2010年12月20日月曜日

新防衛大綱 日米同盟強化・軍拡の口実になりそう!

どうも東アジアの不安定な情勢を理由に、
日米同盟強化・軍拡の道へ進む口実になりそうだ。

新聞各紙の2010年12月18日(土)社説

防衛大綱決定―新たな抑制の枠組み示せ(朝日)
新防衛大綱 機動性ある自衛隊へ転換急げ(読売12/19)
防衛計画の大綱 「対中」軍事だけでなく(毎日)
安保強化へ防衛大綱の着実な実行を (日経)
新防衛大綱 日本版NSCを評価する(産経)
新防衛大綱 軍拡の口実を与えるな(東京)

論調観測 防衛計画の大綱 対中シフト評価割れる(毎日12/19)





朝日新聞 2010年12月18日(土)付
社説:防衛大綱決定―新たな抑制の枠組み示せ
政権交代後初めての「防衛計画の大綱」が閣議で決定された。中国の軍事動向への警戒感を色濃くにじませるとともに、脅威には軍事力で対応するというメッセージを前面に打ち出した。
東アジアの情勢は不安定さを増しつつあるとはいえ、「脅威に直接対抗しない」としてきた抑制的な路線から、脅威対応型へとかじを切った意味合いは重大である。中国を刺激して地域の緊張を高める恐れがあるばかりか、「専守防衛」という平和理念そのものへの疑念を世界に抱かせかねない。
新大綱は単なる計画文書ではない。日本が発信する重い政治的なメッセージと、国際社会は受け止めるだろう。そのことへの鋭い意識が菅政権にどれだけあったのか、疑わざるを得ない。
新大綱は長く継承してきた「基盤的防衛力」に代えて、「動的防衛力」という概念を採り入れた。自衛隊の機動性や即応性を高める。とりわけ装備の「活動量を増大させ」、日本の高い防衛能力を「明示しておく」ことが地域の安定に寄与するのだという。そういう効用も否定はしないが、ものごとには両面がある。
周辺諸国の目には、日本が軍事的な自制を解こうとしていると映らないか。東アジア地域の不安定要因には決してならないという路線を転換し、危うい歩みを始めたと見られないか。
軍事は政治や外交を補完する機能の一部にすぎない。軍事力を外交や経済・開発援助と組み合わせ、事態が悪化するのを防止する「紛争予防」の発想が、新大綱には乏しい。
外交力は特に大切だ。日中の防衛交流や信頼醸成措置は中断したままだが、米国は粘り強い外交交渉を重ね、台湾への武器輸出をめぐり途絶えていた米中軍事交流の再開にこぎつけた。
鳩山由紀夫前首相は昨年、「東シナ海を『友愛の海』にしたい」と語り、菅直人首相も先月の首脳会談で「戦略的互恵関係」の推進を確認したが、外交と軍事がばらばらとの感が深い。
防衛大綱の枠を超えた総合的な国家戦略を立案する必要性を痛感する。
今回、武器輸出三原則の緩和を明記することは見送られた。時間をかけ慎重に議論を重ねるのが賢明だろう。
新大綱の策定には、文民統制の立場から政治の強い指導力が期待された。政権交代こそ究極の文民統制とも言えるからだ。しかし、根幹の議論を民間有識者に任せるなど、総じて政治が深くかかわった印象は薄い。
新たな防衛力の整備は今後、具体的な組織再編や運用見直しの段階に移る。意図せぬ摩擦を避けるためにも、菅首相は中国を含む国際社会に、新大綱が専守防衛を逸脱するものでないことを丁寧に説明しなければならない。
自衛隊の運用や予算に新たな抑制の枠組みを創出することも急務である。

(2010年12月19日01時12分  読売新聞)
新防衛大綱 機動性ある自衛隊へ転換急げ(12月19日付・読売社説)
我が国周辺の安全保障情勢は厳しさを増している。その中で日本の平和と安全を確保するには、冷戦期の残滓を排し、より機動的で柔軟性ある防衛体制を構築する必要がある。
政府が、新しい「防衛計画の大綱」を決定した。1976年に防衛大綱が策定されて以来、6年ぶり3回目の改定である。
新大綱は、76年大綱が掲げた防衛力整備の基本指針の「基盤的防衛力構想」を、「動的防衛力」に転換する方針を打ち出した。
◆冷戦の残滓排除が重要◆
基盤的防衛力とは、独立国として必要最小限の防衛力を保有するという概念だ。冷戦時代から残る「全国均等な部隊配置」の根拠となってきた。
これに対し、動的防衛力は、多様な脅威や事態に機動的に対処する能力を重視している。
自衛隊の任務は、ミサイル、テロなど新たな脅威への対応や、国際平和協力活動への参加など、多様化している。
自衛隊に極力何もさせず、抑制的な組織にとどめておけば良かった時代は、遠く去った。最新鋭の戦車や艦船、航空機も、保有しているだけでは、抑止力は十分機能しない。
自衛隊が様々な任務をこなし、部隊を動かすことを通じて抑止力を働かせる。そうした動的防衛力の採用は、大きな時代の変化に即した適切な政策転換と言える。
新大綱は、中国の国防費の増加や海空軍の活動活発化、透明性の不足について、「地域・国際社会の懸念事項」と明記した。
中国の台頭は著しい。空母保有を公言し、東シナ海の軍事バランスが変化しつつある。海洋権益拡大を図る動きも激しく、東南アジア諸国との軋轢が増している。
こうした中、新大綱が南西諸島など島嶼防衛の強化を打ち出したのは当然だ。与那国島への陸上自衛隊の部隊配置などを着実に進める必要がある。
北朝鮮については、アジア地域の「喫緊かつ重大な不安定要因」と記述した。2度の核実験や、弾道ミサイル発射、韓国艦船や延坪島への攻撃を踏まえれば、日本は、米韓両国との軍事面の連携を強化することが肝要だ。
新大綱と同時に閣議決定された次期中期防衛力整備計画は、2011~15年度の防衛予算の総額上限を約23兆4900億円と定めた。10年度予算をほぼ維持するもので、8年連続の漸減に歯止めをかけた意義は大きい。
◆陸自定員削減は不十分◆
米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮など周辺国が近年、そろって国防費を大幅に伸ばす中で、日本だけが防衛費を減らし続けてきたことは、深刻な問題だった。
限られた予算の中で、真に実効性ある防衛体制を整えるには、増強する分野と削減する分野のメリハリが欠かせない。
新大綱の焦点となった陸自の編成定数は、現行の15万5000人から1000人の削減にとどまった。極めて不十分である。
自衛隊全体のバランスを考えれば、今回実現した陸自の戦車・火砲の大幅な削減に加え、陸自定員を一層削減し、海上、航空両自衛隊の定員や艦船・航空機の増強などに回すべきだった。
そうしてこそ、「動的防衛力」という新概念がより明確になったはずだ。11年度以降の予算編成での是正を求めたい。
武器輸出3原則の見直しは、菅政権が国会運営で協力を求めている社民党に配慮するため、新大綱への明記を見送ってしまった。残念な判断である。
一方で、国際共同開発・生産が「先進国で主流になっている」と指摘し、具体策の検討を盛り込んだのは、将来の見直しの余地を残したものと評価できる。早期に実現してもらいたい。
新大綱が言及した国連平和維持活動(PKO)参加5原則の見直しも、積極的に進めるべきだ。
陸自のPKO参加実績はまだ少ない。海外派遣の際、常に障害となる武器使用権限を国際標準並みに拡大することが急務である。
◆安全保障戦略の策定を◆
新大綱は、国家安全保障の政策調整組織を首相官邸に設置することも明記した。かつて自民党政権が関連法案を提出した日本版NSC(国家安全保障会議)のような組織を想定しているのだろう。
多くの安全保障課題に継続的に取り組み、緊急事態に迅速に対応するには、こうした組織が不可欠だ。与野党の枠を超えて具体案を協議し、実現を急いでほしい。
安全保障戦略の策定にも着手すべきだ。防衛大綱はあくまで防衛力整備に力点が置かれている。
日本と世界の平和と繁栄を確保するには、どんな具体的目標を掲げ、外交、防衛、国内政策をどう進めるのか。包括的戦略をまとめ、着実に取り組むことが大切だ。


毎日新聞 2010年12月18日 東京朝刊
社説:防衛計画の大綱 「対中」軍事だけでなく
政府は、6年ぶりの改定となる「防衛計画の大綱」を閣議決定した。自衛隊を全国に均等配備する根拠とされてきた「基盤的防衛力構想」を放棄し、多様な脅威への即応力、機動力などを重視した新概念「動的防衛力」に転換した。同時に、軍備増強を図る中国について「地域・国際社会の懸念事項」と明記し、南西諸島方面の防衛態勢強化を打ち出した。
動的防衛力は、自衛隊の存在自体による抑止を主眼とする冷戦時代以来の基盤的防衛力に代わり、警戒監視の充実など部隊運用の向上によって「より実効的な抑止と対処」を目指すものとされる。これによって自衛隊均等配備の考えから脱皮し、最近の中国の動向を踏まえて南西防衛を重視する、という理屈である。「中国シフト」の防衛力整備である。
中国の国防費は、透明性を確保しないまま、毎年高い伸び率を続け、今年は22年前に初めて公表された数値の24倍になった。また、海軍艦艇が近年、日本近海で活動を強化し、制海・制空権が飛躍的に拡大する空母保有の動きもある。9月には尖閣諸島沖衝突事件も起きた。
中国の軍拡と一連の行動がエスカレートすれば、日本周辺、アジア太平洋地域の不安定要因となる。軍事的な懸念や脅威を無視した防衛力構想はあり得ない。東アジアの安全保障環境を踏まえた防衛力構想の改定は、有効かつ必要であろう。
とはいえ、国際政治における中国の役割や今後の日中関係を考えれば、軍事面の対応が対中政策の中心になり得ないことは明らかだ。今、必要なのは、中国との多面的な相互依存関係の拡大・深化を考慮した、政治、経済、外交・安全保障を含めた総合的な戦略である。
日本は米国とともに、中国を国際システムに引き込み、国際規範、ルールを順守する「責任ある大国」となるよう促す「関与」政策を基本にしている。軍事的な「対抗」を重視するあまり、軍拡競争によって自国を含めた周辺地域の安全保障を低下させる事態を招いてはならない。バランスの取れた対中政策を求める。
また、新大綱は、武器輸出三原則について、見直しの明記を見送ったが、共同開発・生産を念頭に「防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討」を掲げ、将来の見直しの可能性を残した。明記見送りは、菅政権の主体的な政策判断でなく、見直し反対の社民党の協力を得たいという政治判断を優先した結果だ。この経緯には強い違和感を感じる。一方、将来、三原則を見直す場合は、武器輸出が国際紛争の助長に結びつくようなことにはしないという基本理念を守る新たな歯止めが必要となることを改めて強調しておきたい。


毎日新聞 2010年12月19日 東京朝刊
社説:論調観測 防衛計画の大綱 対中シフト評価割れる
04年以来6年ぶりの「防衛計画の大綱」が閣議決定された。中国の軍事力増強と海洋進出を「地域・国際社会の懸念事項」と位置づけた。自衛隊部隊を全国均等配備する「基盤的防衛力」構想を転換し、南西諸島に自衛隊を配置するなど機動性を重視する「動的防衛力」の構築を打ち出したのが最大の特徴だ。
民主党政権下で初めての大綱について、各紙が18日付社説で取り上げた。
毎日は「東アジアの安全保障環境を踏まえた防衛力構想の改定は、有効かつ必要であろう」と指摘した。ただし「軍事面の対応が対中政策の中心になり得ないことは明らかだ」として、政治や外交などを含めたバランスの取れた対中政策を求めた。
東京と日経も、基盤的防衛力構想から、動的防衛力構想への路線転換は「当然だ」との見解を示した。東京は「中国が警戒感を強め、軍事力強化を促す『安全保障のジレンマ』に陥る可能性がないとはいえない」として、路線転換の意図を説明する外交努力の必要性を説いた。
産経は、動的防衛力について「何を意味するのかよくわからない」と否定的な見方を示した。一方で、南西諸島防衛の位置づけや、日本版NSC(国家安全保障会議)を念頭に首相への助言を行う組織の設置を明記した点を評価した。
大綱に最も否定的な見方を示したのが朝日だ。「中国を刺激して地域の緊張を高める恐れがあるばかりか、『専守防衛』という平和理念そのものへの疑念を世界に抱かせかねない」などと指摘した。
ただし、結論として、外交力などの重要性を強調する点は、毎日や東京の論調と同方向といえるのではないか。
一方、武器輸出三原則の見直し明記を社民党に配慮して政府が見送ったことはどう評価されたのだろうか。
日経は「緩和を検討すべきだ」、産経は「悪影響を与えた」と、政府の姿勢を批判した。
毎日は、見送りの経緯に違和感を示しつつ「見直す場合は、国際紛争の助長に結びつかないよう新たな歯止めが必要となる」と強調した。朝日は「時間をかけ慎重に議論を重ねるのが賢明だろう」と述べた。
なお、読売は18日付社説で防衛大綱を取り上げなかった。ただし、10日付で武器輸出三原則について論じた。緩和について「本来は妥当な見直しである」とし、明記しない政府の方針について「将来に禍根を残す」と強い調子で批判した。【論説委員・伊藤正志】


日経新聞 2010/12/18付
社説:安保強化へ防衛大綱の着実な実行を
長期的な防衛のあり方を示した新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)が決まった。海軍力を増強する中国をにらみ、南西諸島や島しょ部の防衛を手厚くするほか、核兵器開発を進める北朝鮮を見すえ、ミサイル防衛力を強めることをうたった。
日本が直面する安全保障上の課題のなかでもこの2つは優先度が高い。防衛大綱は正しい方向性を示したといえるが、陸上自衛隊の効率化がなお不十分など宿題も多い。
日本は大小、6千以上の島からなる。なかでも南西諸島は中国海軍が太平洋に抜ける際の重要な出口であり、潜在的な危険にさらされている。この防衛を強めることは日本の安全にとって重要であると同時に、中国海軍の進出を警戒するアジア諸国の不安にも応えることになる。
ところが米ソ冷戦以来、日本はソ連の脅威を想定して北海道に多くの戦車などを配備する一方、南西諸島の守りは手薄になっていた。
防衛大綱はこうした状態を改めるため、潜水艦を16隻から22隻に増やすことを決めた。同時に公表した中期防衛力整備計画(中期防、2011~15年度)では、南西地域の島しょ部に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配置することなども打ち出した。
もうひとつの優先課題は北朝鮮への対応だ。北朝鮮のミサイル射程内にある日本にとって、北朝鮮の核開発は深刻な脅威。政府がミサイル防衛対応型のイージス艦を2隻増やす計画を明記したのも、その表れだ。
政府は冷戦以来、ソ連の上陸などを想定し、自衛隊の部隊を全国に均等に配置する「基盤的防衛力」構想をかかげてきた。今回の大綱ではこれを完全に撤回し、さまざまな事態に柔軟に即応できる「動的防衛力」の構築をうたった。部隊の配置や装備の構成を固定化せず、情勢に応じて変化させるという考え方だ。
厳しい財政事情の下で減り続けている防衛予算を効率的に使うためにも、当然の路線転換である。
今回、陸上自衛隊の編成定数は、前回の04年大綱の15万5千人から1千人減にとどまった。中国軍をにらんだ海空の防衛強化に人員や装備を傾けるうえでも、陸上自衛隊の一層の効率化が重要である。
政府・与党内で議論になった武器輸出三原則の見直しは、新大綱では見送った。同原則は同盟国である米国向けの一部を例外として、武器だけでなく関連技術の輸出も禁じており、日本は装備品の国際的な共同開発・生産に加われない。これが装備品調達のコスト高の一因になっており、引き続き緩和を検討すべきだ。


産経新聞 2010.12.18 03:06
【主張】新防衛大綱 日本版NSCを評価する
民主党政権下で初の防衛力整備の基本方針となる「防衛計画の大綱」と、来年度から5年間の「中期防衛力整備計画」が閣議決定された。
改定作業の過程で起きた尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件は、急速な軍事力増強を背景として中国が力ずくで日本の領土主権を認めない姿勢を鮮明にした。
中国への懸念を打ち出し、沖縄県・南西諸島に沿岸監視隊を置くなど島嶼(とうしょ)防衛を明確に位置付けたのは当然だ。「日本版NSC(国家安全保障会議)」を念頭に、首相への助言を行う組織の設置を明記した点も評価できる。自民党政権でもできなかった、防衛省からの首相秘書官も登用した。
問題は、国内各方面に自衛隊を均等に配備する「基盤的防衛力」に代えて導入する「動的防衛力」という概念を、真に国民の平和と安全を守れる防衛力にどう結び付けていくかである。
民主党政権は改定を1年遅らせて検討した。鳩山由紀夫前首相が諮問した有識者会議「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」は、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更などを報告書で求めていたが、一顧だにされなかった。
動的防衛力は日常的な情報収集や警戒監視の活動を強化し、突発的な事態に迅速に対応するものとされるが何を意味するのかよくわからない。テロなどの脅威に対抗するため、新大綱も同盟国との協力を重視している。それには集団的自衛権の行使が欠かせない。
当初、検討されていた武器輸出三原則の見直しの明記も見送られた。航空機の国際共同開発に参加できなければ、日本の空の守りに“穴”があく実害が生じる。今後も見直しを検討するというが、国会対策上の社民党への配慮が国家の安全に優先し、現実の防衛政策に悪影響を与えたのは問題だ。
陸上自衛隊の定員は千人減の15万4千人、中期防の総額は23兆4900億円でそれぞれ微減にとどまった。戦車が約600両から200両削減され、海上自衛隊の潜水艦は16隻から22隻態勢に増強するなどシフトが行われる。
輸送機や哨戒機の増強も必要だが、耐用年数の延長でやり繰りしているものも多い。監視活動の強化で飛行回数を増やすにも燃料費がかさむ。必要な装備や予算は確保すべきだ。


東京新聞 2010年12月18日
【社説】新防衛大綱 軍拡の口実を与えるな
新しい「防衛計画の大綱」は、機動性を重視する「動的防衛力」の概念を取り入れた。国際情勢の変化に応じた防衛力の見直しは必要だが、周辺国に軍拡の口実を与えることになってはならない。
動的防衛力は、日本に「力の空白」が生じて周辺地域の不安定要因とならないよう、全国に部隊を均等配置してきた「基盤的防衛力構想」に代わる概念。テロや離島への侵攻などに対処できる機動性や即応性を重視して、必ずしも均等配置にこだわらない考え方だ。
動的防衛力への転換は、一九七六年の最初の防衛大綱以来続いてきた日本の防衛政策を根本から変えることになる。
基盤的防衛力構想は、ソ連崩壊で脅威が薄れた後も北海道に戦車を重点配備するなど硬直化も指摘されてきた。中国の台頭など国際情勢の変化に応じて防衛力の在り方を見直すことは当然といえる。
一方、この構想は日本の防衛力整備を必要最小限にとどめる歯止めとなってきたのも事実だ。
新大綱に基づく新しい中期防衛力整備計画では、中国の海洋進出を念頭に、沖縄など南西地域の防衛体制強化を盛り込み、自衛隊の空白地帯だった離島にも部隊を新たに配置する方針を加えた。
国土防衛は自衛隊の任務ではあるが、これまで部隊を置いていなかった場所に配置するとなれば、中国が警戒感を強め、軍事力強化を促す「安全保障のジレンマ」に陥る可能性がないとはいえない。
地域の安定を目指すための新大綱が、不安定要因をつくり出すようなことになれば本末転倒だ。中国が新大綱を軍備拡張の口実としないように日本側の意図を説明するなど外交努力も必要だろう。
新大綱は、領土・経済権益をめぐる対立など武力紛争に至らない「グレーゾーン」の紛争への対応も想定する。しかし、憲法九条で許される自衛権の発動は「急迫不正の侵害」に限られており、自衛隊の運用は、海上保安庁など警察力が対応すべき領域にまで拡大されるべきではない。
新大綱は昨年策定される予定だったが、民主党への政権交代で一年間延期された。時間が十分あったにもかかわらず、国会での安全保障をめぐる論議は低調だった。
その結果、政府の有識者懇談会が八月にまとめた安全保障に関する報告書の考えをほぼ踏襲する形となった。シビリアンコントロール(文民統制)の観点から国会でのより深い論議が欠かせない。


2010年12月18日(土)「しんぶん赤旗」
主張:新「防衛大綱」 また海外でたたかうつもりか
菅直人民主党政権が閣議決定した「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」(「中期防」)は、平和を求める国民の願いに背を向け、危険な日米軍事同盟の強化と軍備増強をすすめる計画です。
自民党政権でさえ口にしてきた「専守防衛」などの原則を完全に空洞化し、北朝鮮や中国の「脅威」をあおりたて国内でも海外でも戦争に備える態勢を強めるもので、菅政権の危険な本質をうきぼりにしています。
戦争態勢づくりが加速
2011年以降の軍備増強の方針を定める「大綱」は「『基盤的防衛力構想』によることなく」、「『動的防衛力』を構築する」とのべています。自民党政権時代の「基盤的防衛力」構想は、自衛隊の役割を「日本防衛」に限定することを建前に、軍事同盟と軍拡を正当化してきたものです。新「大綱」がそれさえ投げ捨てるのは重大です。
「動的防衛力」構想は、必要に応じて自衛隊をどこにでも緊急展開できる体制にし、戦争に備えるというものです。北朝鮮や中国などの周辺諸国の軍事動向に対抗することを口実に軍備を増強し、自衛隊を自由に配備・運用することができるものとなっています。
先日来日した米統合参謀本部のマレン議長は、日米韓の「共同の即応体制を深める」と、米韓共同演習への参加などを求めましたが、「大綱」の内容がこうした言い分にそっていることは明らかです。
見過ごせないのは「大綱」が、日本の「南西地域」の軍事態勢強化の方針を持ち出していることです。沖縄の戦闘機部隊の強化や沖縄県与那国島などへの陸上自衛隊の配備、緊急時の部隊展開などが内容です。軍事一辺倒では逆に軍事緊張を高めることにしかなりません。北東アジアの平和にとってまさに有害無益です。
「動的防衛力」は「国際平和協力活動等」の役割を「能動的に果た(す)」ためでもあります。アメリカがイラクを侵略して始めた戦争のような場合に、時間をかけずに、素早く海外に派兵できるようにするのが狙いです。国連平和維持活動(PKO)参加5原則のあり方を「検討」するともいっています。海外での戦争態勢を強めるものでしかありません。
焦点となった「武器輸出三原則」見直しについては「大綱」にもりこまれなかったものの、国際共同開発・生産に参加する方策を「検討する」とのべています。海外への武器輸出をめざす方針に変わりがないことを示したものです。「武器輸出三原則」を突き崩し、日本を他国民の命を奪う「死の商人」国家にする企ては重大であり、こうした見直しや「検討」はきっぱりやめるべきです。
ムダの継続許されない
「大綱」と「中期防」はこうした軍備増強のために、5年間で総額23兆4900億円使うことをうたっています。年平均にすると4・7兆円です。今年度の軍事費に匹敵します。憲法の平和原則をふみにじりながら、国民に負担を押し付け、巨額の軍事費を出し続けるのは許されません。
いま日本がやるべきなのは、日本周辺の緊張を高める軍備増強をやめ、憲法9条にもとづく外交力を生かすことです。そのために、新「大綱」と「中期防」を撤回し、日米軍事同盟強化と軍拡の方針を根本から見直すべきです。

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