九州でも計画している。沖縄からは、日米合意の安全確保策の順守を疑問視する見方も既に出ている。訓練反対の声を本県からもさらに上げる必要があるだろう。
だが訓練ルートの有無や安全面の懸念のみで「沖縄だけの問題ではない」としていいのだろうか。「これ以上、負担を押し付けないで」││住民の思いを私たちがいかに共有できるのか。沖縄の現実をまず直視したい。
=2012/10/02付 西日本新聞朝刊=
社説: オスプレイ配備 負担の分担 本気で進めよ
どんなに住民が反対しようとも、米軍の決めた方針は変えないという意思表示なのだろうか。
米軍は1日、山口県の岩国基地に一時駐機していた新型輸送機MV22オスプレイを、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に移動、配備した。近く普天間での本格運用を開始するとみられる。
オスプレイは開発段階やこれまでの運用中に度々事故が発生しており、安全性への疑問が浮上している。配備先となる沖縄では特にその懸念が強く、9月上旬には配備反対の県民大会が開かれて約10万人(主催者発表)が参加した。
しかし日本政府は9月中旬、オスプレイの「安全宣言」を出し、国内での運用を容認した。このため、ほぼ米軍が事前に描いたスケジュール通りに、配備と運用が実現することになる。
「配備撤回」を求める沖縄県民の声は、あっさりと無視された格好だ。米軍も日本政府も、沖縄の不安や怒りを軽く考えすぎてはいないか。
配備を受けて、沖縄県の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事は「理解を超えた話だ」と遺憾の意を表明した。宜野湾市の佐喜真淳市長も「怒り心頭だ」と感情をあらわにした。
一方、野田佳彦首相はメッセージを出し「わが国の安全保障に大きな意味がある」として、配備に理解を求めた。
しかし、住民の反対を押し切るオスプレイ配備は、かえって安保体制を揺るがせかねない。仲井真知事や同県内の首長は「もしオスプレイが沖縄で事故を起こしたら、県内全基地の即時閉鎖に動かざるを得なくなる」と指摘している。
米軍はオスプレイの本格運用を強行する構えだ。それが制度上阻止できないとすれば、今後沖縄県民の不安を少しでも軽減し、同時に安保体制を安定的に運営するために、事故を絶対に起こさないよう、両国で合意したオスプレイの安全確保策を米軍に徹底させる必要がある。
これまでも沖縄の基地をめぐっては、騒音防止などを目的に、米軍機の飛行を制限する協定が結ばれている。だが「運用上必要とされる場合」などの除外規定を盾に、米軍が協定で決めた飛行時間や経路の制限を破るケースが多い。こうした「空文化」は許されない。
また、野田首相はメッセージで「本土への訓練移転を具体的に進めるなど、全国でも負担を分かち合っていくよう努力したい」と述べた。「本土との分担」はオスプレイの訓練だけでなく、沖縄の基地負担全体についても必要なことだ。
沖縄では、現在の基地集中を「構造的差別」だとする考え方が広がっている。日米政府が沖縄の犠牲の上に、占領時の基地政策を続けているという認識だ。
沖縄の怒りは、単にオスプレイ配備にとどまらず、沖縄に負担を押しつけるいびつな基地政策や、不公平を放置する本土住民の無関心に向けられている。
政府は今こそ「負担の分かち合い」を本気で進めなければならない。
熊本日日新聞 2012年10月02日
社説:オスプレイ配備 さらなる緊張招いた強行
米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ6機が1日、一時駐機していた米軍岩国基地(山口県岩国市)から普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された。沖縄県では地元首長らが「怒り心頭だ」と反発を強めている。市民団体がゲート前の座り込みなどで抗議の声を上げる中での「強行」であり、このままではさらなる緊張を招くばかりだ。政府は沖縄県民の声に真摯[しんし]に耳を傾け、いま一度打開の道を探るべきだ。
オスプレイの移動開始は当初9月28日の予定だったが、台風17号による悪天候を理由に延期された。しかし、民間の各航空会社は当日、台風が近づいた離島への便こそ欠航したものの、本土に戻る乗客らに対応して深夜まで臨時便を飛ばした。万一トラブルでも起きたら取り返しがつかないという慎重な判断からだろうが、はしなくも離着陸時の風に弱いとされる点を自ら認めることになったとすれば、皮肉なことである。
ただ、沖縄の人々が体を張って基地の全ゲートを封鎖するほど怒るのは、オスプレイが安全かどうかという不安からだけではなかろう。
今年に入って起きた2件の墜落事故に関して、日本政府は「原因は人的要因」とする米側の調査報告を受けて「安全」を宣言。普天間配備前には離着陸時に「可能な限り人口密集地域上空を避ける」ことなどで日米が合意したが、手続きは米軍の予定から逆算するように進んだ。
オスプレイ配備に反対する県民大会に主催者発表で10万人が参加したことや、仲井真弘多[ひろかず]知事ら地元首長が度々上京して見直しを求めたことはまともに受け止めてもらえなかった-。そうしたあきらめが政府への不信と絶望感につながっている。今回の配備強行で、日本政府は重大な責任を負ったことを自覚すべきだ。
地元の反発に対し、政府は名護市辺野古への普天間飛行場移設も念頭に「地元の声に真摯に耳を傾け、丁寧に説明する」(藤村修官房長官)としている。そのためには普天間配備の強行で踏み付けた相手の足から自分の足を退[ど]けることが先決だ。
野田佳彦首相は地元に対し、本土への訓練移転を進めて全国で負担を分かち合っていくなどとした上で、「どうか理解をお願いしたい」とのメッセージを出した。しかし、首相がすべきことは、まず沖縄の声を米国に伝えること、そして航続距離が長い特性を生かしたオスプレイのグアムなどへの後退配備と、普天間返還の実現ではないか。
宮崎日日新聞 2012年10月04日
社説:オスプレイ沖縄配備 政府は運用状況監視徹底を
米軍の新型輸送機MV22オスプレイが、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された。
配備予定の12機のうち、1日に6機、2日に3機が米軍岩国基地(山口県岩国市)から到着。宜野湾市の佐喜真淳市長は「配備ありきで進んだことに憤りを感じる」と強く非難した。
太平洋戦争中に沖縄県の多くの人たちが本県へ疎開したことが縁で、両県には姉妹都市盟約を結んでいる自治体が少なくない。親しい間柄にある沖縄の怒りや痛みを理解し、普天間での運用にはあらためて疑問を投げ掛けたい。
本県北部も飛行訓練ルートに含まれている。事故が起きてからでは遅いのだ。
■早速合意破りの飛行■
オスプレイは今年、2件の墜落事故を起こしている。それでも日本政府は「運用の安全性は十分に確保された」と安全を宣言したのだから、その責任を肝に銘じる必要がある。運用状況を監視しながら、問題があれば直ちに米軍に是正を求めなくてはならない。
安全宣言に当たって日米は安全確保策で合意した。深夜・早朝の飛行制限、人口密集地を避けた飛行経路設定などだ。
しかし早速、この合意は破られた。普天間に配備された1、2日、オスプレイはプロペラを上向きにした垂直離着陸(ヘリ)モードで市街地上空を飛行したのだ。
安全策では、ヘリモードでの飛行は基地や訓練場内に限定している。過去のオスプレイの事故は、ヘリモードや転換モードの際に発生しているからだ。
在沖米海兵隊トップは配備前に「人口密集地上空ではヘリモードでは飛ばない。保証する」と明言していた。地元からは「やっぱり」という声と同時に「今後も合意が守られるとは信用できない」と不信感が広がっている。
安全策には「可能な限り」「運用上必要な場合を除き」と条件が付けられており、米軍が「必要」と言えば許されてしまう。こんな曖昧な運用を認めないためにも、政府は安全策順守には強い態度で臨むべきである。
■「騒々しい工場の中」■
また沖縄県は、飛来したオスプレイの騒音測定結果を公表した。宜野湾市で観測した最大89.2デシベルという数値は「騒々しい工場の中」に近いという。
こうした状況で、沖縄がオスプレイ配備を受け入れることは将来にわたってあり得ないだろう。航空機のトラブル根絶は不可能なのに、周辺に住宅が密集する「世界一危険な飛行場」普天間で未経験の新型機を運用することについて、簡単に「安全」と宣言する政府は信用されまい。
15年以上も前に、米側から配備計画の説明を受けていながら沖縄には隠してきた過去もある。政府の本来の義務は、航続距離が長いオスプレイの特性を生かしたグアムなどへの後退配備や、さらには普天間返還の実現だ。
南日本新聞 ( 2012/10/2 付 )
社説:[オスプレイ配備] 政府は重い責任自覚を
米海兵隊の新型輸送機MV22オスプレイ6機が、一時駐機していた米軍岩国基地(山口県岩国市)から普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に移動し、沖縄に初配備された。残る6機も今月中に普天間に配備される見通しである。
飛行場ゲート前で住民と警官隊がにらみ合う中での配備強行であり、極めて遺憾だ。沖縄県の仲井真弘多知事は「理解を超えた話」と断じ、宜野湾市の佐喜真淳市長は「怒り心頭」と激しく非難した。反発が収まる気配は一切ない。
日本政府は配備に先立ち、今年発生した2件の墜落事故も踏まえた上で「運用の安全性は十分確認された」と宣言した。政府は安全確保に重大な責任を負ったことを自覚しなければならない。
安全宣言に当たって、日米両政府は運用面での安全確保策に合意した。深夜・早朝の飛行制限、人口密集地上空を避けた飛行航路の設定などだ。
どれも「可能な限り」とか「運用上必要な場合を除き」との条件が付いていて、空証文に終わりかねない。政府は安全策の運用状況を監視し、問題があれば直ちに米軍に是正させる責任がある。
1996年に日米が締結した嘉手納・普天間両飛行場の騒音防止協定では、午後10時~午前6時の飛行が制限されたが、あくまで「必要と考えられる範囲内」であり、実態として守られていない。
2010年、国に住民への賠償を命じた普天間爆音訴訟の福岡高裁那覇支部判決は「国は適切な措置を取らず、協定は事実上形骸化している」と断じた。判決を受け、政府は米側に夜間の飛行自粛を要請し「順守する」と回答を得たが、いまだに実現していない。
オスプレイについて、新たな訴訟も予想される。飛行差し止めが認められる可能性は低いが、政府が「賠償金を支払えば済む」という意識でいるなら許されない。
オスプレイは日本本土でも低空飛行訓練を予定している。奄美大島付近とトカラ列島の一部がルートになる鹿児島では、配備撤回を求める意見書提出が県内各地の議会で相次いで可決されている。
政府は自治体に情報提供するとともに、米側には無条件に約束を厳守させねばならない。守られなければ、配備中止を求めるべきだ。
沖縄では政府への不信がピークに達している。オスプレイ配備に県民の理解を得ることは将来にわたって難しいだろう。
航続距離の長いオスプレイの特性を生かし、グアムなどへの後退配備も粘り強く交渉すべきだ。さらに普天間返還が本来の義務であることを忘れてはならない。
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沖縄タイムス 2012年10月2日 09時17分
社説:[オスプレイ飛来]住民を危険にさらすな
次々と普天間飛行場に着陸する米海兵隊のMV22オスプレイ。怒りに声を震わせ、シュプレヒコールを繰り返す高齢の市民。ゲート前の抗議行動だけではない。県内各地で失望と不安の声が上がり、激しい憤怒が渦巻いた。
オスプレイ配備は野田政権の失策である。これによって民主党政権の負担軽減策は完全に破たんした。野田佳彦首相の責任は極めて重大だ。
普天間返還の原点を、過去にさかのぼって、もう一度、思い起こしてもらいたい。
1996年、日米首脳会談を前にして、橋本龍太郎首相から「知事が今一番求めているのは何か」と聞かれた大田昌秀知事は、即座に「普天間」だと答えた。「普天間の危険性はこれ以上、放置できません」
橋本首相は知事の指摘を正面から受け止め、官僚の反対を押し切って米側に普天間問題を提起した。政治主導によって返還合意を実現させたのである。
沖縄側から提起された普天間飛行場の危険性除去-これがすべての原点だ。
その後、移設計画はころころ変わり、返還時期も当初の「5~7年内」から「2014年ごろ」に後退し、さらに「できる限り早期に」というあいまいな表現に変わった。
普天間の事実上の固定化が進む中で、墜落事故の絶えないオスプレイが「世界一危険な飛行場」に配備されたのだ。
危険性除去という政策目標から逸脱した「賭け」のような対応である。
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オスプレイは、従来のCH46Eヘリに比べ速度2倍、搭載能力3倍、行動半径4倍という優れた性能を有しており、海兵隊の展開能力が格段に向上する、と森本敏防衛相は強調する。尖閣諸島をめぐる日中対立や、中国の軍備増強が顕著なだけに、オスプレイ配備やむなし、の声が本土にあるのは確かだ。
だが、この種の、政府や一部全国メディアの主張は、あまりにも一面的である。
アジア・太平洋戦争の末期、南方戦線の日本兵は、補給路を断たれ、飢餓に苦しみ続けた。オスプレイの普天間配備で頭をよぎったのは、追い詰められた兵士の窮状も知らずに、遠く離れた東京の机の上で、作戦を練り続けた大本営の秀才参謀の姿である。
沖縄の民意を無視して配備を強行する政府の姿勢には、そこで日々の暮らしを営む住民への配慮が決定的に欠けている。
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日米が合意した安全策には「可能な限り」という表現が実に多い。そのような日米合意がいかに実効性のないものであるかは、米軍の運用実態を日々経験している地元住民が一番よく知っている。
オスプレイは、滑走路のない場所でも作戦行動を展開することのできる「夢の軍用機」を目指して設計された。だが、多様な機能を確保するために、別の機能が犠牲になり、軍内部にも安全性に対する深刻な疑問が生じた。政府の「安全宣言」は、根拠が乏しく、住民の不安をますます高める結果になっている。
住民はオスプレイの安全性だけを問題にしているのではない。県をはじめ各政党、自治体が足並みをそろえて反対しているにもかかわらず、沖縄の民意を無視し続ける政府の高慢な姿勢をも問題にしているのだ。
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防衛・外務両省はオスプレイ配備をひたすら隠し続けてきた。正確な情報を住民に開示し理解を得るという当然の対応を怠ってきたのである。
日本は米軍に安全保障をゆだねている。沖縄の犠牲の上に、日本の安全が保たれていると言っても過言ではない。
日本のように安保条約に基づいて外国の軍隊(米軍)を常駐させている国の場合、その地域の自治体、住民と米軍がどのような関係を切り結ぶかは、安全保障政策の重要な要素となる。
21世紀の安全保障は「住民の安全・安心=人間の安全保障」を前提にしなければ成り立たないからだ。
沖縄の「犠牲の構造」を改めることを前提にして、これからの安全保障政策を構想すべきである。破たんした負担軽減策に代わる新たな政策が必要だ。
沖縄タイムス 2012年10月1日 09時26分
社説:[MV22きょう飛来]民意は踏みつぶされた
米軍の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが10月1日、普天間飛行場に本格配備される。大型台風が過ぎ去ったとたん、今度はオスプレイの飛来だ。
県内のさまざまな団体や組織が、およそ考えられる限りの意思表示を繰り返してきたにもかかわらず、ことごとく無視され、配備が強行されようとしている。
県民大会で示された民意も、県知事や宜野湾市長の申し入れも、市町村議会の度重なる抗議決議も、ゲート前での首長や市民の抗議行動も、結局、一顧だにされなかった。
スケジュールに従って機械的に配備を強行するだけの日米両政府の姿勢からは、地元と意思疎通を図り問題解決に取り組もうとする熱意が少しも感じられない。
このような政治不在の現実を民主主義と呼ぶわけにはいかない。異常な事態だ。
普天間飛行場の主要ゲートでは連日、市民団体の抗議行動が続いている。米軍の事件・事故に対する基地ゲート前での抗議行動は数限りなく実施されているが、今回の行動は、これまでとまったく性質が違う。その事実に政府は気づいているだろうか。
現場には張り詰めた空気が漂い、日を追うごとに緊迫感が高まっている。座り込み行動に参加した作家の目取真俊さん(51)のコメントが、28日付の朝日新聞朝刊に載っている。「抗議もむだ、県民大会もむだ。私たちにはもう選択肢がないんです」
沖縄の切羽詰まった訴えは、本土に住む人びとに届いているだろうか。
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元祖国復帰協議会会長の喜屋武真栄さんは1969年2月、衆院予算委員会の公聴会で、沖縄の現状を「小指の痛み」にたとえ、切々と訴えた。
「他国に軍事基地を提供している国はあまたあるが、人民まで売っている国家があることを知りません」「沖縄同胞の心情を人ごとと思わず、小指の痛みは全身の痛みと感じ取ってください」
発言のその部分だけを聞くと、まるで現在の問題を語っているような錯覚を覚える。あれから何が変わったというのだろうか。
94年9月、沖縄基地を視察した宝珠山昇防衛施設庁長官は、記者会見で「沖縄は世界戦略上重要な地位にあるので、基地と共生・共存する方向に変わってほしい」と語った。オスプレイ配備と普天間の辺野古移設が、宝珠山発言の延長上にあるのは言うまでもない。
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保守革新の対立が鮮明だった冷戦時代の反基地運動は、安保反対のスローガンを掲げた政治色の強い社会運動だった。
オスプレイ配備や普天間の辺野古移設に反対する「島ぐるみ運動」は、保革を超えた新しい質を備えている。
沖縄に対する基地負担の押しつけ。民意の無視。問題を是正しようとしない政府の無策と、オスプレイ配備をめぐる数々の情報隠蔽(いんぺい)。政府に対する不信感は今や、頂点に達している。「敵意に囲まれた基地は機能しない」という言葉が次第に現実のものになりつつある。
沖縄タイムス 2012年9月30日 09時50分
社説:[ゲート前抗議]マグマが噴出し始めた
台風17号は沖縄を直撃し、深刻な被害をもたらした。壮絶な風雨に身をすくませ、通り過ぎるまでひたすら忍従を強いられる。このときほど、人間の無力さを痛感させられることはない。
自然の猛威の後には、日米両政府による脅威の押し付けが目前に迫っている。垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの米軍普天間飛行場への配備が週明けにも強行される見込みだ。これをはね返すのは県民の憤怒の情だ。荒ぶる自然と違って、人為的な政治は人の力で動かすことができる。痛めつけられ、虐げられてきた思いが強ければ強いほどその力は増す。
そうした県民のエネルギーを見せつけているのが、26日から本格始動した普天間飛行場のゲート前抗議だ。オスプレイ配備に反対する県民大会実行委員会メンバーや一般県民が、早朝から同飛行場の大山ゲートや野嵩ゲート前に集結。米軍は勢いを増す抗議集会や座り込み行動を前に、ゲート封鎖に追い込まれた。
ゲート前抗議は、沖縄の反基地運動が新たな段階に入ったことを実感させられる。早朝の集会には連日、県内自治体の首長らが与野党の枠を超えて参加。日米安保を積極的に容認している首長や、米軍基地のない本島南部の首長、議長らも駆けつけ、熱いエールを送っている。
抗議運動の特徴は、特定の党派や団体が前面に出ていない点だ。強固な信念と覚悟をもつ「個人」が主体的に集まっている。県民の命を守る闘いとして非暴力を貫く姿勢も共感を集めている。
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ゲート前抗議の論点は、もはや「オスプレイの安全性」という枠を超えている。明らかに「普天間閉鎖」要求にシフト、集約されつつある。
この事態を日米はどう見ているのか。マグルビー在沖米総領事は、それでも米本国のオスプレイ配備方針に異を唱えないのだろうか。与世田兼稔副知事から県庁で直接抗議を受けた武田博史沖縄防衛局長と外務省の竹内春久沖縄担当大使はどうだろう。現地官僚トップとして「職責を果たす」とはどういうことか真剣に考えてもらいたい。
森本敏防衛相は28日、都内での講演で、名護市辺野古への移設作業に取り組む方針を明示。那覇空港の第2滑走路整備を含めた振興策の重要性を強調し、基地負担と振興策のリンク論を展開した。
県民の意思は、県内移設や振興策との取引で妥協できる段階を超えている。政府の思考停止ぶりは悲劇といえる。
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政府が本気で県民に寄り添うならば、今の「嵐」が一過性で収まらないことに気付くはずだ。オスプレイ配備を強行すれば抵抗運動の先鋭化や規模の拡大も予想される。運動に直接参加していない県民多数の共感を背に、運動参加者は「普天間」を譲れない一線として刻印し、後戻りしない決意を固めている。
県民のマグマに火を付けたのは、対米従属の呪縛にはまり、沖縄の民意を踏みにじる日本政府だ。それを黙認してきた多くの国民ももう「人ごと」では済まされない。そう気付く日が刻々迫っている。
琉球新報 2012年10月4日
社説:日米合意逸脱 配備撤回しか県民守れず
虚構がちりばめられた見切り発車の「安全策」は、初飛来で早くも化けの皮がはがれた。
沖縄に強行配備された米海兵隊のMV22オスプレイ9機のうち、7機は、日米が合意した飛行ルールに反する飛び方をした。
このうち4機は、那覇市の新都心地区上空を飛行し、普天間飛行場に向かった。ほぼ真下から見上げると、左右のエンジンを上に傾け、明らかに固定翼からヘリコプターに換える途中の操作に入っていた。
宜野湾市の市街地上空でさらに回転翼を上向きにし、垂直離着陸を行う「ヘリコプターモード」への転換を遂げ、基地に降り立った。
森本敏防衛相や玄葉光一郎外相が、胸を張って発表した飛行ルールをめぐる日米合意の核心は(1)住宅密集地上空の飛行を避ける(2)ヘリモードでの飛行は米軍施設内とする―である。過去に起きた墜落事故が、ヘリモードや転換モードで頻発していることを重くみて施された措置だった。
だが、オスプレイは、那覇市、浦添市、宜野湾市、中城村の学校や病院に近い上空を転換かヘリモードで飛んだ。鳴り物入りで合意した「安全確保策」がなぜ、こうも軽々しくほごにされてしまうのか。
「運用上必要な場合を除き」というただし書きが米軍の恣意的な運用を許容し、日米合意自体を骨抜きにするからだ。
有名無実と表現するしかない。
野田佳彦首相は「住民の生活に最大限の配慮を行うことが大前提」とコメントしたが、大前提はあっけなく崩れている。
四方八方を住宅密集地に囲まれている普天間飛行場で、市街地を避けて離着陸することは不可能だ。
米軍機の運用を規制する取り決め自体、実効性がほとんどないことが証明されている。
1996年に締結された普天間、嘉手納の両飛行場の騒音防止協定は、夜間・早朝の飛行を必要最小限にするとされたが、「運用上必要」なものは除かれた。恒常的に深夜の騒音が住民の安眠を突き破っている。
沖縄国際大学のヘリ墜落事故を受け、住宅が少ない経路を優先して飛ぶことになったが、場周経路のはみ出しが常態化している。
日米合意を逸脱した今回の飛行は、県内外で飛行訓練が始まれば、飛行ルールが守られる保証が全くないことを示した。住民の安全を守るには配備撤回しかない。
琉球新報 2012年10月3日
社説:オスプレイ抑止力 構造的差別維持する詭弁だ
「抑止力」。県民は、日米両政府が在沖米軍の駐留意義、普天間飛行場の県内移設の理由として語るこの言葉を耳にたこができるほど聞いてきた。最近は垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの普天間配備の必要性を説く時、しきりにささやかれる。
オスプレイが抑止するものとは何だろう。尖閣諸島での日中関係悪化でオスプレイ配備が必要だとの声も聞かれる。上陸者を排除するため、米海兵隊がオスプレイを飛ばして島に兵士を降ろすというのだろうか。大いに疑問だ。
森本敏防衛相も否定している。尖閣諸島の治安維持は第一義的に海上保安庁、警察が担い、対応できない場合は自衛隊の海上警備行動という手順になると説明し「直接、尖閣諸島の安全というようなものに米軍がすぐに活動するような状態にはない」と明言する。
それではどの地域のための抑止力か。防衛省が昨年5月に作成した冊子「在日米軍・海兵隊の意義及び役割」には「沖縄は米本土やハワイ、グアムに比べ朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的紛争地域に近い(近すぎない)位置にある」と記している。朝鮮半島や台湾海峡という潜在的紛争地域への対処のようだ。しかしこの「近い」、「近すぎない」が意味不明だ。
県の質問に対して防衛省は「九州、本州に海兵隊が駐留した場合、沖縄と比べ朝鮮半島に近くなるが、それだけ台湾、東南アジアから遠ざかる」と回答してきた。沖縄に過重負担を強いる「構造的差別」を維持するための詭弁(きべん)としかいいようがない。
これまで沖縄―岩国間の飛行で、CH46輸送ヘリは空中給油か奄美空港に着陸して給油する必要があった。オスプレイは今回、岩国から給油なしで2時間で飛来してきた。米軍は航続距離が飛躍的に伸び、高速度も実現したと胸を張る。ならば沖縄の地理的優位性はなおさら存在しない。
こうした事情も踏まえ、防衛省OBで元内閣官房副長官補の柳沢協二氏は「オスプレイ配備の前提となる沖縄海兵隊の存在理由を『抑止力』と説明するのは、軍事的に説得力がない」とし、技術の進歩によって「海兵隊が沖縄にいる優位性はなくなった」と断じる。日米はオスプレイの配備撤回と普天間の県外・国外移設を真剣に考えるべきだ。論理的にそれが当然の帰結だ。
琉球新報 2012年10月2日
社説:オスプレイ飛来 恐怖と差別強いる暴挙/日米は民主主義を壊すな
米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ6機が1日、一時駐機していた米軍岩国基地(山口県)から普天間飛行場に移動、配備された。県民の総意を無視した暴挙に強い憤りを覚える。
オスプレイ配備への怒りを県民総意として共有した「9・9県民大会」から3週間。仲井真弘多知事や大会実行委員会の代表、抗議行動に集う老若男女は繰り返し配備に異議を唱えているが、日米両政府は「理解してほしい」とし思考停止状態にある。言語道断だ。
植民地政策
わたしたちが目の当たりにしているのは、日米両政府による民主主義の破壊、人権蹂躙(じゅうりん)にほかならない。配備強行は植民地政策を想起させる蛮行であり、良識ある市民とメディア、国際世論の力で速やかに止める必要がある。
オスプレイは試作段階で30人が死亡したが、米政府は量産を決めイラクなどに実戦投入した。しかし4月にモロッコ、6月には米フロリダ州で墜落事故を起こし計9人が死傷。海兵隊のMV22オスプレイに限っても2006年以降30件以上の事故を起こしている。県民は事故の絶えないオスプレイが県内に配備されることを人命、人権の脅威と認識している。
しかし両政府は過去の事故原因を「人為的なミス」と結論付け、機体の構造に問題はないとの「安全宣言」を行った。県民は宣言が、構造上の欠陥を指摘する米側専門家の証言などを切り捨てた、虚飾にまみれた調査報告に基づいてなされていることを知っている。
県知事と県議会、県内41市町村の全首長と全議会がオスプレイ配備に明確に反対している。琉球新報社の世論調査では回答者の9割が普天間への配備に反対した。
仲井真知事が強行配備について「自分の頭に落ちるかもしれないものを誰が分かりましたと言えますか。県民の不安が払拭(ふっしょく)されない中で(移動を)強行するのは理解を超えた話だ」と批判したのは、県民の声を的確に代弁している。
森本敏防衛相は「普天間飛行場の固定化防止と沖縄の基地負担軽減について県知事、関係市長と話し合う次のステージに進むと思う」と臆面もなく語るが、県民の多くはそもそも海兵隊が沖縄の安全に貢献してきたとは考えていない。むしろ戦後、基地から派生する事件・事故や犯罪によって県民の安全を日常的に脅かしており、沖縄からの海兵隊撤退を望んでいる。県議会も海兵隊の大幅削減を過去に決議している。
非暴力的な抵抗
オスプレイが沖縄本島やその周辺で墜落事故を起こせば大惨事になる可能性が大きい。オスプレイ配備は在沖海兵隊基地の永久固定化の可能性も高める。配備強行は沖縄に過重負担を強いる構造的差別を深刻化させる。県民はこれ以上、差別的扱いを甘受できない。
日本政府は例えば原発事故に苦しみ、放射線被害におびえる福島県民に対し、原発を押し付けることができるだろうか。できないはずだ。基地に十分苦しみ、「欠陥機」墜落の恐怖にさらされている沖縄県民にオスプレイを押し付けることも明らかに不当である。
日米は沖縄を植民地扱いし、強権を駆使して抵抗の無力化を図ったり県民世論の分断を試みたりするだろう。だが県民は日米の常とう手段を知っており惑わされない。
基地は県民に利益をもたらす以上に、県民の安全や経済発展の阻害要因となっている。沖縄は基地跡地を平和産業や交流の拠点に転換する構想を描き歩み始めている。
普天間飛行場の一日も早い閉鎖・撤去を求める県民の決意は揺るがない。オスプレイの配備強行により、県民の心は基地全面閉鎖、ひいては日米関係の根本的見直しという方向に向かうかもしれない。
県民は沖縄に公平公正な民主主義が適用されるまであらゆる合法的手段で挑戦を続けるだろう。日米は人間としての尊厳をかけた県民の行動は非暴力的であっても決して無抵抗ではないと知るべきだ。
琉球新報 2012年9月30日
社説:配備阻止行動 非暴力的手段を徹底しよう
垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの米軍普天間飛行場への配備に反対する市民団体などの28日の座り込み行動が、メーンゲートの大山ゲートを封鎖に追い込んだ。
27日の野嵩ゲートに続き、普天間に3カ所あるゲートのうち、米軍が通常使用する2カ所のゲートが封鎖される極めて異例の事態だ。
体を張った直接行動に住民らを走らせたのは、10万人超の県民大会などで示された沖縄の民意を無視し、配備強行を貫こうとする日米両政府にほかならない。日米は公憤に駆られた県民の行動を正視すべきだ。
ゲート前での抗議集会には、翁長雄志那覇市長や稲嶺進名護市長ら保革を問わず複数の市町村長も参加した。日米両政府に忠告するが、県民の怒りを一過性の行動であると読み違えてはならない。
今回のゲート封鎖は、県民の敵意に囲まれた米軍基地の安定的運用などあり得ないという現実をあらわにした。日本政府は県民、国民の下支えのない日米関係や日米安保体制は、砂上の楼閣でしかないと自覚すべきだ。
野田佳彦首相や森本敏防衛相は沖縄の民意を過小評価し、甘く見ている節があるが、日米両政府が強行配備を断念しない限り、後戻りすることのない県民の怒りは間違いなく今後も増幅し続ける。
このままでは、仲井真弘多知事がいみじくも指摘したように「全基地即時閉鎖」の行動に拡大すると、あらためて警告しておきたい。
配備阻止行動は住民蜂起の様相を呈しつつあるが、国内外の世論に訴え、共感を得る上でも、あくまでも非暴力の抵抗を貫く必要がある。そのためにも、党派を超えた県民大会の実行委員会が中心となり、配備阻止に向け、冷静沈着で粘り強い取り組みを継続したい。
もとより県民の意思表明は、ゲート前での抗議集会など直接行動だけではない。オバマ大統領や野田首相に、手紙や電子メールで直接、配備断念を働き掛けることも有効だろう。作家の佐藤優氏が提唱する県民投票や国連への訴えも検討の価値がある。
訪米を予定する仲井真知事や県民大会の共同代表らが、まずは東京の外国特派員向けに記者会見を開くのも手だろう。
沖縄が置かれた非人道的な差別的状況に終止符を打つためにも、県民一人一人が主体的に考え、あらゆる非暴力的な手段を駆使して、配備阻止を実現したい。
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しんぶん赤旗 2012年10月2日(火)
沖縄 怒り沸騰 オスプレイ配備強行の暴挙
米海兵隊は1日、国民の半数以上が安全性を懸念し、沖縄が県をあげて配備に反対している垂直離着陸機MV22オスプレイの6機を、山口県岩国基地(岩国市)から「世界一危険な基地」沖縄県普天間基地(宜野湾市)へ配備を強行しました。県民の意思をことごとく踏みにじる日米両政府の暴挙に沖縄の怒りは頂点に達し、配備撤回に向けさらなる運動の展開へと動きはじめました。
県議会が抗議決議
(写真)市街地上空を通過し、普天間基地へ着陸するMV22オスプレイ=1日、沖縄県宜野湾市
(写真)普天間基地のゲート前で抗議のシュプレヒコールをする首長や県議、県選出の国会議員などの参加者。2列目右から5人目は赤嶺政賢衆院議員=1日、沖縄県宜野湾市
超党派で配備に反対する沖縄県民大会実行委員会は同日早朝から基地第3ゲート前で、26日から通算4回目となる抗議集会を開きました。
午前11時すぎ、1機目のオスプレイ着陸との情報が入ると、怒りは爆発。参加者らはシュプレヒコールとともに、何度も固めた拳を突き上げました。
集会では共同代表が次々立ち、今後のたたかいに向け、決意のあいさつ。県出身の国会議員や県内の市町村長、議会議長らも参加。日本共産党の赤嶺政賢衆院議員も「全国に私たちのたたかいを広げ、必ず勝利しよう」と連帯あいさつしました。
沖縄県議会は同日、同機配備への抗議と全機撤収などを求めた緊急の決議を全会一致で可決し、喜納昌春議長はじめ全会派の議員が沖縄防衛局と外務省沖縄事務所に抗議しました。
決議は、県民から墜落への恐怖の声が上がっているとした上で、「もし市街地に墜落する事態となったとき、誰がどう責任を取るのか」と批判しています。県議会での同機配備に対する抗議決議は3度目で極めて異例。
武田博史沖縄防衛局長は、同日発表の「安全性は確認された」とする野田佳彦首相のメッセージを読み上げ「私の考えもこの中にすべて表されている」などと回答。これに対し各派議員から批判が噴出しました。
オスプレイ 市街地上空で回転翼上向き
運用ルール歯止めなし
6機は2機編隊で1時間弱の間に次々と普天間基地へ飛来。日米両政府が合意した運用ルールでは、プロップローター(回転翼)を上に向けた飛行(ヘリモード)は基地内のみ、斜めに向けた飛行(転換モード)は短時間に限るとしていたものの、6機のオスプレイはいずれも基地外で回転翼を上に向けはじめ、モード転換をほぼ終えた状態で基地に進入しました。
1機はすでに那覇市上空で回転翼を上に向けていたことが目撃されており、約6キロ、ヘリモードに近い状態で市街地を飛行していたことになります。
この日の着陸ルートは、▽南西方向からまっすぐ基地に進入▽北東方向から飛来し、基地東側を旋回したのちに南西方向から進入―の大きく二つのパターンがありました。
いずれのルートも住宅密集地や学校・病院の上空を通過し、市街地のまん中に位置する同基地に「可能な限り人口密集地を避け、海上を飛行する」とした合意がなんの意味ももたないことが証明されました。
(共同)2012年10月2日 12時45分
普天間周辺で最大89デシベル オスプレイ飛来時の騒音
米軍普天間飛行場に向かうオスプレイと住民=2日午後0時9分、沖縄県宜野湾市
沖縄県は2日、米軍普天間飛行場(宜野湾市)に1日飛来した新型輸送機MV22オスプレイの騒音測定結果を公表し、宜野湾市上大謝名地区では「騒々しい工場の中」に近いレベルの最大89・2デシベルが観測された。同地区は滑走路南側に位置し、1日到着の6機は南側から進入した。
最大値の89・2デシベルを記録したのは、騒音が大きい垂直離着陸(ヘリ)モードのまま、南側から直進してきた5機目と6機目。
上大謝名地区の東方で旋回して着陸した1、2機目は83・7デシベル。南側から直進してきた3、4機目はそれぞれ86・0デシベル、89・0デシベルだった。
(東京新聞)2012年10月2日 07時00分
オスプレイ沖縄猛反発 安全軽視 見切り配備
普天間飛行場に飛来したオスプレイを見詰める沖縄県の仲井真弘多知事。右は宜野湾市の佐喜真淳市長=1日、宜野湾市役所で
米軍新型輸送機MV22オスプレイが一日、地元の強い反対にもかかわらず、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された。背景には、軍備の近代化を進める中国に対抗し、アジア・太平洋地域の抑止力強化を急ぐ米国の戦略がある。日本政府も米国の方針に追従した。安全より同盟を優先した「見切り配備」だ。沖縄の怒りは収まらず、米軍基地の地元を刺激し続けることの影響を懸念する声が日米双方に出ている。
◆政府 住民ないがしろ 同盟脅かす恐れ
野田佳彦首相は一日の記者会見で、普天間飛行場へのオスプレイ配備に関し「本土への訓練移転を具体的に進めるなど、全国でも負担を分かち合っていくよう努力したい」と沖縄に理解を求めた。
森本敏防衛相は防衛省で記者団に「今後は日米合意に基づき、米側が安全性に留意しながら部隊の運用を進める」と指摘した。
だが、肝心の安全面で、日本政府は米政府の事故報告書を追認しただけで「安全宣言」を出した。配備のスケジュールも、ほぼ当初の予定通りで「配備ありき」の姿勢はぬぐえず、沖縄をはじめ全国各地で予定されている低空飛行訓練への不安が高まっている。
日米の外務・防衛当局の実務者による「日米合同委員会」は先月十九日、オスプレイの低空飛行訓練について、人口密集地の上空を飛行せず、高度も地上百五十メートルに制限する運用ルールで合意。飛行が不安定になるとの指摘がある回転翼を前に傾けた「転換モード」での飛行時間も短くするとした。
しかし、安全策の多くには「可能な限り」などとただし書きがあり、一時駐機している岩国基地(山口県)での試験飛行では市街地上空を飛行したとの目撃報告が相次いだ。
日本政府は日米同盟を重視し、なし崩しでオスプレイ配備を認めてきたが、沖縄の不安と反発をないがしろにし続ければ、沖縄との信頼関係が完全に崩れかねない。
日米同盟は、米軍基地を抱える地元の協力に支えられており、配備の強行は逆に同盟を脅かすとの見方もある。
沖縄が地元の下地幹郎郵政民営化担当相は一日の就任会見で「強引という声が沖縄に充満している。政府は率直に聞かないといけない」と危機感を示した。 (編集委員・五味洋治)
◆米国 中国へ抑止力
米国は今年一月に新国防戦略を発表し、アジア・太平洋地域を重視する姿勢を明確にした。
中国は人民解放軍の予算を急増させ、装備の近代化を着実に進めており、米国は同地域で存在感を示す必要に迫られていたためだ。
オスプレイは最高速度や兵力・装備の搭載能力、航続距離などで駐留米軍が現在使用する輸送機CH46の能力を大きく上回る。
元中央情報局(CIA)上席分析官で、ヘリテージ財団上級研究員のクリングナー氏は「オスプレイ配備は海兵隊の抑止力と有事の作戦展開能力を飛躍的に高める」と話し、「抑止力強化は日本の安全保障とアジアの安定に貢献するはずだ」と説明。オスプレイ配備は、尖閣諸島や南シナ海の領有権問題などで強硬姿勢を崩さない中国へのけん制にもなるとの見方だ。
一方、海外の駐留米軍の実態を調査しているアメリカン大学のバイン准教授は「オスプレイ配備は中国を刺激し、かえって激しい軍拡競争を招く」と指摘。「開発には巨額の資金が投じられてきた。国防総省は配備中止によって、国防戦略全体に影響が出ることを恐れているのだろう」と分析した。
米紙ニューヨーク・タイムズは九月十五日付の社説で「(重い負担をかけてきた)沖縄の古傷に塩をすりこむようなものだ」と主張し、配備見直しを求めた。
米国内でも安全性が疑問視されており、配備強行は日米同盟にひびを入れることになりかねない。
今後、安全面で新たな問題が起きれば、米国内でも配備計画の撤回を求める声が強まる可能性がある。 (ワシントン・久留信一)
(2012年10月2日 読売新聞)
「沖縄の総意なぜ無視」オスプレイ配備に県議ら抗議
普天間飛行場に配備された6機のMV22オスプレイ(1日午前11時57分、沖縄県宜野湾市で、本社ヘリから)=足立浩史撮影
米軍の新型輸送機MV22オスプレイが普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備された1日、防衛省沖縄防衛局(同県嘉手納町)では、県議や宜野湾市長らによる抗議行動が相次いだ。防衛省は日米両政府が合意した安全運用を徹底し、理解を得たい考えだ。
「県民の総意をなぜ無視するのか」。同日の県議会で可決したばかりのオスプレイ配備に抗議する決議文を手にした県議約20人が、沖縄防衛局で武田博史局長に迫った。
配備に理解を求める武田局長に対し、玉城義和県議は「沖縄の全市町村、県議会が全会一致で反対を決議している。オール沖縄でダメだと言っているんだ」と怒りをぶつけた。武田局長は、日米合同委員会で合意した安全運用策の順守を強調したが、県議らは「アメリカは今まで守ったことはない」「早朝も夜も訓練は行われている」などと反発の声を上げた。
朝日新聞 2012年10月2日03時00分
オスプレイ「魔物が来た」 沖縄一丸、政府に抗議
遊具で遊ぶ園児らの上空を通り過ぎ、米軍普天間飛行場に向かうオスプレイ=1日午前11時26分、沖縄県宜野湾市、関田航撮影
「県民が一つになって反対しているオスプレイ配備を強行する。ほかの都道府県で、こんなことがありえるのか」。米軍普天間飛行場の野嵩(のだけ)ゲート前。約300人が集まった1日早朝の抗議集会で、那覇市の翁長雄志(たけし)市長は日米政府への憤りをあらわにした。
自民党県連の元幹事長。かつては普天間の辺野古移設の旗振り役をつとめ、革新陣営と対決を繰り返した。だが、いまやオスプレイ反対の急先鋒(きゅうせんぽう)だ。「政府の安全宣言を評価するなら、そのまま(山口県)岩国市に置いておけばいい」と言ってはばからない。
辺野古移設への反対を掲げて当選した名護市の稲嶺進市長も「国民全体がオスプレイの配備について考えないと『いつまでも沖縄に閉じ込めておけばいい』としかならない」。
県内の全41市町村長と全県議が配備に「反対」を掲げる。沖縄では9月9日、オスプレイ配備に反対する県民大会が開かれた。これまで県民大会は「伝家の宝刀」、いわば最後の手段だった。だが今回は、大会後も各市町村別の大会が開かれ、市民らが基地を封鎖しようとする。抗議活動がやまない。
沖縄大の新崎盛暉(もりてる)名誉教授(沖縄現代史)は、こうした背景について「オスプレイの配備は安全性への疑問もさることながら、沖縄県民が『本土による基地押しつけ』『沖縄差別の象徴』ととらえているからだ」と指摘する。
オスプレイの配備先が、16年前に返還の決まった普天間飛行場であることも沖縄の怒りを高めている。
普天間に隣接する公園で、住民数十人が一斉に空を見上げた。爆音が響き、オスプレイがマンションの上に。「マジムン(魔物)が来たよ」と、女性(72)がつぶやいた。
宜野湾市役所の屋上で飛来を視察した仲井真弘多知事は、普天間の返還移設が進まず、オスプレイ配備を招いたことを、政府の「二つのちょんぼ」と表現した。「国内にはもっと(オスプレイに)向いた飛行場がある。そういう所に持って行くしかない。これは国の仕事だ」(上遠野郷、奥村智司)
朝日新聞 2012年10月2日03時00分
「この苦しみ、わかるか」 爆音の下、本土への叫び
米軍普天間飛行場のゲート前では、夕方になっても市民たちがプラカードを掲げオスプレイ配備反対を訴えた=1日午後5時37分、沖縄県宜野湾市、上田幸一撮影
米軍普天間飛行場に到着した6機の新型輸送機オスプレイ=1日午前11時57分、沖縄県宜野湾市、朝日新聞社ヘリから、溝脇正撮影
米軍普天間飛行場に到着した新型輸送機オスプレイ。プロペラがたたまれ、整備作業が行われていた=1日午後、沖縄県宜野湾市、藤脇正真撮影
遠い沖縄の問題と言っていいのか。米軍の新型輸送機オスプレイが1日、普天間飛行場に配備された。反対の声を上げた人たちには、本土に伝えたいメッセージがある。
普天間飛行場北側の野嵩(のだけ)ゲートでは、配備に反対する市民ら約100人がこの日夕方まで抗議を続けた。
那覇市のアルバイト久保田美奈穂さん(33)が参加者にパンを配っていた。昨年まで水戸市に住み、市民運動に関心はなかった。転機は東京電力福島第一原発の事故。2歳と8歳の子供が体調を崩すようになった。
沖縄へ移り住み、この地が抱える基地問題の深さを初めて知った。「万一事故が起きたら、傷つくのは女性や子供といった弱い人。嫌なものは嫌と言いたい」
普天間飛行場を見下ろす公園では、修学旅行で来た茨城県立下妻第一高校の2年生4人がオスプレイの着陸を見つめた。富山理沙さん(17)が父親に勧められ、友だちを誘った。「住宅街のすぐ上を飛ぶなんてショック。沖縄の人がどれだけ大変か、考えたこともなかった」
飛行場南側の佐真下ゲートには1日、バリケード代わりの車2台が置かれ、門は閉められたままだった。西原町の農業男性(63)は約1時間かけて歩いてきた。基地前で座り込むのは約40年ぶり。本土復帰運動に加わった大学生のとき以来だ。「基地を残した復帰に白け、『こんなものか』とあきらめていた」
四男が通っていた沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した2004年、考えが変わった。一方、長男は嘉手納基地で働く。「沖縄は矛盾だらけ。復帰前と何も変わっていないじゃないか」
家を出る時、妻に「逮捕される覚悟で戦ってくる」と言い残した。だが、ゲート前に集まったのは十数人ほど。「だからって、沖縄に基地があるのが当然と思われたらたまらない。ウチナーンチュ(沖縄の人)はずっと心の中で闘ってるよ。このままでいいのかって。この苦しみ、ヤマトンチュ(本土の人)にわかるか」。オスプレイの爆音の下、赤い帽子を脱いで涙をぬぐった。
浦添市の上間充信さん(66)には、米兵と結婚した姉2人がいる。基地に反対しにくい思いを振り切って佐真下ゲートに来た。灰色のオスプレイ6機が目の前を通り過ぎる。上間さんは「本土の人に聞きたい」と言った。「返還される予定の基地に、みんなが反対する米軍機を配備する。沖縄は遠いから構わないのか。それとも日本はそれが当然な国なのか」
■空に舞う抗議の凧
オスプレイが飛来した午前11時ごろ、普天間飛行場の上空を紅白の凧(たこ)が舞った。風にはためいて高度をぐんぐん上げた。
宜野湾市の沖縄国際大准教授友知(ともち)政樹さん(39)と友人らが、抗議の意思を示そうと考えた。
おもちゃ屋で買ったスポーツカイト。基地に面した駐車場であげていると、米軍の警備員が注意に来た。「違法ならすぐやめる」と答えたが、「凧をあげるのをやめてください」と繰り返すばかり。サングラスをかけた男性に顔や車の写真を撮られ、米兵5人は基地内から木の枝で糸を切ろうとした。友知さんは英語で「これだけ怒りに満ちたウチナーンチュを見たことがあるか。オスプレイの配備をやめてくれ」と訴えた。
勤め先の大学には8年前に米軍ヘリが落ちた。「オスプレイの安全性だけの問題じゃない。基地そのものがいらない。あきらめません」
宜野湾市の女性らでつくる市民団体も、風船などを空にあげて配備反対の意思を示すよう、学校や企業などに呼びかけている。
朝日新聞 2012年10月1日13時58分
「オスプレイ帰れ」「沖縄を愚弄」 怒号の中、配備強行
米軍普天間飛行場にオスプレイが到着。ゲート前では市民らが抗議の声をあげた=1日午前11時14分、沖縄県宜野湾市、上田潤撮影
保育園の上空を飛び、米軍普天間飛行場に向かうオスプレイ=1日午前11時6分、沖縄県宜野湾市、関田航撮影
沖縄で抗議の声が渦巻くなか、新型輸送機オスプレイ6機が1日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に着陸した。怒りと不安を無視するような配備の強行。市民の反発は一気に高まった。
普天間飛行場には、午前11時すぎから3回に分け、オスプレイ2機ずつが着陸した。住宅街に囲まれた「世界一危険な飛行場」。飛び方を確かめるかのように異なるルートを使い、市街地の上を次々に飛んだ。
飛行場を見渡す宜野湾市の嘉数(かかず)高台公園からは午前11時前、最初の2機が東北東に見えた。8年前にヘリ墜落事故のあった沖縄国際大の方角だ。大きく右に旋回しながら、ぐんぐん迫って来る。プロペラを前に倒した固定翼モード。高度が下がり、ボタボタボタと音がする。機体がすぐ近くに見えた。着陸時はプロペラを完全に上に向けたヘリモードになった。
約15分後、今度は、反対の南西側から3、4機目が住宅街を突っ切ってきた。4機目は、視界に入った時点で、すでにヘリモードになっていた。11時40分すぎに現れた5、6機目はショッピングセンターなどが立ち並ぶ那覇市の新都心地区の上空を通過。事故の危険性が指摘される転換モードだった。
■議員や首長も座り込み
宜野湾市役所に近い野嵩(のだけ)ゲートには午前7時すぎ、配備に反対する市民ら約300人が集まった。県選出の国会議員、市町村の首長や議員ら約100人は「オスプレイ断固反対」と書かれた赤いゼッケンやはちまきをして、県警が設けたバリケードの前で座り込んだ。
午前11時すぎ、オスプレイの灰色の機体がわずかに空に見えると、「オスプレイは帰れ」「県民を愚弄(ぐろう)するな」と抗議の声が続いた。険しい表情で拳を突き上げる人、「NO」と手書きされたカードを掲げる人。「全基地閉鎖するぞ」「米軍は帰れ」と訴えは激しさを増した。
県議会の日程を延期した県議らも次々に到着。座り込みを続けていた男性は「普天間が、県民の怒りに包まれた基地になることは間違いない」と語った。
抗議は党派の垣根を越えている。自民党県連幹事長の照屋守之県議は9月の県民大会にふれ、「あれだけの声があって、なお強行配備というのはあり得ないと期待していた。しかし、裏切られつつある」と怒りをぶつけた。社民党の照屋寛徳衆院議員も「沖縄の民意を無視する日米両政府の脅威が、襲いかかろうとしている」と訴えた。
宜野湾市の非常勤職員の女性(59)は、基地に向けてオスプレイ反対を訴えるメッセージカードを掲げた。ゲートを訪れたのは4回目。きょうにも沖縄へ配備と聞き、仕事の前に駆けつけた。「家の上を日常的に、あんなに危険なものが飛ぶのは耐えられない。不安がさらに大きくなった」
基地のメーンゲートにあたる大山ゲート前では、約30人の市民が車で出勤する米兵に「ノー・オスプレイ!」などと声を張り上げた。市民らは信号のない横断歩道をのんびり渡ったり、基地へつながる道を車で徐行運転したり。そんな「牛歩戦術」で抗議の意思を示した。9月30日に車12台をゲート前に並べて封鎖していたが、県警に強制排除された。
浦添市の主婦(63)は午前4時に起き、赤い傘に油性フェルトペンで「オスプレイ帰れ」と書いて持ってきた。ゲート前の行動に参加するのは初めて。「日本政府は私たちの思いを聞かない。沖縄は居心地が悪いよと、米軍に直接訴えるしかない」と語った。
市民による連日の抗議行動に対し、県警は機動隊車両などを配置。野嵩ゲート前では1日も約50人の警官が基地フェンスを背に壁をつくった。基地内では銃を身につけた米兵数人が遠巻きに見守っていた。
毎日新聞 2012年10月02日 大阪朝刊
オスプレイ普天間配備:沖縄に怒りと失望/「おばあ」演じた平良とみさん・平和求め、ため息
垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの普天間飛行場配備について話す平良とみさん(左)と進さん
米軍垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ6機は、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の周囲に密集する住宅地の上空を飛行し、着陸した。配備反対を訴えて県民約10万人(主催者発表)が集まった沖縄県民大会から22日、島ぐるみの抗議は日米両政府に顧みられなかった。基地の島に、怒りと失望が交錯した。
「あと3年で戦後70年になるのに、沖縄はいつになったら安心できるのか」。オスプレイの沖縄配備に、米軍普天間飛行場がある宜野湾市に住む「おばあ」は深いため息をついた。
女優の平良とみさん(83)。那覇市に生まれ、小学生時代に石垣島に移住。沖縄戦の後、戻った沖縄本島は焦土と化していた。「ショックで言葉も出なかった」。劇団で各地を回り、失意の人々を励ました。いつしか「沖縄芝居の第一人者」と言われるようになり、「ナビィの恋」(99年)など多くの映画に出演。沖縄ブームを呼んだNHKの連続テレビ小説「ちゅらさん」ではヒロインのおばあを演じ、その明るさが人気を集めた。
だが、華やかな芸の舞台と裏腹に、日々の暮らしは基地との格闘だ。82年に夫進さん(77)と旗揚げした劇団「綾船」の稽古(けいこ)場は普天間飛行場から約300メートルの自宅。ヘリコプターや戦闘機が近くを飛ぶと「うるさくて稽古にならない」。
進さんの目には今も8年前の惨事がよみがえる。自宅から約100メートル先の沖縄国際大に、米軍ヘリが墜落、炎上した。「大型トラックを10台くらいぶつけたような、ものすごい音がした。慌てて外に出ると、炎と黒い煙がもくもくと上がっていた」。仕事で東京にいたとみさんも「自分の家に落ちたかと、腰を抜かすほどびっくりしたさ」。
9月9日にあった県民大会には、夫婦で参加した。お年寄りに手を引かれて会場に向かう幼子を見て思った。「この子たちが不安を感じず、素直に育ってくれるように、平和を守っていかなければいけないんですよ。子どもたちの未来のために、島で危険なものは飛ばさないでほしい」。とみさんは言う。
だが、普天間飛行場の返還は一向に進まず、今も住宅密集地のすぐ上を米軍機が飛び交う。その上に、政府が「安全宣言」を出さざるを得なかったオスプレイが加わった。「どれだけ声を上げても、ウチナーンチュの思いは届かないのか。事故が多いのに、台風が多い沖縄で大丈夫なのか」。進さんの疑念は消えることがない。
とみさんも政府の安全宣言を信じていない。「機械とは相談できないのに、どうして安全なんて言い切れるの?」。そして、祈るように声を絞り出した。「とにかく事故が起きませんように。人の命はつくれないのだから」【福永方人】
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