2012年6月12日火曜日

シリア情勢 もう虐殺はたくさんだ 停戦を順守させ流血止めよ


<各紙社説など>
毎日)シリア情勢 もう虐殺はたくさんだ(6/8)
読売)シリア情勢 停戦を順守させ流血止めよ(6/3)
朝日)虐殺のシリア―市民の命のために動け(6/1)
日経)もう見過ごせぬシリアの蛮行 (6/1)

NHK)時論公論 「悪化する シリア危機」(5/31)
NHK)ピックアップ@アジア 「悪化するシリア危機 人命をどう守るか」(6/5)




毎日新聞 2012年06月08日 02時30分
社説:シリア情勢 もう虐殺はたくさんだ
シリアで住民虐殺が続いている。中部ホウラで先月下旬、100人以上が殺される「集団処刑」事件が起きたのに続いて、6日にはやはり中部のハマ近郊で政府系民兵の襲撃によって90人近くが殺害されたという。今度も子供や女性の犠牲者が多い。至近距離から銃で撃ったり刃物で刺すなどの手口は、まさしく冷血の所業である。
どうしたら虐殺と流血を止められるのか、国際社会は改めて真剣に考えなければならない。シリアのアサド政権は虐殺への関与を否定し「武装テロ組織」のしわざだと繰り返すばかり。ロシアと中国はそんなアサド政権を擁護し、国連安保理による圧力の強化にも消極的だ。
他方、11月に大統領選を控えるオバマ米大統領は強い措置を取りにくい。リビアでは軍事作戦を担った欧州諸国も、財政危機が広がる折、積極的な介入は避けたいのが本音だろう。こうした事情を見透かすように虐殺が続いているのだ。
露中がアサド政権を擁護するのは、独特な社会主義体制(バース主義)を持つシリアと歴史的につながりが深いためだ。特にロシアはシリアに大きな権益を持ち、地中海に面したシリアの港を海軍の補給地として戦略拠点にしているとされる。
だが、それだけではあるまい。露中には多くのイスラム教徒が住んでいる。宗派を問わず封建的な体制への不満もくすぶっている。両国には、仮に「アラブの春」によってアサド政権が倒れれば、次は自国にも反政府の民衆運動が広がりかねないという危機感があるのではないか。
人道危機を前にして大国のご都合主義は禁物だ。先の上海協力機構(SCO)首脳会議で露中は対話を通じた問題解決を求めたが、それならシリアで1万人を超える犠牲者が出る前に、真剣にアサド政権を説得すべきだった。国連安保理決議の採択に2度も反対したことを含めて両国の責任は重いと言わざるを得ない。
シリアには国連停戦監視団が駐留しているが、停戦発効後も政府軍は軍事行動を続け、非武装の監視団にはそれを止めるすべがない。監視団の権限・機能を拡大するとともに、シリアへの新たな制裁も含めて外交圧力を強めなければならない。サウジアラビアやイランなど域内有力国による説得工作も検討すべきだ。
ガイトナー米財務長官は制裁強化とともに、軍事介入に道を開く「国連憲章第7章に基づく行動」にも言及した。確かに軍事オプションを全面排除することはできないが、あくまで慎重であるべきだ。アサド政権の崩壊は中東の大きな地殻変動につながりかねない。「アサド後」の青写真を描くことは極めて重要だ。


(2012年6月3日01時42分  読売新聞)
シリア情勢 停戦を順守させ流血止めよ(6月3日付・読売社説)
国連安全保障理事会はシリアにおける流血の惨事を繰り返させてはならない。中部ホウラでの虐殺事件が、アナン前国連事務総長の停戦調停案を崩壊寸前に追いやっている。
調停が失敗すれば、シリアは内戦状態に陥り、中東全体が不安定になる恐れが強い。事態は極めて緊迫している。
安保理は直ちに、国連シリア停戦監視団の機能強化などを図り、アサド政権へ圧力を強め、調停案の履行に全力をあげるべきだ。
政府軍が砲撃したホウラでは、多数の子供を含む100以上の遺体が見つかった。現地を訪れた国連停戦監視団は、多くの遺体に撃たれたり刺されたりした残虐行為があることを確認した。
反体制派は、政府側民兵の仕業と見るが、真相は不明だ。
昨年3月、シリアで反政府デモが始まって以来、政府側の武力弾圧や反体制勢力との衝突で流血は拡大の一途をたどり、国連によると、死者は1万人を超えた。
国連とアラブ連盟の共同特使であるアナン氏が今年3月に示した調停案を、シリア政府もいったん受けいれたはずだ。その後、反古
同然にしたのは遺憾である。
だが、300人足らずの丸腰の監視団では機能を果たせない。航空機供与や武装警護団派遣など、米国や英国の提案を軸に、監視団強化の具体化を急ぐべきだ。
反体制派の武装組織は、停戦合意が崩れれば自由に軍事行動を取ると宣言している。そうした最悪の事態は回避せねばならない。
安保理では、アサド大統領の退陣や経済制裁を求める欧米と、これに反対するロシア、中国が対立している。
特にロシアの抵抗が、対シリア制裁を妨げてきた。背景には、シリアがロシアにとって重要な武器輸出先であり、露海軍に補給拠点も提供していることがある。
1日の仏露首脳会談でも、対シリア制裁を主張するオランド仏大統領に対して、プーチン露大統領が「制裁は効果的ではない」と反論し、溝は埋まらなかった。
アサド政権を支えてきたロシアには、流血停止をシリアに強く働きかける責任がある。
欧米諸国は、シリアに対して独自の経済制裁を科している。ホウラ事件後、シリア大使らに国外退去を求め、日本も同調した。
少数派のイスラム教アラウィ派を権力基盤とするアサド政権は、国民を抑圧し続けてきた。弾圧強化で統治の正統性は一層揺らぎ、孤立を深めるばかりだ。


朝日新聞 2012年6月1日(金)付
社説:虐殺のシリア―市民の命のために動け
シリアで、軍の砲撃などで一つの村で一晩に市民100人以上が殺された。政府による市民の虐殺であり、国際社会の早急な対応が必要だ。
国連停戦監視団が現地で確認した。国連安全保障理事会は、「住宅地への砲撃」を非難する声明を全会一致で採択した。
昨春、「アラブの春」と呼ばれる民主化デモが中東で始まって以来、シリアでは軍の武力行使などによる市民の死者は1万人にのぼる。今回のケースは氷山の一角である。
同じように民衆が立ち上がったチュニジアやエジプトではすでに議会選挙を終え、苦しみながらも民主化の道をたどっている。それにくらべ、シリアの悲惨さは目をおおう。
シリアの複雑な宗教問題や周辺国との関係を考えれば、国際社会が内戦や体制崩壊を恐れ、慎重にならざるを得ないことは理解できる。
それにしても、外交圧力も制裁もこのままでは生ぬるい。
シリア政府は虐殺への関与を否定し、「武装したテロリスト集団の仕業」とする。国連監視団は、犠牲者の多くは政府寄りの武装民兵に銃や刃物で虐殺された可能性を指摘する。
インターネットの動画投稿サイトで子どもたちの小さな遺体が並ぶ映像には、言葉を失う。
虐殺を受けて、米欧各国は即座にシリア人大使や外交官に退去を求めた。日本の外務省は最初は非難声明だけで、数日遅れて退去を求めた。こんな甘い姿勢では人権感覚が疑われる。
軍は市民の命を軽視し、武装民兵が野放しでは、人道危機は深まるばかりだ。
今年2月にシリアでの暴力停止を求める国連安保理の決議案が、ロシアと中国の拒否権で否決された。これが、歯止めのきかない市民の犠牲を招いたことは明らかである。
その後、4月にロ中両国の支持も得て、元国連事務総長のアナン氏の調停によって停戦監視団が派遣された。しかし、本当の停戦が実現する見通しさえ、極めて暗い。
シリア問題で安保理は「民間人保護」の原則に立ち返って、改めてロシア、中国を説得し、政権に暴力停止を義務づけるような実効性のある決議を採択するために動くべきだ。
武装民兵が暗躍する現状で、非武装の停戦監視団では市民を守ることはできない。
安保理は、市民保護と人道援助活動の安全確保のために平和維持軍の派遣も視野に入れ、アサド政権が自国民の命を守るように圧力をかけるべきである。


日経新聞 2012/6/1付
社説:もう見過ごせぬシリアの蛮行
国際社会はいつまで蛮行を許すのか。アサド政権による民主化要求運動への武力弾圧が続くシリアで、多数の女性や子供を含む、100人以上の住民が虐殺される事件が起きた。
昨年春に反体制デモが始まって以降、弾圧による死者は1万人を超えた。これ以上の流血を止めるために、国際社会は一致してアサド政権への圧力を強化し、厳しい制裁を科すべきだ。
西部ホウラで起きた虐殺事件では、政府軍の砲撃に加えて、政府に協力する民兵組織が銃や刃物で住民を無差別に襲った。
シリア政府は3月、アナン前国連事務総長が仲介した停戦提案の受け入れを表明した。これを受けて、国連安全保障理事会が停戦監視団の派遣を決議し、280人以上が活動を始めている。
しかし、シリア政府軍は停戦発効後も都市部から撤退せず、砲撃が続いている。非武装の監視団には政府軍の武力行使をみつけても阻止する力はない。虐殺事件を受けて反体制組織が闘争再開を警告するなど、情勢悪化への懸念が広がっている。
シリア情勢をめぐっては、これまで武力行使の停止を求める安保理決議案が2度否決されている。シリアに軍事権益を持つロシアや、内政干渉に反対する中国が拒否権を行使したためだ。
国連が有効な手を打てない間に犠牲者が増え続けた。ようやく成立した停戦調停も事実上、崩壊している。ロシアや中国は自国利益を優先して、犠牲者が増え続けることを黙認すべきではない。主要国が貿易投資や武器売却の制限など、強制力を伴う制裁措置で足並みをそろえる必要がある。
シリアへの対応は米国で開かれた主要8カ国(G8)首脳会議でも多くの時間を割いた。利害対立を超えて安保理の分裂を防ぎ、効果的な対応を取れるかどうかは、アジアに舞台を移せば、北朝鮮への対応にも通じる。日本にとっても人ごとではない。事態の収拾へ積極的に関与すべきだ。

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NHK
時論公論 「悪化する シリア危機」
2012年05月31日 (木)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/122285.html
出川 展恒  解説委員
中東のシリアでは、
アサド政権による、反政府勢力への激しい武力弾圧が続いており、
すでに1万人以上が死亡したと見られています。
ここに来て、身の毛もよだつような住民の大量殺戮が明るみに出ました。

事件は、今月25日、中部のホムス近郊の町、ホウラで起きました。
イスラム教の集団礼拝に続いて、反政府デモが行われ、
これに対し、治安部隊が銃や戦車で攻撃を加え、
さらには、アサド政権を支持する民兵らによって、
子どもや女性がナイフでのどを切られるなどして、
合わせて100人以上が殺されたのです。

今週、東部のデリゾールの近郊でも、
手を後ろに縛られたまま、射殺された13人の遺体が発見されました。

衝撃が世界に走り、シリア情勢が大きく動こうとしています。
今夜は予定を変更して、背景や事態打開の可能性について考えます。


市民に対する相次ぐ虐殺が、
誰の指示によるものなのか、明らかになっていませんが、
組織的に行われたのは、疑いの余地がありません。

シリア情勢をめぐっては、
国連の前の事務総長のアナン特使が示した調停案を受けて、
先月、国連安全保障理事会で、初めてとなる決議が採択され、
国連の停戦監視団が現地に派遣されました。

アサド政権側、反政府勢力側の双方の動きを監視することによって、
暴力が広がるのを抑え、停戦に結びつける狙いがあります。
しかしながら、監視団には、停戦を守らせる「強制力」がないため、
停戦は実現していません。
そればかりか、自衛のための武器さえ持たない監視団を狙った爆弾攻撃も起きています。

最初の目標通り、300人近くまで、規模を拡大したものの、
停戦監視団は、期待された役割を果たしているとは言えません。

アナン特使も、国連のパン・ギムン事務総長も、
もし、停戦監視団の活動が失敗すれば、
「シリアは、本格的な内戦に突入し、壊滅的な結果を招く」と警告しています。


「本格的な内戦」ということになりますと、
国境を接する5つの周辺国や、シリアと事実上の同盟関係にあるイランなど、
この地域のパワーバランスが大きく変わり、大混乱を招く恐れがあります。
また、アサド政権による市民への弾圧が長期化し、
「大量虐殺」が起きる恐れもあり、どちらも、絶対に避けなければなりません。

事態の打開が困難となっている理由は、大きく3つあります。

■まず、アサド政権側も、反政府勢力側も、
「相手を倒さない限り、自分たちは生き残れない」
という恐怖感にとりつかれています。

親子二代で40年以上に及ぶアサド政権は、
人口の10%程度のイスラム教アラウィー派が、
圧倒的多数のスンニ派の国民を、軍や秘密警察によって強権支配する構図です。

一部の将校や兵士が離反して、政権側と戦っているものの、
軍事力では、政権側が圧倒的な優位を保っています。

しかし、女性や子どもを情け容赦なく殺すやり方は、
デモに参加した人々を、政権打倒に駆り立てており、
弾圧に屈し、抵抗を諦めるシナリオは、まず考えられません。



■第2に、「政権の受け皿がない」という問題です。
国際社会では、これだけ多くの命が失われた以上、
アサド政権は、すでに正統性を失っており、
退陣することが事態の収拾に不可欠だという考え方が、支配的ですが、
「政権の受け皿」となりうる組織や指導者が育っていないことが、大きな課題です。



欧米やアラブ諸国は、海外に亡命した反体制派のシリア人でつくる
「シリア国民評議会」を「シリアの正統な代表」と認めていますが
内部分裂が伝えられ、ガリユーン議長の指導力にも、
不安や疑問の声が挙がっています。

また、国際テロ組織アルカイダ系の過激派組織が、
反政府側に加わって、テロ活動を行っているという情報もあります。
このため、国際社会としても、反政府勢力を信用できず、
「政権の受け皿」として、一本化するのが難しいのです。



■3番目の要因は、相変わらず、国際社会の足並みが揃わないことです。

とくに、国連安保理の常任理事国であるロシアと中国は、
シリアとの軍事的、経済的な関係を重視するあまり、
アサド政権に制裁をかけることに強く反対しています。

一方、去年、リビアのカダフィ政権による武力弾圧が激しくなった際、
軍事介入に踏み切った欧米各国も、シリアには手を出せずにいます。
泥沼にはまって抜け出せなくなると、二の足を踏んでいるのです。

しかし、今回、ホウラで起きた住民の虐殺は、
こうした国際社会の空気を大きく変えています。

▼まず、国連安保理が、27日、緊急会合を開いて、
「最も強い言葉で非難する」という報道向けの声明を発表しました。


▼続いて、30日、アメリカのオバマ大統領は、
ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、イタリアのモンティ首相と
テレビを使った緊急首脳会議を開いて、シリア情勢を協議し、
「国民に対する残虐行為をやめさせるためには、
アサド政権を直ちに交代させる必要がある」という認識で一致しました。



▼また、アメリカのライス国連大使は、アサド政権による武力弾圧がこれ以上続き、
国連安保理が、意見対立のため、制裁に踏み切れない場合には、
アナン特使の停戦案や、安保理の枠を超えて、
有志の国々が、独自に行動を起こす必要があると述べました。



▼さらに、フランスのオランド大統領も、
「国際社会による軍事介入の可能性も排除しない」
「ただし、国連安保理による新たな決議が条件だ」と発言しました。

このように、悪化する一方のシリアの危機を打開しようと、
国連安保理での新たな決議を目指す動きや、決議が採択できない場合には、
有志の国々による独自の行動を呼びかける気運が、にわかに高まっています。

実際、国際社会は、この問題にどう対応すれば良いでしょうか。
正直なところ、有効な打開策を見出すのは至難の業です。

しかし、まず、何よりも、これから失われる人命を最小限に食い止めることを、
最優先に考えることが大切だと思います。

「保護する責任」という概念、つまり、
国民の生命を守る意思や能力がない国に対しては、
国際社会全体で、その国の人々を「保護する責任」を負うという、
新しい考え方に立つべきです。

その意味で、今週、日本を訪問した、
シリアのお隣りの、イラクのゼバリ外相が、示唆に富む発言をしていました。

【イラク ゼバリ外相】
「国連安保理が、アナン特使による調停の成否を評価したうえで、
次の手を考えるべきだ。新たな決議の採択、新たな声明や指針が考えられる」。


ゼバリ外相は、事態の打開は、国連安保理の手に委ねられるべきで、
安保理は、新たな決議や声明を出すべきだ。
具体的には、一般市民を攻撃から守るための
「避難路」や「安全地帯」を設置すること。
あるいは、シリア軍の軍用機の「飛行禁止空域」を設けることなどを
検討すべきだと提言しています。

新たな安保理決議を採択するには、これまで2度、拒否権を行使した
ロシアと中国を説得することが不可欠です。

その一方で、ゼバリ外相は、
反政府勢力に武器を提供するのは、本格的な内戦を招く危険性が高いとして、
強く反対しています。

イラクで、フセイン政権が倒された後、
異なる宗派や民族の間で、激しい殺し合いが、何年も続いたように、
シリアでも、少数派のアラウィー派が、
多数派のスンニ派を、長期に強権支配する体制が倒れた場合には、
復讐が復讐を呼び、流血の連鎖に陥る危険性が高いのです。

こうした内戦の悲劇を避けるためにも、
国際社会は、アサド大統領の退陣と、平和的な政権移行を目標に、
話し合いによる解決の枠組みをつくることが必要です。
合わせて、しっかりとした「政権の受け皿」ができる環境を整えることも大切です。
とりわけ、国連安保理が、「保護する責任」という観点から、
立場の違いを克服し、一致した行動を起こすべき局面を迎えています。

(出川展恒 解説委員)

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NHK
ピックアップ@アジア 「悪化するシリア危機 人命をどう守るか」
2012年06月05日 (火)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/450/122776.html
出川 展恒  解説委員
【冒頭映像】
アサド政権による、反政府勢力への激しい武力弾圧が続くシリア。
先月下旬、中部の町で、女性や子どもなど100人以上が虐殺された事件は、
世界に衝撃を与えました。

欧米各国や日本は、抗議の意思を示すため、
それぞれの国に駐在するシリア大使の国外退去を要求しました。

虐殺の悲劇を食い止めなければならないという危機感が
国際社会に広がっているものの、各国の足並みは揃っていません。
本格的な内戦を防ぐ手立てはあるのか、シリアをめぐる最新情勢を読み解きます。

『悪化するシリア危機 人命をどう守るか』                                  

(吉井歌奈子 キャスター)
「ピックアップ@アジア」、きょうは、出川展恒解説委員です。

Q1:
シリアの混乱は、ますます深刻になっていますね。

(出川展恒 解説委員)
A1:
はい。反政府運動に対するアサド政権の武力弾圧により、
すでに1万人以上が死亡したと見られていますが、
ここに来て、身の毛もよだつような住民の大量虐殺が明るみに出ました。

先月25日、中部の町、ホウラで起きた反政府デモに対し、
治安部隊が銃や戦車で攻撃を加えました。
さらには、アサド政権を支持する民兵らによって、
子どもや女性がナイフでのどを切られるなどして、
合わせて100人以上が殺されたのです。
この事件は、世界に大きな衝撃を与えました。

アサド政権は、関与を否定していますが、
欧米を中心に、アサド政権の責任を厳しく追及するとともに、
市民に対する虐殺を食い止めなければならないという気運が広がっています。

(吉井)
Q2:
シリアには、国連の停戦監視団が派遣されていましたね。
これはどうなったのでしょうか。

(出川)
A2:
確かに、国連の前の事務総長のアナン特使が示した調停案を受けて、
4月、初めての国連安保理決議が採択され、
国連の停戦監視団が現地に派遣されました。

目標通り300人近くまで、規模を拡大したものの、
停戦が実現する見通しは立っていません。
監視団には、停戦を守らせる「強制力」がないばかりか、
自衛のための武器も持っておらず、監視団を狙った爆弾攻撃まで起きているのです。

アナン特使は、2日、
「全面的な内戦に突入する恐れが、日増しに高まっている」と
強い懸念を表明しました。

こうした中、離反した兵士らでつくる「自由シリア軍」など、
シリアの反体制組織は、4日、
「アナン特使が求める停戦を、これ以上守ることはできない。武力闘争を再開する」
という声明を出しました。
事態は急速に悪化しており、本格的内戦の危険性が高まっています。

(小堺翔太 キャスター)
Q3:
欧米各国は、どう対応していますか。

(出川)
A3:
▼国連安保理が、先月27日、緊急会合を開いて、
ホウラでの虐殺事件を「最も強い言葉で非難する」という
報道向けの声明を発表しました。

▼続いて、欧米各国や日本は、抗議の意思を示すため、
相次いで、シリア大使の国外退去を要求しました。
日本政府も、ハバシュ駐日シリア大使に対し、
速やかに国外に退去するよう求めました。

▼さらに、国連人権理事会も、今月1日、特別会合を開き、
ホウラの虐殺事件での犠牲者のおよそ半数が子どもだったことを強く非難し、
国連による真相の究明と責任の追及を求める決議を賛成多数で採択しました。
ただし、シリアと関係の深いロシアと中国は、反対票を投じました。

▼また、アメリカのオバマ大統領は、先月30日、
ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、
イタリアのモンティ首相とテレビを使った緊急首脳会議を開き、
「国民に対する残虐行為をやめさせるためには、アサド政権を退陣させる必要がある」
という認識で一致しました。

▼アメリカのライス国連大使は、
国連安保理の意見がまとまらず、シリアへの制裁に踏み切れない場合には、
「有志の国々が独自に行動を起こす必要がある」と述べました。

▼また、フランスのオランド大統領やイギリスのヘイグ外相は、
軍事介入の可能性も排除しないという考えを表明しました。

各国とも、シリア情勢を深く憂慮し、
行動を起こさなければならないという認識で一致しているものの、
その方法をめぐって、足並みが揃いません。

(吉井)
Q4:
国際社会の足並みの乱れとは具体的にどういうことでしょうか。

(出川)
A4:
まず、国連安保理の常任理事国で、シリアとの関係が深いロシアと中国が、
依然として、アサド政権に対する退陣要求や制裁には、強く反対しています。
とりわけ、大量の武器をシリアに輸出しているロシアのプーチン大統領は、
「外国がシリアの内政に干渉すべきではない」という立場を変えていません。

一方、欧米各国も慎重な姿勢です。アメリカも、フランスも、
「シリアに軍事介入する場合には、新たな国連安保理決議が条件だ」
と強調しています。

リビアのカダフィ政権のケースと比べ、
シリアの軍はずっと強力で、アサド政権支持で結束を維持していることから、
軍事介入した場合、戦闘が長期化するのは避けられません。
しかも、反政府勢力が軍事的に弱く、政治的にもまとまりを欠くため、
アサド政権が倒れた場合の「政権の受け皿」ができておらず、
欧米各国は、戦争の泥沼から抜け出せなくなる事態を恐れています。

(小堺)
Q5:
一方、アサド政権の姿勢はどうなのですか。

(出川)
A5:
アサド大統領は、3日、議会で演説し、
「われわれは、国の破壊を企む外国の陰謀にさらされている」と述べて、
「反政府勢力は、外国の支援を受けたテロリスト」だという、
これまでの主張を繰り返すとともに、
あくまで、武力で反政府勢力を鎮圧する姿勢を強調しました。

(吉井)
Q6:
国際社会はシリアの危機に、どう対応すれば良いでしょうか。

(出川)
A6:
正直なところ、有効な打開策を見出すのは至難の業です。
しかし、まず何よりも、失われる人命を最小限に食い止めることを、
最優先に考えることが大切だと思います。

「保護する責任」という概念、
つまり、国民の生命を守る意思や能力がない国に対しては、
国際社会全体で、その国の人々を「保護する責任」を負うという、
新しい考え方に立つべきです。

先週、お伝えした、イラクのゼバリ外相が、インタビューで述べていたように、
一般市民を攻撃から守るための
「避難路」や「安全地帯」などを設置することを内容とする、
新たな国連安保理決議を採択する必要があります。

そのためには、これまで2度、拒否権を行使した
ロシアと中国をどう説得するかがカギとなります。

内戦の悲劇を避けるためにも、国連安保理が、「保護する責任」という観点から、
立場の違いを克服し、一致した行動を起こすべき局面を迎えています。

(吉井)
「ピックアップ@アジア」、きょうは、出川解説委員に聞きました。

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