2011年8月25日木曜日

リビア政変 民主主義のルールも制度も存在しない部族国家の崩壊


リビアは、カダフィ大佐と一族に権力が集中する部族を束ねる部族長のような国家体制だった。
憲法も、議会制度もない特殊な制度で、民主主義の土壌や経験がない。
まさにゼロからの出発となる。そのための支援が必要だ。

毎日)リビア政変 新たな国造りに団結を(8/24)
日経)新生リビアの国造り支えよ (8/24)
産経)リビア政権崩壊 「カダフィ後」を支えよう(8/24)
朝日)リビア―カダフィ後への支援を(8/23)
読売)リビア首都陥落 難題は「カダフィ後」の国造り(8/23)
東京)リビア情勢 民主化定着へ支援急げ(8/23)




毎日新聞 2011年8月24日 東京朝刊
社説:リビア政変 新たな国造りに団結を
「中東の暴れん坊」も、ついに土俵を割ったようだ。国連安保理決議に基づいて国際的な軍事支援を受けるリビアの反政府勢力が首都トリポリをほぼ制圧した。なお流動的な要素もあるが、最高指導者として40年余り君臨したカダフィ大佐の時代は事実上終わった。国際刑事裁判所は同大佐ら3人に「人道に対する罪」で逮捕状を出している。市民への無差別発砲など非人間的な行為を続けた政権が崩壊するのは当然だ。
リビアの政変を歓迎する。ラクダに乗って国際会議などに現れ、野外テントに寝泊まりするカダフィ大佐は、型破りの指導者として愛されもした。かつては激しい米国批判で庶民の喝采を浴びもした。だが、彼自身が国民に慕われる政治をしてきたかといえば、そうではない。
著書「緑の書」では、51%の多数派が49%の少数派を抑え込むことこそ独裁だとして議会制民主主義を批判した。だが、哲学的に見えるその口ぶりも、権力を独占する方便にすぎなかったようだ。リビアの豊富な石油収入も、もっぱら大佐の支持勢力に振り向けられてきた。
まずは戦闘の犠牲者を悼み、カダフィ後のリビアに民主主義が根付くことを期待したい。チュニジアとエジプトに続くリビアの政変で、中東・北アフリカの政治地図は一変した。特に、地中海をはさんで北アフリカと向き合う欧州諸国にとってリビアが変わる意義は大きい。シリアやイエメンなどの民衆運動を活気づかせることにもなろう。
欧米などの軍事支援は誤爆が相次ぐなど難航したが、最終的には成功した。今後は政治的な支援が重要になる。日本は欧米と協力してリビアの再出発を積極的に支援すべきだ。反政府派は民主化と法の支配を柱とする新たな国造りにまい進してほしい。団結が大切だ。チュニジアやエジプトを見れば分かるように、国造りの「生みの苦しみ」はむしろ政権を倒した後でやってくる。
新政権の土台となるリビアの国民評議会は、自分たちへの日本の支持表明が遅すぎたと不満を持っているという。リビアでは石油関係、建設、通信など多くの分野に日本企業が進出していたが、最近は中国や欧州諸国に押されて日本の存在感が薄れているとの声もある。それはリビアに限った話ではなかろう。
「アラブの春」と呼ばれる民衆運動は中東各地に飛び火し、日本の石油輸入の約9割を占める地域が激変している。原発事故で将来のエネルギー戦略が問われている日本としては、明確な戦略が必要だ。民主化を求める民衆を支援して、日本の存在感を高めたい。それはエネルギーをめぐる国益にもつながるだろう。


日経新聞  2011/8/24付
社説:新生リビアの国造り支えよ
北アフリカの産油国リビアで反体制派が首都トリポリの大半を制圧、42年間同国を独裁統治してきたカダフィ政権の崩壊が濃厚になった。
中東の民主化要求運動が政権を倒すのはチュニジア、エジプトに次いで3カ国目となる。しかしリビアでは、2月に始まった反体制派の蜂起を政権側が徹底的に弾圧し、半年に及ぶ内戦に発展した。欧米諸国は軍事介入にも踏み切った。
内戦は国家と国民の分断を招き、容赦ない武力行使で多数の犠牲者も出た。最高指導者カダフィ大佐の所在はわからず、政権側の抵抗も一部で続いている。カダフィ後の統治を担うとみられる国民評議会は一刻も早く国民和解を実現し、新たな国造りへと踏み出す必要がある。
前途は多難だ。カダフィ大佐と一族に権力が集中してきたリビアでは憲法も議会もなく、民主主義の土壌や経験がない。国民は数百にも分かれる部族への帰属意識が強い。
国民評議会は様々な勢力が反カダフィで結集しただけの寄り合い所帯の性格が濃い。政権打倒に深く関与した欧米はもちろん、日本を含む国際社会が新生リビアの国造りで果たすべき責任は重い。
カダフィ政権が崩壊すれば、足踏み状態にある中東の民主化要求運動が勢いを取り戻す可能性がある。国際社会の批判を無視して民主化デモの弾圧を続けるシリアのアサド政権は、武力で押さえつけることの限界を認識しなければならない。
リビアに軍事介入した欧米にとってもこれ以上の作戦長期化は避けたいところだった。アフガニスタンからの撤収が始まり、内政重視に足場を移す米国は当初から軍事介入に及び腰だった。主導した英仏では戦費負担の増大に批判が強まっていた。
リビアの安定は国際石油情勢の改善にもつながる。リビアはアフリカ最大級の原油埋蔵量を持つ。内戦による混乱で今春には原油輸出がほぼ止まった。原油相場が急騰し、リビア原油を多く輸入する欧州では景気の圧迫要因となった。
リビアの原油輸出の回復を急ぎ、需給の緩和を促す必要がある。日本もカダフィ後を見据え、油田やインフラの復旧などすぐに着手できる支援の準備を始めるべきだ。


産経新聞 2011.8.24 03:23
【主張】リビア政権崩壊 「カダフィ後」を支えよう
42年間にも及んだリビアのカダフィ政権が事実上崩壊した。反体制派が政権の拠点である首都トリポリをほぼ制圧したためだ。
日米欧など主要国に加え、エジプトなどアラブ諸国の多くも反体制派の代表組織「国民評議会」を唯一の正統政府と認めた。オバマ米大統領も「カダフィ支配は崩壊した」と断言している。
半年にわたる内戦は泥沼化が懸念された。情勢が急展開したのは、国連安全保障理事会のリビア制裁決議と北大西洋条約機構(NATO)軍による空爆などの反体制派支援が大きい。国民の改革要求を武力で弾圧した独裁体制に対する国際社会の「人道介入」の成果だと評価できよう。
楽観はできない。最高指導者だったカダフィ大佐は拘束されておらず、カダフィ軍はスカッド型ミサイルを発射するなど抵抗を続けている。国民評議会は新たな統治者として、リビア全土の掌握を急いでほしい。
課題は山積している。最優先すべきは治安と秩序の構築だ。内戦によって国家が破綻し、国際テロ組織の流入を許したソマリアのような状況を生んではならない。
カダフィ大佐と息子らには国際刑事裁判所(ICC)が人道に対する罪で逮捕状を出している。国民評議会のアブドルジャリル議長はカダフィ大佐について「公正な裁判のため生け捕りを望む」と言明した。新生リビアのためにも、国際社会に承認された法手続きが不可欠だ。
王制の後にカダフィ大佐の独裁体制に支配されたリビア国民は憲法や選挙を知らない。
封建的な部族社会が色濃く残存しているのもリビアの特徴だ。国民評議会にしても、いわば「反カダフィ」で結束しただけの部族連合といえる。いずれ、民主的なシステムとの軋轢(あつれき)も生じよう。主要国の助言は欠かせない。
経済面の支援も重要だ。原油確認埋蔵量が世界第8位のリビアには日本の石油会社も進出し、2社は現在も採掘権を保持している。リビア石油産業の復活に日本の技術は大いに役立つはずだ。日本の国益が関わっている。
チュニジアとエジプトにリビアが加わった「アラブの春」の成果は、政府による民衆への弾圧が続くシリアにも影響を与える。リビア支援の意義は大きい。


朝日新聞 2011年8月23日(火)付
社説:リビア―カダフィ後への支援を
リビア情勢が急展開した。カダフィ政権が抑えていた首都トリポリに反政府勢力が攻勢をかけ、大部分を制圧した。トリポリからの映像では、人々が通りでカダフィ氏のポスターを引き裂き、「解放」を唱えて小躍りするなど、「革命達成」の歓喜が広がっている。
カダフィ氏自身は姿を隠しており、なお予断を許さない。しかし、2人の息子は反政府勢力に拘束されている。42年にわたるカダフィ体制の支配は実質的に崩れたと見ていいだろう。
リビアの民主化デモは、今春のチュニジアやエジプトでの民衆革命の達成の後に始まった。6カ月にわたり抵抗を続けてきた反体制勢力の粘り強さに敬意を表したい。
リビアでの動きは「アラブの春」の大きな進展である。政府による民衆への弾圧が続くシリアや、混乱が続くイエメンの動きを加速させよう。アラブ・中東では、ほかにも非民主的な政治や体制がはびこっており、民主化を求める動きへの追い風となるだろう。
リビア情勢はこの数カ月内戦状態になり、安保理決議に基づく軍事介入が始まった。英仏軍主導の空爆では民間地区への誤爆もあり、限界が表面化していた。今回、リビア民衆の主体的な動きで首都攻勢が成功したことで、内戦が長期化して国際社会が泥沼に入ることが避けられたともいえる。人道目的の軍事介入における反省としたい。
旧体制の決定的な崩壊が進むなかで、「カダフィ後」のリビアの再建、とくに民主化の実現に向けて、国際社会はすぐに動き始めなければならない。新生リビアの建設は、とてつもない新たな困難を伴うだろう。
カダフィ体制は部族を中心とした伝統社会の上に、社会主義直接民主制を唱える「ジャマヒリヤ体制」だった。憲法も、国家元首も、議会もないという特殊な制度であり、結果的には、無冠のカダフィ氏が部族を束ねる部族長のような権力と権威を独占した。
これが崩れた後、民主主義のルールも制度も存在しない。まさにゼロからの出発となる。
反体制派の中でも、カダフィ体制から離反した旧政権幹部や部族勢力が影響力を持つ。新しい時代を開くためには、憲法制定や選挙実施など民主化プロセスを一つずつ実現して、政治や社会の仕組みを作っていかねばならない。
旧体制を打破して終わりではなく、これからがリビアの試練の始まりである。日本を含む国際社会の支援が求められる。


(2011年8月23日01時21分  読売新聞)
リビア首都陥落 難題は「カダフィ後」の国造り(8月23日付・読売社説)
北アフリカの産油国リビアで、最高指導者カダフィ氏の42年にわたる独裁体制が、崩壊への秒読みに入った。
東部から広がった独裁打倒の波は、ついに首都トリポリに達した。
反体制派の蜂起による内戦が始まって半年、米英仏の軍事介入から5か月が過ぎた。この間に多数の犠牲者が出たのは痛ましい。
カダフィ氏はなお、徹底抗戦を叫んでいるが、これ以上の流血は許されない。リビア再建のため、直ちに戦闘をやめ、身を引くべきである。
カダフィ氏は改革を求める国民の声に耳を貸さず、傭兵を使って武力弾圧一辺倒で応じた。それが政権崩壊の引き金となった。国民の武力抵抗と欧米諸国などの軍事介入を招き、孤立化した。
リビア同様に、国民の民主化要求デモを武力弾圧し続けているシリアのアサド政権には、強い警告となるだろう。
リビア情勢は、東部を制圧した反体制派と首都を拠点に西部を掌握するカダフィ政権側との間で、一進一退の攻防が続いていた。
だが、カダフィ政権は、国際社会の経済制裁や、北大西洋条約機構(NATO)が指揮した空爆と海上封鎖で補給路を断たれた。これでは自滅するしかあるまい。
元首相や石油相が政権から離反するなど、政権幹部のカダフィ氏への忠誠心は失せ、政権側部隊の士気が衰えたのも当然だ。
反体制派が頑強な抵抗に遭遇せずに首都に進攻できたのは、その証しと言える。
反体制派による首都完全制圧が成功しても、難題が待ちかまえている。「カダフィ後」の新体制をどう築くかという問題である。
リビアには、エジプトやチュニジアと異なり、憲法や議会制度を持った経験がない。
カダフィ氏は「人民大衆による直接民主主義」を掲げたが、それは名ばかりで、カダフィ一族の恣意的統治に過ぎなかった。独裁崩壊は、ゼロからの国家再建を迫ることになる。
リビアには、封建的な部族社会が残っている。反体制派はさまざまな部族や諸勢力の寄せ集めであり、部族対立が社会を不安定化させる可能性も常にあろう。
反体制派を代表する「国民評議会」は、「正当な対話相手」「リビアの代表」として、国際的に認知されつつある。日本を含む国際社会は当面、この評議会と連携を深め、リビアの再建と安定化への道を模索していくべきだ。


東京新聞  2011年8月23日
【社説】リビア情勢 民主化定着へ支援急げ
リビア情勢が急展開し、カダフィ体制が崩壊する可能性が高まった。「アラブの春」の帰趨(きすう)はまだ定まらないが、中東民主化の潮流を定着させるためにも、国際社会の迅速な支援が欠かせない。
カダフィ大佐が一般市民に銃を向けて約半年。北大西洋条約機構(NATO)の反体制派支援の空爆が始まって約五カ月。反体制派武力勢力がカダフィ体制の象徴だった首都トリポリの「緑の広場」を占拠したことで、四十二年に及んだ独裁体制崩壊は決定的になった。
欧米主要国は「国民評議会」を正統政権としてすでに承認している。国民評議会を通し、民主制、人権尊重に根差す新体制への移行が始まることを期待したい。
一方で、カダフィ陣営の抵抗は依然続いており、情勢はなお流動的だ。内戦で犠牲を余儀なくされるのは常に弱い立場の一般庶民だ。空爆を容認した国連決議は「市民の生命保護」が目的であったことをあらためて確認したい。
チュニジアで始まった中東民主化に対して、欧米の支援体制は後手に回っている。オバマ政権は五月の演説で包括的な中東支援策を発表したが、翌月のアフガニスタン撤退演説では、「今は自らの国家建設に焦点をあてる時」と表明せざるをえなかった。財政危機下、内政重視を迫られる来年の大統領選挙が背景にある。
米国から空爆指揮権の移譲を受けた欧州諸国が抱える事情も深刻だ。金融、財政危機の深刻さは米国以上。冷戦下、中東の民主化や人権問題には目を閉ざし、独裁政権との安定した外交関係を優先させてきた事情もある。
中東民主化の動きは東西冷戦の崩壊にも匹敵する歴史的な出来事といえる。しかし、旧東欧諸国には西欧という地域的回帰先があったのに対し、新たな地域的枠組みがないのが中東民主化の大きな特徴だ。それだけに、一つ間違えば権力の空白がイスラム過激派の浸透につながる懸念が常にある。
国民評議会の実態、統治能力は未知数だが、欧米各国との接触で民主的な政治体制への移行を確約しているとされる。まずはカダフィ大佐らを「人道に対する罪」で国際手配した国際刑事裁判所との協力関係など、国際社会との連携を見守りたい。
問題の核心にある中東和平問題の本格的な交渉開始や、イスラムとの共存に対する将来展望など、欧米諸国は自ら抱える課題もあらためて肝に銘じるべきだ。


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