2015年10月27日火曜日

辺野古取り消し決定 効力停止 国交相

政府、工事再開へ/国交相「住民が被る損害ある」?

「沖縄の心に寄り添うというならば、首相は自らの言葉を守り、県民の多くが反対する計画を撤回するのが筋だ。」
(北海道新聞)
なのに、石井国交相は、
「普天間基地の移設計画が継続不可能となり、住民が被る損害があるとしたためだ」
(翁長知事の決定を一時停止することを決めた理由)などと述べた。
 
----沖縄県の米軍普天間(ふてんま)飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)の移設に伴う名護市辺野古(へのこ)沖の新基地建設計画をめぐり、石井啓一国土交通相は二十七日午前の記者会見で、翁長雄志(おながたけし)知事による埋め立て承認取り消し処分の効力を停止したと発表した。

決定書を沖縄県に郵送した。これを受け、政府は今秋の本格着工に向けて作業を再開する。
県側は決定を不服として、国の第三者機関である「国地方係争処理委員会」に審査を申し出る見通しだ。
(NHK)
*********************************
<各紙社説>
北海道新聞)辺野古承認撤回 移設作業の全面停止を(10/14)
中国新聞)辺野古承認取り消し 問われる「基地と自治」(10/14)
西日本新聞)辺野古取り消し 本土も自分のこととして(10/15)





以下引用


NHK 10月27日 11時29分
沖縄県知事の決定 国交省が一時停止決定

沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設計画を巡り、国土交通省は27日、沖縄防衛局の申し立てを認め、名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長知事の決定を一時停止することを決めました。
 さらに国土交通省は、地方自治法に基づいて知事に対し勧告や指示を行い、知事が従わない場合、最終的に国土交通大臣が知事の代わりに承認する「代執行」などの手続きに着手する方針を決めました。
沖縄県の翁長知事が名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消したことについて、沖縄防衛局は今月14日、承認の根拠となる法律を所管する国土交通省に対し、取り消しの無効を求める行政不服審査請求を行うとともに、取り消しの効力を一時停止するよう申し立てました。
 これに対し沖縄県は、取り消しは適法だなどとする文書を提出していましたが、国土交通省は27日、「取り消しによって普天間基地が抱える危険性が継続する」などとして沖縄防衛局の申し立てを認め、承認を取り消した翁長知事の決定を一時停止することを決めました。
 これを受けて、移設先とされている名護市辺野古沿岸部では、沖縄防衛局が現在中断している移設に向けた作業を再開できることになります。沖縄防衛局は辺野古沿岸部で海底のボーリング調査を進め、これまでに19の地点で終えていて、今回の決定を受けて残る5つの地点の調査を速やかに終えたい考えです。また、防衛省関係者によりますと、これと並行して埋め立て工事に着手することを沖縄県に届け出て、陸上部分での工事を始めることも検討していて、現在、最終的な調整を行っているということです。
 政府は27日の閣議で、普天間基地の移設計画を巡り沖縄県の翁長知事が先に移設先の名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消したことは違法だとして、国土交通大臣が沖縄県知事に対して是正を求めたうえで、従わない場合は代わりに埋め立てを承認する「代執行」の手続きを進めることを了解しました。国土交通相は28日に「勧告文書」を沖縄県に送ることにしています。
 一方、沖縄県は、国土交通省の今回の決定について、県外に出張している翁長知事が沖縄に戻りしだい対応を協議するとともに、27日夜、記者会見を行うことにしています。沖縄県の基地対策を統括する町田優知事公室長は27日午前、県庁で記者団に対し、「代執行が今の時点で行われるのは想定外だ。弁護士と相談するとともに、翁長知事が沖縄に戻りしだい対応を協議したい。県としては第三者に判断してもらいたいという考えがあり、代執行を行うためには裁判所の手続きを経ることになるので望むところだ」と述べました。そのうえで町田知事公室長は、国土交通省が埋め立て承認取り消しの決定を一時停止することを決めたことについて、国と地方の争いを調停する総務省の「国地方係争処理委員会」に審査を申し出る考えを示しました。
 仮に国と沖縄県が法廷で争うことになれば、20年前、当時の大田知事が軍用地の強制使用を巡る代理署名を拒否し、基地問題を巡って双方が正面から対立して以来の異例の事態となります。
国交相「住民が被る損害ある」
石井国土交通大臣は閣議のあとの記者会見で、沖縄防衛局の申し立てを認め、名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長知事の決定を一時停止することを決めた理由について、「普天間基地の移設計画が継続不可能となり、住民が被る損害があるとしたためだ」と述べました。また、「沖縄県の翁長知事による埋め立て承認の取り消しで普天間基地が抱える危険性が継続し、アメリカとの信頼関係に悪影響を及ぼすことによる外交・防衛上の損害など、著しく公益を害する。是正を図るため代執行などの手続きに着手し、あすにも知事に勧告文書を郵送する」と述べました。


辺野古承認:国交相、取り消しの効力停止…代執行も
毎日新聞 2015年10月27日 11時57分(最終更新 10月27日 13時18分)

辺野古移設を巡る動き
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設に向けた名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を、翁長雄志(おなが・たけし)知事が取り消した処分について、石井啓一国土交通相は27日、一時執行停止を決定した。また政府は同日の閣議で、辺野古の埋め立て承認を代執行する手続きに着手することを了解。国交省は28日にも翁長知事に承認取り消しの是正を勧告する文書を送る。応じない場合は、公有水面埋立法を所管する国交相が代執行手続きに入る。中谷元(げん)防衛相は27日の記者会見で、執行停止の文書が沖縄防衛局に届いた後、速やかに埋め立ての本体工事を始める方針を明らかにした。
 27日午前の記者会見で石井国交相は代執行について「法的瑕疵(かし)がない承認を取り消すのは違法。普天間飛行場が抱える危険性が継続し、外交・防衛上も重大な損害が生じる」と述べた。
 翁長知事は13日に埋め立て承認を取り消し、沖縄防衛局は行政不服審査法に基づき知事の処分を不服として国交相に審査請求。裁決までの間、処分の効力停止を求める申立書を提出していた。防衛局の審査請求に対しては、翁長知事は21日、承認取り消しは法的に正当として、審査請求の却下を求める弁明書、意見書を国交相に提出。移設先として辺野古を前提とするのは不当▽環境保全策が不十分−−などと指摘した。記者会見では「防衛局長が同じ内閣の一員の国交相に審査請求をしたのは不当。不服審査は一般国民の権利を守るためで、防衛局が私人として請求するのはおかしい」と批判していた。
 一時執行停止の決定により、審査請求に対する国交相の裁決を待たず、防衛局側は中断している海底ボーリング調査を再開できる。政府は近く移設作業を本格化する構えだが、翁長知事は総務省の第三者機関・国地方係争処理委員会に審査を申請することや、国を相手に訴訟を起こすことなどを検討する見通し。【坂口雄亮、内橋寿明】


朝日新聞 2015年10月27日15時02分
政府、是正求め代執行へ 辺野古承認取り消し処分めぐり
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画をめぐり、政府は27日の閣議で、地方自治法に基づき、沖縄県が出した取り消し処分を是正するため、名護市辺野古の埋め立て承認をめぐる代執行手続きに着手することを口頭で了解した。
 菅義偉官房長官は閣議後の会見で「政府の一致した方針として沖縄県知事に対し、(埋め立て承認)取り消し処分を是正する勧告をするとともに、応じない場合は裁判所で司法の判断を仰ぐことができるようにするため、国土交通大臣において地方自治法に基づく代執行の手続きに着手することとした」と語った。
 菅氏は代執行手続きに着手する理由について、「(翁長雄志(たけし)知事の)取り消し処分により普天間飛行場の危険性除去が困難となり、外交防衛上重大な損害を生ずるなど、著しく公益を害するとの結論に至った」と述べた。
 一方、石井啓一国土交通相は27日の閣議後会見で、翁長知事による処分は違法だとして取り消すよう勧告する文書を28日にも郵送すると表明した。石井氏の勧告は地方自治法に基づくもので、翁長氏に対して取り消し処分の撤回を求め、前知事による辺野古の埋め立て承認を認めるよう迫るものだ。翁長氏が応じない場合、高等裁判所に裁判を起こすこともできる。
■知事の処分は効力停止
 石井氏はさらに、翁長知事による埋め立て承認取り消し処分の効力を止めたことも発表。効力を停止した理由について「取り消しにより移設事業が継続できず、普天間飛行場周辺住民が被る危険性が継続するなど重大な損害が生じるため、緊急の必要性がある」と説明した。
 取り消し処分の執行停止により、現在停止中のボーリング調査などが再開できる。政府は11月中にも埋め立ての本体工事に着手する構えだ。ただ、沖縄県と防衛省の対立を防衛省と同じ政府の一員である国交相が裁く構図には批判もある。(鈴木拓也、峯俊一平)


東京新聞 2015年10月27日 夕刊
辺野古取り消しの効力停止 国交相表明 政府、工事再開へ
 沖縄県の米軍普天間(ふてんま)飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)の移設に伴う名護市辺野古(へのこ)沖の新基地建設計画をめぐり、石井啓一国土交通相は二十七日午前の記者会見で、翁長雄志(おながたけし)知事による埋め立て承認取り消し処分の効力を停止したと発表した。決定書を沖縄県に郵送した。これを受け、政府は今秋の本格着工に向けて作業を再開する。県側は決定を不服として、国の第三者機関である「国地方係争処理委員会」に審査を申し出る見通しだ。 
 石井氏は記者会見で、翁長知事の承認取り消しについて「普天間飛行場の移設事業の継続が不可能となり、周辺住民の危険性が継続する重大な損害が生じるため、これを避ける緊急の必要性があると認められる」と効力停止の理由を説明。「米国との信頼関係や日米同盟に悪影響を及ぼす可能性がある」とも述べた。
 中谷元・防衛相は記者会見で「速やかに準備を整え工事に着手していきたい」と述べ、中断している海底のボーリング調査などを再開すると同時に、辺野古沖を埋め立てる新基地建設の本体工事を早期に開始する考えを示した。
 同時に、政府は二十七日午前の閣議で、翁長氏による埋め立て承認の取り消しは違法だとして、地方自治法に基づき国が知事に代わって承認する行政代執行の手続きに着手することを了解した。国交相は二十八日にも、翁長氏に取り消し処分の是正を勧告・指示する。知事が応じない場合、国交相は代執行に向けた訴訟手続きに入る。
 菅義偉(すがよしひで)官房長官は記者会見で、翁長氏の承認取り消しについて「違法な処分だ」と批判。「普天間飛行場の危険性除去が困難となり、外交・防衛上、重大な損害を生じる」と代執行手続きを進める理由を説明した。


東京新聞 2015年10月27日 朝刊
地元3地区に国補助金交付へ 辺野古基地反対名護市の頭越し

懇談会で菅官房長官(左端)の発言を聞く、沖縄県名護市の区長ら=首相官邸で(小平哲章撮影)

 政府は二十六日、米軍普天間(ふてんま)飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)移設に伴う名護市辺野古(へのこ)への新基地建設をめぐり、予定地に隣接する地元三区の区長との懇談会を首相官邸で開き、政府が三区に地域振興の補助金を直接交付する新たな枠組みを創設する考えを伝えた。三区は条件付きで新基地建設に賛成している。名護市が反対する中、補助金支給で基地近くの住民が賛成しているとアピールする狙いだが、市は「地方自治への介入だ」と反発している。 (金杉貴雄)
 懇談会には、名護市の辺野古、豊原、久志の「久辺(くべ)三区」と呼ばれる地区の区長らが参加した。政府側は二〇一五、一六年度で三区に直接補助の枠組みを検討している、と説明した。菅義偉(すがよしひで)官房長官は「皆さまの今後の生活の向上、地域の振興に関し、できるだけ配慮するのは当然だ」と述べた。
 三区は新基地建設を受け入れる条件として、インフラ整備や住民への補償を求めている。懇談会で三区長は、防災備蓄倉庫や地区会館の修繕、芝刈り機の購入、あずまやの整備などを要望した。
 移設反対派の稲嶺進氏が市長に就任してからは国の米軍再編交付金が同市へ支給されず、三区への支援も滞っている。
 地域振興は、市町村などの地元自治体を通じて行うのが通例で、現在でも「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」に基づく周辺対策費は名護市に支給されている。
 三区は市に五十五ある「行政区」の一部だが、新基地建設の関連工事に対する権限はない。
 直接支給の新たな枠組みについて、防衛省の井上一徳沖縄防衛局長は懇談会後、記者団に「地元の要望にきめ細かく対応できるようにするため」と述べた。
 名護市の稲嶺市長は二十六日、「やり方が普通じゃない。地方分権の無視だ。法治国家としてやることか」と批判した。


日本経済新聞 2015/10/27 12:07
辺野古埋め立て、政府が代執行手続きへ 県の「取消」効力停止 
 菅義偉官房長官は27日の閣議後の記者会見で、沖縄県の米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古沿岸部への移設をめぐり、地方自治法に基づく国の是正指示や代執行の手続きに入ると発表した。翁長雄志知事に埋め立て承認を取り消した処分の是正を求め、応じない場合は提訴などを経て石井啓一国土交通相が知事に代わって処分を是正する。
 国交相は同日の記者会見で、埋め立て承認を取り消した県の処分に関して、効力を停止したことも発表した。行政不服審査法に基づく防衛省沖縄防衛局の申し出を認めたもの。沖縄防衛局は中断している移設作業を再開し、近く埋め立ての本体工事に着手する構えだ。
 27日の閣議で、公有水面埋立法を所管する石井国交相が地方自治法に基づく手続きに着手する方針を了解した。県に方針転換を促すのは困難として移設を急ぐため、より強い手続きに踏み込んだ。
 菅長官は県の承認取り消しに関し「違法な処分であり普天間基地の危険性除去が困難になる。外交防衛上の重大な損害が生じ、著しく公益を害する」と厳しく批判した。中谷元・防衛相は「国交省から文書が届き次第、速やかに移設工事に着手したい」と述べた。
 県は対抗するため、国と地方の争いを調停する総務省の国地方係争処理委員会に不服を申し立てる方針。政府が地方自治法に基づく手続きに着手したことを受け、法廷闘争に備えた準備も本格化させる。翁長氏は27日夜、記者会見し、今後の対応を説明する考えだ。

************************************



北海道新聞 2015/10/14 08:55
社説:辺野古承認撤回 移設作業の全面停止を


 沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事はきのう、米軍普天間飛行場の移設に向けた名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した。
 防衛省は作業を一時中断するが、審査請求と取り消し処分の効力停止を石井啓一国土交通相に求める。要求が認められるのは確実で、政府は移設を続行する方針だ。
 しかしその根拠となる行政不服審査法は本来、行政の不当な処分に対して国民が不服を申し立てる道を開き、「国民の権利利益の救済を図る」ことを目的とする。
 行政権を行使する立場の防衛省が、県民を代表する知事の決定に不服を申し立て、民意を踏みにじるのでは法の精神に反する。
 このままでは国と県の対立はさらに深刻化する。政府は移設作業を全面的に停止し、県側との対話と計画の見直しを進めるべきだ。
 翁長氏は、埋め立ての必要性に疑いがあるとした第三者委報告を根拠に、仲井真弘多(なかいまひろかず)前知事の承認には「瑕疵(かし)がある」と指摘した。
 これに対し菅義偉官房長官は記者会見で、手続きに法的瑕疵はないと主張。「工事を進めていく考えに変わりはない」と強調した。
 翁長氏は先の政府側との協議で、沖縄に米軍基地が集中する現状や海兵隊が駐留する必然性など根本的な疑問への回答を求めた。
 しかし政府側は普天間返還の日米合意を振りかざすばかりで、辺野古への移設を唯一の解決策とする明確な根拠を示せなかった。
 辺野古移設をめぐっては、米カリフォルニア州バークレー市議会が今年9月、計画に反対し、米政府に再考を促す決議を行った。
 日米合意を主導したナイ元米国防次官補も「沖縄の人々の支持が得られないなら、計画を再検討しなければならない」と述べた。
 過去の合意を盾に県民の声を抑え込むのなら、いったい誰のための政府か。計画見直しに向け、米国との再協議を探るべきだ。
 注目されるのは、先に入閣した島尻安伊子沖縄北方担当相の対応だ。参院沖縄県選挙区の選出で、2010年の参院選では県外移設を公約に掲げて当選した。
 その後は辺野古移設容認に転じたが、民意は熟知しているはずだ。政策に反映させる責務がある。
 安倍晋三首相は島尻氏の起用について「沖縄の心に寄り添った振興策を進めてほしい」と述べた。
 振興策はもちろん必要だが、問題の本質ではない。沖縄の心に寄り添うというならば、首相は自らの言葉を守り、県民の多くが反対する計画を撤回するのが筋だ。
ページのトップへ戻る



中国新聞 2015/10/14
社説:辺野古承認取り消し 問われる「基地と自治」


 政府との全面対決に踏み出したといえよう。翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事が、米軍普天間飛行場の移設に向けた名護市辺野古沿岸の埋め立て承認を取り消した。
 沖縄防衛局は行政不服審査法に基づき、取り消し処分の効力停止を国土交通相に速やかに申し立てる構えだ。認められれば移設関連の作業をすぐ再開するという。それに対し、県側は取り消しを求めて提訴する手はずである。
 対立が続くとすれば、法廷闘争は避けられそうにない。こうした異常事態に至ったことは残念でならない。
 行政手続きだけを考えると、前知事の承認を取り消す判断を継続性に照らして疑問視する声もあろう。しかし翁長知事の言い分は一定に理解できる。
 今後の焦点となるのは、取り消しの理由とした「瑕疵(かし)」の中身であろう。知事は辺野古での環境保全措置が十分ではないことを挙げた。さらに政府側が県内移設の理由とする安全保障上の地理的な優位性についても、その根拠が示されていないことを批判した。
 知事の説明は結論ありきの政府が、地元と正面から議論してこなかった問題点と重なる。なぜ辺野古移設が「唯一」の解決策なのか。沖縄側の最大の疑問に答えられていないことが問題の根底にある。普天間の危険除去が移設の目的だと言いながら「5年以内の運用停止」への努力も見えない。
 国の方は聞く耳を持たない。きのうも菅義偉官房長官は「前知事から行政の判断は示されており、法的瑕疵はない」とにべもなかった。県が設定した意見聴取の場に沖縄防衛局が姿を見せなかったのも大人げない。
 強気の国に対し、翁長知事も厳しい闘いになるとみている。裁判が長引き、その間に本体工事が進めば、移設が既成事実になりかねない。それでも取り消しに踏み切ったのは、ここで諦めれば基地問題全体の解決が遠のくと考えるからだろう。
 記者会見で知事が「地方自治や民主主義の在り方を議論する機会にしたい」と述べた意味は重い。沖縄だけではない。日米安保条約の下で政府と基地を抱える自治体の多くは時に対立関係にあった。航空機の騒音や事故の危険性、米兵犯罪などが住民の安全を脅かすからだ。しかし歴代政権は安全保障を「専権事項」として自治体の声より米軍を重んじてきた。少なくとも今は国と地方が対等の関係であるにもかかわらず。
 基地をめぐる埋め立ての認可権限は、その中でも自治の現場が異議を申し立てることができる数少ないカードだ。今回、翁長知事はそれを最大限使って国に物申したことになる。県民の財産権や人権、暮らしを犠牲にしてまで安全保障を成り立たせる論理はおかしい、日本全体で考える問題ではないか、と。
 だからこそ国に慎重な対応を求めたい。そもそも県の処分の効力停止の申し立てにしても、行政の処分に不満がある国民の救済を目的とした制度だ。国の申し立てを国が判断することには違和感が拭えない。せめて国交相は知事の主張を十分に聞き取り、徹底して審査すべきだ。
 国の側も司法判断に委ねる覚悟なら、少なくとも決着を待たねばなるまい。本体工事を強引に目指すのは論外である。
ページのトップへ戻る



=2015/10/15付 西日本新聞朝刊=
社説:辺野古取り消し 本土も自分のこととして


2015年10月15日 10時37分
 沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事は、米軍普天間飛行場の移設予定地である名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を正式に取り消した。対抗措置として防衛省はきのう、行政不服審査法に基づく審査請求と効力停止を国土交通相に申し立てた。
 国民が行政に不満がある際の不服申し立てが政府の妥当な対応か疑問だ。同じ政権の国交相が防衛省の主張を認める可能性は高い。政府は地方自治法による知事への是正指示、県は地方分権で導入された国地方係争処理委員会への審査申し出で対抗することも考えられ、法廷闘争となる見通しだ。
 司法の場に持ち込まれれば結論までに長期間を要する。政府にはその間に移設工事を進めて「辺野古」を既成事実化する思惑もあるという。もしそうだとすれば、姑息(こそく)な手法と言わざるを得ない。
 双方が対抗手段を応酬し合っても、生まれるのは抜き差しならない対立感情、政治や行政への不信感だけだろう。もちろん、ここまで事態がこじれた最大の要因は安倍晋三政権が沖縄の民意に正面から向き合おうとしないためだ。
 今夏、移設工事を中断した1カ月の集中協議期間に、沖縄県は県民の声や基地の実情を訴えたが、閣僚からは具体的な意見も反論もなかったという。ただ「聞きました」という実績作りだったのか。
 「内閣の姿勢として沖縄県民に寄り添って解決しようという気持ちが薄い」と知事は言う。外交・防衛は国の専権とされるが、だからといって「地方は国に従え」では地方自治も地方分権もない。
 沖縄の米軍基地問題は、全国の74%もの基地が集中する沖縄県の現実を直視するとともに、その負担軽減をどう図るかという原点に戻って考えるしかない。それは、沖縄県民が選挙や県民投票で繰り返し示してきた民意でもある。
 基地問題は外交・防衛にとどまらず、民主主義や地方自治のあり方とも結びつく。沖縄に限った話でもない。本土に暮らす私たちも自分のこととして沖縄の米軍基地問題を考えたい。そこに打開のヒントがあるのではないか。
ページのトップへ戻る

//////////////////////////////////////////////////////////


0 件のコメント: