2013年3月26日火曜日

辺野古埋め立て申請 この国はゆがんでいる 沖縄の声、なぜ聞かぬ


<各紙社説・主張・論説>
沖縄タイムス)[「辺野古」申請評価]この埋め難い溝は何か (3/26)
沖縄タイムス)[辺野古埋め立て申請]この国はゆがんでいる (3/24)
琉球新報)埋め立て申請 民主主義否定する暴挙 (3/24)
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朝日新聞)埋め立て申請―沖縄の声、なぜ聞かぬ (3/23)
読売新聞)「普天間」申請 移設実現へ最大の努力尽くせ (3/23)
毎日新聞)埋め立て申請 展望なき「沖縄の同意」 (3/23)
日経新聞)普天間移設へ与党も最大限の協力を  (3/26)
産経新聞)埋め立て申請 知事の大局的判断求める (3/24)
東京新聞)「辺野古」申請 沖縄に寄り添わぬ不実 (3/26)
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北海道新聞)普天間移設 埋め立て申請は不当だ (3/23)
河北新報)埋め立て申請/沖縄の民意を軽んじるな (3/24)
茨城新聞)辺野古埋め立て申請 認められない強硬措置 (3/23)
信濃毎日新聞)普天間の申請 民意軽視は許されない (3/23)
岐阜新聞)辺野古埋め立て申請 強硬措置は反発呼ぶだけ (3/23)
福井新聞)辺野古埋め立て申請 抜本的な見直しが必要だ (3/23)
京都新聞)「辺野古」申請  性急だけで解決できぬ (3/24)
神戸新聞)埋め立て申請/沖縄の民意は置き去りか (3/24)
中国新聞)辺野古埋め立て申請 民意無視にほかならぬ (3/24)
愛媛新聞)辺野古埋め立て申請 なぜ沖縄の声を無視するのか (3/24)
徳島新聞)辺野古埋め立て   柔軟に再検討すべきだ   (3/25)
高知新聞)【埋め立て申請】沖縄になぜ寄り添わぬ (3/24)
西日本新聞)辺野古埋め立て 承認の見通しなき申請だ (3/24)
熊本日日新聞)移設埋め立て申請 沖縄と真摯に向き合ったか (3/24)
宮崎日日新聞)辺野古埋め立て申請 実現可能な選択肢検討せよ (3/26)
南日本新聞)[埋め立て申請] 混乱招く「見切り発車」 (3/24)




沖縄タイムス 2013年3月26日 09時34分
社説[「辺野古」申請評価]この埋め難い溝は何か
 落胆と失望を禁じ得ない。切なくなるような数字だ。
 米軍普天間飛行場を名護市辺野古に移設するため沖縄防衛局が公有水面の埋め立て承認申請書を県知事に提出したことについて、共同通信が実施した全国電話世論調査で、計55・5%が「評価する」と回答した。「評価しない」は計37・6%だった。
 回答を細かく見ると、「評価する」21・2%、「ある程度評価する」34・3%、「あまり評価しない」24・5%、「評価しない」13・1%、「分からない・無回答」6・9%の内訳である。
 なぜ、こんな結果となったのだろうか。
 今年1月、県内41市町村すべての代表らが「建白書」を携え、オスプレイ配備の撤回、普天間の閉鎖・撤去、県内移設断念を政府に要請した東京行動。あのときの大手マスコミの報道と沿道の冷淡な反応が、今回、世論調査の数字として表れたとみれば不思議はない。
 「評価する」数字は何に由来するのだろうか。
 最大の要因は中国の動向だろう。「海洋強国」を掲げる習近平指導部は尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返している。中国の強硬姿勢が、国内で在沖米軍に期待する雰囲気を醸し出していることは想像に難くない。
 もう一つは普天間の返還移設が決まってから17年近くがたっているのに動かないことに対するうんざり感、本土が沖縄から告発されるような構図に嫌気が差しているのではないだろうか。
 沖縄と本土の溝をどうすれば埋められるのか。
    ■    ■
 本社加盟の日本世論調査会が2010年、日米安全保障条約改定から50年の節目に実施した全国世論調査で、日米同盟について59%が「現状のままでよい」と肯定し、戦争放棄をうたった憲法9条は51%が改正する必要がないと答えている。
 憲法9条と日米安保をセットにした安全保障政策は支持が高いことを示している。
 だが、ここに危うい要素が潜んでいるのを指摘しなければならない。
 日米安保体制はしばしば「ヒト(米軍)とモノ(基地)の交換」に例えられる。
 日本は憲法9条と日米安保をセットにし、安保のコストを沖縄に強い、その利益を本土が享受するという政策を取ってきた。安全を米軍に委ね、本土と圧倒的な不均衡の形で基地を沖縄に集中させてきたのである。このため、国民の当事者意識が育ってこなかったのではないか。
    ■    ■
 安倍晋三首相は日米同盟を強調し、米軍を後ろ盾にして「中国包囲網」を敷こうとしているようにみえる。
 だが、当の米国はパネッタ国防長官(当時)が昨年9月の訪中の際、米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に中国海軍を招請。中国側がこれに応じ、2014年から参加することになった。信頼醸成措置である。
 米国では尖閣をめぐる日中の衝突に巻き込まれないか懸念の声が上がる。米国が重層的な取り組みをしていることを見ないと日本は危うい。


沖縄タイムス 2013年3月23日 09時31分
社説[辺野古埋め立て申請]この国はゆがんでいる
 沖縄には歴史的に重要な日付がいくつかある。慰霊の日の6月23日、サンフランシスコ講和条約が発効した4月28日、沖縄の施政権が返還された5月15日。こうした歴史的日付の最後尾に、新たな日付が加わることになった。
 米軍普天間飛行場の辺野古移設のため政府が県に対し公有水面の埋め立てを申請した3月22日という日付である。
 政府は、米側との関係維持を優先させ、辺野古移設に反対する圧倒的多数の民意を情け容赦なく切り捨てた。
 県民大会実行委員会、県議会、県市町村関係4団体、市町村、市町村議会が1月28日、連名で、安倍晋三首相に「建白書」を提出したにもかかわらず、県内移設断念の要求は完全に無視された。
 普天間返還合意の立役者である橋本龍太郎元首相は生前、「地元の頭越しには進めない」ことを何度も強調し、沖縄側との話し合いを重視したが、この前提すらいともたやすく葬られてしまった。
 辺野古移設のための環境影響評価書(補正後)について日本自然保護協会は「極めて不適切」だと指摘した。日本生態学会は、この海域の生態系と生物多様性が失われてしまうことを懸念し、「埋め立ての中止を求める要望書」をまとめた。こうした専門家の疑問や懸念に対しても、政府は聞く耳を持たなかった。
 この事態はあまりにも異常である。安倍政権には、沖縄の人びとの歴史的体験に寄り添う姿勢や、心のひだを内在的に理解しようとする姿勢が、著しく欠けている。沖縄音痴の政権だ。
    ■    ■
 沖縄において主権者は一体、誰なのか。
 日本国憲法は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言」しているが、米軍の利害が絡む問題では、国民の主権よりも米軍の意向が優先されることが多い。米兵による事件事故が発生しても、沖縄の住民や自治体は、地位協定によって「半主権状態」に置かれ、国内法で保障された権利を行使することができない。
 「建白書」は、「国民主権国家日本のあり方が問われている」と厳しく指摘しているが、全く同感である。
 安倍内閣は、サンフランシスコ講和条約が発効した4月28日に、政府主催の記念式典を開く。圧倒的多数の反対の声に背を向けて埋め立てを申請し、沖縄の人びとが「屈辱の日」と呼ぶ日に政府主催の式典を開くというのである。
 これほど露骨な民意無視、沖縄切り捨ては、過去の政権と比較しても突出している。
    ■    ■
 安倍政権の基地政策は明確だ。第一に、住民が反対しようがしまいが、日米同盟の強化をすべてに優先させること、第二に、基地負担の見返りに「カネ」や「公共事業」をばらまき県や業界団体の懐柔に努めること、である。
 要するに、基地と振興策をリンクさせ、基地受け入れに向けた環境整備を図る、というのである。作家の中野重治の小説の中の言葉が胸に響く。「わたしらは侮辱の中に生きています」


琉球新報 2013年3月23日            
社説:埋め立て申請 民主主義否定する暴挙
 安倍政権が米軍普天間飛行場の名護市辺野古沖への移設に向けた公有水面埋め立て承認申請書を県に提出した。これは民主主義を否定する暴挙以外の何物でもない。
 日米が1996年に普天間飛行場の返還に合意して以来、県民は県知事選や国政選、県議選、名護、宜野湾両市長選などで県内移設をめぐり激論を展開してきた。
 しかし、熟議を重ねた結果、今や仲井真弘多知事が「県内は不可能」として県外移設を求め、県内41市町村の全首長、全議会が県内移設に反対している。昨年12月の衆院選で当選を果たした県選出・出身の自民党議員4氏も「県内移設反対」を公約に掲げた。
 こうした民意を無視する差別的取り扱いは断じて容認できない。
 県議会議長や市町村長、議長ら県民代表は1月に安倍晋三首相と面談、普天間飛行場県内移設に反対し、閉鎖・撤去を求める「建白書」を提出した。首相はこの最大公約数の民意を尊重するべきだ。
 普天間移設先について、森本敏前防衛相は「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適」とした。県内移設には必ずしも軍事的合理性はない。
 ジョセフ・ナイ氏ら米国の知日派識者が在沖海兵隊のオーストラリア移転や米本国への撤収論を提起している。元防衛省幹部の中にも「オスプレイ配備の前提となる沖縄海兵隊の存在理由を『抑止力』と説明するのは、軍事的に説得力がない」と述べ、技術の進歩で「海兵隊が沖縄にいる優位性はなくなった」とする指摘がある。
 普天間飛行場や在沖海兵隊を取り巻く環境は変わっているが、辺野古移設に固執する外交・防衛官僚の思考停止が変わっていない。
 安倍首相とオバマ大統領は、シビリアンコントロール(文民統制)を正常に機能させるべきだ。日米関係を劇的に改善し、国民の外交・安全保障政策に対する信頼を回復させるためにも、両首脳の高度な政治判断で普天間の閉鎖・撤去、海兵隊の県外・国外移転を真剣に検討すべき時だ。
 成算のない県内移設手続きでこれ以上、時間と労力を空費するのは愚かなことだ。普天間の固定化阻止、一日も早い危険除去は当然のことだが、その手法はあくまで民主的であるべきだ。日米が民主主義の国であるのなら、「建白書」こそ最大限尊重すべきだ。

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朝日新聞 2013年 3月 23 日(土)付
社説:埋め立て申請―沖縄の声、なぜ聞かぬ
 何の成算もないままの見切り発車と言うほかはない。
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に向け、防衛省がきのう、移設先とする名護市辺野古沖の埋め立てを沖縄県に申請した。
 これを受けて、仲井真弘多(ひろかず)知事が8カ月前後をめどに、承認の可否を判断する。
 県民の圧倒的多数が辺野古への移設に反対しているなかでの埋め立て申請は、かえって問題をこじらせる――。私たちは社説でこう指摘してきた。
 残念ながら、それが現実となってしまった。
 仲井真知事はきのう、「全41市町村が『反対』と言っているなかでどうやってやるのか。理解できない」と語った。名護市の稲嶺進市長も「不意打ち、抜き打ち的」と政府の対応に不快感を示した。
 沖縄の人々が不信感を募らせるのは当然だろう。
 こんな事態を招いておきながら、知事に承認を迫るのはあまりにも無責任だ。
 安倍政権が埋め立て申請を急いだのは、何よりも「日米同盟強化」の証しとして日米間で約束した早期移設への「実績」を示す狙いがある。
 年明けの名護市長選で反対派が勝てば移設が一層困難になることから、その前に知事が承認できる環境を整えたいという判断もあったのだろう。
 だが、申請が沖縄の態度を硬化させたことは否めない。
 安倍首相はこれまで「沖縄の人々の声に耳を傾け、信頼関係を構築しながら移設を進めたい」と語ってきた。
 だが、やっていることはまったく逆ではないか。
 普天間問題だけではない。
 安倍政権は、1952年のサンフランシスコ講和条約発効と日本の独立を記念して、4月28日に政府主催の「主権回復の日」の式典を開く。
 連合国による日本占領が終わった日だが、米軍の施政権下におかれた沖縄では「屈辱の日」と呼ばれている。
 本土から基地を次々と移して、過重負担をもたらした。当然ながら、沖縄からは反発の声があがっている。
 安倍政権は米国への配慮を重ねながら、沖縄の人々の心情を軽視しているとしか思えない。
 政府は今後、沖縄の負担軽減策も進め、県民世論の軟化を促す構えだ。だが、そんな小手先の対応で県民が容認に転じるとは考えにくい。
 知事が「ノー」と言ったとき、その責任を、首相は自ら取る覚悟はあるのか。


(2013年3月23日01時45分  読売新聞)
「普天間」申請 移設実現へ最大の努力尽くせ(3月23日付・読売社説)
 長年の日米間の懸案を解決するため、政府は沖縄県の説得に最大限の努力を尽くすべきだ。
 防衛省が、米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古移設に伴う公有水面埋め立てを沖縄県に申請した。
 沖縄県は今後、埋め立ての許可の是非を慎重に判断する。仲井真弘多知事は「県外移設」を主張しており、許可が得られる見通しは現時点で立っていない。
 しかし、辺野古移設に、地元の名護漁協は今月11日に同意する方針を決定した。移設先の周辺住民も一定の理解を示している。
 辺野古移設が、沖縄全体の基地負担の軽減と米軍の抑止力の維持を両立させるための「最善策」であるのは間違いない。
 政府は、年内に知事の許可を得ることを目指している。辺野古移設が争点となる来年1月の名護市長選の結果が日本の安全保障にかかわる重要問題を左右する事態を避けるためで、妥当な判断だ。
 安倍首相は2月のオバマ米大統領との首脳会談で、辺野古移設を推進する方針を表明した。日米同盟をより強固なものにするうえでも、辺野古移設の実現が重大な試金石となる。
 政府・与党は総力を挙げて、仲井真知事が埋め立てを許可する決断をしやすい環境を整備しなければなるまい。
 非現実的な「県外・国外移設」を安易に唱えた鳩山民主党政権の失政で、今の県内世論の大勢は辺野古移設に反対だが、もともと仲井真知事は容認していた。
 仮に埋め立てを不許可にすれば、普天間飛行場の危険な現状を長期間固定化することにつながる可能性が高い。それが沖縄にとって本当に望ましい選択なのか。
 政府の今後の努力次第では、仲井真知事が許可を最終決断する余地は十分あるはずだ。
 まず自民、公明両党の地方組織や県選出国会議員に辺野古移設への理解を広げる必要がある。
 移設先の名護市関係者の説得も欠かせない。市長は移設に反対だが、市議会は反対派が容認派をわずかに上回っているだけだ。市議会の賛否の勢力を逆転させることができれば、知事の判断にも大きな影響を与えよう。
 普天間飛行場や他の米軍施設の返還後の跡地利用策を含め、沖縄の将来像や地域振興策について、政府は、沖縄県と本格的な協議を重ねていくことが求められる。
 騒音対策など米軍基地負担の軽減策についても、従来以上に真剣に取り組まねばならない。


毎日新聞 2013年03月23日 02時32分
社説:埋め立て申請 展望なき「沖縄の同意」
 政府は、米軍普天間飛行場を沖縄県名護市辺野古に「県内移設」するために必要な辺野古沿岸部海域(公有水面)の埋め立て許可を仲井真弘多知事に申請した。
 移設に向けた大きなステップだが、仲井真知事は「県外移設」を求める姿勢を変えていない。見通しなき申請手続きである。
 この時期に申請を行ったのは、先月の日米首脳会談で安倍晋三首相が辺野古移設という「日米合意」の早期実現をオバマ大統領に約束したことに加え、来年早々に予定される名護市長選の前に仲井真知事の許可を得たいと考えたからである。
 稲嶺進名護市長は辺野古移設に強く反対しており、政府は、稲嶺市長が再選されれば日米合意履行は一層困難になるほか、市長選が近づけば知事の決断が難しくなると判断している。知事の最終判断には半年から10カ月かかるとみられている。
 また、日米間で協議している米空軍嘉手納基地以南の米軍施設・区域返還が進展を見せていること、辺野古海域の漁業権を持つ名護漁業協同組合と埋め立ての補償金額で合意したことなどにより、申請の環境が整ったと判断したのだろう。
 しかし、沖縄は、過重な米軍基地負担を背景に、新たな基地を建設すること自体に強く反対している。埋め立て申請はそうした現実を無視した行為と言わざるを得ない。
 県内の41全市町村長と全市町村議会が県外移設を求め、県議会も県内移設反対の意見書を全会一致で可決している。1月には、東京都内で全市町村の首長らが県内移設断念を求める集会を開き、安倍首相に「建白書」を提出したばかりだ。名護漁協など容認論も一部にはあるが、広がりを欠き、県内移設反対・県外移設の主張が大勢である。
 かつて条件付き容認派だった仲井真知事も、県内移設反対の県民世論を受け、10年の知事選では県外移設を公約に掲げた。申請に対し、仲井真知事は「県内移設は事実上、無理であり不可能だ。県外移設を求める考えに変わりはない」と語った。
 自民党の一部には、仲井真知事が埋め立てを許可しなかった場合、埋め立て許可を国が代行するための特別措置法を制定すべきだとの意見もある。
 しかし、こうした強硬手段に訴えれば、政府と沖縄の溝は決定的に深くなり、在沖縄米軍基地の運用や日米安保体制の円滑な運営に支障を来す事態に発展する可能性がある。また、辺野古での基地建設自体も、島ぐるみの基地反対運動によって不可能になることが予想される。
 安倍首相には、米軍基地問題に対する沖縄の政治状況を直視し、慎重に対応するよう望む。


日経新聞 2013/3/26付
社説:普天間移設へ与党も最大限の協力を
 懸案の解決が行き詰まったとき、避けなければならないのは、より良い代替案がないにもかかわらず、今ある打開案を葬ってしまうことだ。事態はさらに悪化し、解決の望みが断たれてしまう。
 沖縄の米軍普天間基地の移設問題もそうだ。沖縄県名護市辺野古への移設案は、地元の反対から実現のめどがついていない。だからといってこの案を断念すれば、普天間は行き場を失い、長期間、街中にとどまることになりかねない。最も影響を受けるのは、事故の危険にさらされる地元だ。
 そうした事態を避けようと、政府は辺野古沿岸部の埋め立て申請を沖縄県に出した。普天間を移設するには仲井真弘多知事の許可を得て、辺野古沖の一部を埋め立てなければならないためだ。申請は必要な手続きといえよう。
 仲井真知事は埋め立てを許可するかどうか、8~10カ月かけて判断するという。政府が埋め立て申請を出したことに、名護市の稲嶺進市長らは反発している。
 同市にかぎらず、沖縄では県内移設への反対が強い。このような状況では、仲井真知事の意向がどうであろうとも、埋め立てを許可するのは容易ではない。
 安倍政権は仲井真知事にゲタを預けるのではなく、自らも前面に出て、地元の理解を得る努力を尽くさなければならない。そこで大切なのは、政府だけでなく、与党である自民、公明両党も移設の実現に向けて行動することだ。
 沖縄県選出の国会議員や県議会内には、辺野古移設への慎重論や反対論が多い。そこには自民党や公明党に所属する議員も含まれる。まずは両党がこうした人々に働きかけ、移設への理解を取りつけていく努力が欠かせない。
 民主党も傍観者ではいられないはずだ。同党の海江田万里代表はこの時期に埋め立て申請が出されたことに、疑問を呈した。
 だが、移設が難航しているのは、民主党に大きな責任がある。同党は何の目算もないのに「県外移設」を掲げて政権に就き、迷走の末に辺野古案に回帰した。せめて、移設の実現に協力すべきだ。
 むろん、言葉による働きかけだけでは、沖縄の反発は和らぐまい。米軍基地が集中する沖縄の負担を、日本全体で分かち合う取り組みが必要だ。在沖米軍による訓練の一層の分散なども真剣に検討すべきだ。米軍の嘉手納基地以南の施設の返還も急いでほしい。


産経新聞 2013.3.24 03:31 (1/2ページ)
【主張】埋め立て申請 知事の大局的判断求める
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沖への移設に向け、防衛省が県に対し、公有水面の埋め立て申請を行った。移設実現に向けた一歩を進めたことを歓迎したい。
 許可権限を持つ仲井真弘多知事は「辺野古移設は事実上困難」との姿勢を崩していない。だが、尖閣諸島情勢など日本を取り巻く安全保障環境は緊迫の度を増している。日米双方が実現可能とした辺野古案を、大局的見地から受け入れる決断を下してほしい。
 普天間問題の重要性は論をまたない。中国が尖閣への領海侵犯を重ね、北朝鮮が核実験を強行する状況に対処するには、日米安保体制の維持強化が不可欠だ。在日米軍の重要拠点だった普天間の移設は最優先課題である。
 安倍晋三首相がさきの訪米で、オバマ大統領に対して「早期実現」を約束したのも当然だ。解決の遅れが中国などを勢いづけ、日本の安全保障を危うくする事態を招いてはならない。
 首相は申請に際し「沖縄の負担軽減に全力を尽くす。普天間の固定化は断じてあってはならない」と語った。すでに安倍政権は那覇空港第2滑走路の工期短縮など、沖縄振興に手厚い施策を講じる姿勢を見せている。
 日米両政府が合意した米軍嘉手納基地以南の米軍施設返還も、計画を具体化して県民に提示することが重要だ。今後も誠実に粘り強く説得を重ねてほしい。
 自民党本部と沖縄県連とのねじれ解消も欠かせない。県連は昨年暮れの総選挙で「県外移設」を訴えており、「すぐにスタンスは変えられない」と参院選でも同じ主張を掲げようとしている。政権党として、一貫した方針を取れなければ説得力を持たない。
 仲井真知事は申請に対し、「決めたから実行できるというのは、考えられない」と不快感を示している。「県外移設」を掲げた民主党政権が事態を迷走させ、県内に根強くある反対論を無視できない状況だからだ。
 だが申請に先立ち、名護の漁業協同組合は漁業権の一部放棄に同意した。さきの辺野古地区の区長選も、移設推進派候補がくじ引きで敗れる接戦だった。受け入れ容認の地元意見は、確実に存在している。政府や自民党は知事が決断しやすいよう、あらゆる面で支えてゆかねばならない。


東京新聞 2013年3月26日
【社説】「辺野古」申請 沖縄に寄り添わぬ不実
 この国の為政者はなぜ、沖縄の痛みに寄り添おうとしないのか。新しい米軍基地を造るための名護市沿岸部埋め立て申請。県知事が不可能とするのに強行するのは、あまりにも不誠実ではないのか。
 市街地に隣接する米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の危険を取り除くには、部隊を一刻も早く別の場所に移すことが必要だ。
 しかし、在日米軍基地の74%が集中する沖縄県に、新しい基地を造るのは負担の押し付けにほかならない。県民の多くや自治体の首長・議会が反対する県内移設に固執しては、問題解決を長引かせるだけだろう。
 防衛省沖縄防衛局の職員は二十二日午後、事前連絡もなく県北部土木事務所(名護市)に現れ、辺野古移設に反対する市民や報道陣を避けるように申請書類入りの段ボール箱を運び込んだ、という。
 政府は環境影響評価書を送った際も、書類の入った段ボール箱を夜陰に乗じて県庁に運び込んだ経緯がある。このような形でしか進められない手続きは、移設反対派との混乱を避けるためとはいえ、県内移設がいかに理不尽なものであるかを象徴している。
 埋め立ての許可権を持つ仲井真弘多県知事は、辺野古への県内移設が「事実上不可能、無理だ」と繰り返し強調してきた。知事が判断する際に意見を聞く、地元・名護市の稲嶺進市長も、辺野古への移設に反対を明言している。
 県議会議長や県内四十一の全市町村長、議長らは一月に連名で、普天間飛行場の閉鎖・撤去と県内移設の断念を求めた「建白書」を安倍晋三首相に手渡した。県内移設反対は沖縄県民の「総意」だ。
 仲井真知事が埋め立てを許可できる状況にないにもかかわらず、なぜ政府は申請手続きを強行できるのだろう。なぜ、辺野古移設に反対する沖縄県民よりも、米政府の意向に従おうとするのか。
 安倍内閣は一九五二年にサンフランシスコ講和条約が発効した四月二十八日を「主権回復の日」とし、政府主催の記念式典を開くことを閣議決定した。しかし、条約によって日本本土と切り離され、苛烈な米軍支配に置かれた沖縄にとってこの日は「屈辱の日」だ。
 安倍首相は「沖縄の苦難の歴史を忘れてはならない」と述べた。その決意があるのなら、沖縄県以外の都道府県に米軍基地負担の受け入れを求めたり、国外移設を米政府に提起すべきではないか。それをやるのは今、なのだ。

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北海道新聞 2013年3月23日
社説:普天間移設 埋め立て申請は不当だ(3月23日)
 政府はきのう、沖縄の米軍普天間飛行場の移設先としている名護市辺野古沿岸の公有水面埋め立て承認申請書を沖縄県に提出した。
 日米合意に沿って辺野古移設を実現するため、必要な手続きを一歩進めたことになる。地元の反対を無視するかのような態度であり、到底納得できない。
 埋め立てを許可する権限を持つ仲井真弘多(なかいまひろかず)沖縄県知事は辺野古移設について「事実上不可能」と否定している。このまま手続きを進めても実現の見通しは立たない。
 政府の対応は拙速と言わざるを得ない。現行の計画を撤回し、県外移設の道を模索するべきだ。
 小野寺五典防衛相は記者会見で「承認してもらえるよう精いっぱい努力する」と語った。その言葉と裏腹に政府には高圧的態度が目立つ。
 先月の日米首脳会談で安倍晋三首相はオバマ米大統領と普天間飛行場の早期移設で合意した。首相は日米同盟強化のために辺野古移設を進める考えを強調してきた。
 その延長線上に今回の埋め立て申請がある。沖縄の負担軽減は置き去りのままだ。これでは対米追従外交のツケを沖縄に押しつける従来の構図と何ら変わりない。
 地元の名護漁協が埋め立てに同意したことを追い風と受け止めたのだろう。来年2月任期満了の名護市長選の前に知事が申請の可否を判断できる環境を整えたかったようだ。
 しかし、政府に対する地元の信頼は地に落ちている。
 政府は埋め立て申請の前提となる環境影響評価書を、地元の反対を押し切って強引に県へ提出した。知事は評価書に対し「環境保全上重大な問題がある」と指摘したにもかかわらず、埋め立て申請へ歩を進めた。
 安倍首相はきのう「普天間の固定化が断じてあってはならない」と強調した。これは「固定化を避ける代わりに辺野古移設を受け入れろ」という恫喝(どうかつ)にほかならない。
 米軍の新型輸送機MV22オスプレイは普天間に強行配備された。安倍首相は戦後沖縄が米国の施政権下に置かれることになった4月28日を「主権回復の日」として祝うという。
 沖縄の人々は「どこまでわれわれを軽視するのか」と言いたい気持ちだろう。
 沖縄県知事は約1年かけて地元市町村などの意見を聞き、埋め立ての可否を判断するとみられる。名護市をはじめ県内41市町村の全てが辺野古移設反対を決議している。知事が承認できる状況にはない。
 政府は県内移設の困難さをきちんと理解すべきだ。辺野古移設案を白紙に戻した上で、あらためて沖縄との対話を深めなければならない。


河北新報 2013年03月24日日曜日
社説:埋め立て申請/沖縄の民意を軽んじるな
 見切り発車、強行突破、ごり押し…。民主主義社会にふさわしくない、こわばった言葉しか思い浮かばない。
 政府は22日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先としている同県名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認申請書を沖縄県に提出した。
 許可権限を持つ仲井真弘多沖縄県知事はじめ、県民の理解が得られるめどは全く立っていない。沖縄がたどってきた歴史的経緯、移設の理不尽さを考えると、条件交渉で打開策を見いだすことなど、もはや不可能だ。
 安倍晋三首相は対米公約を優先するあまり、民意を無視していないか。普天間代替案は、首相の常套句(じょうとうく)である「ゼロベースで見直す」こと以外に展望が開けないことを知るべきだ。
 市街地にあり、「世界一危険」と称される普天間飛行場返還と沖縄県内移設で日米両政府が合意したのは1996年。辺野古沿岸とする移設案には、当初から反対の声が多かった。
 政権交代で、鳩山由紀夫首相(当時)が県外移設を表明したものの、最終的に断念。期待値を高めた上での原案回帰に、県内世論は一層、硬化した。
 民主党政権の「外交敗北」を指弾する安倍首相の運びは前のめりだ。アセス関連手続きを完了させ、2月にはオバマ米大統領と会談、移設を早期に進める方針を確認した。
 基地負担軽減や振興策を話し合う沖縄政策協議会を19日に開いて地ならし。沖縄防衛局は22日、電話連絡から5分後に、埋め立て申請書類を詰めた段ボールを県土木事務所に持ち込んだ。
 反対派との摩擦を避ける狙いがあったのだろうが、これでは抜き打ち同然。名護市の稲嶺進市長が「とても許せない。本当に怒っている」と語気を強めたのはもっともなことだ。
 「沖縄の方々の声に耳を傾け、信頼関係を構築する」。首相は2月の施政方針演説で、こう述べた。言行不一致というより、行動が言葉を裏切っている。
 サンフランシスコ講和条約が発効した4月28日(1952年)を「主権回復の日」として、式典を開催することを閣議決定したことも、県民の神経を逆なでしている。
 この日は沖縄が本土から切り離され、米国の施政権下に入った日でもある。本土の「祝賀」は沖縄の「屈辱」であることに思いが至らない。歴史に対する無理解と言わざるを得ない。
 辺野古移設をめぐっては、米国の軍事専門家からも滑走路の短さなど技術的な観点から再検証を求める提言が出されている。原案に固執することは、むしろ日米同盟にマイナスとなる。
 東日本大震災後、辺野古で抗議活動を続ける市民団体は「米軍への思いやり予算を凍結し、被災地支援に充てよ」と署名活動を展開した。琉球新報はことしも、3月11日付の被災3県の地元紙社説を転載した。
 沖縄から寄せられている厚情に、東北としてどう応えるのか。基地移設問題を「わが事」として受け止める。


茨城新聞 2013年3月23日(土)
論説:辺野古埋め立て申請 認められない強硬措置
政府は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設に向け、滑走路建設を計画する同県名護市辺野古沿岸部の埋め立てを沖縄県側に申請した。
安倍晋三首相は2月の日米首脳会談で、日米合意に沿って普天間飛行場の辺野古移設を早期に進めることを確認した。だが沖縄県の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事は「辺野古への移設は事実上不可能だ」として県外移設を求めており、申請を認める見通しはない。
既定方針を押し通す政府の姿勢は、地元の反発を一層深め、事態を行き詰まらせるだけだ。打開に向けた抜本的な再考を求めたい。
安倍首相は首脳会談で、日米両政府が返還で合意したにもかかわらず具体化が遅れている沖縄本島中南部の米軍施設・区域の早期返還をオバマ大統領に直接要請。沖縄振興策を話し合う沖縄政策協議会を開くなど、辺野古移設に向けた「環境整備」ともいえる取り組みを進めてきた。
だが、それでも地元の理解が得られないのは、根本的な問題に取り組む姿勢をみせず、解決策も示せていないからだ。
なぜ米軍基地が日本に必要で、その大部分の負担を沖縄が担わなければならないのか。本土の基地負担をどう考えるのか。世界規模の米軍再編の中で日米同盟の将来像をどう描くのか。日本独自の防衛力整備をどう設計するのか。
沖縄の反発が強まる中で、そうした議論や説明を十分に深めないまま、日米合意を既定方針通り進めることに拘泥して手続きを進める。これでは事態は打開できない。
米国の安全保障専門家の中からも、普天間飛行場の県内移設計画を再検討すべきだとの意見が出ている。市街地にあり事故の危険が指摘される普天間飛行場の固定化を避け、移設計画は進めなければならない。現実的に実現可能な選択肢を早急に再検討すべきだ。
安倍政権は、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として政府主催の式典を開くことを閣議決定した。だが沖縄は72年の本土復帰まで米軍統治下に置かれ、沖縄ではこの日は「屈辱の日」と呼ばれる。
首相は閣議決定時に「沖縄の苦難の歴史を忘れてはならない」と言及したが、こうした決定自体が歴史を直視しない意識の表れではないか。
政府は辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の手続きを終え、辺野古沖の漁業権を持つ漁協の同意を得るなど準備を進めてきており、埋め立て申請の時期が焦点となっていた。
「主権回復の日」に沖縄の反発が強まる中での埋め立て申請は、県民の怒りをさらに増幅させることになろう。
沖縄県側は約1年かけて埋め立ての可否を判断するとみられている。知事が埋め立てを認めなかった場合、かつて米軍用地継続使用のために特別措置法改正を強行したのと同様に、国の責任で埋め立てを認める法的措置を検討するのかも課題となるだろう。強硬措置は絶対に認められない。その時間があれば、米側と再検討を急ぐべきだ。
日米合意に従って普天間飛行場の移設を進め、普天間に配備された米軍の新型輸送機オスプレイが危険性を指摘されながら本土上空で飛行訓練を行う。「主権」の在り方をあらためて考えたい。


信濃毎日新聞 2013年03月23日(土)
社説:普天間の申請 民意軽視は許されない
 政府は、沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の移設先に想定している名護市辺野古沖の埋め立てを、同県に申請した。
 安倍晋三首相が先月の日米首脳会談で、オバマ大統領と早期移設を確認したことで事実上の「対米公約」となり、具体的な手続きが加速した。
 住宅密集地に隣接する同飛行場は「世界一危険な基地」といわれてきた。固定化を避け、危険性を取り除くのは必要としても、移設が実現すると恒久的な新基地が誕生することになる。
 仲井真弘多知事のほか、名護市など全自治体が反対している。申請には民意をないがしろにした荒っぽさを感じる。沖縄の人々が怒るのは当たり前だ。
 普天間飛行場は、1995年に沖縄で起きた米兵による少女暴行事件をきっかけに、日米両政府が返還に合意した経緯がある。自公政権下の2006年、辺野古の米軍基地沿岸部を埋め立て、滑走路を建設することが決まった。
 ところが、民主党の鳩山由紀夫元首相が総選挙で県外移設を訴えたために事態は迷走、日米関係にも亀裂が入った。結局、辺野古案に舞い戻り、米国と再び合意を結ぶことになる。民主党政権が自壊する一因にもなった。
 自民党は、悪化した日米関係の修復のてこに、辺野古移設を利用している感が否めない。本来なら政権奪還を機に、沖縄の声にあらためて向き合うなど、党として普天間問題を徹底的に検証し直すべきだった。なのに、既に敷かれたレールに乗って、一気に懸案を片付けようとしている。
 しかも、振興策や振興費用というアメを沖縄に示しながら、新たな基地の受け入れを迫る旧来のやり方である。沖縄県は1年ほどかけて埋め立ての是非を検討するとみられるが、直ちに移設の実現に結び付くかは疑問だ。
 何より、沖縄県民が実感し、納得できる基地負担の軽減が実現するかどうかも分からない。安倍内閣には丁寧な説明を求める。
 時事通信が先日行った世論調査によると、辺野古移設の日米合意を見直すべきだとの答えは45・8%に上った。堅持すべきの38・0%を上回っている。政府の強引な手法に、本土を含めた多くの人が疑問を抱いている。
 今の日米関係は沖縄の我慢の上に成り立っているように思えてならない。そんな性格を強めることは許されない。安倍首相には民意を軽視するような政治姿勢と決別してもらいたい。


岐阜新聞 2013年 3月23日(土)
社説:辺野古埋め立て申請 強硬措置は反発呼ぶだけ
 政府は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設に向け、滑走路建設を計画する同県名護市辺野古沿岸部の埋め立てを沖縄県側に申請した。
 安倍晋三首相は2月の日米首脳会談で、日米合意に沿って普天間飛行場の辺野古移設を早期に進めることを確認した。だが沖縄県の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事は「辺野古への移設は事実上不可能だ」として県外移設を求めており、申請を認める見通しはない。
 既定方針を押し通す政府の姿勢は、地元の反発を一層深め、事態を行き詰まらせるだけだ。打開に向けた抜本的な再考を求めたい。
 安倍首相は首脳会談で、日米両政府が返還で合意したにもかかわらず具体化が遅れている沖縄本島中南部の米軍施設・区域の早期返還をオバマ大統領に直接要請。沖縄振興策を話し合う沖縄政策協議会を開くなど、辺野古移設に向けた「環境整備」ともいえる取り組みを進めてきた。
 だが、それでも地元の理解が得られないのは、根本的な問題に取り組む姿勢をみせず、解決策も示せていないからだ。
 なぜ米軍基地が日本に必要で、その大部分の負担を沖縄が担わなければならないのか。本土の基地負担をどう考えるのか。世界規模の米軍再編の中で日米同盟の将来像をどう描くのか。日本独自の防衛力整備をどう設計するのか。
 沖縄の反発が強まる中で、そうした議論や説明を十分に深めないまま、日米合意を既定方針通り進めることに拘泥して手続きを進める。これでは事態は打開できない。
 米国の安全保障専門家の中からも、普天間飛行場の県内移設計画を再検討すべきだとの意見が出ている。市街地にあり事故の危険が指摘される普天間飛行場の固定化を避け、移設計画は進めなければならない。現実的に実現可能な選択肢を早急に再検討すべきだ。
 安倍政権は、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として政府主催の式典を開くことを閣議決定した。だが沖縄は72年の本土復帰まで米軍統治下に置かれ、沖縄ではこの日は「屈辱の日」と呼ばれる。
 首相は閣議決定時に「沖縄の苦難の歴史を忘れてはならない」と言及したが、こうした決定自体が歴史を直視しない意識の表れではないか。
 政府は辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の手続きを終え、辺野古沖の漁業権を持つ漁協の同意を得るなど準備を進めてきており、埋め立て申請の時期が焦点となっていた。
 「主権回復の日」に沖縄の反発が強まる中での埋め立て申請は、県民の怒りをさらに増幅させることになろう。
 沖縄県側は約1年かけて埋め立ての可否を判断するとみられている。知事が埋め立てを認めなかった場合、かつて米軍用地継続使用のために特別措置法改正を強行したのと同様に、国の責任で埋め立てを認める法的措置を検討するのかも課題となるだろう。強硬措置は絶対に認められない。その時間があれば、米側と再検討を急ぐべきだ。
  日米合意に従って普天間飛行場の移設を進め、普天間に配備された米軍の新型輸送機オスプレイが危険性を指摘されながら本土上空で飛行訓練を行う。「主権」の在り方をあらためて考えたい。


福井新聞(2013年3月23日午前7時06分)
論説:辺野古埋め立て申請 抜本的な見直しが必要だ
 政府は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設先に想定している名護市辺野古沿岸部の埋め立てを沖縄県側に申請した。しかし、仲井真弘多県知事は「辺野古移設は事実上不可能だ」として強く県外移設を求めている。地元の反発は一層強まっており、展望は見いだせない。政府はこれ以上不毛なごり押しをせず、計画を抜本的に見直すべきではないか。
 普天間飛行場の辺野古移設は日米合意に基づく。2月の日米首脳会談でも早期に進めることを確認した。安倍晋三首相は会談で、具体化が遅れている沖縄本島中南部の米軍施設・区域の早期返還をオバマ大統領に直接要請。さらに先日には沖縄政策協議会を開いて知事と振興策を話し合った。一連の動きは明らかに申請に向けた地ならしといえる。
 協議会で菅義偉官房長官は「可能な限り沖縄に寄り添う思いで対応したい」と述べた。だが沖縄の根本的な問題解決に取り組まず、「振興」と「基地負担の軽減」で対症療法的に進めようとすること自体が極めて不誠実であろう。
 米軍施設が沖縄に占める面積は県土の約10%、国内でみれば施設の75%が沖縄に集中する異常な状態。まちづくりや交通網整備の阻害要因になっている。米兵による暴行事件が相次ぎ、普天間に配備された米軍新型輸送機オスプレイが危険性を指摘されながら飛行を続けている。
 そもそも、米軍基地がなぜ日本に必要か、その大部分の負担をなぜ沖縄が担わなければならないのか。世界規模の米軍再編の中で日米同盟の将来像をどう描くのか。また日本独自の防衛力をどのように整備、設計するのか。こうした重要なテーマに政府は向き合っていない。
 安倍政権は日米合意を既定方針通り進めることに拘泥するが、その実、中国や北朝鮮の脅威を背景に、日米同盟に寄りかかる姿勢がもろに見える。
 軍事専門家である森本敏前防衛相は「軍事的には沖縄でなくていい」と発言している。米国の安全保障専門家の中からも、普天間飛行場の県内移設計画を再検討すべきだとの意見が出ている。市街地にあり事故の危険が指摘される普天間飛行場の固定化は避けなければならない。現実的に実現可能な選択肢を早急に再検討すべきではないか。
 安倍政権は、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として政府主催の式典を開くことを閣議決定した。72年の本土復帰まで米軍統治下に置かれた沖縄では、この日を「屈辱の日」と呼んでいる。首相は「沖縄の苦難の歴史を忘れてはならない」と言及したが、こうした決定自体が歴史を直視しない意識の表れであろう。
 政府は辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の手続きを終え、辺野古沖の漁業権を持つ漁協の同意も得た。県側は約1年かけて埋め立ての可否を判断するとみられているが、先は見えない。かつて米軍用地継続使用のために特別措置法を改正したような強硬措置は許されるはずもない。


[京都新聞 2013年03月24日掲載]
社説:「辺野古」申請  性急だけで解決できぬ
 何の成算もなしに、自分の都合を優先して、手続きだけは前に進める。こんなやり方で相手を説得できるはずはない。
 政府は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を名護市辺野古に県内移設するために必要な沿岸部の埋め立て申請書を県に提出した。
 埋め立て申請は日米合意に基づく県内移設に向けた具体的な手続きの一環となる。安倍晋三政権が申請を急ぐのは、2月下旬の日米首脳会談でオバマ米大統領に約束した普天間飛行場の移設を早期に果たしたいとの思いがあるからだ。
 公有水面埋立法に基づき許可権限を持つ沖縄県の仲井真弘多知事は「県外移設」を求める姿勢を変えておらず、当面は回答を留保するとみられる。
 まず問題なのは、申請が抜き打ちで行われたことだ。防衛省によると、辺野古地域に漁業権がある名護漁業協同組合が、埋め立て許可の前提となる漁業権の一部放棄の同意書を提出したため、申請を急いだという。国から県への通告は申請の5分前だった。
 辺野古の埋め立て申請に先立って、2011年12月に国が環境影響評価書を県に提出した際には、反対派が県庁前に陣取り、現場が混乱した。結局、未明にこっそり守衛室に段ボール箱を運び入れた光景と重なる。
 名護市の稲嶺進市長は「県民を欺くような抜き打ちで申請がなされた。こんな姑息(こそく)なやり方は間違っている」と憤りを隠さない。当然の受け取り方だ。
 申請を受け、仲井真知事は「事実上、県内移設は不可能だと申し上げてきた。実現可能性を抜きに、決めたから実行するというのは理解できない」と不快感を示している。
 沖縄県議会をはじめ、県内の41全市町村長と全議会も県外移設を求めている。1月には県内の全首長と議長が東京都内で県内移設断念を求める集会を開き、安倍首相に「建白書」を手渡している。
 米軍自身が「世界一危険」と認める普天間飛行場の返還に日米両政府が合意して、4月で17年になる。この間、沖縄国際大キャンパスへの米軍ヘリ墜落事故や米軍兵士による数々の犯罪や事件もあって沖縄への過重な基地負担の矛盾がますます明らかになっている。
 安倍首相の「沖縄の負担軽減に全力を尽くす。普天間飛行場の固定化が断じてあってはならない」の言葉に異論はない。
 ここまでもつれた糸を解きほぐすには、性急に沖縄県側に埋め立て同意を求めるのではなく、政権が沖縄の人々の訴えに真摯(しんし)に耳を傾けることから始めるしかない。


神戸新聞 2013/03/24
社説:埋め立て申請/沖縄の民意は置き去りか
 安倍晋三首相が力説する「信頼関係の構築」も「地元の理解」も、これではますます遠くなるばかりだろう。
 米軍普天間飛行場の移設先とされている名護市辺野古沿岸部の埋め立て申請書を、政府が沖縄県に提出した。安倍政権は日米合意に基づいて県内移設を目指しており、実現に向けた具体的な手続きに踏み出したことになる。
 抜き打ちとも取れる突然の申請書提出に、沖縄では憤りと反発が広がっている。仲井真弘多(なかいまひろかず)知事も「県内移設事実上不可能だと申し上げてきた。決めたから実行するというのは理解できない」と、不信と不快感をあらわにした。
 政府は「承認してもらえるよう精いっぱい努力する」としているが、沖縄との溝はさらに深くなった。手続きが一歩前に進んだとはいえ、計画の実現は一層困難になったのではないか。
 安倍首相は、先月の日米首脳会談でオバマ大統領と普天間移設を前に進める方針を確認した。自ら切り出したことで、事実上の「対米公約」となった。
 申請書の提出はそれを受けた動きで、政府は今月末をめどにタイミングを計っていたようだ。計画の遅れは回避したいとの考えがあったことは間違いない。
 しかし、沖縄では県民のほとんどが県内移設に反対している。1月には県内41市町村の全首長らが計画の「断念」を求める「建白書」を安倍首相に手渡した。沖縄選出の自民党国会議員らも「県外」を主張しており、民意は明白だ。
 これまでも安倍首相や閣僚らは「丁寧に説明を尽くす」と述べてきた。埋め立て申請に先だって地元漁協の同意は得たが、周辺には反対している漁協もある。「沖縄の民意を置き去りにした」と批判されても仕方がない。
 申請を受けた仲井真知事は、今後1年ほどかけて是非を慎重に判断するという。その間、政府はあらためて沖縄の声に耳を傾け、基地負担の重さと県民の思いをきちんと受け止めねばならない。
 ただし、普天間の固定化はあってはならない。日米で約束した通り、沖縄本島中南部の米軍5施設などの返還も、移設計画と切り離し粘り強く求めていく。そこに外交力を発揮してもらいたい。
 米国内にも計画の再検証を促す専門家がいる。時間はかかるが、日米同盟の堅持と沖縄の基地負担軽減という原点に立ち返って別の解決策を模索するのが、現実的な道ではないか。
 「辺野古」にこだわる限り、沖縄の民意と日米合意の板挟み状態は続く。


中国新聞 '13/3/24
社説:辺野古埋め立て申請 民意無視にほかならぬ
 沖縄県民の思いを無視し、ごり押しを一体いつまで続けるのだろう。
 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先として政府はおととい、辺野古(名護市)沿岸部の埋め立てを承認するよう仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事に申請した。
 電話連絡の5分後に申請書を運び込むという唐突なやり方である。混乱を避けるためとはいえ、移設反対の民意を踏みにじるかのような強引さには首をかしげざるを得ない。
 知事は「県内移設は事実上無理だ」と不快感を示した。当然だろう。
 政府はそうした地元の声に耳を貸さないばかりか、丁寧に説明を尽くしているようにも見えない。既定方針に沿った手続きというのだろうが、これでは事態をこじらせるだけだ。むしろ地元も交え、抜本的な解決策を模索すべきではないか。
 地元の民意が凝縮された文書がある。普天間の閉鎖・撤去と県内移設の断念を求めた「建白書」。県議会議長や県内41の全市町村長、議長らが署名し1月末、安倍晋三首相に手渡した。
 そこでは、普天間に配備された垂直離着陸輸送機オスプレイが日米間で取り決めた安全協定を破って飛び回る現状について「米軍はいまだ占領地のごとく傍若無人に振る舞う。国民主権国家日本の在り方が問われる」と強い調子で非難している。
 首相や担当閣僚は辺野古移設をめぐり「地元の理解を得ながら進めていく」と口では繰り返してきたが、その行動は真反対だ。建白書は安倍政権への批判でもあろう。
 さらに県民をいら立たせたのが「主権回復の日」である。政府は先日、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効した4月28日に政府主催の記念式典を開くと閣議決定した。ところが、その後も米軍の統治下に置かれた沖縄にとっては「屈辱の日」にほかならない。
 安倍首相は2月の日米首脳会談でオバマ大統領と、辺野古移設の早期進展を確認し合った。今回の申請は首相にとって、約束を果たすための重要な一手に違いない。しかし沖縄からすれば、日米同盟に伴う負担の継続を宣告されたような話である。
 政府は沖縄の振興策を話し合う沖縄政策協議会を再開した。だが、それで県民を懐柔しようというのなら筋違いだ。
 普天間を固定化させてはならないのはもちろんである。だからといって辺野古移設しかないとのかたくなな態度では、行き違いは解消しない。かえって県民の不信感を増幅させる。
 普天間のオスプレイは今月から米海兵隊岩国基地(岩国市)に飛来し四国などで訓練飛行を始めた。これも沖縄の負担軽減策だと政府は言いたいのかもしれないが、米軍の意向に従順な姿勢をますます際立たせた。
 今は米国の識者からも「オスプレイを沖縄から撤収せよ」との声が聞かれる。辺野古移設が行き詰まったという政治的な理由だけではない。飛躍的に能力が高まったオスプレイなら、グアムなどに移しても軍事的な影響は少ないとの指摘である。
 沖縄の建白書にある国民主権国家の意味をあらためて考えたい。民意を基本に据えれば、おのずから答えは導かれよう。普天間の国外移設を真剣に検討するしかない。


愛媛新聞 2013年03月24日(日)
社説:辺野古埋め立て申請 なぜ沖縄の声を無視するのか
 国はいつまで、沖縄の声を無視し続けるのか―。
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先とされている名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認申請書を、政府が沖縄県に提出した。
 公有水面埋立法に基づき許可権限を持つ仲井真弘多知事は来週にも受理した上で、当面は回答を保留する方針。焦点は知事の判断に移った。
 ただ、仲井真知事は「県内移設は不可能だと申し上げてきた」と反対の姿勢を崩していない。沖縄の信頼を失い、移設できる状況にないまま強引に提出したとて理解は得られまい。提出が、さらに沖縄の反感を買うのは必至だ。
 仲井真知事は、約1年かけて是非を判断するとみられるが、事実上、埋め立ての実現は困難とみられる。
 世界一危険といわれる普天間飛行場の移設は最優先事項だ。しかし県内移設で沖縄の負担は軽減しない。このジレンマの責任は無論、対米追従に終始し、沖縄の声を軽視してきた国にある。
 辺野古移設に固執していたのでは、基地問題は解決しない。国にはあらためて、県外移設を含めた基地配置の抜本的な見直しを求めたい。
 安倍晋三首相は2月、オバマ米大統領との首脳会談で、日米合意に沿って普天間移設を早期に進めると言明した。約束を果たしたいとの思惑もあったであろう。
 ならば、早期に普天間の県外・国外移設を決断し、嘉手納基地以南の5施設・区域返還なども急ぎ、あまねく沖縄の負担軽減に全力を尽くすべきではないか。
 辺野古移転に関しては、これまでも、国の強権的な手続きが批判を浴びてきた。
 辺野古の環境アセスメントでは、知事や専門家から多くの問題点が指摘された。ジュゴンの生息状況を把握しないなどスケジュールありきの姿勢が批判されもした。
 その反省もないまま、今回も申請を強行したのだ。県北部土木事務所に書類を提出した沖縄防衛局の職員は、名刺も出さず名乗りもせず、事前連絡もなかったという。まさに、沖縄県民の感情を逆なでする行為であろう。
 きのう、山本一太沖縄北方担当相が知事や稲嶺進名護市長らと会談。沖縄側は反対をあらためて表明した。何度沖縄を訪れようが、辺野古移設の進展はあり得ないのだ。
 いま、米軍は再編のさなかにある。この際、辺野古移設は白紙に戻し、基地全体の縮小と再配置を検討することしか、解決の道はない。
 以前、沖縄県の幹部が吐露した。国がやらないなら、沖縄県が日米安保条約について交渉する―。国はこの声をどう聞くのか。負担軽減という認識が共通している以上、問題はその方法論なのだ。


徳島新聞 2013年3月25日付
社説:辺野古埋め立て   柔軟に再検討すべきだ
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を名護市辺野古沿岸部に移転させるための埋め立て承認申請書を、政府が沖縄県に提出した。
 今月末とみられていた時期を早め、抜き打ち的に行ったことに、県民から激しい怒りの声が上がっている。
 公有水面埋立法に基づく許可権限を持つ仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)知事は「事実上、県内移設は不可能だと申し上げてきた。実現可能性を抜きに、決めたから実行するというのは理解できない」と不快感を示した。
 知事から意見を聴かれる立場の稲嶺進名護市長も「姑息(こそく)だ。断じて許すわけにはいかない」と憤りをあらわにしている。
 こうした状況を踏まえると、知事が申請を認める見通しはなく、辺野古移設の実現性は極めて低いと言わざるを得ない。現行計画に固執して問題の解決を長引かせることは、沖縄県民にとっても日米両国にとっても不幸なことだ。両政府は柔軟な姿勢で再検討すべきである。
 日本政府が前倒しで申請に踏み切ったのは、提出を阻止しようとする反対住民らとの混乱を避ける狙いがあったからのようだ。2011年12月に環境影響評価書を提出した際には、県庁玄関前で包囲された配送業者が引き返す事態が起きた。
 しかし、今回の抜き打ち的なやり方は県民の不信感を一層高め、逆効果になったのは間違いない。
 2月下旬の日米首脳会談で、辺野古への移設を早期に進めることで一致したことも背景にあるとみられる。日米同盟の強化を優先課題に掲げる安倍晋三首相が米国との約束を早く果たしたいと考えたのは想像に難くない。
 だが、日米関係の重要性をいくら強調しても納得は得られまい。むしろ、地元を軽視した対米優先の動きと受け止められたのではないか。
 辺野古移設に対しては、米シンクタンクの安全保障専門家からも再検討すべきだとの提言が出されている。日米両政府に一定の影響力を持つ新米国安全保障センターのクローニン上級顧問で、移設後の滑走路の長さが普天間より短く不十分な上、地元の反対が続くことなどを理由に挙げているという。
 中国の台頭などで東アジアをめぐる安全保障環境は大きく変化してきている。そうした中、この地域での米軍の存在は重要性を増しているとの指摘がある。
 ただそうだとしても、なぜ沖縄に基地を集中させなければならないのか。米国の新たな国防戦略に沿った米軍再編の中で負担をもっと軽減できるのではないか。沖縄に承認を迫る前に、議論を十分に深める必要がある。
 負担の軽減では、米軍嘉手納基地(嘉手納町など)以南の5施設・区域を返還するとの日米合意が交わされている。那覇港湾施設や浦添市の牧港補給地区など、いずれも地元が長年返還を強く望み、経済振興への期待が大きい土地だ。
 日米両政府には、これらを辺野古移設に向けた環境整備に利用したいとの思惑もあるようだが、切り離して進めなければならない。昨年末までとした返還計画の策定は遅れている。期限を明記した具体的な計画づくりを急ぐよう求めたい。


高知新聞 2013年03月24日10時18分
社説:【埋め立て申請】沖縄になぜ寄り添わぬ
 状況が改善する見通しが全く立たないのに、一方的にスケジュールを進める。こんな対応をされたら誰だって不快に思うだろう。
 政府が、沖縄県の米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古沿岸の埋め立てを県に申請した。許可権限を持つ仲井真弘多知事が、1年以内をめどに埋め立ての可否を判断する。
 普天間飛行場の県内移設に反対する沖縄の声は一向に変わらない。仲井真知事は「県内移設は事実上、不可能だ」と不快感を示した。
 反対は知事だけではない。1月末、県議会や県内41の市町村の全首長、全議会などが連名で、県内移設断念などを訴える「建白書」を安倍首相に直接手渡した。
 沖縄のこの民意に、首相は埋め立て申請という手荒な手段で応えた。かえって沖縄の反発を招き、移設前進には逆効果になる可能性もある。
 首相は2月の日米首脳会談で、オバマ大統領と両政府間合意の県内移設早期実現で一致した。沖縄の民意に背を向けながら、対米重視で移設を急いでいると取られても仕方あるまい。
 県は審査の過程で、移設先の名護市の意見を聴取する。稲嶺進市長は既に「まかりならないと伝える」と明言している。
 名護市では来年1月に市長選が予定されている。引き続き反対派が勝てば、移設の道はさらに遠のく。その前に知事の同意を得たいという政府の思惑ものぞくが、成算があるわけではない。
 安倍内閣は1952年にサンフランシスコ講和条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として政府主催の式典を開く。だがこの日は沖縄が本土から切り離され、米国の施政権下に入った日でもあり、沖縄の人たちは「屈辱の日」と呼んでいる。
 県民の感情を逆なでするような要素がまた一つ増えるなかで、辺野古移設を加速させる安倍政権に沖縄の人たちは警戒心を募らせている。
 こうしたときに為政者に必要なことは、沖縄の人びとに寄り添い、沖縄の歴史に深く思いをはせ、丁寧な説明を重ねていくことだ。
 円安・株高効果などを追い風に、今の安倍首相には確かに勢いがある。「辺野古移設も」と考えているのだろうか。だが「建白書」の重みを考えると、一筋縄ではゆかないのは明白だ。


=2013/03/24付 西日本新聞朝刊=
社説:辺野古埋め立て 承認の見通しなき申請だ
 政府は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先に想定している同県名護市辺野古沿岸部の埋め立て申請書を、沖縄県に提出した。
 民主党政権が唱えた「県外移設」構想が頓挫して以来、完全に中断していた普天間飛行場の「県内移設」プロセスを、自民党政権が再び動かしたといえる。
 今後の焦点は、埋め立て許可の権限を持つ仲井真弘多(なかいまひろかず)沖縄県知事が、埋め立ての可否をどう判断するかである。
 その仲井真知事は、申請書提出を受け「県内移設は事実上無理。県外を選んで落ち着けるのが一番良いという考えに変わりはない」と語った。名護市の稲嶺進市長も辺野古への移設に反対している。
 政府がこの時期に申請に踏み切った背景には、二つの要因がある。
 一つは日米同盟の強化である。2月に行われた首脳会談で、安倍晋三首相とオバマ大統領は「普天間飛行場の県内移設を早期に進展させる」ことで一致した。米国の信頼をつなぎ留めるため、首相は移設手続きに着手する必要があった。
 もう一つは、沖縄の地方選挙にからむ政治日程だ。知事が埋め立て可否を判断するのには8カ月前後かかるとみられるが、移転先となる名護市では、来年1月ごろに市長選が予定される。政府としては、市長選で移設問題が争点化する前に、知事に埋め立てを承認してもらいたいという期待があるとみられる。
 しかし、現時点で政府に、知事の承認を取り付ける目算があるとは思えない。つまり今回の申請は、沖縄の理解を得る見通しのないまま、日米関係や政治情勢を優先させた姿勢の表れといえそうだ。これでは見切り発車ではないか。
 政府の頼みの綱は仲井真知事だ。政府と自民党は、知事を「県内移設容認」に転じさせるため、基地負担軽減と振興策をテコに、政府方針への理解を求めていく方針とみられる。具体的には同県内の米軍嘉手納基地以南の基地について、米国と協力して返還を急ぐ方針だ。
 しかし、辺野古移設に対する沖縄の反対は依然強い。1月には沖縄県内の全市町村長の連名で「県内移設断念」を求める建白書を安倍首相に提出したばかりだ。知事が独断で申請を承認するのは難しい状況といえるだろう。
 法的には、知事が申請を不承認にしたとしても、特別措置法制定や代執行などの方法を用いて、国の判断で埋め立て工事に着手することも可能である。
 しかしそんなことをすれば、政府と沖縄の亀裂は決定的になる。日米同盟の運営にも悪影響を及ぼすのは必至だ。強権的な手法は使うべきではない。
 政府は、普天間飛行場の辺野古移設が極めて困難になっているという現実を直視すべきだ。そのうえで、打開策を一から考える必要がある。不自然な法的手段や懐柔策で強行突破をはかってはならない。政府の都合で沖縄を動かそうとしても、混乱を招くだけだ。


熊本日日新聞 2013年03月24日
社説:移設埋め立て申請 沖縄と真摯に向き合ったか
 政府は22日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の「県内移設」に向け、同県名護市辺野古沿岸部の埋め立て許可を沖縄県に申請した。公有水面埋立法に基づき許可権限を持つ仲井真弘多[なかいまひろかず]知事は、申請をいったん受理した上で当面回答を留保する見通しで、8カ月から10カ月かけて埋め立ての可否を判断するという。大きな節目といえる。
 安倍晋三首相は2月の日米首脳会談で、日米合意に沿って辺野古移設を早期に実現することを確認した。申請に踏み切ったのは、米国への「実績」づくりの側面もあろう。
 しかし、仲井真知事は「事実上、県内移設は不可能だ。実現可能性を抜きに、決めたから実行するというのは納得できない」と不快感をあらわにしている。埋め立てが認められる見通しがないままの見切り発車、と批判されても仕方あるまい。
 妨害活動を避けるための抜き打ち的な申請にも地元は「姑息[こそく]だ」と反発しており、いっそう問題をこじらせかねない。
 今につながる普天間飛行場の移設問題は、1995年の米兵による少女暴行事件を機に基地の整理縮小を求める県民運動が高まり、日米両政府が96年に返還合意したことから始まる。政府は99年、辺野古を移設先とすることを閣議決定。2006年には米国と辺野古沿岸部の埋め立て、滑走路建設で合意する。
 ところが、「最低でも県外」を訴えて09年に誕生した民主党政権が迷走の末、辺野古移設に回帰。沖縄は政府への不信感を募らせ、一気に県外移設で結束する。かつては条件付きで県内移設を容認していた仲井真知事も10年の知事選で、県外移設を公約に掲げ、再選を果たした。
 昨年末の自公政権発足後、政府は日米合意に沿って県内移設を進める一方、1952年のサンフランシスコ講和条約発効と日本の独立を記念し、4月28日に「主権回復の日」の式典を開くことを決めた。連合国による占領が終わった後も、米軍の施政権下におかれた沖縄では「屈辱の日」と呼ばれる。現在の基地問題につながる原点でもあり、沖縄が怒りを増幅させたのは当然だろう。
 沖縄の政治日程も考慮したとみられる。名護市の稲嶺進市長は辺野古移設に強く反対している。23日の山本一太沖縄北方担当相との会談でも「これまでの手続きが県民を欺くような形で強権的に進められてきたことに県民は怒っている」と政府を批判した。来年1月にも市長選が予定されているため、反対派が勝利すれば移設が難しくなるのは明らか。政府は、その前に仲井真知事の許可を得て県内移設のための環境を整えたいと判断したともいえよう。
 安倍首相は、米軍嘉手納基地より南の5施設・区域の返還を含め「沖縄の負担軽減に全力を尽くす。普天間の固定化が断じてあってはならないのが基本方針だ」と強調。今後は基地負担軽減と振興策によって沖縄の理解を得ていく考えだ。
 ただ、結論ありきでは、対立を深めるだけだろう。絡まった移設問題解決の糸口を探すことは容易ではない。遠回りに見えても、時間をかけて信頼関係を築き、真摯[しんし]に沖縄に向き合うことから始めるべきだ。


宮崎日日新聞 2013年03月26日
社説:辺野古埋め立て申請 実現可能な選択肢検討せよ
 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の県内移設に向けて政府は、滑走路建設を計画する名護市辺野古沿岸部の埋め立てを同県に申請した。
 仲井真弘多知事は「事実上不可能だ」として県外移設を求めており、申請を認める見通しはない。既定方針を押し通す政府の姿勢は、地元の反発を一層強め、事態を行き詰まらせるだけだ。打開に向け抜本的な再考を求めたい。
説明せずに県内移設
 安倍晋三首相は2月の日米首脳会談で、返還で合意したにもかかわらず具体化が遅れている沖縄本島中南部の米軍施設・区域の早期返還をオバマ大統領に要請。沖縄振興策を話し合う沖縄政策協議会を開くなど、辺野古移設に向けた環境整備を進めてきた。
 それでも地元の理解を得られないのは、根本的な問題に取り組む姿勢をみせず、解決策も示せていないからだ。
 なぜ米軍基地が日本に必要で、その大部分の負担を沖縄が担わなければならないのか。本土の基地負担をどう考えるのか。世界規模の米軍再編の中で日米同盟の将来像をどう描くのか。日本独自の防衛力整備をどう設計するのか。
 こんな議論や説明を深めないまま、日米合意に基づく県内移設を既定方針通り進めることにこだわっていては事態は打開できない。
 米国の安全保障専門家の中からも、普天間飛行場の県内移設を再検討すべきだとの意見が出ている。市街地にあり事故の危険が指摘される同飛行場の固定化を避け、移設計画は進めなければならない。現実的に実現可能な選択肢を早急に再検討すべきだ。
主権回復の日に反発
 安倍政権は、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として政府主催の式典開催を閣議決定。だが沖縄は72年の本土復帰まで米軍統治下に置かれ、沖縄ではこの日を「屈辱の日」と呼ぶ。
 首相は閣議決定時に「沖縄の苦難の歴史を忘れてはならない」と言及したが、こうした決定自体が歴史を直視しない意識の表れではないか。
 政府は辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の手続きを終え、辺野古沖の漁業権を持つ漁協の同意を得るなど準備を進めており、埋め立て申請の時期が焦点となっていた。
 「主権回復の日」をめぐって沖縄の反発が強まる中での埋め立て申請は、県民の怒りをさらに増幅させることになろう。
 沖縄県側は、埋め立ての可否判断に8~10カ月かかるとの見通しを示した。知事が埋め立てを認めなかった場合、かつて米軍用地継続使用のために特別措置法改正を強行したのと同様に、国の責任で埋め立てを認める法的措置を検討するのかも課題となるだろう。
 強硬措置は絶対に認められない。その時間があれば、米側と再検討を急ぐべきだ。


南日本新聞 ( 2013/3/24 付 )
社説:[埋め立て申請] 混乱招く「見切り発車」
 政府は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先に想定している名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認申請書を沖縄県に提出した。仲井真弘多沖縄県知事は、申請をいったん受理した上で当面回答を留保する見通しで、今後は知事の可否判断に焦点が移る。
 安倍晋三首相は2月の日米首脳会談で、普天間飛行場の辺野古移設を早期に進めることを確認した。だが、仲井真知事は「辺野古への移設は事実上不可能」として県外移設の意向を再三示している。知事の同意を見通せない中での申請は、「見切り発車」と批判されても仕方があるまい。
 批判覚悟で政府が申請に踏み切った背景には、民主党政権下の2011年12月に、環境影響評価書の提出をめぐって反対派が県庁玄関などに陣取り、評価書を運び入れようとした配送業者を引き返させるなど混乱した経緯がある。
 今回は名護市漁協から、知事が埋め立てを許可する際に必要な漁業権一部放棄の同意書を取り付けた直後に申請に踏み切った。県民が「奇襲的なだまし討ち」と怒りの声を上げるのは当然だろう。
 政府が申請に踏み切ったことで、次の焦点は埋め立ての是非をめぐる県側の判断に移る。政府は基地負担軽減と振興策の2本立てで知事の翻意を促す方針だ。
 だが、知事の理解を得られる確証はない。知事は「決めたから実行するというのは理解できない」と不快感を示している。
 知事が不快感を示すのは、普天間の県外移設を求める声が県内で圧倒的に強いからだ。実際、1月末には首長代表らが首相官邸を訪れ、県内移設断念などを求める「建白書」を首相に手渡した。
 安倍首相は日米首脳会談で、具体化が遅れている沖縄本島中南部の米軍施設・区域の早期返還をオバマ大統領に直接要請した。沖縄振興策を話し合う沖縄政策協議会を開くなど、辺野古移設に向けた環境整備を進めてきた。
 それでも地元の理解が得られないのは、なぜ米軍基地が日本に必要で、その大部分を沖縄が負担しなければならないかの論議が深まらないからだ。論議を深めないまま、日米合意を進める姿勢では事態は悪化する一方ではないか。
 政府は、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として式典を開くことを閣議決定した。
 だが、沖縄は72年の本土復帰まで米軍統治下に置かれ、この日は「屈辱の日」と呼ばれる。沖縄県民の感情を逆なでするような対応は、問題解決をさらに困難にすることを政府は肝に銘じるべきだ。

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