2011年8月9日火曜日

米国債格下げ―世界同時株安 

読売)米国債格下げ 市場の動揺防ぐ財政再建策を (8/7)
毎日)世界同時株安 試される政治の解決力 (8/7)
日経)米国債格下げは「政治」に対する警鐘だ (8/7)

朝日)米債務問題―対岸の火事ではない(8/3)




(2011年8月7日01時17分  読売新聞)
米国債格下げ 市場の動揺防ぐ財政再建策を(8月7日付・読売社説)
世界で最上級だった米国債の格付けが、史上初めて引き下げられた。
“格下げショック”を受け、週明け以降、世界同時株安や、ドル安に拍車がかかりかねない。市場の動揺を食い止めるには、米国の着実な財政再建策が不可欠である。
米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5日、米国の長期国債格付けを最上級の「AAA(トリプルA)」から、「AA(ダブルA)プラス」に1段階引き下げた。
S&Pは国債格下げの理由として、「中期的な財政安定化が不十分」と指摘している。
オバマ大統領と与野党は、政府の借金枠である債務上限の引き上げと財政再建で合意し、10年間で2・4兆ドルの赤字削減を柱にした予算管理法が2日に成立した。
しかし、具体的な赤字削減策を巡る主張の隔たりは大きく、削減幅も大統領の当初案だった3兆~4兆ドルに比べて小さい。S&Pはこうした状況を評価し、格下げを決めたと言えよう。
米国政府は格下げに反論したが、予算管理法の実効性が厳しく問われている。
大統領と与野党は歳出カットと増税を含めた協議を加速し、市場の信認を得られるような財政再建の方策を打ち出すべきだ。
一方、今回の格下げが、世界の金融市場に与える悪影響を懸念せざるを得ない。
米欧経済の減速をきっかけに、ニューヨーク株式市場の平均株価は4日、500ドル超も急落し、5日も乱高下した。欧州や日本などアジア市場でも、軒並み、株価が全面安となった。
外国為替市場では、政府・日銀の円売り介入で超円高にいったんブレーキがかかったが、再び、ドル安圧力が強まっている。
国債格下げでドルに対する信認がさらに揺らぐと、債券市場を含めた混乱は避けられまい。
日本は中国に次ぐ世界2位の米国債の保有国だ。国債下落の影響にも注意する必要がある。
当面の焦点は、米連邦準備制度理事会(FRB)が9日開く会合で、景気てこ入れのため、追加緩和策に踏み切るかどうかだ。
財政赤字を抱えた政府は景気刺激策に動きにくく、FRBに期待する声は強い。ただ、追加緩和策は円高ドル安を誘導し、日本には厳しい展開も予想される。
世界経済は、主要国の結束で金融危機を克服した後、景気拡大を続けてきた。危機の再燃を防ぐ連携が改めて求められよう。


毎日新聞 2011年8月7日 2時31分
社説:世界同時株安 試される政治の解決力
一難去ってまた一難、か。
米議会による政府債務の上限引き上げが何とか期限に間に合い、米国発の「金融危機第2弾」が回避できた、と思いきや、世界の株式・金融市場が動揺を始めた。さらに、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の格付けを最高位の「トリプルA」から1段階引き下げた。金融史上「想定外」だった事態が現実のものとなったわけで、影響が心配される。
手遅れになる前に、日米欧など主要国は結束し、世界的な不安の連鎖を食い止めねばならない。
今回の世界同時株安は、米経済の先行きについて悲観論が広がったことが大きな要因だ。4~6月期の国内総生産など、景気減速を示す内容の統計が重なった。加えて、債務上限引き上げとセットで決まった「10年間に約2・5兆ドルの財政赤字削減」により、「もはや財政出動は望めない」との失望が広がった。
深刻なのは、政治家の指導力、問題解決力に市場参加者が不信を強め、それが不安を増長させている点だ。米国では、債務不履行を回避したとはいえ、文字通り期限ぎりぎりの危うい決着だった。しかも、財政改善策は全部を詰め切れずかなりの部分を先送りした。不測の事態が起きた時、迅速に対処する意思や能力があるのか、との疑念を植え付ける結果になった。このことはS&Pの格下げでも重要な判断材料となっている。一難が次の難を呼んだ形だ。
政治の解決力の弱さは欧州でも露呈した。ギリシャ危機に始まったユーロ加盟国の財政問題では、政治の対応が常に後手に回り、救済策がまとまっても結局は時間稼ぎの内容で、事態の深刻化が続いている。単一通貨構想の中核国であり、経済規模も域内最大であるドイツの及び腰が特に批判されている。
日本はどうだろう。幸か不幸か、最近の円高が示すように、日本の問題は今のところ「世界の心配事」の圏外にある。だが、安心できない。
国の債務の規模が先進国中、最悪でありながら、財政健全化の道筋は不確かなままだ。東日本大震災の復興にしても、今後5年間で19兆円を投じる政府方針は決めながら、財源の結論は先送りした。政治の決断を要する課題は山積だというのに、永田町の関心はもっぱら首相の退陣時期である。このままでは、日本国債の格下げも免れないのではないか。
「日本売り」を招いておかしくない理由がいくつもある以上、市場の注目を浴びていない今のうちに、庭先の掃除を急ぐ必要がある。注目されてからでは、苦痛が何倍にもなるということを、欧州の例で目の当たりにしたのだから。


日経新聞 2011/8/7付
社説:米国債格下げは「政治」に対する警鐘だ
米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、米国債の長期格付けを最上位の「トリプルA」から1段階下の「ダブルAプラス」へと、初めて引き下げた。
1971年のニクソン・ショックでドルと金の交換が停止された後も米国が世界のお金を引きつけてきたのは、国の信用が高かったからだ。しかし、2008年のリーマン・ショックで米国の金融システムへの信頼が大きく低下した。さらに今回、米国債の格付けは英独仏の国債を下回ることになり、世界で最も安全な金融資産とは言えなくなる。
米国債格下げは、ドルという基軸通貨を持つ国への信用の揺らぎを象徴する出来事だ。それと同時に、世界の金融市場で「リスクがほとんどない」とみなされる投資対象がなくなりつつある状況も示している。
格下げ後も、米国債は最も流動性に富んだ投資対象であることに変わりはない。投資資金が一斉に逃げ出して米国債が暴落し、長期金利が急騰するといった事態は考えにくいだろう。とはいえ、世界の金融システムは不安定さを増す可能性がある。
欧州では英仏などトリプルAの信用力を維持する国の銀行が、格付けの下がったギリシャ国債の処理で損失を計上している。資産内容への疑心暗鬼から、銀行間で短期資金を調達する金利も高くなってきた。
こうした欧州発の不安が景気減速の懸念が強まる米国にも飛び火して増幅され、円高・ドル安が進み、世界の株価が大幅に下落した。市場の不安が続けば、実体経済にも悪影響が及びかねない。
S&Pは米国債格下げにあたって「連邦政府の債務上限引き上げをめぐる政治駆け引きは、政策立案の実効性や安定性、予見可能性が弱まっていることを示す」と指摘した。
財政危機の抜本的解決を先送りする政治の姿勢は欧米に共通する。欧州ではギリシャなどの本格救済にドイツが消極的。米国では連邦債務の上限を引き上げる一方、財政赤字を削減する法律が成立したが、増税や給付削減をめぐる民主党と共和党の考え方の隔たりは大きく、赤字削減の具体的な道筋はなお不透明だ。
まず政府が財政再建に真剣に取り組む覚悟を見せる必要がある。そして野党も含めた超党派での問題解決を明確にしないと、金融市場からの信認を回復するのは難しい。
米国債格下げが提起したのは、政治のあり方の問題だ。それはバブル崩壊後に構造改革の先送りを続け、欧米よりもはるかに財政状態が劣化した日本への警鐘でもある。



朝日新聞 2011年8月3日(水)付
社説:米債務問題―対岸の火事ではない
世界経済への影響が懸念されていた米政府の債務上限引き上げ問題は、資金繰りが限界に達する寸前に妥協が成立し、債務不履行(デフォルト)の危機は回避された。
ただ、財政再建の中身は不十分で、米国債が最上位のトリプルAから格下げされる可能性が残る。一部の格付け会社が「本格的な財政再建策が必要」という姿勢をとっているからだ。
オバマ大統領と議会指導部は財政再建策をさらに充実させる努力を続けてほしい。
2日に成立する見込みの妥協案は、財政赤字を今後10年で2.4兆ドル削減し、債務上限は2012年末までを賄える2.1兆ドル幅引き上げる。
赤字削減は当面0.9兆ドルを実施し、残り1.5兆ドル分は超党派の委員会を設けて11月までに内容を固める。今回は先送りした増税や社会保障関連の削減など与野党で利害が対立する案件も取り上げる。赤字削減が進まない場合、自動的に歳出をカットする条項も盛り込んだ。
オバマ大統領は議会に妥協を迫る演説で「米国にはトリプルAにふさわしい政治システムがない」と述べた。世界の疑念もそこにある。新設される超党派の委員会は、持続可能な財政に向けた真剣な議論によって世界の信頼を回復する責任を負う。
外国為替市場ではドル売り圧力が続き、円相場も高止まりしている。ドル安には米国景気の不透明感も手伝っているが、最大の要因は一連の政治的混乱で作りだされた財政危機だ。
オバマ政権はこの人災ともいえるドルへの不信を払拭(ふっしょく)すべく「ドルの価値を守る」という断固としたメッセージを発すべきだ。円相場では、日本の通貨当局も行き過ぎた投機的な動きは為替介入などで断固封じる姿勢を明確にしてほしい。
世界では今、政府債務の膨張が金融経済の危機につながりかねない状況が広がっている。欧州ではギリシャを皮切りに、イタリアなど主要国の信用も揺らぎだした。
重ねた借金は返さなければならないという金融の論理と、そのための税負担を国民がどう了解するのかという民主主義の論理が鋭く対立し、立ち往生する政府が相次ぐ。突き詰めれば、政治リーダーが国民を説得できるかどうかが問われている。
その点で日本は深刻だ。海外からの借金は少ないものの、財政は先進国で最悪である。にもかかわらず、震災復興でも社会保障でも財源問題を先送りしようとしている。米国や欧州の債務危機は対岸の火事ではない。
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