朝日)リビア新時代―初めての民主主義へ
読売)カダフィ氏殺害 国民和解を優先し民主化を
毎日)カダフィ後 リビア民主化へ結束を
産経)カダフィ大佐死亡 独裁者と圧政への警告だ
東京)カダフィ氏死亡 “独裁”の時代と決別を
朝日新聞 2011年10月22日(土)付
社説:リビア新時代―初めての民主主義へ
またアラブ世界で歴史的な瞬間を目にすることになった。リビアを42年間支配したカダフィ氏の死亡と体制の崩壊である。
チュニジア、エジプトで始まった「アラブの春」の続きといえる。しかし、両国に挟まれたリビアの様相はかなり異なる。内戦になり、国連安保理の決議による北大西洋条約機構(NATO)の空爆があった。
最後は、血まみれのカダフィ氏の映像がネットで流れた。死亡は私刑によるものではないかとの疑問がでるなど、血なまぐさい幕切れとなった。
近く暫定政府ができ、リビア新時代の幕が開ける。だが、前途は多難だ。議会選挙や憲法制定を経て2年以内に正式な政府をつくる。カダフィ体制では議会も憲法もなかったから、民主化はゼロからの出発となる。
反カダフィ派は旧政権の離反組、都市住民、部族勢力、イスラム勢力など寄り合い所帯だ。意識も利害も異なる。強権がなくなって、各勢力の権力闘争や暴力が噴き出すのではないかという心配がある。
しばらくは行政サービスや経済活動の混乱が続き、国民生活は困難が続くだろう。
危機を避けるためには、すべての勢力に政治的な発言の自由を約束し、人々が異なる意見や主張に接する、議論と理解の場をつくることが必要だ。国民の本音を伝える新聞やテレビなどメディアの育成も急がれる。
混乱に乗じた犯罪を防ぎ、秩序をまもる軍や警察をつくることも緊急の課題だ。
いずれもリビア国民が中心となるが、国際社会が支援しなければ進まないことも多い。
リビア国民も国際社会も、内戦や軍事介入の発想から、国民のくらしの再建をまず優先する頭の切り替えが要る。
国内では内戦を担った武装勢力を軍や警察に再編し、武力を持つ者が政治的な発言権を持たないようにする文民支配のルールをつくらねばならない。
リビアは良質な原油を産む国であり、国際的な資源争奪の場になりやすい。空爆の主力だった英仏や、アラブ世界から作戦に加わったカタールなどが、戦後復興でそのまま影響力を持ち続けないようにすることも大事だ。正式政府の発足まで、国際的な支援の窓口を国連で一本化することを提案したい。
リビア国民は長期の強権支配で苦しみ、8カ月の内戦でさらに多くの犠牲者を出した。
自由で平和な国へ生まれ変わるために、過去の暴力が未来の暴力につながらぬよう、支援にも細心の注意が要る。
(2011年10月22日01時04分 読売新聞)
カダフィ氏殺害 国民和解を優先し民主化を(10月22日付・読売社説)
北アフリカのリビアで42年にわたり最高権力者として君臨してきたカダフィ氏が殺害された。
内戦勃発から8か月、「アラブの春」と呼ばれる中東・北アフリカの変革の波は、ついにカダフィ時代の終わりをもたらした。
反カダフィ派組織の国民評議会は、出身地シルテに潜伏していたカダフィ氏が反カダフィ派兵士に拘束された後、銃撃戦で死亡したと説明している。
反対派を容赦なく弾圧してきたカダフィ氏に対しては、国際刑事裁判所から「人道に対する罪」で逮捕状が出ていたが、結局、法廷に立つことはなかった。
その死は、強権をふるう大統領が権力を手放さないでいるシリアやイエメンにも、何らかの影響を及ぼすだろう。
ほぼ全土を掌握したのを受け、リビアの国民評議会は22日にも全土解放を宣言する。カダフィ後の政治体制を速やかに構築することが最優先課題である。
憲法や選挙による議会制度を持たないリビアは、いわばゼロからの出発だ。
国民評議会自体、寄り合い所帯でまとまりがない。9月には暫定政権発足を目指したが、閣僚人事の調整ができず、失敗した。
親欧米の世俗勢力とイスラム勢力の軋轢や、根強い地域・部族対立に起因する権力争いがすでに始まったとの指摘もある。カダフィ政権関係者を過度に排除すれば、混乱が広がる恐れもある。
国民和解を優先し、暫定政権をまず発足させ、選挙など民主化日程を決めていく必要がある。
治安の回復も重要だ。評議会は、傘下各派の民兵を軍や警察の指揮系統に組み入れ、育成していかねばならない。
内戦中、携行型地対空ミサイルなどの火器類が散逸したことも懸念される。大量に拡散した小火器を含め、武器回収が急務だ。
リビアは石油の確認埋蔵量世界8位の資源国だ。その富を有効に生かし、自由や基本的人権も保障して、国民が民主化の果実を実感できる政治体制が求められる。
カダフィ政権の崩壊には、北大西洋条約機構(NATO)が英仏主導による空爆などで決定的な役割を果たした。英仏は責任を持って、新体制作り、民主化プロセスを支えなくてはならない。
日本もリビア再建に貢献すべきだ。玄葉外相は医療分野で人道支援を行うと表明した。歴史的なしがらみが薄いからこそ、欧米とは違った支援も工夫できよう。
毎日新聞 2011年10月22日 東京朝刊
社説:カダフィ後 リビア民主化へ結束を
なんとも凄惨(せいさん)な最期だった。リビアに40年余り独裁政治を敷いたカダフィ大佐は20日、反カダフィ派の兵士らに拘束され、頭から血を流して死亡した。拘束して裁判にかける予定だったが、一部の兵士がカダフィ氏に発砲して殺害したらしい。かつての独裁者への強い憎悪を感じさせる幕切れとなった。
新生リビアの基盤をなす「国民評議会」は22日にも「全土解放」を宣言し、暫定政権づくりに着手する。名実ともにカダフィ時代は終わった。残存勢力との散発的な戦闘も予想されるが、2月の大規模デモ以来、8カ月に及ぶリビアの動乱が終息に向かうのは喜ばしい。
だが、リビアの再出発は容易ではあるまい。今のリビアには親欧米の市民もいれば、王制時代からのイスラム主義者やカダフィ政権の元高官もいる。国の方向性をめぐり新政権づくりは難航も予想されるが、リビアは地中海をはさんで欧州と向き合う国だ。多様な価値観を容認する民主的な新政権を樹立してほしい。
日本も国づくりを積極的に支援したい。国連による90年代のリビア制裁に伴って同国から撤退した日本企業もある。今のリビアでは中国企業の動きが活発だが、日本の技術や知見を国づくりに生かすためにも幅広い経済協力をめざすべきだ。
他方、カダフィ氏の死によって民衆運動「アラブの春」はさらに勢いづきそうだ。デモを弾圧するシリアのアサド政権、もはや死に体に近いイエメンのサレハ政権などは、特に苦しい状況に直面しよう。独裁に対する民衆の抗議行動は止められまい。国民が納得するような大規模な政治改革を実行するか、自ら政権の座を降りるか、独裁の指導者たちは厳しい決断を迫られている。
カダフィ氏は69年、イドリス王制を倒して権力を握り、反米的な姿勢やテロへの支援によりレーガン政権から「中東の狂犬」と呼ばれた。冷戦中は激しい対米批判で喝采も浴びたが、米国の一極支配が強まるにつれて反米姿勢をやわらげ、アラブ世界でも存在感を失った。米欧主体の北大西洋条約機構(NATO)が支援する軍事作戦で拘束され、死亡したのは象徴的である。
オバマ米大統領はリビア国民を祝福する一方、NATOの軍事作戦がまもなく終わるとの見通しを示した。国連安保理決議に基づくNATOの軍事介入にはロシアが「内政干渉」と反発している。しかし、カダフィ政権が反体制派を「ネズミ」と呼び、航空機や戦車も動員して攻撃したことを思えば、NATOの介入もやむを得まい。
内戦の犠牲者を悼み、流血の時代を経たリビアが平和と繁栄に向かうことを期待する。
産経新聞 2011.10.22 03:14 (1/2ページ)[政変・反政府デモ]
【主張】カダフィ大佐死亡 独裁者と圧政への警告だ
リビアの最高指導者だったカダフィ大佐の死亡が発表された。反カダフィ派の代表組織「国民評議会」は「全土解放」を宣言する。42年間の独裁政権の終焉(しゅうえん)が確定し、新たな国造りが本格化することを歓迎したい。
中東・北アフリカで続く民主化要求運動「アラブの春」への後押し効果も期待できよう。
8カ月余り続いたリビアの内戦では、カダフィ政権による無差別攻撃から一般市民を保護するため、国連安保理決議に基づき北大西洋条約機構(NATO)軍が「人道介入」の空爆を行った。誤爆があったのは遺憾だが、独裁を打倒した点を評価すべきだ。
同じ独裁体制のシリアでは、3月以来続く反政府デモに対してアサド大統領が武力弾圧を加え、数千人が死亡したとされる。在外の反体制組織は「シリア国民の保護」を訴えている。大佐の死亡は世界の独裁者と圧政への強い警告メッセージといえよう。
ただ、大佐は拘束時には生きていたとの情報もある。「リビアの正統な代表」として日米など主要国から承認されている国民評議会としては、大佐を生かしたまま拘束すべきではなかったか。大佐と息子らには国際刑事裁判所(ICC)が人道に対する罪で逮捕状を出していたからだ。
カダフィ大佐には1986年の西ベルリン(当時)ディスコ爆破や、88年に英スコットランド上空で起きた米パンナム機の爆破テロなどに関与した疑いがある。独裁政権の暗部を明らかにする裁判が開かれないことに悔いが残る。
民主化への道のりは険しい。国民評議会が示す新国家移行の行程表によれば、全土解放宣言から30日以内に暫定政権を発足させ、8カ月以内をめどに制憲議会選挙を実施し、その1年後に大統領選を行う段取りだ。
しかし、反カダフィ派の各組織や部隊にはカダフィ政権からの離脱組も含まれ、「政権打倒」で一致していたにすぎない側面がある。すでに主導権争いも起きている。封建的な部族意識が強い国民は、憲法や選挙といった民主主義ルールに習熟していない。
安定の根幹となる治安の確立は緊急課題だ。内戦で各地に拡散された大量の武器、とくに携帯式地対空ミサイルなどの回収が急務である。あらゆる面で国際社会の積極的な手助けが必要だ。
東京新聞 2011年10月22日
【社説】カダフィ氏死亡 “独裁”の時代と決別を
リビアの最高指導者だったカダフィ大佐が死亡した。アラブの独裁者たちの相次ぐ転落は、民衆の時代の到来を告げるかのようでもある。この歴史のうねりを本物にするよう国際社会も支えたい。
カダフィという人物は、現代中東史の明と暗とを極端な形で見せてきた指導者だった。
若き日、隣国エジプトの青年将校ナセルらの革命を知る。演説をラジオで聞いて、強烈な感化を受け、一九六九年、国王の外遊中に無血クーデターを成功させた。当時のアラブ民族主義が燃えさかる中では、もちろん、喝采を浴びた。
問題はその後だった。
ナセル率いるエジプトへ、米ソが競い合って武器や軍事将校を送り込んだように、カダフィのリビアも欧州勢などの武器の大きな売り込み先になった。ソ連が多くを売り込んだ。リビアには巨額の石油マネーがある。
似たような構図は、古くは革命前のイラン、サダム・フセイン大統領が率いたイラクなどがある。石油代を払う代わりに戦車や戦闘機、ミサイルを売りつけるのである。その場合、商売の相手は気前のよい独裁者の方がもちろん都合がよい。武器輸出国はぜいたくも教えてくれる。
アラブの独裁国家を太らせてきたのは独裁者自身ではあるが、米欧などの大国にもその責任の一端はあるにちがいない。少なくとも見て見ぬふりをしてきたとはいえるだろう。イスラム教組織の政治行動をうまく抑えてもくれた。
放置されたのが民衆だった。
独裁を支える手段は三つある。反体制を唱える者を片端からとらえて拷問にかける秘密警察、少数者だけで富を独占する強固な仕組み、そしてそれらを隠蔽(いんぺい)するためのプロパガンダだ。そのすべての被害者が貧しき民衆だった。
新生リビアの試練が始まる。病んだ国家の再建には病巣を除かねばならない。そのためにはカダフィ政権の暗部を調べ直す必要がある。正義と公平の実現はそこに始まり、米欧などのゆがんだ介入はやっと排除されるだろう。その意味では大佐の死亡で「証言」が失われたのは残念だが、独裁の解明こそが新しい国の未来を切り開いてくれるのである。
独裁の時代を今こそ終わらせよう。民衆の時代は無論たやすくはやって来ないが、暗黒の過去を繰り返さないため、世界も日本もそういう歴史的な位置からリビアや中東を見るべきである。
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