2011年5月10日火曜日

外交公電暴露/政府に交渉の資格なし 許せぬ はじめから裏切っていた

「普天間飛行場の移転問題をめぐる日米両政府のやりとりが暴露された。
米高官におもねる日本の政治家と官僚たちがいる。
日米交渉の舞台裏では、国民との約束より米政府の意向に沿おうとする外交が貫かれる。」
(沖縄タイムス)

はじめから、国民を裏切っていた。

各紙社説
朝日新聞)ウィキ米公電―日本外交の病理あらわ(5/5)
沖縄タイムス) [普天間秘密公電]米におもねる日本外交(5/7)
琉球新報)外交公電暴露/政府に交渉の資格なし 体制一新し仕切り直しを(5/5)
北海道新聞)米外交公電 日本政府はまず説明を(5/8)




朝日新聞 2011年5月5日(木)付 
社説:ウィキ米公電―日本外交の病理あらわ
 ふつうは25年間とか一定期間を経て、審査の上で公開される政府の内部文書が、同時進行的に表に出る。アフガニスタン戦争や米外交をめぐり、衝撃的事実を明らかにしてきた内部告発サイト「ウィキリークス」の波が、日本外交に及んだ。
 朝日新聞社が同サイトから提供を受けた7千点近い米外交公電は、主に2006年から10年初頭までの日米関係の裏面に光を当てている。自民党政権末期から、民主党の鳩山由紀夫政権時代にかけての時期である。
 米軍普天間飛行場移設先として「最低でも県外」と公約していた鳩山政権は、09年末から10年初めにかけ、代替案がうまくいかないなら現行案通り進めると米側にひそかに伝えていた。鳩山首相が方針撤回を明言する半年前である。
 外交交渉はすべてを公開できるものではないが、大方針を偽るのは国民への裏切りであり、許されることではあるまい。
 民主党政権の発足直後、外務・防衛官僚は、米側に「あまり早期に柔軟さを見せるべきではない」などと助言していた。
 異論があれば、まず自国の政権に意見を具申するのが筋だろう。交渉相手と裏で通じて新政権に対処しようというのでは、官僚の役割をはき違えている。
 不明朗な動きは、民主党政権だけではない。自公政権時代にも、米海兵隊のグアム移転の関連費用について、日本側の負担割合を見かけ上減らすために、関連費用を水増しすることを日米間で認めていた。
 すぐさま公開を予定した文書ではない分、内容は赤裸々だ。米国の解釈であり、米側に都合の悪いことは隠されているかもしれない。しかし、片言にとらわれずに全体を読めば、日本外交の病理ともいうべき体質があらわに浮かび上がる。
 それは、政治家や官僚が既定方針や自分たちの利害を守るために、その場しのぎの対応を繰り返していたということだ。
 何が国民の利益かを考える一貫した視座は、そこにはない。強いていえば、すべてを貫くのは対米配慮である。
 しかも、お互いに不信を抱えている日本側のプレーヤーたちが、米当局者に対しては比較的あけすけに内情を話している。驚きを超えてあきれてしまう。
 寒々しい風景だが、これが私たちの現在位置ならば、それを直視することから、外交を立て直さねばなるまい。民主党政権や外交当局、自民党はこの公電に描かれた現況をどう見るのか。まずはそこから議論を始める必要がある。

沖縄タイムス 2011年5月7日 09時33分
社説:[普天間秘密公電]米におもねる日本外交
政治
 普天間飛行場の移転問題をめぐる日米両政府のやりとりが暴露された。米高官におもねる日本の政治家と官僚たちがいる。日米交渉の舞台裏では、国民との約束より米政府の意向に沿おうとする外交が貫かれる。
 明らかになった公電は、政権交代後の普天間問題をめぐり、民主党幹部や外務・防衛官僚が米政府担当者らに語った内容だ。ワシントンなどに報告されている。
 「最低でも県外」と公約した鳩山由紀夫前首相が就任した直後に政府高官らは米担当者に名護市辺野古の現行案推進を伝えている。公約と真逆の裏交渉を進めるやり方は、国民不在もはなはだしい。
 沖縄の民意は取るに足らない、というニュアンスも公電に読み取れる。それが日本政府の沖縄政策なのか。
 公電によると、長島昭久防衛政務官(当時)は2009年10月12日、キャンベル国務次官補らと会談した際、北沢俊美防衛大臣が普天間を名護市辺野古へ移設する現行案を支持している、と説明した。
 その直後に長島氏がいない昼食会で、高見沢将林防衛政策局長は「長島氏は省内会議で現行案に厳しく質問する。民主党政権が喜ぶような柔軟な姿勢をあまり早期に見せるべきではない」とキャンベル氏らにアドバイスした。
 首相公約を無視して防衛政務官が「現行案支持」を耳打ちすると、官僚は裏で「譲歩するな」と米側に強行路線を促す。
 米国には、意思のない同盟国に映るはずだ。
 公電に見る対米交渉はひとつの断片にすぎないだろうが、政策を決めて、外交で駆け引きできる国ではないことをあらためて思い知る。
 そんな政策不在を嘆く以上に沖縄にとって深刻なのは、政権交代後も沖縄の民意を無視しても県内移設を進めるという意向が米側に繰り返し伝えられていることだ。
 山岡賢次国対委員長(当時)は09年12月、東京の米大使館担当者と会い、「沖縄の政治は反対のための反対」「もしその民意が尊重されたら何も進まない」と述べ、政府が方針を決めれば沖縄の政治問題は取るに足らないとの見解を示した。翌月の名護市長選を意識した発言だった。
 同市長選の直後、松野頼久官房副長官(当時)は米大使館担当者に、「鳩山政権と沖縄側との作業部会が県外を模索するのは『形の上だけ』」「安保は一地域の政治に左右されない」と語った。
 政府が沖縄に向ける冷徹な素顔だ。
 しかし私たちが問うのは基地配置は外交・防衛問題かどうかだ。なぜ海兵隊の本土配備は検討されないのか。
 ラムズフェルド前国防長官は本紙インタビューで、基地提供は日本の国内問題だと言明した。海兵隊駐留の必要性を国民に説明し、その配置先を国内で調整すればいい。
 政策を持ち得ない政治家と官僚が互いにけん制し合いながら、米担当者には進んで本音を明かしている。
 沖縄問題を取り巻く環境は極めて厳しい。


琉球新報 2011年5月5日     
社説:外交公電暴露/政府に交渉の資格なし 体制一新し仕切り直しを
 内部告発サイト・ウィキリークスが日米関係に関する米外交公電を暴露した。結果、浮かび上がったのは、日本政府には外交交渉の能力も資格もないということだ。
 米軍普天間飛行場をめぐる2009年10月12日の日米協議が象徴的だ。移設先について「最低でも県外」と述べた鳩山由紀夫氏が首相に就いて初の正式交渉だったが、この場で防衛省の高見沢将林防衛政策局長は「米政府はあまり早計に柔軟さを見せるべきではない」と述べている。
 しかも長島昭久防衛政務官が席を外した場でのことだ。選挙の洗礼を経た政治家を飛び越え、官僚が、有権者から託された民意と正反対のことを述べている。
官僚益が民意に優先
 同じ年の12月、国連代表部参事官ら外務官僚が米側に話した内容はもっと直接的だ。「米政府は民主党政権に対し過度に妥協的であるべきではなく(辺野古移設を定めた)ロードマップについて譲歩の意思があると誤解される危険を冒すべきでない」と述べている。
 移設先見直しを掲げた政党を、自国の国民が選んだ。これから日米双方がそれぞれの国益を追求し、ぎりぎりの交渉が始まる。そんな局面で、身内の外務官僚が米側に「妥協するな」と言うとは、「利敵行為」も甚だしい。
 民主党の政権獲得間違いなし、といわれたその年の総選挙直前、日米両政府は辺野古移設をあらためてうたうグアム移転協定を交わした。在日米大使館はこう記す。「日本側当局者の考えでは、協定締結で、政権交代があっても日本側のロードマップへの関与は揺るぎないものとなる」。つまり交代後の政権に足かせをはめるのが狙いだと官僚が言っているのだ。
 移設先変更をなぜ官僚が妨害するのか。考えられるのは、官僚の自己保身である。
 政府が従来、説明してきた「移設先は沖縄県内しかない」という結論がひっくり返されると、交渉に当たってきた官僚の無能ぶりが明らかになる。それを恐れたが故の言動。そう捉えるのは、うがち過ぎだろうか。
 いずれにせよ政治家よりも政治家に託した有権者の民意よりも、官僚益が優先することになる。まるで官僚が統制する全体主義国家だ。
 日本は民主主義国のはずだ。民意を実現しようとせず、他国にこびへつらうばかりの官僚たちは、外交交渉に適格性を欠くと言わざるを得ない。
 一方、政治家たちのありようにも疑問が湧く。
 09年12月、前原誠司外相(当時)は米大使にこう述べた。「代替案に米国が賛成しなければ、民主党は現行の再編計画を進め、必要なら黄金連休後に連立を解消する用意がある」。本格的な、丁々発止の激しい交渉もせず、新たな案の提示すらする前に、現行案が結論と早々と示す。外交的敗北は明らか、それも不戦敗に等しい。何と拙劣な交渉だろうか。
「県外」はポーズ
 翌月には松野頼久官房副長官(当時)が米公使にこう話す。「鳩山首相と(日米閣僚級)作業部会は、形の上だけは『県外』を検討しなければならないが、唯一現実的な選択肢は、キャンプ・シュワブか、ほかの(県内の)既存施設に移すことだ」。
 国民の見えないところで「県外」はポーズにすぎないと相手にこっそり伝える。何と醜悪な姿だろう。他国にこびるあまり、自国の国民を平然と裏切る人間に、外交交渉をする資格などない。
 民主党だけではない。自民党の政治家も同様だ。公電によると、07年、小池百合子防衛相(当時)は辺野古移設案の滑走路沖合移動を仲井真弘多知事に約束した。メア在沖米総領事(同)がただすと、「09年には違う政権ができているから、われわれが(知事に)何を約束したかは問題にならない」と返答したとされる。
 後世に責任を負わない無責任な言動だ。小池氏がどう申し開きしようと、相手にそう受け取られ、本国に打電された段階で失格だと言えよう。
 文書に登場する官僚や政治家たちに外交交渉を任せ続けるとどうなるか。この国は事実上、米国の属国として世界史に刻まれるのではないか。21世紀に持続可能な日米関係の構築は、もはや彼らには任せられない。今後の交渉は外務・防衛官僚も政治家も一新して仕切り直すべきだ。

北海道新聞 2011年5月8日
社説:米外交公電 日本政府はまず説明を(5月8日)
 これが事実だとすれば看過できない。
 内部告発サイト「ウィキリークス」が公表した米外交公電である。沖縄の米軍普天間基地移設に絡む海兵隊のグアム移転費用が水増しされていたなどという内容だ。
 菅直人首相はこれらの公電について「コメントすべきでない」としている。しかし、国民の税金の使われ方に関わる問題だ。日米両政府には、しっかりとした説明を求めたい。
 問題の公電によると、2006年4月の日米交渉で、必要のないグアムでの道路建設費10億ドル(約800億円)が再編費用に盛り込まれた。
 さらに海兵隊員の移転対象は定数1万8千人のうち8千人とされたが、実際は大きく定数割れしており、移転の実数もこれを下回るという。
 このような水増しが行われていたならゆゆしきことだ。
 当時日米間ではグアム移転費用の負担割合が焦点となっていた。92億ドルだった総額が10億ドルの水増しにより日本側の「負担比率」は66%から60%以下に抑えられる。日本国内の反発をかわす意図が透けて見える。
 海兵隊の移転人員水増しは辺野古移設に強く抵抗する沖縄の負担軽減をアピールする狙いがあったのだろうが、まやかしは認められない。
 この日米合意は自民、公明両党の連立政権下で結ばれた。国民の目を欺く形で普天間基地の移設を進めようとしていたのであれば、合意の正当性そのものが疑われる。自公両党は公電の真偽を明確にすべきだ。
 民主党の責任も大きい。自公政権の不透明な政治を変えることが、政権交代の大義だったはずだ。自ら調査に乗り出すべきだ。
 もう一つ見逃せないのは、鳩山由紀夫前首相が米側に示した辺野古移設案についての姿勢である。
 鳩山氏は「県外移設」を前面に出すことで沖縄県民だけでなく全国の有権者の支持を集めた。ところが公電によると、国内には「県外」と言い続けながら、米側には新たな移設先が見つからなければ辺野古移設案に立ち戻ると確認していたという。
 鳩山氏は事実関係を否定しているが、結局、辺野古移設を明記した日米共同声明で決着した。これでは二枚舌と言われても仕方あるまい。
 いま日米間では、近く開かれる外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)に向けて、滑走路の形状などを含め移設計画の最終調整が行われている。
 だが肝心の日米合意の土台が揺らぐようでは、沖縄はもとより国民の信頼はとても得られない。首相は事実関係について明らかにすべきだ。国会で日米合意の経緯を徹底的に検証することも必要である。


=2011/05/08付 西日本新聞朝刊=
社説:海兵隊移転費 返還「密約」と同じ構図だ
 暴露された米公電が事実だとすれば、国民に「ウソ」の説明をして協定を結んだ40年前の沖縄返還交渉時の「密約」と同じ構図である。
 日米両政府が2006年5月に合意した在沖縄米海兵隊のグアム移転計画作成時に、日本側の費用負担比率を実際より低く見せるため、移転費総額を「水増し」していた、というのである。両政府とも、この措置を了承していたという。
 告発サイト「ウィキリークス」が公表した、08年12月に在日米大使館が米国務省に宛てた公電で明らかになった。
 海兵隊グアム移転計画について、公電はこう述べている。移転計画に盛り込まれたグアムの軍用道路建設は「絶対的に必要なものとは考えていない」。
 そして、建設費10億ドル(800億円)を計上した理由について「移転費用全体を膨らませることで、日本の負担比率を減らすことができる」と報告している。
 直接的な表現こそないが、日本の国内事情を考慮し、日本側が受け入れやすいように日本の負担比率を下げる必要があった。そのために、必要でない道路建設費を計上したということだろう。
 日本側が日米交渉で合意した負担額は61億ドル(4800億円)だ。当初計画された移転費総額92億ドル(7360億円)の約3分の2に上る。
 しかも、国内の米軍施設の整備費の負担ではない。同盟国の米軍用とはいえ、海外の外国軍施設の整備費用を日本が負担する法的根拠はない。
 その費用の3分の2も負担するのでは国民の理解は得られまい。当時の自公政権は、そう判断したのだろう。
 総額を10億ドル水増しすることで、日本側の負担を59%に抑えたうえで、09年2月に費用負担割合に関する異例の政府間協定まで結び、政権交代直前の国会審議で協定承認案を衆院で可決した。
 政府間で協定を締結して法的不備を補ったつもりだろうが、姑息(こそく)である。
 百歩譲って、移転費水増しや協定締結が、沖縄の基地負担軽減促進に欠かせない「同盟の対価」だったとしても、巨額の税金支出である。政府は国民に実態を説明し、理解を求める必要がある。
 負担額の算定根拠も示さず、日米の負担割合を定めた協定が先行する不明朗さに、私たちが2年前、繰り返し異議を唱えたのも今回、暴露されたような「密約」があり得ることを危惧したからだ。
 海兵隊のグアム移転をめぐり、米公電で明らかになった「水増し」は移転費用だけではない。
 移転対象の海兵隊員についても、公式に説明されている兵員8千人と家族9千人は実数でなく「日本での政治的効果を上げるための上限を示した」ものであることも明らかになった。
 自公政権時代の「密約」ではあろうが、引き継いだ民主党政権は、実態を知る外務省に事実を説明させる必要がある。怠れば、国民の外交不信がまた募る。


1 件のコメント:

ビジネスマナー さんのコメント...

とても魅力的な記事でした!!
また遊びにきます。
ありがとうございます!!