仲井真弘多知事が、12月27日米軍普天間飛行場の移設に向けて国が県に提出していた名護市辺野古沿岸部の埋め立て申請を承認した。
辺野古移設を認めたということ。
<沖縄二紙 社説> (承認前)
沖縄タイムス) [きょう「承認」表明] 県外公約 放棄するのか(12/27)
琉球新報)知事・首相会談 粉飾に等しい「負担軽減」(12/26)
沖縄タイムス)[首相・知事会談]県民ははしご外された(12/26)
琉球新報)14年度予算 「厚遇」は印象操作だ 基地強要の正当化やめよ(12/25)
沖縄タイムス)[公開質問状]不可解な事が多すぎる(12/25)
琉球新報)埋め立て知事判断 後世に誇れる歴史的英断を(12/24)
琉球新報)米研究員“指南” 「アメとムチ」は時代錯誤(12/23)
琉球新報)辺野古に軍港機能 県民欺く不当なアセスだ(12/22)
沖縄タイムス)[辺野古アセス]正当性にまたも疑念が(12/22)
琉球新報)普天間停止要求 口先の空約束は通じない(12/21)
沖縄タイムス)[要請の不可解]県民に本意を説明せよ (12/20)
琉球新報)埋め立て知事判断 法に照らし不承認を 沖縄の心の真価示すとき (12/18)
沖縄タイムス)[政策協要請]一体、これは何なんだ
琉球新報)埋め立て判断 「不承認」の歴史的英断を (12/17)
琉球新報)辺野古見直し提言 普天間閉鎖こそ最良の選択 (12/15)
沖縄タイムス 2013年12月27日 06:00
社説 [きょう「承認」表明] 県外公約 放棄するのか
仲井真弘多知事は27日、米軍普天間飛行場の移設に向け、名護市辺野古沖の埋め立て申請を正式に承認する。
戦後、日本のどこよりも基地の過重負担に苦しんできた沖縄に、普天間飛行場にはない埠頭(ふとう)機能や装弾場などを備えた半永久的な米軍飛行場を新たに建設する-これほどの理不尽があるだろうか。
埋め立て承認によって沖縄は「日中冷戦の拠点」として、これまで以上に軍事上の重い負担を背負うことになるだろう。
基地建設で潤う人びとと、そうでない人びとの対立によってぎすぎすした空気が広がり、沖縄社会が落ち着きを失った不安定な社会に変わるかもしれない。
新基地建設は「沖縄らしい自然と歴史、伝統、文化を大切にする」という「沖縄21世紀ビジョン」の将来像にも反する。
辺野古沿岸域は、沖縄県が策定した「自然環境の保全に関する指針」で、ランク1と評価されている。「自然環境の厳正な保護を図る区域」だと、県が指定した地域だ。
住民の強い反対を押し切って、ジュゴンのすむかけがえのない海を埋め立てるのは、そのために県内に投下される「お金」よりもはるかに大きな有形無形の損失を沖縄にもたらすだろう。
知事の埋め立て承認判断は、20年後、50年後の人びとまで拘束する極めて重大な判断である。
日本本土の米軍基地と沖縄の米軍基地には大きな違いがある。本土にある米軍基地のほとんどが旧日本軍の基地を継続使用しているのに対し、沖縄では、米軍が戦後、自分たちの都合のいい場所に基地を建設した例が多い。普天間飛行場もその一つである。
沖縄県民は、沖縄戦で未曽有の被害を受け、戦後も軍事植民地のような生活を強いられてきた。その意味で日本政府には、沖縄に対する「戦後責任」がある。
復帰の際、沖縄振興開発特別措置法が制定され、「国の責務」で戦後処理や格差是正に取り組むようになったのはそのためである。
振興開発は比較的順調に進んだ。だが、米軍基地の整理縮小は復帰後も遅々として進まなかった。東西冷戦が崩壊したあとも沖縄に「平和の配当」はなかった。この状態を解消することが何よりも優先すべき課題である。
だが、現実は、逆の方向に動き始めている。
知事の言動が変だ。県民を代表する知事の言葉とは思えないような軽い発言や、過去の主張との整合性を欠いた言動が目立つ。
25日、首相官邸で開かれた安倍晋三首相との会談の後、知事は記者団から感想を問われ、「いい正月になる」とまで言い放った。
26日には、名護市長選への出馬を表明している前県議の末松文信氏、一本化を受け入れ出馬を取りやめた前市長の島袋吉和氏と知事公舎で会った。関係者によると、知事は両氏と握手を交わし、「私も皆さんと同じ方向だ。一緒にがんばりましょう」と結束を誓い合ったという。
同じ日、面会を求めて知事公舎前に集まった県議会野党メンバー十数人には会っていない。
県議会や県民への説明を後回しにして早々と市長選候補予定者と会い、結束を誓い合ったというのだから、説明の順序があべこべだ。
仲井真知事は自分がこれまで何を主張してきたのか、忘れてしまったのだろうか。
県議会各会派、県内のすべての市町村が「普天間飛行場の県外移設」で足並みをそろえたのは、仲井真知事が県外移設を選挙公約に掲げ、その後、あらゆる機会に県外を訴え続けたからである。
「沖縄の総意」を形成する上で知事の果たした役割は大きかった。「辺野古移設に反対すれば普天間が固定化する」との政府内の脅しに対しても、「固定化するとの発想、言葉が出てくること自体、一種の堕落だ」と強い調子で批判した。
知事は日米両政府を動かして県外移設に道筋をつけるべき政治的義務を負っている。「県外移設」の公約をこれから先、どのように実現していくつもりなのか。明確な言葉で説明すべきである。
琉球新報 2013年12月26日
社説:知事・首相会談 粉飾に等しい「負担軽減」
仲井真弘多知事が「驚くべき立派な内容を提示していただいた」と述べた。この知事の発言自体が、「驚くべき」発言だ。いったいどこが「立派な内容」なのか。
首相官邸で会談した知事に対し、安倍晋三首相は基地の「負担軽減策」を説明した。だがどれも、新味のない従来の方策か、実現の担保のない口約束にすぎない。知事がなぜ高く持ち上げるのか理解できない。
知事は27日にも辺野古埋め立て承認の可否を表明する。これらの「負担軽減策」は何ら軽減になっていない点を見極めてほしい。今回承認すると、沖縄は「自発的隷従」となってしまう。子や孫の命と尊厳を売り渡すような愚かな判断をしないよう求めたい。
首相は普天間飛行場の5年内運用停止や牧港補給地区の7年内返還を検討する作業チームを防衛省内に設置する考えを示した。
だが運用停止も返還も主体は米軍だ。作業チームに米側も含めなければ実効性はない。その主体たる米側は「(実行を約束)できない」と早々と拒否の姿勢を示している。だからチームは日本側だけで編成し、実効性があるかのように装っているだけではないか。
環境汚染時の基地内立ち入り調査権の話も、過去に照らせば実効性のない口約束と見るほかない。
これは沖縄が日米地位協定の抜本的改定を求めた点の一つだが、日米両政府は1996年、改定でなく運用改善でお茶を濁した。その結果、立ち入りに米側は「妥当な配慮を払う」ことになったが、許可するか否かはあくまで米側の裁量で、その後も拒否は続発した。
環境調査権は欧州でも韓国でも地位協定を既に改定した項目だ。それをさも画期的であるかのように言うのは粉飾に等しい。
垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの訓練の半分を県外で実施するという件も噴飯ものだ。沖縄は危険な機体の常駐をやめよと求めている。訓練移転などではない。仮に訓練のみ移転したところで、1年のうちわずか数日の飛来で済む他県と、三百数十日背負わされる沖縄の違いは歴然としている。
これは差別の問題なのだ。辺野古移設は、沖縄の民意も他県と等しく尊重するか否かの問題なのだ。
予算編成後のここで埋め立てを認めれば、沖縄はカネ目当てという印象を全国に刻み込む。知事は後世に恥じない判断をしてほしい。
沖縄タイムス 2013年12月26日 06:45
社説[首相・知事会談]県民ははしご外された
仲井真弘多知事は、まるで別人のようだった。菅義偉官房長官が作ったシナリオの上で踊らされているパペット(操り人形)のようにもみえた。
25日、首相官邸で仲井真知事が安倍晋三首相と向かい合っていたころ、那覇市の県庁前では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する住民が雨に打たれ、傘を差して、悲壮感に満ちた表情で知事の埋め立て不承認を訴えた。
だが、住民の必死の叫びは首相官邸に届かなかった。いや届かなかったのではない。知事は17日の沖縄政策協議会以来、東京に閉じこもり、県民の声を聞こうとしなかったのだ。
会談で安倍首相は2014年度の政府予算案に概算要求を上回る3460億円の沖縄振興予算を計上したことや、2021年度まで毎年度3千億円台の沖縄振興予算を確保する方針を明らかにした。
知事は「いろいろと驚くべき立派な内容をご提示いただいた」と最大級の言葉でお礼を述べた。記者団に対しては「有史以来の予算」と、政府の回答を絶賛する発言を繰り返し、「いい正月になる」とまで語った。
会談後、知事は車に乗り込んだ後、窓から笑顔で「ハブ・ア・ナイス・バケーション」と言いながら記者団に手を振った。
石破茂自民党幹事長が、県関係国会議員5人を従えて記者会見したときもそうだったが、それをはるかに上回るおぞましい光景だった。
知事は、辺野古を金で売り渡すつもりなのだろうか。
来年度増額される那覇空港第2滑走路の増設事業予算は、航空自衛隊那覇基地へのF15戦闘機1個飛行隊の追加配備を前提にしたもので、県の要望に応じたというだけの話ではない。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の関連予算についても、オールジャパンの立場で建設した大学であり、本来沖縄振興予算とは別枠で、国が措置すべきものである。
知事は「有史以来の予算」というが、今回を上回る沖縄振興予算が計上されたこともある。
政策協で沖縄側が求めた基地負担の軽減策について、首相は日米地位協定を補足する新たな政府間協定を作成し、環境条項を盛り込む考えを示した。
だが、普天間飛行場の5年以内の運用停止については、「危険性除去が極めて重要な課題だという認識を知事と共有している」と述べただけで、具体的には何も答えていない。
首相の回答は、文書ではなく、すべて口頭だった。現時点では何も決められず、文書にすると政府が縛られるからだろう。これまでも閣議決定や総理大臣談話でさえほごにされているというのに、実現の担保がない「口約束」というしかない。
首相と知事の会談は、ほぼすべて記者団に公開した。このやりとりを国民に見せ、普天間移設問題をめぐって、政府と沖縄が共同歩調を取り始めていることをアピールしようとした「政治ショー」そのものである。
会談自体よりも、会談以外のところでどのような裏約束があったのかが問題だ。知事は17日の政策協以来、首相との間でどういうやりとりがあったのかなど、県民に一切説明していない。
仲井真知事が、ほかでもない140万沖縄県民を代表する知事ならば、包み隠さずに語らなければならない。
琉球新報 2013年12月25日
社説:14年度予算 「厚遇」は印象操作だ 基地強要の正当化やめよ
2014年度沖縄関係予算が前年度比15・3%増の3460億円で決まった。増額となったのはともかく、政府が「厚遇」を強調する点に強い違和感を抱く。
政府は躍起になって「沖縄に対し他の都道府県ではあり得ないほど特別に国費をつぎこんでいる」というイメージを振りまいている。だがそれは事実と異なる。むしろ他府県にはあり得ない水増しやごまかしがまかり通っている。政府はこれで基地強要を正当化したつもりだろうが、不当な印象操作は直ちにやめてもらいたい。
数ある「かさ上げ」
「水増し」「ごまかし」の最たるものは那覇空港の整備予算だ。
那覇空港は1990年代の段階で既に、2010年代半ばでの「ボトルネック」が懸念されていた。つまり、空港利用の需要が高まり、滑走路1本ではさばききれないという見立てだ。滑走路増設の必要性は全国でも福岡空港に次ぐ二番手の位置付けだった。福岡は既に整備され、那覇に着手するのは自然な流れのはずだ。
那覇は国管理の空港だから整備は政府の空港整備勘定(旧空港整備特別会計)で計上すべきだ。だが政府はこれを沖縄関係予算に組み込んだ。県の注文で辛うじて一括交付金と別枠になったとはいえ、沖縄以外なら国の予算となるところ、さも沖縄のため特別に計上したかのように装うのは不当な「演出」だ。他の沖縄関係事業にしわ寄せも生じたはずである。
沖縄関係予算を「かさ上げ」しているのは沖縄科学技術大学院大学も同様だ。2001年に構想が浮上した際は、この経費捻出のため通常の沖縄関係予算が削られるのを警戒する声があった。政府はその点をうやむやにし、一時は文部科学省予算で一部賄うと説明したが、雲散霧消した。今や完全に沖縄関係予算だ。
本来、入るべきでないこれらを除くと、14年度の沖縄関係予算は2930億円だ。99年度は3282億円だから15年で1割減った。国全体ではこの間、逆に1割以上増えている。
財政学が専門の池宮城秀正・明治大教授によると、沖縄の2011年度1人当たり依存財源(国からの財政移転)額は32万円で全国18位。類似9県平均41万円の8割弱だ。「沖縄優遇」は印象操作にすぎない。
戦後通算で見ると沖縄への1人当たり財政援助額は全国平均の6割にすぎず、むしろ「冷遇」だった。復帰後の沖縄への高率補助は戦中戦後の「償い」の意味があったが、今や露骨に基地押し付けの材料だ。どこまで沖縄の尊厳を踏みにじれば気が済むのだろうか。
程遠い自由裁量
確かに沖縄振興一括交付金制度は沖縄予算だけにある制度である。だがこれはカネ目当てというより予算の効率化、財政の地方分権論として出た構想だ。地方の実需にあった予算編成とするため、省庁ごとのひも付き補助金でなく、地方の自由裁量で支出できるようにするのが本来の狙いだ。
しかし制約が多く、自由裁量とは程遠いのが現状だ。沖縄の振興には人材育成が欠かせないのに、例えば教員の加配には使えない。人件費支出を伴うのは予算の単年度主義に反するからという理由のようだが、制約は本来の趣旨に反する。例えば無償の奨学金の大幅創設、留学の大幅増に向けた大胆な支援策などを可能とすべきだ。県は15年度以降、裁量権を広げるべく国を説得してほしい。
全国予算を見ても解せない点は多々ある。歳出削減に向けた切り込みどころか、各省庁の要求をほぼ受け入れた。増税は財政再建が目的のはずが、従来型の公共事業増加に振り向けられた感がある。
税制改正の方向も疑問だ。低所得者に負担増を強いる一方、大企業への優遇策が目立つ。「強きを助け、弱きをくじく」構図だ。
防衛費も増えた。「強権国家」づくりに税金を使うのが安倍政権らしい。予算編成の「哲学」が正しかったのか、疑問は尽きない。
沖縄タイムス 2013年12月25日 06:42
社説[公開質問状]不可解な事が多すぎる
17日に開かれた沖縄政策協議会で、仲井真弘多知事が唐突ともいえる「要請書」を安倍晋三首相に提出して以来、県内では「条件闘争だ」「承認への布石か」など、さまざな臆測が広がり、異常な事態に陥っている。
そもそも要請書はどういう性格のものなのか。3月の政策協で知事は米軍普天間飛行場の県外移設を求める立場を主張していた。それが基地負担軽減を求めた今回の要請書に「県外移設」が見当たらないのはどういうわけか。
あまりに不可解なことが多すぎるのである。知事は政府への要請書に関する疑問に答えてもらいたい。
まず第1に「普天間飛行場の5年以内運用停止、早期返還」だ。なぜ5年なのか。県は政府が提出した埋め立て申請で工期5年とされていることなどを根拠としている。しかし、知事はこれまで「辺野古移設は事実上不可能。5年も10年もかかるなら固定化そのもの。県外が一番よい」と一貫して県外を主張している。要請書が辺野古移設の容認を前提としているのなら、県民への背信行為となる。
第2に「オスプレイ12機程度を県外の拠点に配備」。文面からは普天間配備24機のうち12機の常駐を容認すると受け取られる。全41市町村長らが署名した「建白書」で求めたのはオスプレイの配備撤回である。
知事は8月に県軍用地転用促進・基地問題協議会(軍転協)の会長として、首相にオスプレイ配備中止を要請した。整合性はどうなるのか。
■ ■
第3に「日米地位協定の条項の追加等、改定」の項だ。要請書では従来の改定要請にあった「抜本」の文字が消えている。返還前の基地の環境・文化財の立ち入り調査などを求めているが、軍転協が求めていた「起訴前の身柄の引き渡し」など「日米地位協定の抜本的見直し」という表現は見当たらず、後退していると言わざるを得ない。
さらに「次のステップへ(沖縄のさらなる発展に向けて)」とした項目では、鉄軌道の導入決定、早期着工などとともに「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案を踏まえた候補地として検討」と明記した。いわゆる「カジノ法案」である。
県はカジノを含む統合リゾートについて法制化と県民の合意形成を前提としている。その前提で国家戦略特区に「沖縄統合リゾート」を提案しているが、候補地域として検討するよう踏み込んだ。意思決定に正当性はあるのか。
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要請書は知事と一部の県幹部のみが関与し、まとめられた。首相と全閣僚が出席する公の場に提出する要請書である。過去の政策協でも同じ手法をとっているのか。それとも今回は「例外中の例外」なのか。
安倍政権はあらゆる手を使って、知事の年内埋め立て承認を得ようと必死だ。25日には首相と知事が会談する。だが、知事が真っ先にやるべきことは沖縄に戻り、要請の趣旨を県民に説明することである。後先が逆であるというほかない。
琉球新報 2013年12月24日
社説:埋め立て知事判断 後世に誇れる歴史的英断を
仲井真弘多知事は、選挙公約、県の基地・環境政策との整合性、法律要件に適合するか否か、戦後68年間も米軍基地の過重負担に耐えてきた県民の苦しみなどを最大限考慮し、歴史の批判に耐え得る「不承認」の英断を下してほしい。
政府が知事に求めた普天間飛行場の名護市辺野古移設計画に伴う埋め立て申請への判断のことだ。
県が先に政府に行った沖縄振興と基地負担軽減に関する要請のうち、特に「普天間飛行場の5年以内の運用停止、早期返還」「日米地位協定の条項の追加等、改定」「オスプレイの12機程度を県外の拠点に配備」の3点は、従来の県の政策や県民意思と相いれず、要請の民主的正統性に疑義がある。
知事は2期目の選挙公約で普天間飛行場について「県外移設」を約束した。「県外移設」を今回の要請書に明記しなかった理由、真意は何か、公約を変更するのか、県民に対し説明を尽くしていない。
県と県内市町村はかねて、国にオスプレイ配備撤回と地位協定の抜本改定を求めてきた。もし知事の独断で常駐配備容認、協定の部分改定に主張を変更するなら市町村長や議会、県民への背信となる。
今年1月にオスプレイ配備に反対する県民大会実行委員会、県議会、県下41市町村の首長、議会の連名で首相に提出した建白書も、オスプレイ全機の配備撤回、普天間基地の閉鎖・撤去と県内移設断念を求めた。これが最大公約数の県民意思だ。「県民の強い思い」をねじ曲げて、政府に誤ったメッセージを送ってはならない。
在沖海兵隊の国外分散推進に伴う辺野古移設合意の事実上の破綻、森本敏前防衛相も認めた県内移設の軍事合理性の欠如、辺野古アセスのずさんさなどの観点からも「不承認」こそ合理的だ。
防衛省は辺野古の軍港機能拡充を県民に隠し、米国防総省に対してはジュゴン関連の膨大な環境調査情報を削除したアセス資料を送付していた。県民を欺き、政権上層部、国会への説明を怠った疑いが拭えない。
知事は防衛省の強権的かつ詐欺的手法に加担せず、後世に誇れる決断を下してほしい。国の申請が公有水面埋め立て法の要件を満たしているか厳格に判断すべきだ。曖昧な点があれば、来年1月の名護市長選への直接的影響を避ける観点から、選挙終了まで知事判断を留保するのも選択肢だ。
沖縄タイムス 2013年12月24日 06:50
社説[要請に正当性あるか]可否前に説明すべきだ
全閣僚と県知事で構成する「沖縄政策協議会」という公式の場で、仲井真弘多知事が安倍晋三首相に直接、要請書を手渡してから1週間がたつのに、県サイドから県民に対しいまだに何の説明もない。
要請書から選挙公約の肝だった米軍普天間飛行場の「県外移設」の文言が消え、その代わり普天間の「5年以内運用停止」が盛り込まれた。知事の真意は何なのか。
要請書の「予算確保」の項目には、那覇空港滑走路増設がある。「次のステップへ(沖縄のさらなる発展に向けて)」の項目では、鉄軌道の導入決定・早期着工、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」の候補地域として検討するよう求めている。いわゆる「カジノ法案」である。自民党などが衆院に提出し、来年の通常国会での成立を目指している。
要請内容には既視感がある。仲井真知事が初当選したのは2006年12月。当時は条件付きで辺野古移設を容認するスタンスだった。
事務方トップの防衛次官を長く務め、普天間問題に当初から深く関わった守屋武昌氏の著書によると、07年早々、仲井真知事が受け入れの条件として、那覇空港の滑走路新設、モノレールの北部地域までの延伸、高規格道路、カジノを挙げたことが記述されている。県経済界の重鎮が仲井真知事の使者として、当時の県選出国会議員を介して伝えてきたことを明かしている。今回の要請書とほぼ符合する内容である。
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政府、自民党本部は11月、「県外移設」を選挙公約に掲げた県関係の党国会議員5人と、党県連を力ずくで辺野古移設容認に転換させた。圧力に屈した県連はその後、政府と党本部に五つの基地負担軽減策を要請している。
「普天間の5年以内の運用停止状態」「24機のオスプレイの半数を県外に分散配備」「牧港補給地区(キャンプ・キンザー)、那覇港湾施設(那覇軍港)の早期返還」「日米地位協定の改定(環境条項追加)」などが主な内容である。県連の要請は、知事の要請書とほぼ重なっている。
辺野古移設の姿勢を鮮明にし活発に活動している県経済界の中心人物は、辺野古移設をめぐって経済界の「意思統一」を図ろうとしたが、異論が相次ぎまとめることができなかった。知事の要請書は経済振興で経済界の中心人物ら、基地負担の軽減で自民党県連の要望を取り入れて作成したとみていい内容である。
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国が県に提出した辺野古沿岸部の埋め立て申請は事務審査がほぼ終了した。川上好久副知事、當銘健一郎土木建築部長らが23日、都内の病院に検査入院している知事に報告した。事務段階では環境保全に関し適否を示しておらず、土建部は詰めの作業を急ぐ。
要請書は県庁内のごく限られた者しか関与させずに作成している。公約との整合性は保たれているのか。手続きに正当性はあるのか。事前に官邸とすり合わせており、疑念が膨らむ。知事は可否判断の前に、県民に対する説明責任を果たさなければならない。
琉球新報 2013年12月23日
社説:米研究員“指南” 「アメとムチ」は時代錯誤
あからさまな脅迫であり、時代錯誤も甚だしい発言である。
米軍普天間飛行場辺野古移設に関し、米国の保守系シンクタンクの上席研究員が、仲井真弘多知事が埋め立てを承認しないのなら、日本政府は「2014年度予算で沖縄の交付金を取り消すべきだ。そうすれば沖縄は経済的苦境に陥るだろう」と論評した。
米政府の政策決定に影響力のあるシンクタンク研究員の発言だ。研究員は自らの“指南”が日本政府の沖縄対策に反映されているとの認識も示しており、日米政府一体で沖縄懐柔を図る構図が浮かぶ。
政府は14年度の沖縄振興関係予算について、概算要求より52億円増の3460億円とする方針だ。埋め立て承認を促す狙いは明らかだが、不承認なら予算を見直すというのなら、重大な問題だ。
政府が予算で配慮を強調する那覇空港第2滑走路増設や科学技術大学院大学の整備拡充などは、何も沖縄県民のためだけの事業ではない。国の施策として当然取り組むべき事業であり、その予算の充実を沖縄県民がことさらありがたがる筋合いのものではない。
再三指摘しているが、沖縄が基地負担の一方で国の補助金に過度に依存しているかのような認識も誤りだ。人口1人当たりの依存財源額は沖縄は全国18位の31・5万円で、財政力が近い類似9県の平均41・2万円と比べて低い。
基地関係収入が県民所得に占める割合も、1972年の日本復帰時の15・5%から09年は5・2%にまで下がっている。基地に依存するより返還させた方が経済効果が高いことは、北谷町のハンビータウンなどを見ても明らかだ。
振興策をちらつかせば、沖縄は最後は言うことを聞く。そのような差別と偏見と誤解に基づく「アメとムチ」の懐柔策はもう沖縄には通用しない。植民地政策まがいの恫喝(どうかつ)は許されない。
振興策を強調するのは、沖縄の強固な異議申し立てを前にした日米両政府の焦りの表れとも言えよう。ただ一方で、振興策や基地負担軽減を条件に辺野古埋め立てを承認するかのような印象を仲井真知事が与えているのも否定はできない。
相手を付け込ませる思わせぶりな対応はもう取るべきではない。仲井真知事、そして県民は毅然(きぜん)とした態度で圧力をはねのけ、沖縄の未来に責任を持つべきだ。
琉球新報 2013年12月22日
社説:辺野古に軍港機能 県民欺く不当なアセスだ
防衛省が軍港機能拡充の事実を隠し、県民、国民を欺いていた。
沖縄防衛局が米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を目指し県に提出した埋め立て申請で、護岸の長さや弾薬搭載区域の規模がこれまで県に示した計画より拡大し、うるま市のホワイトビーチ並みの機能になったことだ。
船が接岸する護岸は全長約200メートルから272メートルへ延び、幅は30メートル。この規模は、米海兵隊輸送機MV22オスプレイや海軍エアクッション型揚陸艇の搭載が可能な強襲揚陸艦ボノム・リシャール(全長257メートル、4万500トン)が接岸できる。同揚陸艇の水陸両用訓練が可能な斜路(しゃろ)の整備も新たに図示された。
安倍晋三首相や菅義偉官房長官は軍港拡充を十分知りつつ、仲井真弘多知事に隠していたのか。知らされていなかったのなら、防衛省の怠慢を厳しくいさめるのが筋だ。
防衛局は環境影響評価(アセスメント)の手続きで代替基地の軍港機能を否定していた。護岸の一部を船舶が接岸できるように整備するものの、「恒常的に兵員や物資の積み降ろしを機能とするようないわゆる軍港を建設することは考えていない」と説明していた。
防衛省は「複数の軍艦が停泊できる軍港ではない」と釈明するかもしれないが、そんな詭弁(きべん)は通用しない。辺野古埋め立てに向けた環境アセスは従来、作業が進めば進むほど基地機能が追加される国の“後出しじゃんけん”が市民から問題視されてきたからだ。
象徴的な例は、オスプレイ配備問題だ。米側は1996年に日本側に配備を通告し、同年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告の草案に明記していた。だが、防衛庁の高見沢将林課長(当時)がその文言の削除を求めたことが米側文書で明らかになっている。
その後、日本政府は配備についてしらを切り続け、11年12月提出の「評価書」で初めてオスプレイについて記述したのだ。
こうしたアセスの進め方は辺野古移設への賛否以前の問題として、国民、閣僚、国会を侮辱する詐欺まがいの行為と言わざるを得ない。
防衛省は県民の人間としての尊厳を傷つけ、日米関係への国民の信頼も著しく毀損(きそん)している。安倍政権は辺野古移設の不当性を直視し、埋め立て申請の撤回はもとより、普天間の閉鎖・撤去、県外・国外移設へ政策を転換すべきだ。
沖縄タイムス 2013年12月22日 06:50
社説[辺野古アセス]正当性にまたも疑念が
米軍普天間飛行場の辺野古移設問題で、環境影響評価(アセスメント)をめぐる「不都合な事実」がまたも明らかになった。
県に提出した環境アセスの補正済み評価書の中で沖縄防衛局は、滑走路よりの海側に設置する弾薬搭載エリア(装弾場)を「約1万6000平方メートル」と記載した。
「ヘリ等が故障した場合等」に備え、「護岸の一部約200メートル」を船舶接岸用に整備する、とも記している。
ところが、埋立申請書では弾薬搭載エリアの面積が「1万8662平方メートル」に膨らみ、船舶が接岸する埠頭も「271・8メートル」に拡大した。
施設の概要を記した補正書と詳細設計の規模を記した文書の数字が一致しなくても問題はない-と県海岸防災課は指摘する。公有水面埋め立ての一般論としては、県が言う通りだろう。だが、国内法の及ばない米軍飛行場を新たに建設する場合、この数字の違いは重大である。
「ヘリ等が故障した場合等」の2つの「等」がくせものだ。「271・8メートル」の埠頭が整備されれば米海兵隊の強襲揚陸艦の接岸も可能となる。決してちょっとした違いではない。
中身がはっきりしないようにできるだけ表現をぼかし、オスプレイ配備のような重要な事実はぎりぎりまで公表せず、環境に与える影響を低く低く見せる-辺野古アセスは、準備書の段階から埋め立て申請に至るまで、問題があまりにも多い。
■ ■
これほど不誠実な環境アセスが過去にあっただろうか。環境保全という立場を重視すれば、どこからどう考えても「承認」という結論は出てこないはずだ。
仲井真弘多知事は安倍晋三首相や閣僚が出席した17日の沖縄政策協議会で、普天間飛行場の「5年以内の運用停止」など新たな内容を盛り込んだ基地負担軽減を、唐突に、要請した。
要請書は、項目を箇条書きで羅列しただけで、内容の説明がついていない。どのような性格の要請書なのかもはっきりしない。
今に至るまで知事から政府要請について何の説明もないのは異常である。
知事は、埋め立て申請について、早ければ連休明けの24日の週にも最終判断を下すとみられているが、県民の目の届かない東京を舞台にした振る舞いはいかにも危うい。
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県の要請内容は短時間に確答できるようなものではなく、「努力します」式の抽象的な回答は空手形と何も変わらない。政府のシナリオに抱き込まれないことが重要だ。
知事が「不承認」と判断すれば国が行政代執行することになる、との声もある。ほんとにそうなのだろうか。
復帰前の1950年代、米軍は「銃剣とブルドーザー」で土地を強制接収し、自分たちの都合のいい場所に基地を建設した。政府がもし強権を発動すれば、移設計画は日本政府による「現代版銃剣とブルドーザー」と見なされ、完全に正当性を失うことになる。
琉球新報 2013年12月21日
社説:普天間停止要求 口先の空約束は通じない
あまりにあけすけな口ぶりである。米国防総省のウォレン報道部長は仲井真弘多知事が安倍晋三首相に要請した5年内の普天間飛行場の運用停止について「できない」とにべもなかった。
政府は「辺野古に代替基地が完成していれば」との条件付きで、5年内運用停止を請け合うつもりだったかもしれない。空約束だが、当座のところ沖縄の反発をかわせると見込んだのではないか。首相が「最大限努力する」と言っていたから、少なくとも「前向き」な姿勢くらいは示すつもりだったのだろう。仮にできなくても「代替基地が完成していないから」という逃げ道が用意されている、というわけだ。
そんな「芝居」ができないよう、早速米国からくぎを刺されてしまった格好だ。沖縄は、「朝三暮四」の猿ではない。政府は、もはや口先だけの「負担軽減」では通用しないと知るべきだ。
それにしても、米国の言いぶりには怒りを覚える。「日本の国内問題だ」という姿勢のことだ。
沖縄の被害は、事件事故にしろ騒音にしろ環境汚染にしろ、米国の軍隊が起こしていることだ。米国は当事者そのものである。特権的な日米地位協定も米国が求めたものだ。人ごとのような口ぶりは許しがたい。
その地位協定の改定要求も、「われわれは改定に合意していない。今後交渉を始めることも考えていない」と即座に却下した。これで「米国は引き続き日本や地域のパートナーを支援する」とは、空々しいにもほどがある。
地位協定の改定要求は、特別な「わがまま」ではない。日本が主権国家であるなら当然行使できることを行使できるように、という当たり前の求めにすぎない。
現状は犯罪者も基地に逃げ込めば逮捕もされず、証拠隠滅も口裏合わせもやりたい放題。環境汚染をしても連絡せず、地域の人の立ち入り調査さえたびたび拒む。夜中の3時に110デシベルもの爆音を響かせる。ニューヨークで日本人がそんなことをして許されるのか。
異民族の「同盟国」に、68年間も軍隊を駐留させ、しかも特権的地位を続けたのは第二次大戦後の米国だけだ。世界史的にも例のないそんな二国間関係は、不安定要因であることに米国も気付くべきだ。そして、持続可能な、対等な関係を築き直すべきなのだ。
沖縄タイムス 2013年12月20日 06:00
社説[要請の不可解]県民に本意を説明せよ
これが「切り札」なのか。そう思うと、何とも心もとない。仲井真弘多知事が沖縄政策協議会で提出した要請書はふに落ちないことだらけだ。
要請書は、1「予算確保」2「基地負担の軽減」3「次のステップへ」と項目分けしている。が、要請項目を箇条書きで羅列した文面では甚だ物足りない。
最大の焦点である普天間飛行場に関しては「5年以内の運用停止、早期返還」「オスプレイ12機程度を県外の拠点に配備」とある。なぜ5年以内、12機程度なのか。
「12機程度を県外の拠点に配備」の項目には、「訓練の過半を県外に移転」が細目として付されている。
政府は、陸上自衛隊へのオスプレイ配備を、今後5年間で進める「中期防衛力整備計画」に盛り込んだ。この動きと県の要望は連動するのか。
細目には、「普天間飛行場の運用停止後、県外移設」ともある。が、知事が名護市辺野古沿岸部の埋め立て申請に同意するのであれば、論理矛盾としかいいようがない。
政府は普天間の早期返還に向け「知事から辺野古移設加速のお墨付きを得た」と都合よく解釈するのではないか。
全ては知事の腹にかかっており、県民への説明は何もない。これまで知事に政策を委ねてきたのは県民世論を踏まえ、「県外移設」の公約に沿った判断をする、という前提があるからだ。
公約の破棄や変更でないというのであれば、知事は入院中とはいえ、副知事が代わってでも県民への説明を優先するのが筋ではないか。
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要請内容は、政府がまともに向き合えばハードルはかなり高いといえる。が、口約束のレベルでお茶を濁すのであれば、ハードルは決して高くはない。
安倍晋三首相は知事の要望に対し、「最大限努力する」と回答した。が、これでは何の保証も得られていないに等しい。仮に閣議決定しても、日本政府のみの判断で実効性の担保が十分に得られたとは受け止められない。
知事は政府からの基地負担軽減策の具体的な回答を待って埋め立て申請の諾否を下す意向で、回答がない場合、年末にも想定される判断の先送りも検討している、という。
とはいえ、政府が米側と交渉し、実効性のある担保を得るには明らかに時間不足だ。県の埋め立て申請の審査は最終段階を迎えており、政治的な判断で引き延ばす覚悟が、知事にどれだけあるのかも不明だ。
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「基地の負担軽減は目に見えた形で進んでいない」。沖縄政策協議会の後、仲井真知事は記者団にこう語った。
「目に見える形の基地負担軽減」は、稲嶺恵一前知事の県政時代から政府に繰り返し要望してきたフレーズだ。
県民にいまだにその実感が湧かないのは、基地負担軽減の核心が普天間飛行場の閉鎖であり、米海兵隊の移転、撤退だからだ。
知事が埋め立て申請に同意すれば、その後は、県が行政として辺野古移設に歯止めをかけるカードはないことを強調しておきたい。
琉球新報 2013年12月19日
社説:埋め立て知事判断 法に照らし不承認を 沖縄の心の真価示すとき
発言のぶれは全く不可解である。政府と県が沖縄の経済振興策や米軍基地問題を話し合う沖縄政策協議会で、仲井真弘多知事が安倍晋三首相ら閣僚に対し述べたことだ。
知事は普天間飛行場の5年以内の運用停止、日米地位協定の改定、米軍垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの12機程度の県外分散配備など基地負担軽減を要望した。
主張が従来より後退した。これでは普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた政府の埋め立て申請に対し、「承認」を示唆したと思われても仕方ない。知事は後世に禍根を残す判断をしてはならない。
一歩間違えば
知事要望は、一歩間違えば県民への背信行為となる。四つの観点から問題点を指摘しておきたい。
第一に、仲井真知事は2009年知事選で普天間飛行場について「1日も早い危険性除去」「日米共同声明を見直し、県外移設を求める」と県民に公約した。それが辺野古移設の日米合意見直しを意味することは明らかだが、今回は「県外移設」を明言しなかった。
第二に、知事は昨年7月、森本敏防衛相(当時)に対し、日米地位協定の不平等性を批判した上で、オスプレイの配備と関連して「危険なものを人口密集地帯で運用されて地位協定があるという話をされたら、それこそ全基地即時閉鎖という動きに行かざるを得ない」とまで警告した。今年8月の安倍首相との会談でもオスプレイの配備中止と日米地位協定の抜本改定などを要請したばかりだ。
オスプレイは墜落事故が絶えず、安全性への懸念が全く払拭(ふっしょく)されていない。にもかかわらず、配備中止を求めてきた知事が12機の沖縄常駐を前提に「本土分散配備」を主張するのなら、なし崩し的な方針転換とのそしりを免れない。
地位協定の「抜本改定」は県の一貫した要求だが、今回の要望では「抜本」の2文字が消えた。知事がもし一部改定でお茶を濁すつもりなら、戦後長く米軍に人権を蹂躙(じゅうりん)されてきた県民への背信だ。
第三に、県民意思を代弁する県議会は10年2月、普天間飛行場の早期閉鎖・返還、県内移設断念、国外・県外移設を全会一致で決議した。首相に明確に「県外移設」を求めなかった今回の要望は、県議会決議と齟齬(そご)がある。
第四に、県議会議長や41市町村の首長・議会、県民大会実行委員会ら県民代表が今年1月に首相に提出した建白書では、オスプレイ配備を直ちに撤回することや、普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設断念を明確に求めた。今回の知事発言はオール沖縄の要求である建白書よりはるかに後退し、民意との乖離(かいり)を指摘せざるを得ない。
日米関係の健全化
ジョセフ・ナイ氏ら米国の知日派の元政府高官、識者の間で、普天間の辺野古移設の現実味を疑問視し、在沖米海兵隊の米本国撤退やオーストラリア移転などを求める意見が強まっている。仲井真知事はこうした環境の変化を直視し、県内移設条件なき普天間の閉鎖・撤去を追求すべきだ。長い目で見れば、その方が日米関係の健全化、持続的発展につながると確信する。
今回の「普天間飛行場の5年以内の運用停止」という要望は自民県連と足並みをそろえた形で、一見前進に見える。だが、それが辺野古移設容認を前提とするのなら民意に反する。知事は140万県民に負託された代表だ。軍事ではなく平和の要石になりたいと望む「沖縄の心」の真価を示すときだ。
知事要請を受けて、政府は「最大限の努力」をアピールする。裏返せば、政府が1996年の普天間返還合意以来の自らの怠慢を自白したに等しく、噴飯ものだ。
辺野古移設に向けた環境アセスは数々の不備、欠陥が指摘される。そのような移設計画が、公有水面埋立法が要求する環境保全への考慮など厳格な承認要件を満たすとは到底考えにくい。知事が法治主義に徹すれば、埋め立て申請は「不承認」しかあるまい。歴史の批判に耐え得る英断を期待する。
沖縄タイムス 2013年12月18日 06:00
社説[政策協要請]一体、これは何なんだ
「県外移設」の文言がなく、口頭での県外要請もなかった。一体、どういうことなのか。これは単なる要請書ではなく、辺野古移設の受け入れ条件を網羅した文章ではないか。そうとしか受け取れないような内容だ。
安倍晋三首相をはじめ全閣僚、仲井真弘多知事らが出席する沖縄政策協議会(主宰・菅義偉官房長官)が17日、首相官邸で開かれた。
3月に開かれた政策協で仲井真知事は米軍普天間飛行場の県外移設を要請した。だが今回は、県外移設に言及せず、代わりに「普天間飛行場の5年以内運用停止、早期返還」という表現を盛り込んだ。オスプレイについても配備中止という従来の表現を使っていない。
「オスプレイ12機程度を県外の拠点に配備」し、「訓練の過半を県外に移転」することや、「普天間飛行場運用停止後、県外移設」することなど、意味不明の体言止めの文言が並ぶ。「日米地位協定の条項の追加等、改定」との文言も分かりづらい。メモ風に急いでまとめ、推敲(すいこう)もせずに提出したような言葉遣いだ。
唐突な開催といい不自然な内容といい、一体、何があったのか。誰が入れ知恵したのか。
要請書は政策転換した自民党県連や官邸と水面下で調整したことをうかがわせる内容だ。
これが受け入れ条件でないとすれば、一体、何なのか。知事は要請の趣旨と内容を早急に、自らの言葉で丁寧に県民に説明すべきだ。
■ ■
要請の中身が受け入れ条件なのかとの記者団の質問に対し、知事は「直接は関係していない」と答えているが、本当にそうなのか。
16日に上京した知事は沖縄振興予算が閣議決定される来週まで、ずっと東京に滞在する予定だという。腰痛が悪化したため東京で入院加療するということらしい。時期が時期だけにこれも疑念を生じさせる行動だ。
入院中であっても体調が許す限り、県民への説明責任を果たすべきである。今回の要請はあまりにも唐突だ。
県議会での答弁や記者会見での説明、公的な場での発言は、県民が知事の考えを知る数少ない機会である。
政府と知事の水面下での話し合いが、「公式見解」とはまったく異なる方向に進んでいるとすれば、知事は言葉を使い分け、県民を欺いたことになる。
■ ■
県の中でも、環境保全を重視する環境生活部と違って、公有水面埋め立てを所管する土木建築部は、手続きが適切だったかどうか、という形式面を重視しがちだ。だが、今回は米軍飛行場建設という極めて特殊な案件である。
現行法に不備があるのは、オスプレイ配備という重要情報を後出ししたことや、名護市民・県民の声を完全に無視して埋め立て申請したことからも明らかだ。通常の公共事業では考えられないことである。
そうである以上、手続きに不備があるかどうかだけを判断材料にすべきではない。
琉球新報 2013年12月17日
社説:埋め立て判断 「不承認」の歴史的英断を
米軍普天間飛行場の辺野古移設に向けた政府の埋め立て申請に対し、仲井真弘多知事が年内に判断を示す方針だ。「軍事の要石」から「平和の要石」に転換する、新しい沖縄の歴史を切り開けるか。仲井真知事の英断を期待したい。
こうした動きの一方で米政府高官は日本側に、埋め立て申請は無条件で承認されるべきだとの圧力を強めているようだ。辺野古移設までの間に日本側から、普天間駐留部隊の日本本土への移転や、米軍の運用に制限をかける日米地位協定の一部見直しなどの要求を提示されることへ警戒感があるのだろう。
しかし、部隊移転を落としどころとするような移設の懐柔策が仮にあるとすれば許されない。そうした小手先の「負担軽減策」がまやかしにすぎないことは、これまでの経緯からも明らかだ。県民は代替基地の条件とされた使用期限15年や基地使用協定など、浮上しては消えた“空手形”を忘れない。
米政府が無条件の埋め立て承認を求めることは当然想定されることだ。現行移設計画に関与してきた当局者として、交渉相手の日本側をけん制する狙いがあろう。
言うまでもないが、知事の埋め立て判断に当たって重要なことは、普天間の「固定化」の脅しを冷静に分析し、振り払うことだ。米政府は表向き、埋め立てが認められない場合は普天間を継続使用するとの立場だが、固定化は実は米側にとっても最も避けたいシナリオだ。
住宅密集地にある普天間飛行場周辺で再び事故が起きれば「住民の支持は壊滅的な打撃」(キャンベル前国務次官補)を受け、日米安保体制そのものが揺らぎかねないことを米側は十分理解している。
知事は埋め立て不承認を求める公明党県本の提言を受け「内容を参考に結論を出したい」と答えた。
県選出国会議員らの県外移設公約を力ずくで撤回させ、辺野古移設容認の発表に同席させた安倍政権の強権的手法を、琉球処分と重ねる県民も少なくない。「処分官」に例えられた石破茂自民党幹事長を前に、こうべを垂れる地元代議士の屈辱的な姿を目の当たりにし、県民の間に政権与党への反発が強まっている。
辺野古移設の是非は戦後68年基地を押し付けてきた差別的処遇と人権侵害を続けるか、その転換に踏み出すかの選択であり、選ぶべきは明らかだ。後世の評価に耐え得る賢明な判断を知事に求めたい。
琉球新報 2013年12月15日
社説:辺野古見直し提言 普天間閉鎖こそ最良の選択
日米有識者がつくる「沖縄クエスチョン日米行動委員会」が米軍普天間飛行場返還に伴う名護市辺野古移設の代替案として、在沖海兵隊の大幅国外移転と同市キャンプ・シュワブ内への小規模ヘリポート建設を求める提言をまとめた。
県民の反対が根強い辺野古移設案を現実的ではないと認識し、日米合意見直しを求めた点は評価できる。だがヘリポート新設には異議がある。1996年の日米の普天間返還合意以降、県内移設条件が返還の最大の障壁だったからだ。
日米が喧伝(けんでん)する「沖縄の負担軽減」は進展するどころか、嘉手納、普天間両飛行場の基地機能強化、騒音被害激化など逆に負担が増加している。こうした中、ヘリポート新設が「小規模」で止まる保証は全くなく、県民も容認しまい。
提言はうなずける点も多い。報告書では在沖海兵隊約9千人がグアム、ハワイ、オーストラリア、米本土に分散する再編計画に言及。再編後、沖縄に残る実戦部隊はわずかだと指摘し、埋め立てを伴う辺野古移設計画に疑問を呈した。
行動委の米側座長マイク・モチヅキジョージ・ワシントン大教授は、事前集積艦を日本に配備しておけば、不測の事態には米本国から兵員を飛行機で急派、即応能力を落とさず対応が可能とした。
日本側座長の橋本晃和桜美林大大学院特任教授は、アジア太平洋の安全保障環境の変化を見据え、在沖海兵隊の沖縄への固定化について「効率・効果を欠いた古い軍事的産物」だと指摘する。沖縄がソフトパワーを備えたアジア太平洋における平和と繁栄の「要石」となることこそ「真の日米同盟の深化」につながるとも提起。今回の提言は、不戦・平和を願う県民の共感も一定程度得られよう。
普天間返還をめぐっては、辺野古移設を主導してきた日米の関係者の間で見解が変化している。
知日派の重鎮ジョセフ・ナイ氏(元米国防次官補)は「(県内移設計画が)沖縄の人々に受け入れられる余地はほとんどない」とし、在沖海兵隊の豪州移転を主張する。普天間移設先について、森本敏前防衛相は「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適」と本音を明かしている。
日米両政府も辺野古移設を断念するべきだ。普天間の県外・国外移設、閉鎖・撤去こそ持続可能な日米関係につながる最良の選択だ。
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