安保政策の転換/「平和」の理念を損なうな 緊張を招く道に進むな 「海兵隊」は必要なのか
<各紙社説・主張・論説>
朝日新聞)防衛大綱―「専守」の原則忘れるな(7/27)
毎日新聞)敵基地攻撃能力 緊張高めず慎重議論を(7/27)
日経新聞)日米の連携強める防衛大綱を(7/27)
産経新聞)防衛大綱改定 敵基地攻撃能力の明記を(7/27)
東京新聞)大綱見直し 専守防衛逸脱せぬよう(7/27)
北海道新聞)新防衛大綱 緊張を招く道に進むな(7/27)
信濃毎日新聞)新防衛大綱 急カーブが過ぎないか(7/27)
京都新聞)防衛力のあり方 憲法から逸脱許されぬ(7/27)
神戸新聞)安保政策の転換/「平和」の理念を損なうな(7/27)
中国新聞)防衛大綱 「海兵隊」は必要なのか(7/27)
愛媛新聞)集団的自衛権 議論自体ができる環境にない(7/27)
高知新聞)【新防衛大綱】専守防衛が崩れかねない(7/27)
西日本新聞)新防衛大綱 「専守」の枠を越えないか(7/27)
<追加>
読売新聞)新防衛大綱 自衛隊の機動力強化が急務だ(7/28)
南日本新聞) [新防衛大綱] 専守防衛に立ち返って(7/28)
琉球新報)新防衛大綱中間報告 憲法、専守防衛を捨てるな(7/28)
琉球新報)新防衛大綱中間報告 憲法、専守防衛を捨てるな(7/28)
朝日新聞 2013年 7月 27 日(土)付
社説:防衛大綱―「専守」の原則忘れるな
政府が年末に打ち出す新たな「防衛大綱」づくりの中間報告を、防衛省が発表した。
焦点のひとつである離島の守りについて、水陸両用の「海兵隊的機能」を確保することが重要と明示した。
海兵隊と言えば、世界を飛び回り、上陸作戦にあたる米軍を思い起こさせる。
その表現ぶりには懸念がぬぐえない。高い攻撃力をもつ海兵隊と自衛隊は根本的に違う。日本には、戦後一貫して維持してきた専守防衛という原則があるからだ。
中国は尖閣諸島周辺の領海への侵入を繰り返している。不測の事態に対応するため、防衛力の足りない部分を補う努力は、確かに必要だろう。
だとしても、あたかも日本が戦後の原則からはずれ、米軍に類した活動に踏み出すかのような誤った対外メッセージを発してはならない。
離島の守りは陸上自衛隊の西部方面普通科連隊が担ってきた。その機能の向上が主眼ではあろうが、誤解を避けながら進めるのが前提となる。むしろ、海兵隊とは違うことを再確認すべきではないか。
中間報告に明記はされなかったが、政府内では、敵のミサイル基地などを攻撃する「敵基地攻撃能力」を備えることも検討されている。
政府見解では、「相手がミサイル発射に着手した後」の攻撃は「先制攻撃」とは区別され、憲法上許されるとしている。だが、そんな能力の保持に周辺国が疑念の目を向けることは避けられない。
軍備増強が他国の警戒と軍拡競争を招けば、結果的に増強の意味がなくなる。それが「安全保障のジレンマ」と呼ばれる現象だ。配慮を欠けば、逆に安保環境を悪くしかねない。
また、日本が安保問題を考える際には、軍事や外交にとどまらず、財政の深刻な窮迫もきわめて重い要素になる。
4機で数百億円ともいわれる高額な無人偵察機の導入を検討する必然性は何か。説得力のある説明はない。
その一方で、各国が共通して頭を悩ませ、力を入れるサイバー攻撃への対策の力点があまり見えないのはなぜか。旧来型の上陸作戦や攻撃能力などに前のめりになっているのとは対照的で、時代遅れといえないか。
財政再建や近隣関係に目配りしながら、視野の広い日本の安保政策を考えねばならない。変わる国際環境に、外交との両輪で効率よく対応する国家戦略が求められている。
毎日新聞 2013年07月27日 02時31分
社説:敵基地攻撃能力 緊張高めず慎重議論を
防衛省は、防衛力整備の指針となる「防衛計画の大綱」(防衛大綱)の中間報告に、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展を踏まえて、敵のミサイル発射基地などを攻撃する敵基地攻撃能力の保有検討を盛り込んだ。専守防衛を基本とする日本の防衛政策の転換につながる可能性があり、慎重な検討を求めたい。
政府見解では、敵がミサイル攻撃に着手し、他に防ぐ手段がない場合に限り、発射基地を攻撃することを自衛の範囲として認めているが、日米安保体制のもと、自衛隊は「盾」(防御力)、米軍は「矛」(打撃力)を担う役割分担をしてきた。
しかし北朝鮮の相次ぐ核実験や事実上の弾道ミサイル発射を受けて、ミサイル防衛の強化だけでは不十分ではないかとの議論が、自民党を中心に活発化している。
攻撃前に敵の基地をたたくことは「専守防衛を逸脱した先制攻撃ではないか」との疑念が残る。何をもって敵がミサイル攻撃に「着手」したと判断するかが問題だ。敵がミサイル発射を宣言し、発射台にミサイルが据えられ、燃料が注入されれば「着手」と評価できる、という考え方もあるが、はっきりしない。拡大解釈されれば「先制攻撃」につながりかねない。その結果、地域の軍拡競争を招く可能性もある。
防衛上の有効性の問題もある。北朝鮮は、ほぼ日本全域を射程に収める中距離ミサイル「ノドン」200発を移動式発射装置に搭載し、山岳地帯の地下施設に配備しているとされる。位置や発射の兆候などの情報を正確に把握するのは簡単ではない。攻撃に必要な装備や部隊をどう整備するかも課題だ。
防衛省は「費用対効果、地域の安全保障環境への影響、日米同盟との関係」を検討する必要があるとしており、議論すること自体が抑止力になることを狙った面もありそうだ。
また中間報告は、沖縄県・尖閣諸島周辺での中国の海洋活動の活発化を受けて、離島防衛強化のため、自衛隊に機動展開能力や水陸両用機能(海兵隊的機能)を持たせることを検討すべきだと求めた。
南西諸島の防衛強化は必要だ。だが仮に尖閣諸島が相手国に一時的に占拠されたとしても、補給線を断てば、米海兵隊のような強襲揚陸能力は不要との指摘もある。「海兵隊的機能」という言葉も誤解を招きやすい。真に必要な防衛力整備は何か。財政事情が厳しい中で、国民が納得できる十分な検討と説明が必要だ。
年末の大綱策定に向け、安倍政権は周辺国の緊張を高めないよう留意しながら、有識者らの意見も幅広く聞き、冷静、慎重に議論を深めてもらいたい。
日経新聞 2013/7/27付
社説:日米の連携強める防衛大綱を
いくら自衛隊の能力を高めても、その内容が安全保障情勢の変化に合っていなければ、宝の持ち腐れになりかねない。その意味で、政府が年内にまとめる新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)はとても重要だ。
この大綱は中長期にわたり、防衛体制をどう整えていくかを定める指針だ。防衛省はそのたたき台となる中間報告を発表した。
中間報告では、海洋進出を加速する中国軍などをにらみ、南西諸島をはじめとする離島の防衛を重点の一つにすえた。同時に、サイバー攻撃への対応を急ぐ方針も掲げている。いずれも、現実に見合った路線といえよう。
離島防衛の実現には米海兵隊のような水陸両用の機能を、自衛隊が持たなければならない。離島の警戒を強めるには、無人偵察機などの装備も必要かもしれない。
このために必要な予算の手当ては惜しむべきではない。ただ、日本の財政事情は厳しい。自衛隊は部隊の再編を進めるなど、合理化の努力も一層、払うべきだ。
そのうえで、忘れてはならないのは米国との入念な擦り合わせだ。日本の防衛体制は、米軍との協力を大前提にしている。離島やサイバー、ミサイルの防衛にしても、日本だけでは完結できない。
新たな大綱に基づき、自衛隊の体制が変わることになれば、日米の作戦計画や役割分担も改めていかなければならない。大綱の策定と並行し、米側との調整も進める必要がある。
今後、大綱の詳細を詰めるに当たり、とりわけ議論を呼びそうなのが、敵基地攻撃能力の保有問題だ。北朝鮮の核兵器とミサイルの脅威が増していることを踏まえ、中間報告では間接的な表現で保有を検討する意向をにじませた。
自衛隊が攻撃能力を持てば、防衛力の向上につながる一方で、専守防衛の原則から慎重論もある。安倍政権が検討している集団的自衛権の行使と合わせ、日本の安全保障政策の根幹にかかわる問題だけに、議論を尽くしてほしい。
産経新聞 2013.7.27 03:14
【主張】防衛大綱改定 敵基地攻撃能力の明記を
安倍晋三政権は防衛力整備の長期指針となる「防衛計画の大綱」を年末に改定する。
これに向けて防衛省がまとめた中間報告には、離島の防衛や奪回にあたる海兵隊の機能を自衛隊に持たせる方針を明記するなど具体的な抑止力強化策が盛り込まれた。
日本を狙う弾道ミサイルの発射元を無力化する、敵基地攻撃能力の保有にも含みをもたせた。安全保障政策の見直しを具現化しようとするこうした取り組みを評価したい。
大綱では保有を明記するなど一層の踏み込みが必要だ。
中間報告は、防衛省が国の守りには最低限必要だと判断した内容だ。今後の政府内での検討作業でさらに具体化を図り、日本の平和と安全を守り抜くことができる大綱を実現してほしい。
北朝鮮の弾道ミサイル開発は、長射程化の技術を向上させるなど新たな段階に入った。北の核・ミサイルは、日本の安全に対する重大な脅威だ。現在は報復能力を全面的に米軍に頼っており、日本はまったく保有していない。自分の国を自分で守る抑止力を持っていないことが問題なのだ。
首相は5月の国会答弁で、「相手に思いとどまらせる抑止力の議論はしっかりしていく必要がある」と語った。公明党は敵基地攻撃能力の保有に慎重だ。
相手の一撃を甘受する「専守防衛」に象徴されるように、防衛政策の基本的な方針により、十分な抑止力が働かない状況が作り出されてきた。日米同盟強化のため、集団的自衛権の行使容認も喫緊の課題となっている。
尖閣諸島の奪取をねらう中国は、東シナ海から西太平洋への進出を図っている。中国軍の早期警戒機が24日、沖縄本島と宮古島の間の公海上を通過する「特異な行動」(安倍首相)をとった。中国海軍の艦艇が日本列島を1周する示威行動もした。
中間報告は離島防衛のため、機動展開能力と水陸両用機能(海兵隊機能)の確保を打ち出した。
日本が抑止力の強化に努めることにより、中国の高圧的な行動や、偶発的な軍事衝突など不測の事態を防ぐことができるとの考えは妥当なものだ。
日本を守れる実効性の高い防衛政策を確立し、それに基づいた防衛力整備を図ることが何よりも重要である。
東京新聞 2013年7月27日
【社説】大綱見直し 専守防衛逸脱せぬよう
新しい防衛大綱を年内に決めるための中間報告が発表された。日本周辺の安全保障環境の変化に応じて防衛計画を見直すのは当然だが、憲法に定められた専守防衛からの逸脱があってはならない。
防衛大綱は安全保障や防衛力整備の基本方針を示すもので、別表で自衛隊の人員・体制や主要装備品の整備目標を定める。一九七六年の策定後、三回見直され、現在の大綱は民主党政権時代の二〇一〇年に作られた。
その三年後という短期間での見直しだ。安倍内閣には民主党時代のものは変えたい思いがあるのだろうが、中国の海洋進出活発化や北朝鮮の弾道ミサイル発射など地域情勢が大きく変化したのも事実だ。大綱見直しは妥当だろう。
中間報告は沖縄県・尖閣諸島を念頭に、島嶼(とうしょ)部(離島)が占領された場合、速やかに奪還するため、部隊を迅速に展開する機動展開能力や水陸両用機能(海兵隊的機能)を確保することが重要になる、と指摘している。
島国の日本には多くの離島があり、これらの領土、領海、領空を守るのは日本防衛の要だ。中国公船が頻繁に領海侵入を繰り返す事態を見れば、離島防衛の必要性が増し、重点的に防衛力を整備しなければならない状況は理解する。
ただ海兵隊は「殴り込み部隊」とも言われる。他国侵略の意図ありと受け止められれば、周辺国には脅威と映る。軍拡競争に陥っては本末転倒だ。機会をとらえて専守防衛に徹する国是を繰り返し説明する配慮も必要だろう。
自民党が大綱見直しに向けて提言した、自衛隊が敵基地攻撃能力を持つことについても同様だ。
政府はこれまで敵基地の攻撃は自衛の範囲だが、他国を攻撃したり攻撃的脅威を与えたりする兵器を平素から持つことは憲法の趣旨に反するとの見解を示してきた。
中間報告は、弾道ミサイル攻撃に対しては「総合的な対応能力を充実させる」との表現にとどめているが、今後とも専守防衛の国是をないがしろにしてはならない。
日本政府はこれまで防衛力の抑制的な整備に努めてきた経緯があるが、安倍内閣になってそのタガが外れるようなことはないのか、気になる。
過去三回の大綱見直しはいずれも、有識者懇談会の提言を受ける形で行われた。今回は防衛省内の会議だけだ。国民の生命と財産、憲法に関わる問題でもある。内輪の議論だけでなく、幅広く意見を聞くべきではないのか。
---------------------------------------
北海道新聞 2013年7月27日
社説:新防衛大綱 緊張を招く道に進むな(7月27日)
政府が年末に策定する新防衛大綱に向け、防衛省が中間報告をまとめた。
中国の軍拡や海洋進出を念頭に、離島奪還のための海兵隊的能力の確保や、高高度滞空型無人機の導入を明記している。
北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭にした敵基地攻撃能力保有は明記こそ避けたが検討方針は示した。武器輸出三原則の見直しにも言及した。
従来の防衛政策の原則である専守防衛を逸脱する内容を含んでいる。
周辺諸国との摩擦に乗じて防衛力強化に突き進むことは東アジアの緊張を一層、高める恐れがある。
新大綱の方向性を認めることはできない。
中間報告は、民主党政権が策定した現大綱の見直しを決めた安倍晋三首相の意向を反映したものだ。
海兵隊は離島奪還の際に海から陸上へ攻める作戦を担う。
「力で奪われたら力で奪い返す」という単純な発想で保有するなら対立はエスカレートするだけだ。
高高度滞空型無人機は、旅客機の飛行高度より上空を無人で飛び、艦船や航空機などの動きをとらえる。
24日には中国軍早期警戒機が沖縄本島と宮古島間の公海上空を通過した。日中が警戒監視能力を競い合えば不測の事態を招きかねない。
海兵隊的能力と合わせ、本当に必要なのか慎重に検討すべきだ。
ミサイルなどが日本に向けて発射されるのが確実な場合に相手基地を攻撃する敵基地攻撃能力について、中間報告は「弾道ミサイル対処態勢の総合的な向上を検討する」とした。
政府はこれまで、専守防衛の観点から同能力の保有を見送ってきた。その姿勢を堅持すべきだ。
中間報告では、武器輸出三原則についても「運用の現状を検証し必要な措置を講じる」とした。
民主党の野田前政権は一昨年、三原則を緩和し、欧米などとの共同開発・生産を認めた。
安倍政権も3月、最新鋭ステルス機F35に使う日本製部品の対米輸出について三原則の例外にするなど形骸化が進んでいる。歯止めなき武器輸出は極めて危うい。
安倍政権は集団的自衛権の行使容認に向けた議論も進めており、新大綱に反映させる可能性がある。
歴代政権は必要最低限度の自衛の範囲を超えるため行使できないとしてきた。解釈変更は憲法の平和主義から逸脱するもので認められない。
尖閣問題を受け日中防衛対話は滞っている。韓国との関係もぎくしゃくしたままだ。
新大綱は、これまで周辺国と積み重ねてきた信頼関係を壊しかねない。再考を強く求めたい。
信濃毎日新聞 2013年07月27日(土)
社説:新防衛大綱 急カーブが過ぎないか
政府が年内に定める新たな「防衛計画の大綱」について、防衛省の中間報告が出た。
離島を守るため、自衛隊に米海兵隊のような機能を持たせることを盛り込むなど、防衛力の強化を打ち出している。
防衛省の検討とは別に、米軍と共同で行動できるようにする集団的自衛権の行使容認を政府の有識者懇談会が議論している。この扱いも今後、焦点になる。
憲法9条の下で「専守防衛」を旨としてきた日本の安全保障政策を大きく転じる。近隣諸国を刺激し、緊張を高めることにもなりかねない。
<中国と北朝鮮に対抗>
大綱は、長期的な防衛力の在り方を定めるものだ。これを基に5年間の中期防衛力整備計画(中期防)が作られ、毎年の防衛予算に反映されていく。策定は2010年に続き、5回目になる。
今回のポイントの一つは、中国と北朝鮮の動向を強調していることだ。中国に対しては、日本領海への断続的な侵入など不測の事態を招きかねない危険な行為をしていると批判した。北朝鮮の弾道ミサイル開発について、新たな段階に入ったとの見方も示した。
その上で、弾道ミサイルに対しては、抑止力の強化をあらためて検討し、「総合的な対応能力を充実させる」とした。いわゆる「敵基地攻撃能力」が念頭にある。自民党が大綱策定に向けた提言で検討を求めたものだ。
具体的には、他国のミサイル発射基地を攻撃できる巡航ミサイルなどを自衛隊に持たせることが想定される。
敵基地攻撃能力について政府はこれまで、他に防ぐ手段がない場合に必要最小限度で基地をたたくことは可能―としながらも、専守防衛の立場から持たずにきた。先制攻撃もできる装備だ。持つことになれば、平和憲法の理念が骨抜きになりかねない。
離島防衛の強化は中国の海洋進出を踏まえている。水陸両用機能(海兵隊的機能)の確保が重要などと指摘した。
<対話が難しくなる>
日本を取り巻く環境は確かに厳しさを増している。北朝鮮による核・ミサイル開発、沖縄県・尖閣諸島周辺で相次ぐ中国船の領海侵入など、いずれも放置できない問題だ。とはいえ、防衛力で対抗することが妥当だとは思えない。
いま求められるのは、尖閣周辺での不測の事態を避ける仕組みを早く整えることだ。北朝鮮の問題を解決するためにも中国と連携して当たる必要がある。力には力で―というやり方であつれきを強めては対話がなお難しくなる。
中間報告も、中国との対話や交流を推進するとし、連絡メカニズムの早期運用などで信頼を醸成することが重要としてはいる。防衛と外交は安全保障の両輪だが、防衛の車輪が大きくなれば、バランスを失う。
防衛力の在り方は、大綱を見直すたびに変わってきた。1976年に策定された最初の大綱は、独立国として必要最小限の防衛力を持つという「基盤的防衛力」構想を定めた。95年の大綱はこれを基本的に踏襲し、2004年の大綱も考え方は残していた。
ところが10年の民主党政権の大綱で、基盤的防衛力に代えて「動的防衛力」という考え方が持ち込まれた。沖縄・南西諸島などで警戒監視を強化して機動的に対処するもので、それまでの抑制的な姿勢を転じた。今回はさらに踏み込んだ方向が示された。
「武器輸出三原則」も見直す方針だ。共産国などへの武器禁輸として始まり、事実上の全面禁輸措置になった。しかし、その後、米国への技術供与など例外を広げてきた。中間報告は、武器の国際共同開発を積極的に進めるため、運用状況を検証するとした。
安倍政権は三原則「撤廃」を視野に入れているとされる。平和国家の理念を象徴する政策だ。なし崩し的に空洞化させた揚げ句、なくすというのでは国際社会からの評価を損なう。
集団的自衛権については、有識者懇談会が秋に報告書をまとめる方向だ。同盟国が攻撃されたときに自国への攻撃とみなして反撃できる権利をいう。今の政府の憲法解釈では、9条の許す範囲を超えており行使できない。
認めることになれば、安保政策や自衛隊の在り方は一変する。
<問題点を掘り下げよ>
中間報告がどこまで大綱に反映されるかは分からないものの、戦後日本の岐路だ。安倍政権は、12月の閣議決定を目指している。参院選に圧勝し、安定基盤を手にしたとはいえ、重大な政策転換を数任せで進めることがあってはならない。連立を組む公明党は歯止めとなれるかが問われる。
日米安全保障条約の下で米国との役割分担をどうするか、日米同盟の深化の名の下で米国の軍事展開を肩代わりすることにならないのか。国民が問題点をつかめるよう、秋の臨時国会で各党はしっかり議論しなくてはならない。
[京都新聞 2013年07月27日掲載]
社説:防衛力のあり方 憲法から逸脱許されぬ
日本は本気で、米国と一緒に戦うつもりなのか-。防衛省が発表した「新防衛計画の大綱」に関する中間報告は、周辺国にそんな警戒感を抱かせかねない内容だ。
報告は、中国の軍事的台頭に対抗し、米国がアジア重視戦略を打ち出しているとし「日米同盟の抑止力および対応力を強化し、同時に米軍の駐留による負担を軽減する」ことを防衛力整備の目的と明記する。自衛隊が米軍の肩代わりをすると宣言しているに等しい。
中国と対峙する尖閣諸島を防衛するため、無人偵察機の導入や上陸作戦を想定した海兵隊機能の充実もうたう。米軍との共同作戦が念頭にあるのは明らかだ。
従来の政府見解では、憲法は個別的自衛権しか認めておらず、しかも専守防衛に限るとしてきた。その見解は現在も有効であることを、まず確認しておきたい。
にもかかわらず、日米の防衛協力を、集団的自衛権の行使にまで拡大することを前提としたような報告の書きぶりに、強い違和感を覚える。安倍晋三首相が集団的自衛権行使の容認に前のめりな姿勢を示しているため、防衛省が先走ったのだろうか。
とりわけ危険に感じるのは、北朝鮮の弾道ミサイルを念頭に「総合的な対応能力を充実させる必要がある」とし、敵基地攻撃能力を持つ方向を示唆したことだ。他国領土に対する先制攻撃は、明らかに「専守防衛」の枠を逸脱する。
報告はまた、共産圏や紛争当事国への武器や部品の輸出を禁止する「武器輸出三原則」を見直し、米英などとの武器の共同開発・生産を積極的に推進するとした。
昨年「知日派」の元米政府高官らが「日米の経済事情から、防衛予算の増額は非現実的で、防衛産業のより密接な連携が必要」とする提言を公表した。三原則の見直しは、こうした声に呼応する。
政府は昨年、米軍のステルス戦闘機F35に使用する部品の輸出を例外的に認めたが、日本製部品を使った機体がイスラエルなど紛争当事国の手に渡る恐れがあることは政府自身が認めている。
「国際紛争を助長しない」という、かつての政府統一見解(1976年)の理念はどこへ消えたのか。武器輸出規制の緩和は、日本の防衛産業の技術基盤を維持するためというが、そもそも平和主義を掲げる日本が、戦争のための技術力を持つ必要があるのだろうか。
政府は報告を基に、年内に新しい防衛計画大綱をまとめる。安全保障上の脅威を強調するあまり、国民的な議論を省いたまま、憲法に抵触しかねない防衛力整備をなし崩しで進めてはならない。
神戸新聞 2013/07/27
社説:安保政策の転換/「平和」の理念を損なうな
安倍政権が、安全保障の基本方針を見直す動きを加速し始めた。集団的自衛権行使の容認に向けた有識者懇談会を、秋にも再開する方針だ。武器輸出三原則の撤廃も検討するという。
さらに、長期的防衛力整備の指針となる新しい「防衛計画の大綱」も、年内の取りまとめを目指す。
その中では、自衛隊に米海兵隊のような部隊を置く▽国境を越えて敵基地を攻撃する能力を整備する‐など、より踏み込んだ議論がなされそうだ。
集団的自衛権行使の容認は、安倍晋三首相がかねて意欲を示してきた。自らの政権でぜひ実現したいという強い思いがあるのだろう。
だが、憲法解釈の変更につながる重大な問題だ。武器輸出三原則の撤廃にしても、「平和国家」の転換ではないかと諸外国から疑念を招く恐れがある。
国民の意見も分かれている。参院選に大勝した勢いで自分たちの思うように推し進める狙いがあるとすれば、「独断専行」の批判は免れない。
反対意見にも耳を傾け、議論した上で慎重に判断すべきである。
集団的自衛権は、自国と密接な関係にある国が武力攻撃された場合に協力して防衛する権利をいう。日本も権利を保持しているというのが政府の見解だ。
ただし、憲法9条の制約があり、歴代政権は「保持していても行使はできない」との解釈を受け継いできた。
安倍首相は行使を容認する考えを表明している。自民党はそのための法整備を参院選の公約に掲げた。
しかし、選挙戦では自民党が争点化を避けたこともあり、与野党の議論が深まったとはいえない。武器輸出三原則の撤廃は争点にすらなっていない。
国の姿勢を大きく転換するというのなら、国民に対して丁寧に説明を尽くし、疑問にきちんと答えねばならない。
自衛隊が海兵隊機能を持ち、集団的自衛権を行使すれば、海外での米軍との共同行動も現実味を帯びてくる。その場合「専守防衛」の理念はどうなるのか。
敵基地攻撃能力の保持も同様だ。北朝鮮による核・ミサイル開発などの脅威に向き合う必要はある。とはいえ、「自衛」で許される範囲が曖昧になれば、軍事力への歯止めを失う懸念がある。
安倍首相が掲げる「強い国」とは軍事大国のことではないはずだ。安全保障の見直しは、「平和国家」の在り方を損なうものであってはならない。踏み越えてはならない一線がある。
中国新聞 '13/7/27
社説:防衛大綱 「海兵隊」は必要なのか
憲法原則に基づく安全保障政策が、根幹から変わる恐れが強まってきた。
防衛省はきのう、新たな防衛大綱に関する中間報告を発表した。今年中にもまとめる大綱のたたき台となる。
北朝鮮は核・ミサイル開発を強行し、中国は尖閣諸島をめぐる挑発と海洋進出にまい進している。「安全保障環境は一層厳しさを増している」との指摘は、日本で広く共有された問題意識ではあろう。
▽目立つ「安倍色」
防衛大綱は、長期的な防衛力の整備や運用を定める基本方針である。前回策定は民主党政権だった3年前。離島が侵攻された場合や、テロを含め多様な事態にも機動的に対処する「動的防衛力」への転換をうたった。
次回は2020年ごろと見込まれていた。ところが政権交代後、安倍晋三首相が見直しを指示。それを受けたのが今回の中間報告である。それだけに、安倍政権の意向が強く出ている。
何よりも表れたのが、「弾道ミサイル攻撃への総合的な対応能力を充実させる必要がある」などと記述したことだろう。
安倍首相の国会答弁などから「敵基地攻撃能力」の検討を意味するとの見方がもっぱらだ。あいまいな表現は、与党・公明党への配慮だという。
日本へミサイルが発射されそうだと判断したとき、相手の発射基地などを先制攻撃する能力や装備を持つことを指す。議論は今に始まったことではない。政府は「攻撃の防御手段がほかにない限り」は憲法上可能という考えを踏襲している。
だが戦争は大抵、先制攻撃を自衛目的だと正当化することで始まる。線引きは難しい。戦後堅持してきた「専守防衛」の一線を越え、政策判断の歯止めを失いかねないとの批判が出てきて当然だろう。
▽専守防衛逸脱か
さらに専守防衛の枠をはみ出しかねないのが、「海兵隊機能」を持たせるという提案である。南西諸島での軍事衝突というシナリオも念頭に、自衛隊の「機動展開能力と水陸両用機能」が重要だとする。
本当に必要だというのか。海兵隊の本来の役割を考えれば首をかしげざるを得ない。
米海兵隊の中心は、他国への軍事介入などの際、真っ先に前線投入される戦闘部隊だ。専守防衛とは元来相いれない。「日本も海兵隊機能を」となれば、他国への侵攻も可能な装備や能力を持つ恐れが出てくる。
すでに長崎県の陸上自衛隊西部方面普通科連隊などが、米軍と共同で離島奪還訓練を重ねている。そもそも海岸からの上陸作戦を想定するやり方に、21世紀の紛争対応としてどれだけ現実味があるのか。米海兵隊の世界展開に組み込まれただけ、という結果になりかねない。
問題は専守防衛の骨抜きだけではないだろう。
安倍政権は新大綱の策定と並行し、集団的自衛権の行使ができるよう憲法解釈を変更するための議論も進める方針だ。これらの事情も合わされば、中国や北朝鮮だけでなく韓国などほかの近隣諸国までいたずらに刺激しかねない。
まずは外交努力と対話。最小限の武力行使の可能性が出てくるのはそれからだ。後者が先に突出した印象は、日本の外交と安全保障にはかえってマイナスでしかあるまい。
自衛隊が真に人と予算を振り向けるべき分野は何か。国民が直面している危機からすれば、災害対応だろう。中間報告がわずかしか触れていないことは、何とも物足りない。
▽災害派遣に力を
阪神大震災後の1995年の大綱で、大規模災害時の任務が防衛出動と同格の位置づけとなった。新大綱は、東日本大震災から初めての改定となる。
災害派遣の現場で得た教訓を反映させるべきだ。防衛費削減の流れの中、自衛隊の後方支援機能が縮小されていたことが課題として指摘された。福島第1原発事故を踏まえ、原子力災害に備える装備や人員をどうするかも問われる。年末の新大綱策定に向けて検討を求めたい。
愛媛新聞 2013年07月27日(土)
社説:集団的自衛権 議論自体ができる環境にない
集団的自衛権の行使について、政府が容認する方向で調整に入った。「専守防衛」という安全保障の形を変え、他国への攻撃を可能とする、極めて危険な方針である。
戦争の当事者になる可能性の有無を含め、国民への詳しい説明はない。そんな中で、強引に容認に向けた路線を敷こうとする手法に危機感が募る。平和外交の在り方が激変する恐れもあるだけに、まずは国民が参加して議論できる環境を整えるのが先だ。
集団的自衛権は、米国など同盟国が攻撃を受けた際、自国への攻撃とみなして反撃することができる権利。憲法9条で許容している「自衛のための必要最小限度」の範囲を超えるとして、歴代政府は行使を認めていない。
「不行使」はアジアなど周辺国との外交や国交構築の根幹ともなってきた方針だ。拙速な議論で、最後の一線を越えることは許されない。
政府は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の議論を8月中旬にも再開。秋に報告書をまとめ、年末に策定する長期的な防衛力整備方針「新防衛大綱」に反映させる方針のようだ。
きのう公表された新大綱の中間報告でも、敵国基地への攻撃能力保持や、海兵隊機能の充実、無人偵察機の導入などに言及。集団的自衛権の行使と併せると、専守防衛から「攻撃」へと、従来の安全保障政策が大きく転換する。
安倍晋三首相は「国民を守るために何が必要かという観点から議論を進める」と、行使に意欲を示す。しかし、集団的自衛権を行使し攻撃を是とした行為で、どう国民を守るのか。いくら言葉でかわそうが、行為自体は「戦争」であり、守るどころか命が危険にさらされるのは明白だ。
懇談会は、公海上での自衛隊による米艦船防護の場合などに集団的自衛権の行使を容認する方向で議論を進めるものとみられる。その後、政府が憲法解釈を定める「国家安全保障基本法」を国会で成立させる算段のようだ。
安倍首相の頭には、集団的自衛権行使と防衛大綱改定の先に、9条を含めた改憲があるのであろう。このままではなし崩し的に、日本が築き上げてきた平和外交自体が崩壊する恐れさえあるのだ。
公明党が「断固反対する」(山口那津男代表)と言うように、首相が独走できる政治状況ではない。そもそも自民党は先の参院選で安保政策をあえて争点にしなかった。国民は、自民党のすべてを信任したわけではないのだ。
安定多数の政権運営を任されたからこそ、むしろ丁寧な政権運営を心がけねばならない。ましてや、独善的な政権運営で国民の命を危険にさらすようなことは、決してあってはならない。
高知新聞2013年07月27日07時53分
社説:【新防衛大綱】専守防衛が崩れかねない
専守防衛を基本とする日本の安全保障政策が危うい状況になった。
防衛省は、長期的な防衛力整備の基本指針である「防衛計画の大綱」見直しの中間報告を公表した。
現大綱は、民主党政権時の2010年に改定された。中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発、テロなどに機動的に対処する「動的防衛力」という考え方が初めて盛り込まれた。
この考えも、専守防衛の転換につながる懸念が出たが、新大綱はさらに踏み込んだ中身になった。
例えば、北朝鮮の弾道ミサイル開発などを踏まえて抑止力の強化や対応能力の充実を明記した。つまりは、自衛隊による敵国の基地攻撃能力の保有を念頭に置いている。
さらに、沖縄県・尖閣諸島周辺で海洋活動を活発化している中国への対応として、海兵隊的機能の充実や無人偵察機の導入検討も記した。
ここ数年の中国や北朝鮮の動きによって、日本周辺の安全保障上の環境が不安定化しているのは間違いない。特に北朝鮮情勢は国際社会が脅威と感じ強い危機感を持っている。
だからといって、そうした脅威に力で対抗しようとすれば、相手国はさらに軍事力を強化するだけだろう。敵基地攻撃能力の保有や海兵隊的機能の導入は、まさに「力による対抗」になってしまう。
日本は戦後、相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使し、防衛力も必要最小限にとどめるという専守防衛を貫いてきた。平和国家として日本が世界に受け入れられてきた大きな理由と言ってよい。
外交には粘り強い交渉が必要で、抑制的な専守防衛はその交渉を支える有効な力だったはずだ。そうした力を失うとすれば、大きな外交的損失だ。
与党圧勝の参院選後、安全保障上の重要な問題が次々と動き始めている。集団的自衛権の行使容認へ向けた議論も政府内で近くスタートする。
仮に敵基地攻撃能力の保有と集団的自衛権行使が絡めば、日本が軍事的な衝突に巻き込まれる可能性も否定できない。そんなことを望んでいる国民はいないだろう。
政府は年内に新大綱を閣議決定したい考えだが、政策の大転換となるだけに国民的議論は欠かせない。どんな安全保障政策を目指しているのか。具体的な方向性を国民に説明すべきだ。
西日本新聞 2013/07/27
社説:新防衛大綱 「専守」の枠を越えないか
戦後日本の安全保障政策の大原則である「専守防衛」の枠を踏み越えてしまうのではないか。防衛省が公表した「新防衛計画の大綱」に関する中間報告を読めば、そんな懸念が生まれてくる。
防衛計画の大綱とは、長期的な防衛力の整備や運用についての基本方針だ。現在の大綱は民主党政権で策定されたが、昨年12月の政権交代直後に安倍晋三首相が見直しを指示したため、防衛省に検討委員会を設置して議論を続けてきた。
それだけに、今回の中間報告は、安倍首相の目指す防衛力の増強路線を色濃く反映している。
中でも注目されるのは、北朝鮮の弾道ミサイル開発を受けて「抑止・対処能力の強化をあらためて検討し、総合的な対応能力を充実させる」と記述した点だ。これは、敵のミサイル発射台などを直接たたく「敵基地攻撃能力」の保持を検討することを意味している。
憲法は海外での武力行使を禁じている。しかし政府は、相手国の基地のミサイルが日本を狙っている場合などは「他に手段がないと認められる限り、基地をたたくことは、自衛の範囲に含まれる」として、敵基地攻撃は法理的に可能だとの見解を示してきた。
ただ実際には、自衛隊は海を越えて相手国の基地を直接攻撃するための兵器・機能を持っていない。有事の際、自衛隊は領土の防衛に専念し、米軍が安保条約に基づいて敵国の基地を攻撃することになっている。「矛と盾」の「矛」が米軍で「盾」が自衛隊という役割分担だ。
この基本的な役割を見直し、自衛隊が相手国を直接攻撃する兵器を持つとす
れば、従来の「専守防衛」の原則との整合性が問われることになる。
このほか中間報告では、沖縄県・尖閣諸島周辺での中国の海洋活動の活発化を受け、離島防衛のため、自衛隊に米軍の海兵隊のような機能を持たせるよう求めている。海兵隊は「殴り込み部隊」と称されるほど、攻撃性が高い組織だ。
北朝鮮のミサイル開発や中国海軍の活動により、わが国の安全保障環境は厳しさを増している。国民の不安も強まっており、効果的な防衛力整備は必要だ。
しかし、戦後日本は一貫して抑制的な安全保障政策を採り、他国の脅威となるような装備や機能を持たないことで、東アジア地域の安定を維持してきた。
日本が敵基地攻撃能力を持ち、周辺国が日本の先制攻撃を疑うような事態になれば、かえって地域の緊張は高まる。「不安だから、より強い兵器や部隊を持ちたい」という素朴な感情も理解できるが、双方が同じことを考えると、軍拡競争に陥ってしまう。こうした防衛力強化の負の側面も考慮する必要がある。
政府はこの中間報告を基に、新大綱の策定作業を進め、12月に閣議決定する方針だ。今後は与党内の調整が本格化する。戦後日本の歩みを踏まえた、冷静で幅広い論議が求められる。
<追加>
(2013年7月28日01時09分 読売新聞)
新防衛大綱 自衛隊の機動力強化が急務だ(7月28日付・読売社説)
離島・ミサイル防衛の強化、サイバー攻撃や大規模災害への対処――。日本の平和と安全を確保するため、こうした様々な課題に確かな解と道筋を示さなければならない。
防衛省が、年末に策定する新防衛大綱の中間報告を発表した。離島防衛について、航空・海上優勢の維持と、陸上自衛隊の機動展開能力や水陸両用機能(海兵隊的機能)の整備が重要と指摘した。
冷戦終結後、「量から質へ」の発想と防衛費削減の流れの中、海上自衛隊の護衛艦や哨戒機、航空自衛隊の戦闘機などが減らされてきたが、もう限界と言える。
中国軍艦船の日本一周や、沖縄本島と宮古島の第1列島線を越えた中国軍機の飛行が初めて確認された。最近の中国軍の装備増強と活動の活発化を踏まえれば、海空自の護衛艦や戦闘機の減少を増加に転じさせる必要がある。
警戒監視能力向上のため、無人偵察機グローバルホークを前倒しで導入することが重要だ。
陸自も、離島防衛の専門部隊の拡充や米海兵隊との共同訓練の強化によって抑止力を高めたい。
自民党が先に「検討」を提言した敵基地攻撃能力の保有について中間報告は言及せず、ミサイル攻撃への「総合的な対応能力を充実させる」との表現にとどめた。
自衛隊が巡航ミサイルなどを導入することには、日米両政府内に賛否両論があるためだ。
米軍の打撃力を補完し、日本の抑止力を高めるとの積極論と、そうした予算は他の優先分野に回した方が良いとの慎重論である。
肝心なのは、日米同盟を強化する方向で自衛隊と米軍の役割分担を見直すことだ。どの攻撃手段をどんな形で保有するのが目的に適かなうのか、検討を進めるべきだ。
中間報告は、サイバー攻撃対策として、米国や民間企業との連携強化や専門家の育成を挙げた。
1月のアルジェリアでの邦人人質事件を踏まえて、在外大使館の防衛駐在官の増員など人的情報収集機能も強化するとしている。
いずれも重要な課題であり、着実に実施することが大切だ。
懸念されるのは、報告が言及した防衛省改革の行方である。
部隊運用を担当する内局の運用企画局を廃止し、自衛隊の統合幕僚監部に一元化するなどの急進的な案が検討されている。自衛官が主体の組織が国会対応や他省庁との調整まで行うのは非合理的で、混乱や士気の低下を招こう。
組織改革は今の優先課題ではない。慎重な対応が求められる。
南日本新聞 ( 2013/7/28 付 )
社説: [新防衛大綱] 専守防衛に立ち返って
政府が年末に策定する新しい「防衛計画の大綱」に向けた防衛省の中間報告が公表された。敵基地攻撃能力の保持を念頭に北朝鮮の弾道ミサイル抑止の対応能力を充実させると明記したほか、沖縄県・尖閣諸島周辺での中国の活動活発化を踏まえて、海兵隊機能の充実などを盛り込んだ。
中国の軍備増強や、北朝鮮のミサイル開発など、日本を取り巻く安保環境は変化している。2013年版防衛白書も尖閣周辺の中国の海洋活動を「危険な行動を伴い、極めて遺憾」と警告した。だが、相互警戒と情報不足を基にした軍備の増強は、エスカレートして不測の事態を招きかねない。
参院選で圧勝した安倍政権が、どんな外交・安保政策を進めるのか国際社会が注目している。そんな状況下で、敵基地攻撃、海兵隊機能の充実など日本の安保政策の基本である「専守防衛」の転換につながりかねない報告が公表されては、日本の防衛政策に関する内外の疑念は募るばかりである。
中国や北朝鮮の挑発に力で対抗する姿勢では、東アジア情勢は大きく揺らぐ。急ぐべきは中韓両国との関係改善であり、北朝鮮の「暴発」を防ぐ国際的枠組みづくりである。これまでの安保政策の枠を超えた軍備増強は、地域の平和と安定に寄与しないことを政権は肝に銘じるべきである。
現在凍結されている防衛大綱は、10年に民主党政権が策定した。沖縄・南西諸島などで警戒監視を強化し、機動的に対処する「動的防衛力」の構想を打ち出した。
安倍晋三首相は就任直後に見直す考えを表明、今年1月に大綱の凍結を決定し、年末に新大綱を策定する方針を決めている。
今回の中間報告には、首相の意向に沿った新たな装備・能力の検討項目が並ぶ。海兵隊機能の充実や、米軍の無人偵察機のような「高高度滞空型無人機」の導入の検討などがそうだ。武器の国際共同開発に向けて武器輸出三原則を見直す方向も打ち出した。
緊張感が高まる地域で警戒態勢を高めるのは当然の対応である。だが、敵基地攻撃は他国内での活動であり、海兵隊能力も他国侵攻に活用可能な装備を持つことにつながる。専守防衛が揺らぐと懸念されているのは、報告がそんな危うさを含んでいるからだ。
政権に求められるのは緊張を武力で解決することではあるまい。対話を重ね、対立を解きほぐす外交努力こそ求められているはずである。新大綱の中間報告は「力には力で」の発想が随所に見え、結果的に外交努力の発想が薄められていることが残念である。
琉球新報 2013年7月28日
社説:新防衛大綱中間報告 憲法、専守防衛を捨てるな
憲法を軽んじ安全保障政策を軍拡に導いて、この国をどうするつもりか。疑問だらけの指針だ。
政府が年内の策定を目指す新防衛計画大綱の方向性が鮮明になった。防衛省が中間報告を公表した。
米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設をはじめ在日米軍再編により、在沖基地の整理縮小や基地負担の分散、沖縄の負担軽減を図ると明記した。県民が求め続ける普天間の閉鎖・撤去、県外・国外移設に耳を傾ける姿勢が感じられない。これでは辺野古移設の強行で思考停止を宣言したようなものだ。沖縄の民意、民主主義の理念と相いれず、到底容認できない。
北朝鮮の核・弾道ミサイル開発を踏まえ「抑止力の強化をあらためて検討し、総合的な対応能力を充実させる」と明記した。敵基地攻撃能力の保持を目指す。これは、戦後日本の抑制的な国防方針の象徴である「専守防衛」を葬り去ることになる。撤回を強く求めたい。
疑問なのは、尖閣問題で対立する中国の動きを念頭に、離島防衛のための海兵隊機能の充実も盛り込んだことだ。自衛隊がモデルにする米海兵隊は「殴り込み部隊」と呼ばれ、敵国の支配地域に強襲上陸作戦を展開する役割を担う。武力による威嚇や武力行使による紛争解決を禁じる国連の一員でありながら、中国との戦闘を本気で考えているのか。失うものの大きさに対する想像力は働かないのか。
安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈の見直しに意欲を示す。実現すれば自衛隊の海外派兵に歯止めがなくなる。日本の若者が米国の戦争で犠牲となる事態も想定される。平和国家・日本への世界の信頼も損ないかねない。安倍政権は国民主権やシビリアンコントロール(文民統制)を形骸化する、解釈改憲、国是変更を推し進めてはならない。
日本の歴代政権は憲法上の制約を盾に米国の要求をかわし、米国の戦争に巻き込まれないよう腐心してきた。皮肉にも今は、米国内で尖閣をめぐる日中対立に巻き込まれまいとする警戒感が強まっている。
米中両国が経済、安全保障両面で戦略的対話を強化し始めている折、日本が中国との関係改善に向かわず、脅威論を振りかざすことに違和感を覚える。安倍首相も、かつて自らが手掛けた中国との戦略的互恵関係を再構築すべく、平和外交に注力してほしい。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////
0 件のコメント:
コメントを投稿