「ベターというのは(首相の)勘違いだ。県内(移設)はノーだ。バッドの世界だ」(仲井真弘多知事)
「もし辺野古に新たな基地ができなければ継続使用する、固定化するというのは脅しのように聞こえます」(宜野湾市の安里猛市長)
「学校移転発言 優先すべきは住民生活だ」 「安保の矛盾と“差別”直視を」「説得すべきは米国だ」(琉球新報)
この12月相次いで沖縄県を訪問し、普天間「県内移設」を迫った菅直人首相と前原誠司外相の発言への痛烈な批判だ。
東京新聞 2010年12月23日
【社説】菅内閣と沖縄 「甘受せよ」と迫る愚
菅直人首相と前原誠司外相が沖縄県を訪問し、普天間「県内移設」を迫った。実現が難しく負担軽減にもならない現行案を進める愚になぜ気付かぬか。
「安保の矛盾と“差別”直視を」「説得すべきは米国だ」(琉球新報)「辺野古推進の地固めか」(沖縄タイムス)
首相の沖縄訪問にあたって地元紙が掲載した社説の見出しだ。
米軍普天間飛行場の返還をめぐり、名護市辺野古への県内移設方針を変えようとしない政府と、国外・県外移設を求める沖縄県民との温度差が表れている。
◆「ベター」な選択か
首相は十七、十八両日、沖縄県を訪問した。就任直後の訪問以来、半年間も沖縄県民と真剣に向き合ってこなかった首相が、米軍基地の実情把握のために沖縄を訪問したことは、基地負担軽減に向けた第一歩になるはずだった。
しかし、首相は仲井真弘多知事との会談で「普天間の危険性除去を考えたときに、沖縄の皆さんにとって辺野古はベストの選択肢ではないが、実現可能性を考えたときにベターな選択肢ではないか」と、県内移設受け入れを迫った。
これに対し仲井真氏は会談後、記者団に「ベターというのは(首相の)勘違いだ。県内(移設)はノーだ。バッドの世界だ」と強い不快感を表明した。当然のことだろう。
仲井真氏は十一月の県知事選で、県内移設を条件付きで容認する立場を変え、「負担を全国で分かち合うべきだ」として県外移設を掲げて再選を果たしたばかりだ。
その仲井真氏に、公約に反する「県内移設」受け入れを迫る首相には、政治センスのなさを感じざるを得ない。前原氏も同様だ。首相、外相が続けて訪問して県内移設の受け入れを迫れば、県民感情を逆なでするだけではないか。
◆公約翻意の困難さ
今、沖縄から問い掛けられているのは、在日米軍基地の約75%が集中する沖縄に、新しい米軍基地を造ることの是非だ。
日米安全保障条約が日本に必要なら、その基地負担は「北海道から鹿児島までのヤマト」も等しく負うべきではないのか、と。
それをせずに、「代替の施設を決めない限り、普天間飛行場が返還されることはない」(二〇一〇年版防衛白書)として、県内移設受け入れを迫るのは「沖縄差別」ではないのか、と。
にもかかわらず、菅内閣は、こうした沖縄の問いに真正面から答えようとしていない。
仙谷由人官房長官は記者会見で「沖縄の方々には、誠に申し訳ないが、甘受していただくというか、お願いしたい」と述べた。
仲井真氏らの反発を受けて発言を「撤回」した形にはなっているものの、沖縄の基地負担は過剰だが、甘んじて受け入れてほしいというのが政権の本音だからだ。
県民が県外移設に転じた仲井真氏を再選させた以上、県内移設は極めて厳しくなった。仲井真氏が公約に反する形で、移設に必要な辺野古沖の公有水面埋め立てを許可することなどできない。
県内移設を進めようとしても実現せず、世界一危険と米側も認める普天間が結果として継続使用されるという最悪の結末を迎える。
首相はなぜ、その状況を率直に認め、新たな手を打たないのか。
あってはならないが普天間で再び事故が起きれば、米軍基地は地元住民の怒りに囲まれる。円滑で安定的な基地使用ができなくなれば、安保条約の運用に重大な影響が出るのではないか。それは日米両国にとってマイナスのはずだ。
日米両政府はまず、忘れ去られつつあるそうした危機意識を想起し、共有することから始めるべきだ。実現可能性の低い辺野古移設に固執せず、米軍基地や訓練の県外や国外への移転を再度、検討の俎上(そじょう)に載せてはどうだろう。
受け入れ先を見つけるのは困難な作業だが、日米安保が両国にとって死活的に重要だというのならその労苦を受け入れるに値する。
首相には、一歩踏み出して国外・県外移設を米側に提起する勇気を、日本国民と米政府には沖縄が背負ってきた過重な基地負担への想像力を求めたい。
◆コザの怒りは今も
四十年前の十二月二十日、コザ市(現沖縄市)で「コザ騒動」が起こった。米軍統治の「アメリカ世」で繰り返された圧政や人権侵害に怒った沖縄人が、実力を行使した唯一の大規模な民衆蜂起だ。
その後の本土復帰で「ヤマト世」に代わっても、米軍基地の重圧と、沖縄に基地を集中させる日米両政府の政策は変わらない。
「どうか小指の痛みは全身の痛みと感じ取ってください」
繰り返される沖縄の悲痛な叫びに、菅内閣も国民も、真剣に向き合うべきときが来ている。
2010年12月26日(日)「しんぶん赤旗」
沖縄脅す閣僚発言に県民怒り
「学校・病院移す 普天間は継続」
住民に「どけ」は通用しない 安全基準守れ 撤去こそ解決
前原誠司外相が21日に沖縄県を訪れ、米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古への「移設」が実現するまで同基地の「継続使用」と、「危険性除去」のため学校や病院など周辺施設の移転検討に言及、仙谷由人官房長官がこれを追認しました。県民の新たな怒りを呼んでいます。(青野圭)
(写真)米軍機墜落を想定して避難訓練をする普天間第二小学校の上空をかすめる米軍輸送機=6月、沖縄県宜野湾市
宜野湾市の安里猛市長は「もし辺野古に新たな基地ができなければ継続使用する、固定化するというのは脅しのように聞こえます」と不快感を示すとともに、「クリアゾーンの危険地域には3600人もが居住しており、学校や病院を移すだけでは『危険性の除去』になりません」といいます。
同市によると、基地周辺には市民9万人以上が居住し、120カ所以上の公共施設などがあります。フェンス1枚をはさんで、基地周辺には市民の日常の暮らしがあるのです。
協定は形骸化
米軍は、滑走路先端と延長線上の部分を、とくに危険だとして区域内の使用を禁じるクリアゾーンに設定しています。しかし、クリアゾーンには普天間第二小学校などの学校や保育所、病院など18もの公共施設、約800棟の住宅や民間施設があります。
安里市長は「『危険性の除去』というのであれば、まずは安全基準を守る。これまで取り決めた騒音防止協定(1996年)や飛行ルールを守ることが先決ではないか」と話します。
普天間基地爆音訴訟の控訴審判決(7月、福岡高裁那覇支部)も「騒音防止協定を遵守(じゅんしゅ)させ…るための適切な措置をとっておらず…形骸化していると言っても過言ではない」と断罪しました。
無法状態を放置しておいて、前原外相は21日の記者会見で「住民に『どけ』ということで、県民の理解を得られるのか」と質問され激高しましたが、理解など得られるはずがありません。
クリアゾーン付近に研究室がある鎌田隆・沖縄国際大名誉教授は政府の態度にあきれています。
「2004年、沖国大に米軍ヘリが墜落・炎上したときも、『基地のそばに大学をつくった方がおかしい』という倒錯した議論がありました。基地を前提にした発想です。危険な状況をつくり出したのは日米両政府なのに、それを棚上げして、あたかも学校の方が悪いと言わんばかりの逆転した議論だ。子どもたちの学ぶ権利など眼中にない」
実験の結果は
「危険性の除去」を名目に、普天間第二小学校を移転しようとする動きは、30年前からありました。
1977年に革新市政を倒して誕生した保守市政の時代。学校跡地を米軍が接収するとの条件で米軍住宅地への移転案まで出ましたが、結局破たんしました。移転先は大きな段差があり、用地買収に約30億円もかかることが分かりました。
「米軍基地が集中する宜野湾市で、移転など、そもそもできない話です」。日本共産党の元宜野湾市議、知念忠二さんは批判します。
「だからこそ撤去なのです。“二十数年前の実験”で不可能が証明されているにもかかわらず、再び持ち出してくる菅直人政権のやり方は、『新しい基地を造らせない』という沖縄の総意を踏みにじる暴挙以外の何物でもない」
このとき、市議会は自民党など保守勢力も含む全会一致で現在地での建て替えを決議。しかも、市民は文部省基準の3分の1しか学校用地がない現状を打開するため、米軍に迫り、基地用地を開放させたのです。「『危険性除去』の唯一、現実的な解決策が、市民側の移転などではなく、米軍基地の整理・縮小、撤去へと向かう道だということは“二十数年前の実験”で証明されています」と知念さん。
「前原発言は一大臣の思いつきなどではありません。少なくとも今年8月には、本土マスコミを巻き込んで“危険性除去のために移転すべき”だとのキャンペーンが展開されていました。民主党政権による日米同盟強化のキャンペーンの一環なのは明らかです」
クリアゾーン 土地利用禁止区域。航空機事故が起きる可能性が高いとして、米空軍、米海兵隊の飛行場安全基準で土地利用を禁じている区域。
沖縄タイムス 2010年12月23日 09時13分
社説:[沖縄詣で]表面の誠意その本意は
菅直人首相が来県したわずか3日後に今度は前原誠司外相が来県した。米軍普天間飛行場の移設問題について名護市辺野古への移設をお願いするためである。
普天間問題に対する政権の対応を例えて言えば、方向感覚を失った猛牛が、出口を求めてやみくもに壁に体当たりしているようなものだ。
菅首相も前原外相も「誠意あるお願い」(外務省幹部)をする相手を間違えている。
日本政府が今、頭を下げてお願いすべき相手は、沖縄県ではなく米国政府である。
沖縄の民意を踏まえて日米合意の見直しを米側に申し入れ、その上で、新たな協議を開始する。それが日米関係を修復するための近道だ。
普天間返還の日米合意から14年がたつというのに、なぜ、作業が進まないのか。自分たちの都合のいいように物事を解釈するのではなく、沖縄の真情を内在的に理解する努力が大切だ。
「沖縄戦」と「27年間にわたる米軍統治」。「復帰後も続く米軍基地の過重負担」。
戦後65年、これほど過酷な状況におかれ続けてきた地域は国内のどこにもない。
その沖縄に対して、民意の反対を押し切って、一方的に半永久的な米軍基地負担を求める。こんな理不尽なことが21世紀に許されていいのか。
もし自国民がそのような状況におかれたら、オバマ政権は断固としてこれを拒否するはずだ。
自分がやらないこと、嫌なことを、無理矢理、よそに押し付けるのは、植民地主義である。
前原外相は「県から要望があれば」、普天間第二小学校などの移転を検討する考えを明らかにした。
被害補償や危険性の除去は当然である。遅すぎるほどだ。ただし、普天間の固定化を前提にして周辺の公共施設を移転させるという発想は、問題がある。
自公政権の下で辺野古沿岸案が浮上した際、政府の中で、住民の集団移転が検討されたことがある。
政権交代後の2009年12月、平野博文官房長官(当時)は、普天間返還が実現するまでの危険性除去策として「極端な話、基地から地域住民の距離を離すなど、いろいろな方法がある」と、住民移転とも取れる発言をして宜野湾市民の猛反発を食らった。
「危険への接近」論も司法の場で明確に否定されている。基地の安定維持を優先し、住民生活を後回しにする発想は受け入れられない。
県の仲井真弘多知事は、22日の全国知事会議で、県外移設に向けた協力を要請し、基地負担軽減に関する検討会の設置を求めた。
本土からは基地問題が見えにくい。地位協定の中身も海兵隊の運用実態も、一般にはほとんど知られていない。
本土からもはっきり見えるように基地問題を「可視化」し、国民的レベルで議論することが大切である。
議論もなしに基地を沖縄に押し付け、それによってかろうじて維持されるような日米安保体制は、根本から問い直されるべきである。
沖縄タイムス 2010年12月17日 08時55分
社説:[拝啓 菅直人様]もっとあなたらしさを
市民運動出身で庶民派を自称する首相にはくだけた呼び名がふさわしいと思い、親しみを込めて「菅さん」と呼ばせていただきます。
菅さん。年の瀬も押し詰まったきょう17日、来県されるそうですね。沖縄では古来、島の外から訪れる客人を「マレビト(来訪神)」と称し、手厚く歓待する習わしがあります。
でも、今回は目的が今ひとつはっきりせず、島の人たちはみんな、不安を募らせています。「なんでね」という感じなのです。
「普天間飛行場について先の衆院選で県外、国外と言ったにもかかわらず、できなかった。県民に謝るべきところは謝り、辺野古移設が少なくとも今の普天間より危険性が少なくなることを説明したい」
菅さんが外務・防衛の優秀な官僚や「安保マフィア」と呼ばれるその道の専門家から日々、いろんな話を聞いているだろうことは想像にかたくありませんが、ちょっと待ってください。
国土面積の0・6%しかない沖縄県に半世紀以上も米軍基地の負担を負わせ続け、さらに今後も半永久的に犠牲を強いるようなことが許されるのでしょうか。
1996年、薬害エイズ事件の全容解明に立ち向かった時のことを思い起こしてください。事件を隠そうと抵抗する厚生省の官僚をしかり飛ばして資料を提出させ、患者たちに謝罪し、救済の道を開いた時のことを。あの時、菅さんが示した正義感と行動力を私たちは今でも鮮明に覚えています。
米軍基地を受け入れるのは誰でも嫌です。仙谷由人官房長官も「私の(出身の)徳島県を含め自分のところで引き受けようという議論は国民的に出ていない」と本音を明かしました。普天間をどこへ持って行こうかという議論はそもそも無理な話だったのでしょう。
過去14年も県内移設を追求した自民県連、公明県本のいずれもいまは考えを変え、沖縄で移転先を求めることをやめました。
16日付朝日新聞朝刊に掲載された世論調査の記事はお読みになったと思います。
日米合意について「見直して米国と再交渉する」が59%、「そのまま進める」は30%でした。沖縄県内だけでなく、全国の世論が確実に変わりつつあるのです。
そろそろ、発想の転換が必要ではないでしょうか。
そのような状況で日米合意の実現を目指すならば、前任の鳩山由紀夫氏と同じように迷路から抜け出せなくなります。
手土産論も出ていますが、基地と振興策をリンクさせ、「どうか(基地を)甘受していただきたい」と語るのだけは、どうかやめてください。
東アジアに目を向けると、中国、台湾の経済交流は不可逆的に拡大し、アセアンを含め新たなフロンティアが広がっています。たった一つの基地問題に翻弄(ほんろう)される総理ではなく、21世紀にふさわしい将来ビジョンを私たちは待ち望んでいます。
琉球新報 2010年12月23日
社説:学校移転発言 優先すべきは住民生活だ
平穏な生活を求める県民の思いを全く取り違えている。本末転倒も甚だしい発言だ。
来県した前原誠司外相は、米軍普天間飛行場移設問題に関連し、移設までの間の危険性除去対策として県が要望すれば、学校など周辺施設の移転を政府は検討する旨の発言をした。
これは「基地があるから、周辺住民は出て行け」と言っているのに等しい。基地優先の姿勢をあらわにしたものだ。
学校や病院などを移転させることでは、何ら根本的な解決には結び付かない。
前原外相は「移設先を決めるまでは普天間飛行場が使用され続けることになる。万が一、事故が起きた場合、被害を最小限にするため」と、学校、病院などの移設理由を挙げている。
米軍事故で「市民の多少の犠牲もやむなし」とも聞こえる。そもそも住民生活から遠く離れた場所に、学校や病院を移転すること自体が矛盾した発想だ。
通学や通院の不便が日常化し、基地の危険性も放置される。全く話にならない。
普天間移設が行き詰まった場合、政府は「学校や病院などを移転しているから、危険性は小さくなった。だから移設なしでも構わない」と、固定化を押し付ける論理にもなりかねない。
安里猛宜野湾市長が言うようにまず、米軍に日米間で取り決めた騒音防止協定や飛行ルートを守らせ、安全基準を満たすべきだ。
市の度重なる要望にかかわらず、騒音防止協定、飛行ルートを守らないで、好き勝手に基地の運用を続けている現状を見ると、政府がそれを米側に徹底して申し入れているのか、疑問だ。
住民生活の平穏を守るため、やるべきことをやらず、唐突に基地周辺施設の移転を口にしても県民の理解など得られるはずはない。
菅直人首相、前原外相に対し、仲井真弘多知事は普天間移設先を名護市辺野古とした日米合意見直しを求め、県外移設を申し入れた。
危険な普天間飛行場は県外に移設せよというのが沖縄の民意だ。それは県民大会や県知事選などを通じて何度も示されている。
菅首相、前原外相はじめ政府は、なぜ沖縄の声に耳を傾けようとしないのか。
優先すべきは住民生活で、移転し撤去すべきは危険な基地だ。
琉球新報 2010年12月22日
社説:前原外相来県 何のかんばせあって沖縄に
前原誠司外相が21日に沖縄入りし仲井真弘多知事と会談、米軍普天間飛行場の県外移設を実現できなかったとして、この間の対応をわびた上で、辺野古移設を盛り込んだ日米合意に理解を求めた。
県民の大多数は県外・国外移設、もしくは無条件返還を求めており、仲井真知事も「日米共同声明を見直し、県外移設を求める」と知事選で公約した。「辺野古がベター」と強弁する菅直人首相に、県内は無理と伝えたばかりだ。誰が何度来たところで答えが変わるはずもない。
1961年6月、琉球政府立法院議員だった平良幸市氏(後の県知事)は、米軍施政下の理不尽な状況を踏まえ、沖縄訪問国会議員団に対し「何のかんばせ(顔)あって(沖縄住民に)相まみえんや、というお気持ちから、(議員団は)恐らくおいでになるまいという声もあった」「靴で足を踏まれながら握手を求められても素直に受け取れない」と不満を示した。
およそ半世紀たった今も沖縄の置かれた立場はほとんど変わっていない。菅首相、前原外相にも同じ言葉が当てはまろう。
民主党は「最低でも県外」という前代表の公約を一方的に破棄し「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」とする2009年衆院選の政権公約(マニフェスト)もほごにした。首相や外相がいくら甘言を弄(ろう)したところで、信用する人がどれだけいるのか。
09年衆院選、10年参院選の政権公約は「日米地位協定改定の提起」も掲げたが、いまだに日本政府が米国に協定の見直しを申し入れた形跡はない。
それどころか、岡田克也幹事長は外相在任中の今年8月、普天間飛行場の移設のめどがつかない段階では地位協定の改定を求める対米交渉に入れないとの考えを示している。
マニフェストは政権政党が責任をもって実行する政策であるはずだが、現実には「絵に描いたもち」以下だ。
基地問題の解決に期待して民主党に1票を投じた有権者から見れば、詐欺に遭ったに等しい。
前原外相に望むのはただ一つ。約束を守ることだ。
沖縄で時間をつぶしている暇はない。直ちに訪米し、不平等な日米地位協定の見直しはもちろん、普天間飛行場の県外・国外移設を強く求めてほしい。
琉球新報 2010年12月18日
社説 :首相・知事会談 説得すべきは米国だ
「普天間基地は県外に」という仲井真弘多知事に、菅直人首相は辺野古移設容認を迫った。
会談が平行線のまま終わったのは当然だ。民意に背を向け聞く耳を持たない政治とは何だろうか。
会談が行われた県庁の前には「(日米合意を)撤回せよ」と書いたプラカードを持った人が大勢集まり「帰れコール」を繰り返した。多くの県民も同じ気持ちだろう。
米軍と一口に言っても、陸、海、空、海兵隊と4軍ある。その全てを県外にと要望しているのではない。4軍の一つ海兵隊の危険な普天間基地を県外に、と言っているだけなのだ。沖縄には在日米軍基地の74%が集中している。普天間基地が県外移転したとしても、集中度が72%に下がるだけだ。
米兵による犯罪も後を絶たない。戦闘機による騒音も日常だ。嘉手納基地近くの嘉手納中学校から、エンジン調整に伴う騒音と悪臭被害の軽減を求める陳情書が町議会に提出され、全会一致で採択されたばかりだ。日米共同統合演習では、PAC3を載せた軍用トラックが通告のないまま公道を走った。基地がもたらす被害について、仲井真知事は、もっと言いたかっただろうが、普天間の県外と地位協定の改定に絞って要請した。
菅首相は、地位協定改定には触れず「県外、国外が結果として実現できず、申し訳なく思う」と謝罪した。しかし、米国と話し合いはしたのか、沖縄以外の自治体にどう働き掛けたのか、県外移転へどこまで本気で取り組んだのか示さず「辺野古移設がベターな選択」と日米合意の推進をあらためて表明した。
仲井真知事が不快感を示したように県内移設はベターではなくバッドだ。新しい基地を造ってしまえば、簡単には撤去できない。半永久的に海兵隊の基地を置くということだ。「(基地負担を)日本全体として受け止めなければならない」と菅首相は言うが、県内移設が決まった後に、日本全体でどう受け止めるのか。嘉手納基地やほかの基地を引き受けるのか。
普天間移設について菅首相は「強引に進めるつもりはない。しっかり誠意を持って話し合う」と強調したが、時間がたてば、容認に変わると思っているとしたら大間違いだ。沖縄を説得する誠意とエネルギーは、米国に向けて使うべきだ。
琉球新報 2010年12月17日
社説:菅首相来県 安保の矛盾と“差別”直視を
菅直人首相が今日、来県する。
これほど来県を歓迎されない首相も珍しい。おそらく、前任の鳩山由紀夫首相より不評度は高い。
答えは、はっきりしている。県民の総意、民意に背く施策を押し付けるための来県だからである。
それでも、せっかくの来県だ。在日米軍専用施設の74%が集中し、被害を多発させる在沖米軍基地の実態を体感し、県民の犠牲の上にある「日米安保」の矛盾をしっかりと直視してほしい。
その上で、首相自ら率先し促進する移設に名を借りた「辺野古新基地建設」が、県民に新たな基地被害と負担を強いる「沖縄差別」であることを認識してもらいたい。
来県する首相に、問いたい質問が山ほどある。米軍普天間飛行場はなぜ「返還」が合意されたのか。なぜ「移設条件」が付き、なぜ移設先は「辺野古沖」なのか。
新基地建設で、なぜ嘉手納基地より南の基地が返還されるのか。
普天間移設と海兵隊のグアム移転は、なぜセットなのか。
在沖米海兵隊の現在の兵員数は何人で、グアムに移転する海兵隊員数はなぜ8千人で、家族数は、なぜ9千人で、沖縄には何人の海兵隊員が残るのか。
「沖縄の負担軽減」を強調しながら、なぜ墜落事故を多発する欠陥機・垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの普天間配備を許すのか。
いずれも当初の目的が忘れられ、根拠のない数字が闊歩(かっぽ)し、矛盾と危険性が再三指摘される内容だ。
県内では普天間問題は「内閣が代わる」か「政権交代」しない限り解決できないとの見方が大勢だ。
問題解決に命を懸ける政治家の不在、普天間を本気で動かせる県知事や国会議員の不在、米国政府や米軍内に普天間を動かす本気度の欠落、移設に必要な新基地建設のアセスなど手続きの手詰まりなど政治の無策ぶりが、その理由だ。
民主党政権の普天間問題をめぐる一連の「迷走」で、県内の新基地建設に対する反対運動は激化し、全国が移設を拒否する中での「辺野古回帰」に「沖縄差別」の批判も噴き出している。
県民の民主党政権への不信感は根深い。その解消策もないまま、民意無視の来県である。安保の重要性を認める本土各県が、なぜ海兵隊の受け入れを拒むのか。せめてその答えぐらいは持参してほしい。
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