名護市議選は、市長派の圧勝した。
稲嶺進市長は、米軍普天間飛行場の辺野古移設反対を公約に掲げる。
その市長を支持する市長派が16人(定数27)になった。
沖縄タイムスの社説「敗れたのは日米政府だ」と書いている。
地元住民に意思を無視し、頭ごなしに「日米共同声明」を結び、地元に押し付ける日米政府。
市議選は、そんな日米政府にノーを突きつけた。
沖縄タイムス 2010年9月13日 09時55分
社説:[名護・市長派圧勝]敗れたのは日米政府だ
名護市など25市町村議会議員選挙の投開票が12日あり、開票が1日遅れる竹富町を除く議席がほぼ確定した。米軍普天間飛行場移設問題で注目された名護市議選(定数27)は反対派が圧勝した。
市議を選ぶことが日米同盟にもかかわる選択になるなんて、市民には迷惑千万なことだろう。しかしこの国の外交・安保はそうなってしまっている。基地問題の全責任を負うべき政府は息をひそめて市議選を注視し、一部本土メディアは告示を受けて「普天間の行方を左右」と書いた。
1996年に移設先と名指しされて以来、市民は振興策を絡めた基地建設に翻弄(ほんろう)されてきた。政権交代で終わると思ったが、期待が外れた。
有権者約4万人の判断に国策を占う異様な選挙は、移設反対の稲嶺進市長にフリーハンドを与えた。そのこと自体が持つ意味は大きい。基地受け入れを容認する反市長派が多数を占めていたら、市長の不信任決議や移設促進決議などを提出して、揺さぶりをかけるだろう、とみられていたからだ。
仲井真弘多知事は7月下旬、普天間移設を容認してきた島袋吉和前名護市長が市議選候補者らを激励する集会に顔を出し、「応援団の一人として働かせてください」とあいさつした。
移設容認の意思表示では、との憶測を呼んだ。その時知事は記者から質問され、「あまりいろいろ考えない方がいい。ぼくを応援してくれた人の選挙は応援する」と煙に巻いたが、政策本位ではないということか。
首をかしげてしまう発言だが、地方選挙の実態をみると知事の感覚がむしろ現場に近いのかもしれない。
地方選では地縁血縁、縁故関係が勝敗を分けたりする。市民生活に密着した福祉や地域活性化を訴えながら、一票でも多くを掘り起こしたいというのが候補者の本音だ。
特に移設容認派とみられる候補者は基地問題を避け、賛否を明確にしない選挙戦術をとってきた。97年12月の市民投票で「反対」が多数を占めてからは、容認派は普天間問題を正面から問わずに選挙をやり過ごしてきた。
移設問題が焦点になった98年の市長選は故・岸本建男氏が「知事に従う」と自身の判断を示さずに当選。その後に移設容認を決めて、島袋氏にバトンタッチしたが、島袋氏は政府の沿岸案に反対することを公約しながら、最終的には「V字形」をめぐり政府と交渉を続けた。
これまで長く続いた市民投票の結果と市政とのねじれが、1月の稲嶺市長誕生で解消された。そして今回の市長派多数の新議会が市政を後押しする体制が確立した。
これは普天間をめぐる知事選の基地論争にも大きな影響を及ぼすはずだ。「争点隠し」はもう通用しない。
理不尽な基地負担はこりごりだ、という地元の素朴な訴えに耳を貸さず、状況を悪化させている政府の責任こそ厳しく問われる。
新議員は胸を張って名護の未来、地域主権の実現に向けて政策を磨いてほしい。
2010年9月14日 09時26分
社説:[日米首脳へ]仕切り直しの時が来た
日米両首脳は名護市議選(定数27)の結果をどう受け止めたのでしょうか。市長派16人に反市長派11人。米軍普天間飛行場の辺野古移設反対を公約に掲げて当選した稲嶺進市長を支持する市長派の圧勝に終わりました。
1月の市長選で稲嶺氏が勝利し、今回の市議選が決定的な駄目押しになりました。市長と議会のスタンスが辺野古移設反対で一致するのは、1997年12月の市民投票以来、初めてのことです。
日米とも民主主義の国です。その根幹を成す市長選、市議選の二つの選挙で明確に民意が示されたわけですから、もう辺野古移設を断念するしかありません。
ところが、仙谷由人官房長官は記者会見で「民意の表れの一つとして、虚心に受け止めたい」と言いながら、「地元の意見を聞き、誠心誠意説明して理解を求めたい」と、辺野古に執着する姿勢を変えていません。
沖縄の頭越しに日米合意しておきながら、地元の意見を聞きたい、というのはあまりに理不尽というものです。
政府は反市長派が多数を占めることに望みをつないでいました。それを突破口に議会で移設促進決議などを行って「ねじれ」状況をつくり出し、辺野古移設反対を明言していない仲井真弘多知事が出馬する知事選に期待をかけるシナリオを描いていたのです。それが完全に破綻(はたん)しました。仲井真知事の政策にも影響を与えずにはおきません。
政治家が選挙結果を尊重しないのであれば、自ら天につばするようなものです。
鳩山由紀夫前首相は、辺野古に回帰する5月末の日米共同声明を受け入れて辞任しました。後任の菅直人首相は、日米合意を順守すると明言しています。
声明に基づき8月末に日米の専門家による報告書が公表されましたが、誠実ではありませんでした。V字形案とI字形案を併記、MV22オスプレイの配備や集落上空を飛行する可能性のある経路が伏せられました。市議選や知事選を有利に進めるための先送りというしかありません。
米政府が傍観者然としているのは納得できません。米国の基準に合致しない普天間の危険性の除去に対する責任があるのは当然です。
オバマ大統領は「チェンジ」をうたい、大統領に就任しました。核廃絶に向け果敢なチャレンジをしています。普天間移設問題でもチェンジの風を吹かせてほしいというのが私たちの切なる願いです。
移設問題はそもそも出発点からおかしいのです。日米共同声明はいかなるレベルでも沖縄の同意がありませんでした。無理やり押しつけられたものなのです。
昨年の政権交代以来の沖縄の政治状況を見ると、日米両政府は辺野古にこだわればこだわるほど出口の見えない袋小路に入ることが分かるはずです。地元にとっては地域コミュニティーを混乱させ、内部対立を深めるだけです。
オバマ大統領は11月に来日します。日米両政府はこの機会を、仕切り直しの交渉を始めるときにすべきなのです。
琉球新報 2010年9月14日
社説:名護市与党圧勝/民意の山が動いた 辺野古移設撤回を決断せよ
山が大きく動いた。2010統一地方選挙で焦点となっていた名護市議会議員選挙は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古崎付近への移設に一貫して反対し、ぶれがない稲嶺進市長を支える与党が圧勝した。
5月に辺野古移設に回帰した日米合意以降、初めて問われた地元民意は重い。移設を拒む強固な意志が再度示され、稲嶺名護市長と議会の足並みがそろった。
市長派与党は9月議会での移設反対決議を視野に入れている。地元名護を含め、沖縄の民意は県内移設ノーで臨界点を維持している。移設推進の姿勢を崩さない日米両政府は痛撃を食らった。
■支持失う補償型政治
野党が過半数を占めていれば、政府は「名護市民の本音は移設受け入れ」と喧伝(けんでん)し、行き詰まっている普天間問題の活路を見いだそうとしたはずだが、想定外の野党惨敗でもくろみは外れた。
自公政権時代から政府は、名護市政と議会多数派の受け入れ姿勢を移設推進の最大のよりどころとしてきた。
1月の市長選で「海にも陸にも基地は造らせない」と公約し、基地依存からの脱却を掲げた稲嶺市長が、移設推進の島袋吉和前市長を破り、初当選した。そして、今回の市議選で名護の民意は移設拒否で一つに結ばれ、稲嶺市長は市民の厚い信任を得た。
もはや、日米合意の実現は不可能だ。窮地に立たされた両政府が取るべき道は合意撤回しかない。
名護市議会は与野党が12議席ずつで、中立系が3議席だった。伯仲状態から与党は一気に4議席増やして16議席を得て野党の11議席に大きな差を付けた。与党系候補者の得票は54・46%に上り、野党系は45・03%にとどまっている。
琉球新報社のアンケートによると、野党でも公明党公認の2人が辺野古移設に反対しており、27人の当選者のうち、実に18人を数える。賛否を保留して選挙に臨んだ野党の当選者9人の中でも賛成はゼロだ。民主主義の中でこれ以上鮮明な市民代表の意思表示はなかろう。
選挙戦を通し、反市長派の候補者は争点となることを避け、移設の是非を明確にしなかった。一方で、条件付き移設推進の立場を取る島袋前市長と連携を密にした。
防衛省が移設の見返りだった「米軍再編交付金」の支給手続きを止めている状況を挙げ、野党側候補者は「名護市の経済は疲弊する一方だ」と稲嶺市政を批判し、集票を図った。稲嶺市長と島袋前市長の“代理の戦い”と見る向きまであった。
しかし、選挙結果を見れば、アメとムチによる「補償型基地押し付け政策」が市民の支持を失っていることは明らかだ。前原誠司沖縄担当相と密会を重ねるなど、政府と気脈を通じてあわよくば、移設推進の流れをつくろうとした姿勢は評価されなかった。
■知事はどうするのか
市政の最大の懸案に対してほおかむりをして信を問うことへの有権者の視線は険しさを増している。前市長らの動きは、逆に不信を買ったのではなかろうか。
11月の知事選で再選を目指す仲井真弘多知事にも逆風となる。知事は野党系候補を応援するため、積極的に名護入りしていたが、野党惨敗を受けたコメントに当事者意識がうかがえない。
稲嶺市長は「移設反対を示すことが知事の務めではないか」と求めている。知事は「(辺野古移設は)不可能に近い状況」と述べて困難さを強調してみせたが、日米合意を完全に否定しない姿勢を維持している。市議選で示された民意をどう評価し、日米政府にどう向き合うのかが見えない。
週内にも出馬表明する仲井真氏は日米合意見直しを要求する方向で調整しているようだが、賛否を明確にしない範囲では、普天間問題の争点外しとの批判が増幅することは避けられまい。
市議選の告示直前に、日米両政府の専門家協議で、辺野古に造る予定の代替基地の飛行経路が伏せられ、最新鋭垂直離着陸輸送機オスプレイの配備が前提となっていることが明らかになった。繰り返される情報の隠蔽(いんぺい)が名護市民の不信を高めたことも見逃せない。
日米両政府は民主主義の王道を歩み、辺野古移設ノーの民意を反映した決断を下すべきだ。
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