尖閣沖での中国漁船船長の逮捕から釈放をどう見るか。
各紙社説を集めてみた。
船長釈放の経過については、各紙とも不透明だとし、
釈放実施については、弱腰、中国の圧力に屈服、甘い外交など厳しく批判する。
釈放した後も中国からは、謝罪と損害賠償を要求されるなど圧力をかけてきている。
当然、日本政府は拒否したが、今後も、中国から『圧力かければ屈する』と甘くみられることになるだろう。
「尖閣が米国による日本防衛義務を定めた日米安保条約の対象になる」とクリントン国務長官が明言したらしいが、
アメリカにしても、この問題の拡大を懸念し、早い解決を望んでいたようだ。
だからといって、一部で言うような海上自衛隊の配備などはエスカレートするだけで問題解決にはつながらない。
朝日新聞 2010年9月25日(土)付
社説:中国船長釈放―甘い外交、苦い政治判断
日中関係の今後を見据えた大局的な判断であり、苦渋の選択であったと言うほかない。
那覇地検はきのう、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に故意に衝突したとして、公務執行妨害の疑いで逮捕・勾留(こうりゅう)していた中国人船長を、処分保留のまま釈放すると発表した。
日本国民への影響と今後の日中関係を考慮したという。純粋な司法判断ではなかったということだ。
もとより菅政権としての高度な政治判断であることは疑いない。
中国側は船長の無条件釈放を求め、民間交流の停止や訪日観光のキャンセル、レアアースの事実上の対日禁輸など、対抗措置をエスカレートさせてきた。河北省石家荘市では、違法に軍事施設を撮影したとして日本人4人の拘束も明らかになった。
日本側が粛々と捜査を進めるのは、法治国家として当然のことだ。中国側のあまりにあからさまな圧力には、「そこまでやるのか」と驚かされる。
温家宝(ウェン・チアパオ)首相は国連総会で「屈服も妥協もしない」と表明し、双方とも引くに引けない隘路(あいろ)に陥ってしまった。
このまま船長を起訴し、公判が始まれば、両国間の緊張は制御不能なレベルにまで高まっていたに違いない。
それは、2国間関係にとどまらず、アジア太平洋、国際社会全体の安定にとって巨大なマイナスである。
ニューヨークでの菅直人首相とオバマ米大統領の会談では、対中関係で両国の緊密な連携を確認した。クリントン国務長官は前原誠司外相に、尖閣が米国による日本防衛義務を定めた日米安保条約の対象になると明言した。
その米国も日中の緊張は早く解消してほしいというのが本音だったろう。菅政権が米首脳の発言を政治判断の好機と考えたとしても不思議ではない。
確かに船長の勾留期限である29日を待たずに、このタイミングで釈放を発表した判断には疑問が残る。
圧力をかければ日本は折れるという印象を中国側に与えた可能性もある。それは今後、はっきりと払拭(ふっしょく)していかなければならない。
そもそも菅政権は最初に船長逮捕に踏み切った時、その後の中国側の出方や最終的な着地点を描けていたのか。
船長の勾留を延長した判断も含め、民主党外交の甘さを指摘されても仕方ない。苦い教訓として猛省すべきだ。
日本はこれからも、発展する中国と必然的に相互依存関係を深めていく。それは日本自身の利益でもある。
簡単に揺るがない関係を築くには、「戦略的互恵関係」の具体的な中身を冷徹に詰めていく必要がある。
何より民主党政権に欠けているのは事態がこじれる前に率直な意思疎通ができるような政治家同士のパイプだ。急いで構築しなければならない。
(2010年9月25日01時24分 読売新聞)
中国人船長釈放 関係修復を優先した政治決着(9月25日付・読売社説)
尖閣諸島沖での衝突事件で逮捕されていた中国人船長が、処分保留のまま、釈放されることが決まった。
船長を取り調べていた那覇地検は「国民への影響や今後の日中関係を考慮した」と説明した。
中国・河北省で「軍事目標」をビデオ撮影したとして日本人4人が拘束されたばかりである。「国民への影響」とは、拘束が長引く可能性があることへの懸念をさすものだろう。
地検は、船長の行為に計画性が認められず、けが人が出るなどの被害がなかったことも、釈放の理由に挙げた。
だが、これでは、悪質性が高いとして船長を逮捕・拘置してきたこととの整合性がとれない。
仙谷官房長官は、地検独自の判断であることを強調しているものの、菅首相はじめ政府・民主党首脳らの政治判断による決着であることは間違いあるまい。背景には早期解決を求める米政府の意向もあったとされる。
「国内法に基づいて処理する」と繰り返してきた日本政府として筋を通せなかった印象はぬぐえない。国民の多くも同様の思いを抱いているのではないか。政府は国民の納得が得られるよう、十分説明を尽くす必要がある。
尖閣諸島は言うまでもなく、日本固有の領土である。政府はこの立場を、繰り返し内外に示していかなければならない。
今回の決着が、今後にもたらす影響も無視できない。
尖閣諸島沖の日本領海内で違法操業する中国漁船への海上保安庁の“にらみ”が利かなくなる可能性がある。海保の体制強化はもちろん、海上自衛隊との連携も強めることが求められる。
中国が今回、ハイブリッド車の部品などの製造に欠かせないレアアース(希土類)の輸出禁止措置をとったことは、中国が貿易相手として予測不能なリスクを抱える国であることを再認識させた。
今後、中国に大きく依存する物資については、中国以外からも調達できるよう対策を講じておくことが肝要だ。
中国の高圧的な姿勢の裏には、国内の対日強硬派への配慮もあろうが、青年交流や条約交渉の中止など矢継ぎ早の対抗措置は、明らかに行き過ぎている。
日本は、単なる「友好」という言葉に踊らされることなく、「戦略的互恵」の立場で、冷静かつ現実的に国益を追求する対中外交を展開していかねばならない。
毎日新聞 2010年9月25日 東京朝刊
社説:中国人船長釈放 不透明さがぬぐえない
沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件で日本側が逮捕・送検した中国人船長について那覇地検が処分保留で釈放することを決めた。
釈放によって、日中の緊張した関係が緩和される方向に向かうことを期待したい。しかし、逮捕以降の一連の経緯を踏まえると今回の決定には不透明さがぬぐい切れない。
すんなりと納得できないのは釈放の理由とそのタイミングである。
那覇地検は釈放理由について「わが国の国民への影響や、今後の日中関係を考慮した」とする一方で、船長の行為を「追跡を免れるためにとっさに取った行動で、計画性は認められない」と説明した。
しかし、この説明には理解しにくい点がある。まず、検察が処分決定にあたり「外交上の配慮」を公言することの異様さだ。起訴するかどうかの裁量権は検察にあるとはいえ、「日本の法律にのっとり粛々と対応する」と繰り返してきたこれまでの政府の姿勢と矛盾するのではないか。検察は外交配慮を自らの判断で決めたと言うが本当にそうだろうか。事実とすれば検察が外交に口を出したことの当否が問われる。
船長の逮捕容疑は停船命令に従わず漁船を巡視船に衝突させた公務執行妨害行為である。前原誠司外相も国土交通相として巡視船被害を視察した際、「ビデオ撮影もしており、どちらが体当たりしてきたかは一目瞭然(りょうぜん)」と語っていた。今回の釈放理由と整合するのだろうか。
さらに、タイミングの問題もある。釈放決定は中国側が閣僚級以上の交流停止を決め、訪米中の温家宝首相が「主権、領土で妥協しない」と表明したあとのことだ。しかも、日本の建設会社社員4人が中国で取り調べを受けたことが明らかになった直後でもある。中国の外交攻勢に押されての決定という印象はぬぐえない。政府の外交姿勢に対する不信を招きかねない。
漁船の行為が地検が言うように「とっさの行動」であったとしても、東シナ海や南シナ海での最近の中国の活発な行動は日本だけでなく韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々にとっても懸念要因である。ニューヨークでの日米首脳会談で両首脳は対中関係を注視していくことで一致したが、オバマ大統領は中国の協力の必要性にも言及した。
仙谷由人官房長官は釈放決定後の記者会見で日中関係の重要性を強調し「戦略的互恵関係の中身を充実させるよう両国とも努力しなければならない」と語った。今後、「外交的配慮」を独り歩きさせないための再発防止策へ向け冷静な対話の環境づくりに双方は取り組む必要がある。
日経新聞 2010/9/25付
社説:筋通らぬ船長釈放 早く外交を立て直せ
尖閣諸島沖での衝突事件をめぐって、那覇地検は公務執行妨害の容疑で逮捕、拘置していた中国漁船の中国人船長を、処分保留で釈放すると発表した。唐突な釈放は厳正な法律の適用・執行といえるのか。深刻な懸念を抱かざるを得ない。
今回の決定は、少なくとも中国の揺さぶりを受けて事態を収拾した印象を与えた。圧力をかければ司法手続きも中断すると国際社会に思われたとすれば、日本の外交・安全保障に重大な影響を与えかねない。
不可解な検察の決定
那覇地検次席検事は「とっさの行為で計画性は認められないが、故意に巡視船に漁船をぶつけたのは明白」と説明しており、船長が否認を続けても起訴できる証拠は整っていたようだ。
犯罪行為があったと検察が認定しているのに容疑者が否認すれば、20日間の拘置期間をいっぱいに使って調べを続ける。さらに否認のまま起訴に至れば、初公判まで起訴後拘置で身柄を拘束する。そうした検察の通常の捜査手法に比べると、拘置期間の途中に事実上の不起訴を決めて釈放するのは異例である。
釈放の理由を次席検事は「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮した」と述べた。これは変だ。検察庁は政府の一機関だが、個別の事件の捜査・処分は司法権の行使に密接に関係するものであり、政治的な思惑から独立が要請される。
そもそも検察官に「今後の日中関係」がどのようなものになるのが望ましいのかを判断する権限はない。「わが国国民への影響」にしても、現状を分析し将来の動向を予測する能力はないだろう。次席検事が言う「考慮した」とは、政府の意向をくんだことと考えざるを得ない。
仙谷由人官房長官は「那覇地検独自の判断だ」と述べたが、どのような経緯で今回の決定に落ち着いたのか、政治による介入の有無も含めて検証が必要だ。
こうした形の決着は日中関係にとって、その場しのぎにはなるかもしれない。だが、長い目で見れば、禍根を残すことになりかねない。
尖閣諸島の領有権を主張する中国政府は船長を即時無条件で釈放するよう求め、圧力と受け止められる措置を繰り出していた。
閣僚級以上の交流の暫定停止などを決めたほか、21日から日本向けのレアアース(希土類)輸出が止まった。河北省で軍事管理区域に侵入しビデオを撮影したとして、ゼネコン「フジタ」の日本人社員4人が拘束されている。
このタイミングで日本が司法手続きを中断し船長を釈放したことで、中国側は他の問題でも圧力をかければ日本は譲歩すると考えるようになっても不思議ではない。
海上保安庁の巡視船に船をぶつけるという無法な行為がおとがめ無しとなると、今後、尖閣諸島周辺で中国漁船の活動がこれまで以上に盛んになるおそれもある。海上保安庁の士気を損なうことも心配だ。
23日にニューヨークで開いた日米の首脳、外相の会談では、ひとまず日米連携を確認した。船長釈放で緊張が当面ゆるんでも、長期的に見れば日米の結束を強める努力がさらに必要になる。
クリントン国務長官は前原誠司外相との会談で、尖閣諸島も日米安全保障条約の対象になるとの原則を示した。これに続く菅直人首相とオバマ大統領の首脳会談でも、「西太平洋の海の課題について緊密に協議していく」ことを申し合わせた。
欠かせない日米の結束
クリントン長官が公式な会談の席で、尖閣諸島に日米安保条約が適用されるという立場を明示した意味は大きい。尖閣諸島は日本固有の領土であり、安保条約の対象に含まれることは当然だ。裏返せば、こんな原則すら高官レベルで再確認しなければならないほど、日米関係が鳩山前政権下で傷ついたともいえる。
今回の会談で結束を示せたとはいえ、気がかりな点もある。オバマ大統領は「中国は経済的に発展している。中国との協力関係は重要だ」と指摘した。米政府高官からも日中対立の対話解決を望む声が出ていた。
米政府としては安保条約上、尖閣諸島の防衛に当たる義務があることを確認しながらも、東アジアで新たな紛争を抱えたくないのが本音だろう。アフガニスタンなどでの戦争で米国は軍事的に消耗している。中国はそうした米側の事情を見すえ、日米同盟にくさびを打つ動きも見せている。ゲーツ国防長官の訪中を招請したのも、その表れだろう。
今回の問題はアジアの海に多くの火種が潜む現実をあぶりだした。これらの問題に対応するには日米の結束や、中国の軍拡への懸念を共有する東南アジア諸国との連携が欠かせない。一方、中国との対話も深める必要がある。菅政権は早急に外交を立て直さなければならない。
産経新聞 2010.9.27 02:56
【主張】中国の謝罪要求 譲歩ではなく対抗措置を
中国外務省が尖閣諸島沖の漁船衝突事件で、日本側に謝罪と賠償を要求するなど強硬姿勢をエスカレートさせている。
これに対し、菅直人首相は26日、あらためて、「中国側の要求は何ら根拠がなく、全く受け入れられない」と拒否した。当然の対応である。だが、日本側は領海侵犯し、海上保安庁の巡視船に意図的に衝突した中国人船長を処分保留のまま釈放したことで、事態が好転すると甘く見ていたのではないか。
一度譲歩すると、さらなる譲歩を迫られるのが常である。日本として、どういう対抗措置を取るのか、菅政権は態勢の立て直しに総力を挙げねばならない。
中国側が尖閣諸島の領有権を主張したのは、東シナ海大陸棚で石油資源の埋蔵の可能性が指摘された直後の1971年12月である。日本が1895年に領有を閣議決定した後の七十数年間、中国は異論を唱えていない。こうした事実を日本政府は国際社会に発信し、理解を求めなければなるまい。
一方で中国は、トウ小平氏が1978年、領有権の棚上げを語り、日本側も、これを容認した経緯がある。ただ、中国は領海法を制定するなど尖閣を自国領とすることに着々と布石を打っており、今回の漁船の侵犯と体当たりは、その一環と見ることもできる。
それだけに日本側は、尖閣に施政権があることを明確にしなければ、日米安保条約の対象地域に該当しなくなることも考えておく必要がある。
問題は、領土や領海に対する国家主権を菅政権が守ろうとしているのか、はっきりしていないことだ。今回の釈放についても首相は「検察が事件の性質を総合的に考え、国内法に基づき粛々と判断した」と、釈放は検察の判断だとする見解を繰り返しただけだ。民主党の岡田克也幹事長も「政治的な介入はない」と強調している。
釈放は今後の対中外交に重大な禍根を残し、日本の国際的信用も失われた。首相がその責任を免れることなどできない。国民に十分な説明ができないなら、最高指導者の資格はあるまい。
自民党の谷垣禎一総裁が「直ちに国外退去させた方が良かった。最初の選択が間違いだった」と、船長の逮捕そのものを批判したのもおかしい。毅然(きぜん)と主権を守る姿勢を貫くこととは相いれない。発言を撤回すべきである。
産経新聞 2010.9.25 03:00
【主張】中国人船長釈放 どこまで国を貶(おとし)めるのか
■主権放棄した政権の責任問う
日本が中国の圧力に屈した。千載に禍根を残す致命的な誤りを犯したと言わざるを得ない。
沖縄・尖閣諸島(石垣市)沖の日本領海を侵犯した中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し、公務執行妨害の疑いで逮捕、送検されていた中国人船長を那覇地検が処分保留のまま釈放することを決めた。勾留(こうりゅう)期限まで5日残しており、法の手続きを無視した事実上の超法規的措置といえる。
釈放にあたり、那覇地検次席検事は記者会見で「わが国国民への影響や今後の日中関係を考慮した」と説明した。法に基づき事件を厳正に処理すべき検察当局が「外交上の配慮」を述べるとはどういうことか。
菅直人首相、前原誠司外相の外交トップが外遊で不在の中、仙谷由人官房長官は地検独自の判断との立場を強調した。しかし、日本の国益と領土・主権の保全、対中外交のあり方や国民感情などを考慮しても到底納得できない。釈放により、今後日本が尖閣周辺で領海侵犯や違法操業を摘発するのは極めて困難となる。主権放棄に等しい責任について首相や官房長官は国民にどう説明するのか。
船長は容疑を否認しているが、海保側は漁船が衝突してきた状況を撮影、故意であるのは立証できるとしている。それならばなおさら起訴し、公判でビデオを公開して罪状を明らかにすべきだった。検察当局が船長に「計画性はなかった」と判断し、処分保留とはいえ釈放したことは事実上、刑事訴追の断念を意味する。国際社会も日本が中国の圧力に屈したと判断する。これほどのあしき前例はなく、その影響は計り知れない。
◆むなしい日米首脳会談
那覇地検の決定は、ニューヨークで行われた日米首脳会談、日米外相会談の内容ともそぐわず、いかにも唐突で無原則な印象を国際社会に与えよう。
菅首相とオバマ米大統領の首脳会談では、衝突事件を念頭に日米の連携と同盟の強化で一致した。米政府は「西太平洋の海洋問題で緊密に協議していくことで合意した」と発表、中国の海軍力増強と海洋進出に日米で共同対処する姿勢を明示したばかりだ。
これに先立つ外相会談でも、前原外相にクリントン国務長官は尖閣諸島には「日米安保条約が適用される」と言明したという。前原氏は主要国(G8)外相会合でも「日本は冷静に対処している」と船長逮捕の正当性を強調して各国に理解を求めており、今回の決定はこの点でもちぐはぐといわざるを得ない。
尖閣諸島は日本が明治時代に他国が領有権を主張していないことを確認した上で領土に編入した。中国が領有権を主張し始めたのは東シナ海の石油・天然ガス資源が明らかになった1970年代にすぎない。1953年の人民日報には、「尖閣諸島は沖縄の一部」との記述もあるほどだ。
◆尖閣領有の意思明示を
にもかかわらず、中国政府は事件発生以来、船長逮捕を不当として即時無条件釈放を要求し続け、閣僚級の交流停止、東シナ海のガス田共同開発条約交渉中止などの対抗措置を次々と打ち出した。ハイテク製品の生産に欠かせないレアアース(希土類)の日本向け輸出を事実上禁止した。
さらに、中国当局は旧日本軍の遺棄化学兵器処理事業に関連して中国河北省の現場で事前録画を行っていた日本の建設会社関係者4人を「許可なく軍事管理区域に入った」との理由で拘束、取り調べていることも判明した。異様な対日圧力である。
事件を「国内法にのっとって厳正に対処する」(菅首相)としてきたのが結局腰砕けに終わったことで、中国側は「中国外交の勝利」と宣伝し、日本への対抗措置を徐々に解除する可能性があるが、日本の主権と国益が大きく貶(おとし)められ、取り返しがつかない。
海上保安庁などによれば、尖閣諸島海域には1日平均270隻もの中国漁船が現れ、その4分の1以上が日本領海内で違法操業中だという。処分保留によって中国側は一層強い姿勢に転じ、漁船に加えて、「安全操業」の名目で武装した漁業監視船も同行させる恫喝(どうかつ)的操業が一般化しよう。
そうした事態を阻止するには、尖閣諸島の領有の意思を明確な態度で示す必要がある。ヘリポート建設なども含め、自衛隊部隊配備も念頭に検討を急ぐべきだ。
東京新聞 2010年9月25日
【社説】禍根残す定見ない判断 中国人船長釈放
相手を見くびり強気にけんかを挑み、逆にすごまれたらおじけづく。これでは相手だけでなく周りからも笑われよう。残念ながらそれが日本の姿だ。
尖閣諸島沖の日本領海で、海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件で、那覇地検は公務執行妨害の疑いで拘置していた漁船の船長(41)を処分保留で釈放することを決めた。
最終的な処分を決めてはいないが、船長は釈放後帰国するため刑事処分を断念することになる。
那覇地検は釈放の理由について「わが国国民への影響や今後の日中関係を考慮した」と外交的配慮を優先したことを認めている。
◆検察が外交判断?
仙谷由人官房長官はこれまで事件処理について「粛々と司法手続きを進める」として外交的配慮の介在を否定していた。釈放決定も「那覇地検独自の判断」としているが、検察当局が政権の立場をおもんばかったことは明白だ。
また、検察が独自の政治的判断で釈放を決定したとしたら、捜査機関が外交上の重大決定をしたことになり見過ごせない。
船長の釈放決定を中国は受け入れ当面、日中関係の風波は収まるかもしれない。しかし、それを日中関係の大局に立つ賢明な決定とたたえることは到底できない。
むしろ、日本が実効支配する尖閣諸島への主権をないがしろにした、将来に大きな禍根を残す歴史に残る愚かな決定だ。
中国は尖閣諸島を自国領と主張、周辺海域を領海とし「日本の法律を適用するのは荒唐(こうとう)無稽(むけい)」(中国外務省)としている。今後、中国の漁船や巡視船が領海として侵入してきたら海上保安庁は、どう対応したらいいのか。
逮捕されても刑事処分を受ける恐れを感じない中国側は一層、大胆な操業や航行を繰り返し、海保の退去勧告や停船命令をあなどることになろう。それは取り締まりに当たる海上保安官の生命さえ危険にさらすことにもなる。
◆拾った火中のクリ
中国の漁船は今月七日午前、尖閣沖で違法操業中、海保巡視船から退去警告を受け、船首を巡視船の船尾に接触させ逃走した。その後、追跡を受けた別の巡視船にも船体を衝突させて逃げた。
四時間近くも逃走した後、停船命令に応じた。政府は対応を協議した上、八日未明に船長を公務執行妨害の疑いで逮捕した。
外交的配慮をいうなら、政府は海保に身柄のあるこの段階で船長を強制送還することもできた。
現に二〇〇四年三月、尖閣諸島に中国人七人が上陸した事件で、政府は小泉純一郎首相の靖国神社参拝で緊張した日中関係を憂慮し送検を見送り強制送還した。
船長の身柄を送検し、日本の司法手続きで処罰するなら、尖閣海域に日本の法律適用を認めない中国政府が激烈な対応をすることは火を見るより明らかだった。
しかし、民主党代表選のさなか総理官邸を仕切った仙谷長官はあえて船長送検の判断をした。
それは客観的には中国の海洋進出に対し、尖閣への実効支配を主張する政治的決断にほかならなかった。中国との摩擦を覚悟し火中のクリを拾ったかに見えた。
中国は東シナ海の春暁(日本名・白樺(しらかば))ガス田への日本側出資をめぐる条約協議を延期し、日本側との閣僚級交流を停止するなど報復措置を矢継ぎ早に打ち出す。
すると仙谷長官は尖閣とガス田問題は「次元が違う」「ハイレベルで協議をしたい」と弱音を吐き始める。それは中国を「あと一押し」と勢いづかせただろう。
中国が欧米メディアを使い独占するレアアースの対日輸出禁止の情報を流し、河北省の「軍事管理区域」での日本人四人の拘束を発表すると、政府はもう持ちこたえることはできなかった。大阪地検特捜部検事の証拠隠滅事件という弱みを抱える検察当局は自らの権威を傷つけても政権に「救いの手」を差し伸べたのだろうか。
中国の強烈な反応をよみきれないまま、司法手続きに委ねた政府の判断がまず問題だ。
中国の党・軍内には東シナ海の海洋権益確保を求める声がうねりのように高まり、二年後の共産党大会を控え軍の支持獲得に腐心する胡錦濤国家主席は安易な妥協はできない。外交当局は官邸に中国の内情を説明していたのか。
◆外交の欠陥克服を
中国が外国との対立で激しい攻撃を行い恐怖を与えるまで報復措置を口にするのは常とう手段だ。たじろいで弱みを見せれば、ますます中国は強気になる。
こうした中国外交の基本について政権には経験を持つ政治家も指南するブレーンもいなかった。今回の事件で明るみに出た欠陥を克服しなければ今後も日本外交は痛ましい失策を重ねるだろう。
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産経新聞 2010.9.23 02:37
【主張】尖閣漁船事件 危険はらむ中国首相発言
尖閣諸島付近での中国漁船と日本巡視船の衝突事件に関し、中国の温家宝首相が21日、ニューヨークで、日本に勾留(こうりゅう)されている漁船船長の即時無条件釈放を要求、応じなければさらなる対抗措置を取ると警告した。日本の法制度を無視した露骨な脅しで、きわめて遺憾というほかない。
温首相の発言は、これまで戴秉国国務委員はじめ中国側が外交ルートで行ってきた要求と基本的に同じだ。だが温氏は共産党最高指導部の一員であって、中国の党、政府が一切譲歩しない方針を固めている表れといえる。
中国側はすでに、閣僚級交流や東シナ海の天然ガス共同開発条約交渉の中止などに加え、日本ツアーの中止など民間交流にも影響が拡大しつつある。追加措置の検討にも入っており、そこには経済交流の制限や、尖閣諸島海域への艦艇派遣といった強硬手段も含まれていると伝えられる。
日中関係は小泉純一郎政権の時代も、靖国神社参拝問題などで冷え込んだ。中国で大規模な反日デモが発生したが、実務関係や経済交流への影響はほとんどなく、日中貿易は拡大し「政冷経熱」といわれた。双方が、政治的対立が実務関係に及ばないよう、冷静に対処した結果だった。
中国側が強硬姿勢を続ける理由の一つは、尖閣諸島の領有権の主張を含め、東シナ海での海洋権益確保である。日本固有の領土である尖閣諸島の日本の領有権を認めず、中国漁船の拿捕(だほ)、船長の勾留を非難する背景だ。
しかし事件は、日本の領海内で中国漁船が不法操業し、巡視船に体当たりして逃亡を企てたという単純なものだ。日本当局は、公務執行妨害容疑で船長を取り調べる司法手続き中であり、それに中国が圧力を加えるのは内政干渉以外の何物でもない。
中国の強い圧力に対し、日本政府が中国側に自制を求め、「粛々と法手続きを進める」のは当然である。しかし中国側の対抗措置に、手をこまねいているだけでよいのか。在外公館を通じて、各国に尖閣問題についての日本の立場を説明するなど積極的に発信して対抗する必要がある。
日中が敵対関係に陥りかねない事態は双方にとって不幸である。司法の結論を待ち、政府は中国側との対話を模索し、事態の拡大を防ぐ努力をすべきだ。
産経新聞 2010.9.23 02:37
【主張】菅・オバマ会談 日米で尖閣防衛確認せよ
菅直人首相が国連総会出席とオバマ米大統領との首脳会談のために訪米した。米軍普天間飛行場移設問題で日米同盟の空洞化が深まる中、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件では中国首相が船長の「即時無条件釈放」を要求するなど強硬姿勢を一段と強めてきた。
日本の領土と安全はかつてない危機にさらされている。アジア太平洋の秩序を守る公共財たる日米同盟の実効性に東南アジア諸国の懸念も高まっている。
決定的に重要なのは、日米首脳会談と外相会談だ。中国の無法な行動に対抗するため、首相と前原誠司外相は米軍再編の着実な履行を柱に同盟の基盤を立て直し、尖閣防衛を貫く強力な意思を世界に発信すべきである。
日米関係は昨年秋の民主党政権移行以来、普天間問題で迷走を重ね、菅改造内閣発足後も解決のめどは立っていない。この間、同盟空洞化の足元を見透かすように中国海軍は黄海、東シナ海、南シナ海で大胆な行動に出始め、海上自衛隊護衛艦に対する艦載ヘリの異常接近(4月)も起きた。
その延長が今回の漁船衝突事件であり、日本の安全と領土・領海を守る同盟の意思と能力が試されているといわざるを得ない。周辺諸国が事態を注視するのもそのためだ。首相や外相はまずこの現実を強く認識する必要がある。
尖閣諸島は日本固有の領土であり、日本政府は少なくとも「中国側が領海侵犯と違法操業を謝罪し、衝突の損害賠償に応じない限り、交渉には一切応じない」となぜ主張できないのか。日中が「戦略的互恵関係」を進めるには、相手の領土・領海を尊重することが大前提であることを中国は肝に銘じなければならない。
米国務省は先月、尖閣諸島が日本の施政の下にあり、「日米安保条約の防衛対象」と言明した。首脳会談、外相会談では同盟の根幹につながる共同防衛の誓約を再確認し、国際社会にアピールすべきだ。一方で米国は「日中の対話が必要」(スタインバーグ米国務副長官)との立場も示しており、日米共通の対処を緊密にすり合わせる必要もある。
首脳会談の翌日には米・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会談も開かれる。ASEANの懸念に応えるためにも、日米が「強い同盟」の回復に全力を注ぎ、信頼を取り戻してもらいたい。
東京新聞 2010年9月23日
【社説】尖閣事件 報復措置の連鎖止めよ
尖閣事件で中国人船長が拘置延長されたことに報復し中国は閣僚級以上の対日交流停止を決めた。交流断絶は民間まで広がっている。報復措置の連鎖は対立の解決につながらず事態を悪化させる。
中国は航空路線増便交渉、石炭関係会議を中止、延期。中国の招待で訪中予定の一千人規模の青年訪問団も中国側が受け入れ延期を通知し、日本政府は抗議した。
青年交流は小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝で、首脳相互訪問が五年も断絶した日中関係の打開につながった事業だ。若者たちはどれほどがっかりしているだろう。直前の中止は残念だ。
これに先立ち、中国は東シナ海の春暁(日本名・白樺)ガス田に日本側が出資するための条約締結交渉を一方的に延期してきた。
その後、操業開始に必要なドリル状の機材がガス田に搬入されたのが確認され、日本政府は中国側が掘削を開始した場合は、対抗措置を取ることも検討している。
二〇〇八年六月の東シナ海ガス田の共同開発合意も、日中の戦略的互恵関係を築くことを目指す胡錦濤国家主席の主導で実現した。
尖閣事件で、「ポスト靖国」時代の日中関係を代表する事業が、いずれも中断の憂き目を見た。
中国側には冷静に考えてほしい。尖閣問題は一九七〇年代から日中関係に横たわる問題で一朝一夕に解決することは不可能だ。
今回の事件は中国漁船の船長が海上保安庁の警告に従わず巡視船に接触して逃げ、さらに別の巡視船に衝突して逃走を試みた偶発的トラブルとみられる。
中国側は温家宝首相が船長の即時、無条件釈放を求めるなど外交圧力を強めているが、こうした単純な事件で日中関係全体を揺るがすまでに報復を拡大し、東シナ海の海洋権益をめぐる対立を激化させるのは賢明な対応と思えない。
背景にはガス田共同開発合意に対する中国国内の反発や二年後の共産党第十八回大会に向け党・軍内の支持基盤を固めたい胡主席の意向もあるだろう。しかし長年の戦争や対立を経て確立した日中関係を個別事件や国内の政治事情で左右していいはずがない。
中国が日本に対する抗議デモで暴力行為を封じ込め、尖閣近海での緊張を高める対抗手段に出ていないのは救いだ。冷静さを取り戻し、報復の拡大を控えてほしい。
日本政府も粛々と司法手続きを進め、中国側に過剰な対抗措置を取ることは自制すべきだ。
朝日新聞 2010年9月22日(水)付
社説:尖閣沖事件―冷静さこそ双方の利益だ
中国政府からすれば当然の対抗措置ということなのだろうが、あまりに激しすぎる。これによる長期的な悪影響を深く憂慮せざるをえない。
尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で逮捕、送検された中国人船長の勾留(こうりゅう)延長が19日、裁判所から認められた。中国側はこれに対し、閣僚級以上の交流停止や航空交渉中断などの措置に出た。
日本が実効支配する尖閣諸島を、中国は自らの領土と主張している。そこで起きた事件を日本が国内法で処理するのを黙認すれば、尖閣諸島が日本の領土だと認めることになる。だから、日本の司法手続きは「不法で無効だ」と強硬姿勢に出ているのだろう。
とりわけ遺憾なのは、未来の日中関係を担う若者の民間交流まで止めたことだ。温家宝首相の提案による1千人規模の「日本青年上海万博訪問団」は、出発直前になって受け入れ延期の通知がきた。こうした対応は次世代の率直な相互理解の妨げになろう。
中国側は船長を直ちに無条件で釈放するよう求めている。日本政府の弾力的な判断を期待していたふしがある。だが事件の性格を考えれば、日本側が「法にのっとり粛々と」との姿勢を貫くのは、法治国家として当然だろう。
中国の過激なネット世論は交流停止を支持している。しかし、満州事変のきっかけとなった柳条湖事件79周年の18日も、船長の勾留延長が決まった19日も、上海万博会場の日本館や日本産業館には数時間待ちの行列があった。
日本人の多くと同じように、中国人の多くも日中関係が悪化するのを望んではいまい。
中国のメディアや識者のなかには、中国人の対日感情が悪化すれば不買運動などが起き、中国頼みの日本経済は立ちゆかなくなる、といった主張をする向きが少なくない。
こうした議論は2005年の反日デモの時にも広まったが、相互依存が深まるグローバル化時代、日本だけ一方的に損をする経済関係はあり得ない。明らかに中国にもマイナスである。
ここは両国政府が知恵を出しあい、冷静に事態を収めなければならない。
小泉政権時代の靖国参拝問題でこじれた日中関係は、「戦略的互恵関係」の確認で落ち着きを取り戻した。双方の協力がアジアと世界に平和と安定、発展と利益をもたらすという認識だ。
日中はアジアにとっても世界にとっても「最も重要な二国間関係の一つ」である。今回の事件に目を奪われるあまり、営々と育んできた果実を失うようなことがあってはならない。
かつて外交関係樹立に尽力した田中角栄、周恩来両首相は「求同存異」(小異を残して大同につく)の精神を強調した。
それは今も変わらないはずである。
日経新聞 2010/9/22付
社説:首脳外交で日本埋没を防げ
国際社会での影響力は当然、国力に左右される。だが、日本の存在感がこれほど低下してみえるのは、長期の経済停滞だけでなく、首脳外交の空白によるところも大きい。
菅直人首相は22日、国連総会に出席するため、ニューヨークに出発する。オバマ米大統領と23日に会談するほか、国連総会でも演説する。
尖閣諸島沖での衝突事件を巡り、中国側の強硬措置が相次ぎ、日中の対立が深まっている。首相は中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突してきた経緯も含め、日本の立場をきちんと説明し、国際社会の理解を得てほしい。北朝鮮やイランの核問題でも政府の方針を訴える好機だ。
首相は何を発信すべきなのか。その答えは、過去1年間の民主党政権の教訓の中にある。
民主党が昨年9月に政権交代を果たし、鳩山由紀夫首相(当時)が国連での首脳外交の初舞台に登場したとき、国際社会は拍手で迎えた。しかし、期待はすぐ失望に変わり、いまや日米同盟よりも米韓同盟のほうが強固だという声すら聞かれる。
その主な原因は2つ挙げられる。第一に、「対等な日米関係」の掛け声だけが先走り、不用意な言動によって日米同盟を揺るがした民主党政権の外交の未熟さ。第二に、そうした迷走が、日米同盟をアジア安定の礎と考える韓国や東南アジア諸国にまで不安を広げたことだ。
安全保障政策の全体像を明確に示さず、日米同盟をきちんと維持できないような政権では、同盟国や友好国の信用を得られない――。首相が胸に刻まなければならないのはこんな教訓だろう。
だとすれば、首相がニューヨークで各国首脳に伝えるべきことも明白だ。政権交代後の迷走から教訓をくみ取り、今後は強い日米同盟を堅持し、アジアの安全保障のためにも積極的に貢献していく。首相はこうした姿勢を印象づける必要がある。
尖閣諸島問題への対応でも米国との緊密な連携が欠かせない。スタインバーグ米国務副長官は講演で日中の対話を促したが、尖閣諸島は日本固有の領土であり、安全保障条約を締結している同盟国の日米間で、今回の事件への対応をしっかり擦り合わせるべきだろう。
日経新聞 2010/9/21付
社説:中国は対立激化を抑える冷静な行動を
尖閣諸島沖の領海での衝突事件を巡り、中国政府が日本への強硬姿勢を一段と鮮明にしている。新たに閣僚級以上の交流の暫定的停止や、航空路線増便に関する交渉中止などを決めた。両国間の様々な交流事業にも中止の動きが広がってきた。
他人に投げた石はやがて自分にはね返ってくる。それは国家間の関係でも同じである。日中が深刻な政治対立に陥るのは、どちらの国の利益にもならない。にわかに激しくなったきしみを早急に抑えるよう、中国政府に冷静な対応を求めたい。
石垣簡裁は19日、海上保安庁の巡視船に衝突した中国漁船の船長の拘置期限を、29日まで延長することを認めた。中国の新たな対抗措置はこの決定への報復だという。
中国側は船長の即時無条件釈放を求めているが、日本は法治国家だ。外国からの圧力や政治的な理由によって、司法判断を曲げることはできない。日本政府は国内法に基づき粛々と対応する立場を示しており、実際にそれ以外の選択肢はない。
だが、中国側は必ずしもそうは考えていないようだ。中国政府はすでに要人の来日中止や東シナ海のガス田共同開発に関する条約締結交渉の延期も通告していた。圧力を強めれば、日本政府が司法に介入し、船長を釈放すると思っているのかもしれない。共産党支配下の中国と異なり、三権分立の民主主義国家では、そのような手法は許されないことを、中国側は理解すべきだ。
日中が成熟した関係を築けるかどうかは、深刻な対立が起きたときの行動で試される。その点、日本側は自制した行動をとってきた。
尖閣諸島周辺の日本領海には8月中旬以降、多い日で約70隻もの中国漁船が出現していたという。だからといって、それらの船長を日本側が次々と逮捕したわけではない。今回逮捕したのは、中国漁船の方から巡視船に衝突してきたからだ。中国国内では、この事実すら正確に報じられていないのは遺憾だ。
中国側には国内で弱腰批判を浴びないためにも、日本に強い姿勢を示さざるを得ない事情があるとみられる。弱気の対応に出れば、反日ムードが反政府運動に転化しかねないと恐れているとの指摘もある。
中国政府が北京、上海などで厳重警備を敷き、反日デモの拡大を抑えようとしているのも、そんな懸念からだろう。だとすれば、中国がとるべき行動は逆ではないか。強硬措置を連発して対立の火に油を注ぐのではなく、深刻になる前に対立を鎮めるよう冷静な行動に徹してほしい。
産経新聞 2010.9.20 02:32
【主張】尖閣漁船事件 組織的な背景を解明せよ
事(こと)は日本の主権にかかわる。安易な処理など許されない問題だ。
沖縄・尖閣諸島(石垣市)付近の日本領海で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件で、検察当局が公務執行妨害容疑で取り調べている中国人船長の勾留(こうりゅう)期間延長を裁判所が認めた。
検察当局には、国内法にのっとった厳正な捜査によって勾留期限の29日までに立件するよう求めたい。
東シナ海の石油や天然ガス資源が確認されてから尖閣諸島の領有権を主張し始めた中国政府は船長の即時釈放を要求する強硬姿勢を続けている。東シナ海のガス田共同開発をめぐる日中両政府の条約締結交渉の延期を通告したのに加え、ガス田の一つに掘削用のドリルとみられる機材を搬入する新たな圧力もかけてきた。
前原誠司外相は、中国側の掘削開始が確認されれば「しかるべき措置をとる」と言明した。当然である。日本単独での試掘や国際海洋法裁判所への提訴といった対抗措置を念頭に、毅然(きぜん)とした姿勢を示すべきだ。
日本の司法が外国からの政治的圧力の影響を受けてはならないのは言うまでもない。それにもまして日本政府として解明しなければならないのは今回の中国漁船衝突事件の背景である。単に違法操業の範囲内でのみとらえるわけにはいかない。
尖閣諸島海域では中国漁船の領海侵犯が急増している。海保によれば、事件発生当日には160隻ほどの中国船籍とみられる漁船が同海域で確認され、そのうち約30隻が日本の領海を侵犯していた。これらの船舶がすべて漁船であったのかも問題視すべきだ。
海洋権益の拡大を狙う中国は海軍力の増強によって実効支配をめざす海域を広げる動きを加速させている。南シナ海では中国の漁船団に武装した漁業監視船が同行するのが常態化し、今年6月には中国漁船を拿捕(だほ)したインドネシア海軍艦船と交戦寸前の状態にまでなったという。
尖閣諸島での事件は中国がこうした強引な手法を東シナ海にも広げてきたことを示している。
米政府は、日本の施政下にある尖閣諸島を「日米安保条約の適用対象」とする立場をとる。日米両政府が情報共有を密にし、組織性が疑われる事件の背景を徹底的に解明する必要がある。
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