2015年10月15日木曜日

辺野古取り消し 政府は新基地断念すべきだ

民意実現の出発点に 沖縄苦悩に向き合え  不服審査請求 政府は民主主義に立ち返れ

<各紙社説・主張>
朝日新聞)辺野古移設 沖縄の苦悩に向き合え(10/14)
毎日新聞)辺野古取り消し やむを得ない知事判断(10/14)
日本経済新聞)沖縄の基地のあり方にもっと目を向けよ (10/14)
東京新聞)辺野古取り消し 県内移設は白紙に戻せ(10/14)
しんぶん赤旗)「辺野古」取り消し 米軍新基地は絶対に造れない(10/14)

琉球新報)不服審査請求 政府は民主主義に立ち返れ(10/15)
琉球新報)承認取り消し 民意実現の出発点に 政府は新基地断念すべきだ(10/14)
沖縄タイムス)[防衛局が対抗措置]米軍優先ここに極まる(10/15)
沖縄タイムス)[知事 承認取り消し]国民的議論を喚起せよ(10/14)




以下引用



朝日新聞 2015年10月14日05時00分
(社説)辺野古移設 沖縄苦悩に向き合え


 沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事がきのう、米軍普天間飛行場の移設先となる名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した。
 これに対し、政府は直ちに行政不服審査請求などを行う方針だ。政府と県が行政手続き上、司法上の対抗策を打ち合うなかで、民意に反した基地建設が進む。そんな異常事態は、何としても避けなければならない。
 政府は埋め立ての法的根拠を失った以上、計画は白紙に戻し改めて県と話し合うべきだ。
 前知事による承認から1年10カ月。翁長知事は取り消しに向けて周到に準備を重ねてきた。
 「承認手続きに瑕疵(かし)がある」との結論は、第三者委員会が半年かけて導き出した。
 第三者委は移設の必要性について「実質的な根拠が乏しい」と指摘。「米軍沖縄配備の優位性」などの政府の主張にも具体的な説明がないとした。
 翁長知事は政府との集中協議でもこれらの点を問いただしたが、政府は「辺野古移設が唯一の解決策」と繰り返すばかり。説得力ある説明はなかった。
 翁長知事は先月、ジュネーブでの国連人権理事会の演説で、「沖縄の人々は自己決定権や人権がないがしろにされている」と訴えた。基地問題を人権問題ととらえての主張である。
 戦後、米軍に土地を強制接収され、次々と米軍基地が造られた歴史。戦後70年、米軍による犯罪や事故に巻き込まれる危険、航空機の騒音などの「基地被害」と隣り合わせの生活を余儀なくされてきた歴史。
 そして、いまなお全国の米軍専用施設面積の73・8%が、国土の0・6%にすぎない沖縄県に集中している現実。
 これはまさに、沖縄に対する「差別」ではないのか。
 日米安保条約を支持する政府も国民も、そうした沖縄の現実に無関心でいることによって、結果として「差別」に加担してこなかったか――。
 翁長知事による埋め立て承認取り消しは、政府に、国民に、そこを問いかけるメッセージだと受けとめるべきだ。
 残念なのは、ジュネーブでの知事の演説に対し、菅官房長官が「強い違和感を受ける。国際社会では理解されない」と冷淡な対応に終始したことだ。
 行政手続きや司法判断の結果がどうあれ、政府と沖縄の亀裂がこれ以上深まれば米軍基地の安定運用も危うくなるだろう。
 政府に求められるのは、沖縄の苦悩を理解し、人権や自己決定権に十分配慮する姿勢だ。まず計画を白紙に戻すことが、そのための第一歩になる。
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毎日新聞 2015年10月14日 02時34分
社説:辺野古取り消し やむを得ない知事判断


 沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設計画をめぐり、翁長雄志(おなが・たけし)知事が移設先の名護市辺野古の埋め立て承認を取り消した。国と県の対立は決定的となり、最終的に法廷闘争に持ち込まれる可能性が高まった。異常な事態であり、残念だ。
 県は、前知事による埋め立て承認に「瑕疵(かし)があった」と主張し、国は「瑕疵はない」という。言い分は真っ向から食い違い、法的にどちらに理があるかは、まだ判断し難い。
 だが、今回のことは、安倍政権が県の主張に耳を傾けず、移設を強行しようとした結果ではないか。県の取り消し判断はやむを得ないものと考える。
 翁長氏は、記者会見で、今夏の1カ月間の政府と県の集中協議などを振り返って「内閣の姿勢として、沖縄県民に寄り添って問題を解決していきたいというものが薄い」と政府への不満を語った。
 菅義偉官房長官は、県の取り消し決定について「日米合意以来、沖縄や政府の関係者が重ねてきた普天間の危険性除去に向けた努力を無視するものだ」と批判した。溝の深さを改めて見せつけられるようだった。
 今回の取り消しにより、政府は埋め立て工事と前段のボーリング調査について、法律上の根拠を失う。
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 政府は対抗措置として、行政不服審査法に基づき国土交通相に対し不服審査請求をする予定だ。あわせて取り消し処分の一時執行停止も申し立てる。執行停止が認められれば、政府はボーリング調査を再開し、来月にも本格工事に着手する構えだ。
 だが行政不服審査法は、行政に対して国民の権利を守るのが本来の趣旨だ。国が国に訴え、それを同じ国が判断することには違和感がある。
 不服審査の結果が出るまでには数カ月かかるとされ、最終的には国か県のいずれかが結果を不服として提訴すると見られる。そこまでして辺野古に代替基地を造ったとしても、安定的に運用できないだろう。
 翁長氏が知事に就任して10カ月。この間、安倍政権は辺野古移設計画を進めるにあたり、県の意向をくみ取ろうとする姿勢に乏しかった。一時期は、翁長氏と会おうともしなかった。
 今回、県は、取り消しの通知書とともに、15ページにわたって理由を記した文書を政府側に提出した。そこには「普天間が他の都道府県に移転しても、沖縄には依然として米軍や自衛隊の基地があり、抑止力が許容できない程度にまで低下することはない」など、辺野古移設への疑問が列挙されている。
 政府が今すべきは、強引に辺野古移設を進めることではなく、移設作業を中止し、これらの疑問にきちんと答えることではないだろうか。
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日本経済新聞 2015/10/14付
社説:沖縄の基地のあり方にもっと目を向けよ


 米軍普天間基地の移設を巡る政府と沖縄県の対立がいよいよ抜き差しならないところまで来た。残念な事態と言わざるを得ない。どうすれば折り合えるのかを国民全体でよく考えたい。
 普天間基地は沖縄県宜野湾市の市街地にある。11年前、米軍のヘリコプターが大学キャンパスに墜落する事故があった。住民は常に危険と隣り合わせで暮らす。
 同基地を人口が比較的少ない同県名護市辺野古に移すという政府の方針は妥当である。
 他方、沖縄県の翁長雄志知事は県外移設を求め、前知事が下した移設先の埋め立て許可を取り消した。「沖縄に集中する基地負担が固定化する」との判断だ。
 埋め立て許可やその取り消しが妥当かどうかは、公有水面埋立法を所管する国土交通相が判断する権限を持つ。防衛相は近く審査請求する。国交相は移設工事の続行を認めるとみられる。
 その後は知事が国交相の決定への不服を裁判所に申し立てるなどの形で、法廷闘争に入ることになろう。最終決着は最高裁に委ねるしかないが、そもそも司法で争うのになじまない問題である。
 一連の法手続きは公権力が個人の私権を侵害した場合の救済措置として設けられた。その仕組みのもとで政府と地方自治体が争うのは、政治の調整力のなさを露呈するものである。
 米軍基地を全廃すべきだと考える沖縄県民はさほど多くない。県民の怒りの矛先は、基地が沖縄に偏りすぎているといくら言っても、全く振り向かない本土の無関心に向いている。
 沖縄にある米軍基地の中には本土にあって差し支えのない施設が少なくない。だが、本土に移すとなると相当な反対運動を覚悟せざるを得ないため、米統治時代のままの体制がおおむね維持されてきた。政府は沖縄の基地負担の軽減にもっと努める必要がある。
 沖縄にはどれぐらいの防衛力があればよいのか。日米両政府や与野党が基地のあり方にもっと目を向け、真剣な議論を展開すれば、沖縄県民も自分たちが置かれた立場を理解するようになるはずだ。
 本土のわがままで沖縄がひどい目にあっている。県民がそう思っている限り、たとえ最高裁が名護市への移設にお墨付きを与えても摩擦はなくならない。移設を円滑に進めるのに必要なのは、本土側の真摯な取り組みである。
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東京新聞 2015年10月14日
【社説】辺野古取り消し 県内移設は白紙に戻せ


 沖縄県の翁長雄志知事が辺野古沿岸部の埋め立て許可を取り消した。これ以上の米軍基地押し付けは認めない決意の表れである。政府は重く受け止め、普天間飛行場の県内移設は白紙に戻すべきだ。
 政府側に提出された通知書では「地理的に優位」とされている県内移設について、時間、距離などの根拠が示されておらず、県外移設でも抑止力は大きく低下しないと指摘。環境保全措置が適切、十分に講じられていないことも、仲井真弘多前知事による埋め立て承認に法的瑕疵(かし)(誤り)があった理由に挙げている。
 翁長知事の判断は妥当である。
 住宅地などが迫り、危険な米軍普天間飛行場(宜野湾市)返還は急務ではあるが、沖縄には在日米軍専用施設の約74%が集中する。
 米海兵隊の基地を置き続ける必要があるのなら、政府はその理由を説明しなければならないが、これまで県民が納得できるだけの明確な説明は聞いたことがない。
 そもそも沖縄の米軍基地は、戦後の米軍政下で住民の土地を「銃剣とブルドーザー」で強制的に収用したものであり、駐留する海兵隊は、反対運動の激化に伴って日本本土から移駐してきたものだ。
 こうした歴史的経緯を顧みず、駐留継続の合理的な理由も説明せず、米軍基地を引き続き押し付けるのであれば、沖縄県民に過重な米軍基地負担と犠牲を強いる「沖縄差別」でしかない。
 沖縄県民は、国政や地方自治体の選挙を通じて県内移設に反対する民意を示し続けてきたが、安倍政権は無視してきた。
 選挙で支持されたからと強弁して安全保障法制の成立を強行する一方で、沖縄の民意を無視するのは二重基準ではないのか。
 政府は八月から一カ月間、米軍基地問題について県側と集中的に協議し、その間、海底掘削調査を一時中断していたが、これも安保法制成立のために国民の反発を避ける手段にすぎなかったのか。
 埋め立て承認に法的瑕疵はないとする政府は、行政不服審査法に基づく不服審査請求を行うなど着工に向けた作業を継続する構えだが、そもそも政府が不服を申し立てられる立場にあるのか。法の趣旨を逸脱してはいないか。
 安倍政権が今なすべきは、選挙で示された沖縄県民の民意を謙虚に受け止め、普天間飛行場の県内移設を白紙に戻し、県外・国外移設を米側に提起することである。県側に法的に対抗することでは、決してないはずだ。
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しんぶん赤旗 2015年10月14日(水)
主張:「辺野古」取り消し 米軍新基地は絶対に造れない


 沖縄県の翁長雄志知事が、米海兵隊普天間基地(宜野湾市)に代わる新基地建設(名護市辺野古)に必要な埋め立て承認を正式に取り消しました。圧倒的多数の県民の願いに応え、翁長知事が掲げてきた「あらゆる手法を駆使して辺野古に新基地は造らせない」との公約実現に向けた歴史的な決定です。翁長知事が政府に対する埋め立て承認取り消しの通知書で示した通り、どんな点からも辺野古の新基地建設には道理がありません。政府が取るべき道は、知事の決定を失効させようとする不当な「対抗措置」などではなく、新基地建設をきっぱり断念することです。
県民の願いに応えた決定
 辺野古の新基地建設に必要な埋め立て承認は、仲井真弘多前知事が一昨年末に、普天間基地の「県外移設」という自らの選挙公約を覆し、県民を裏切って強行したものでした。これに対し、翁長氏は昨年11月の知事選で新基地建設阻止の公約を掲げ、仲井真氏に10万票もの大差で圧勝しました。翁長知事は、仲井真前知事の埋め立て承認を検証する第三者委員会を設置し、今年7月に「法律的瑕疵(かし)がある」とする報告を受けて、承認取り消しの判断を下しました。
 今回の翁長知事の決定は、選挙での県民の負託に応え、仲井真前知事による埋め立て承認について、根拠法である公有水面埋立法の規定に照らして詳細に検討した上で行われた正当な行為です。
 菅義偉官房長官は知事の決定について「沖縄や政府の関係者が重ねてきた普天間飛行場の危険性除去に向けた努力を無にするものだ」などとうそぶきました。沖縄の民意を敵視する極めて傲慢(ごうまん)な態度に他なりません。
 翁長知事は承認取り消しの通知書で▽新基地建設の理由とされる「沖縄の地理的優位性」や「海兵隊の一体的運用の必要性」に関し、具体的な根拠が何も示されていない▽辺野古沿岸部は自然環境の点で極めて貴重な価値があり、埋め立てによってその回復はほぼ不可能になる▽新基地建設によって航空機騒音が増大し、住民の生活や健康に大きな被害を与える可能性がある▽在日米軍専用基地面積の約74%を抱える沖縄の過重負担の固定化につながる―ことなどを指摘しました。承認取り消しにこそ大義があることは明らかです。
 政府は、翁長知事の決定に対し、公有水面埋立法を所管する国土交通相に行政不服審査法に基づく審査を請求するとともに、裁決が出るまで承認取り消しの執行停止を申し立てる方針です。しかし、行政不服審査法は、違法・不当な公権力の行使から国民の権利や利益を救済するのが目的です。沖縄県民の権利や生活を脅かす新基地建設のため、同法を悪用することは言語道断です。
たたかいが建設阻止の鍵
 翁長知事は記者会見で、今後の政府との法廷闘争の難しさに触れつつ、新基地建設反対の世論と運動、地元名護市や県の決意を挙げ、工事が再開されたとしても「新辺野古基地は造れない」との確信を語りました。最近公表された米議会調査局の報告書も、新基地建設問題は「新たな局面」に入り、「日米両政府が強圧的な行動を取れば一層激しい反基地運動を生む」と警告しています。新基地建設阻止の最大の保証は、たたかいと世論を一層大きく広げることです。
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琉球新報 2015年10月15日 06:02
<社説>不服審査請求 政府は民主主義に立ち返れ


 辺野古新基地を拒否する沖縄の民意を政府はいつまで無視し続けるつもりなのか。今求められるのは行政の継続性よりも、民意に反した施策は許されぬという民主主義の基本に立ち返ることだ。
 翁長雄志知事による辺野古埋め立て承認の取り消しに対し、沖縄防衛局は行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止を国土交通相に申し立てた。
 菅義偉官房長官は14日午前の会見で「防衛省で承認取り消し理由を精査した結果、瑕疵(かし)はない」と申し立て理由を説明した。13日の会見では「行政の継続性という観点から埋め立てを進めるのは当然のこと」とも述べた。
 このような政府の姿勢は民主的手続きに反するものだ。翁長県政発足と承認取り消しに至る過程を見れば、政府の主張は全く理にかなわないのは明らかだ。
 翁長知事は、埋め立て承認の妥当性を検討した第三者委員会の報告を踏まえ、公有水面埋立法に照らして前知事の埋め立て承認には法的瑕疵があると判断した。ここに至るまで、県は行政的な理由を積み上げたのである。
 「法的瑕疵がない」という政府の抗弁は、環境保全や基地重圧からの脱却という県民益を踏まえた行政判断を否定するものだ。地方自治の理念をも逸脱している。
 「行政の継続性」も納得できない。昨年の県知事選で、県民は埋め立てを承認した前知事の公約違反を批判し、新基地阻止という民意の実現のため翁長県政の誕生を選択したのだ。政府はこの事実から目を背けてはならない。県民の選択を尊重すべきだ。
 国交相が承認取り消しの執行停止を判断した場合、県と政府は法廷闘争に入ることが予想される。法廷では承認取り消しの法的有効性が争われることになる。
 日弁連は「(承認取り消しは)法的に許容されるものだ」とする会長声明を発表し、知事判断を支持した。前知事の承認は「法律的な瑕疵が存在し、瑕疵の程度も重大」というのが、その理由だ。法的見地を踏まえた日弁連の声明に敬意を表したい。
 政府は県を批判する際、法治国家という言葉を用いてきたが、法的瑕疵が指摘された埋め立て承認に固執し続けること自体、法治国家を否定するものだ。政府はそのような愚行をやめ、新基地建設を直ちに断念すべきだ。それが民主国家のあるべき姿である。
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琉球新報 2015年10月14日 06:01
<社説>承認取り消し 民意実現の出発点に 政府は新基地断念すべきだ


 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古沿岸部への新基地建設をめぐり、翁長雄志知事が前知事の埋め立て承認を取り消した。
 沖縄の将来を見据え、新基地建設阻止への決意を示す意義ある一歩として高く評価したい。
 裁判などで問題解決までには長い道のりが予想される。だが、新基地建設反対の民意は圧倒的であり、土地を同意なく奪って建設した普天間飛行場の形成過程からしても、理は知事にある。
 阻止運動を県外、国外に広げ、新基地建設断念と普天間飛行場の閉鎖を勝ち取る新たな出発点に、承認取り消しを位置付けたい。
犯罪的な行為
 知事は埋め立て承認取り消し後の会見で、普天間飛行場は戦後、県民が収容所に入れられている間に、強制接収されて建設されたことをあらためて強調した。その上で「辺野古に移すということは、土地を奪っておきながら代わりのものも沖縄に差し出せという理不尽な話」と批判した。普天間飛行場が国際法に反して建設されたことは明らかである。知事の批判は当然だ。
 ところが、菅義偉官房長官は知事の承認取り消しを「沖縄や政府が重ねてきた普天間飛行場の危険性除去の努力を無にするものだ」と批判した。「政治の堕落」を指摘されたことから何ら学んでいないと言わざるを得ない。車の窃盗犯が持ち主である被害者に「古くなった車を返すから新車をよこせ」と開き直るような姿勢は改めるべきである。
 政府はそんな犯罪的な行為を国民の面前で恥ずかしげもなく行っているのである。これで法治国家と言えるだろうか。官房長官が知事を批判するなど、筋違いも甚だしい。
 官房長官が言うように、政府はこれまで普天間飛行場の危険性の除去に努力してきただろうか。
 新基地は完成までに10年かかるとされる。危険性を除去し、固定化させないための辺野古移設としながら、10年間は固定化し、危険性もその間放置されるのである。政府が真剣に危険性除去を考えるならば、直ちに普天間飛行場を閉鎖すべきだ。そうしないのは県民軽視以外の何物でもない。
 普天間飛行場の危険性除去や固定化回避を持ち出せば、新基地建設に対する県民の理解が得やすいといった程度の認識しかないのではないか。
 前知事の埋め立て承認の条件ともいえる普天間飛行場の5年以内の運用停止の約束も、ほごにしている。政府の言う「努力」はこの程度のものでしかない。
普遍的な問題
 本来ならば、知事の承認取り消しを政府は重く受け止め、新基地建設の作業を直ちに停止すべきである。しかしそのような常識が通用する政府ではないようだ。
 中谷元・防衛相は「知事による埋め立て承認の取り消しは違法」と述べ、国交相に知事の承認取り消しの効力取り消しを求める不服審査請求と執行停止申し立てを速やかに行うとしている。
 同じ政府機関が裁決して公正を保つことはできない。政府側に有利になる可能性は極めて高い。これが官房長官の言う「わが国は法治国家」の実態である。
 新基地建設は沖縄だけの問題ではない。普遍的な問題を包含している。新基地建設に反対する圧倒的な民意を、政府は踏みにじろうとしている。日本の民主主義が問われているのである。日米同盟を重視し、民意は一顧だにしない政府を認めていいのかが突き付けられているのである。優れて国民的問題だ。
 知事は「これから節目節目でいろんなことが起きると思う」と述べている。新基地建設問題の本質をしっかり見極めてほしいということだ。そのことを深く自覚し、声を上げ続けることが今を生きる私たちの将来世代に対する責任である。
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沖縄タイムス 2015年10月15日 05:30 
社説[防衛局が対抗措置]米軍優先ここに極まる


 3月とまったく同じ手法である。知事権限の実質的無力化を狙ったこの手法は、政府の意図とは裏腹に復帰後も続く米軍優先の政策によって、沖縄の地方自治権が著しい制約を受けていることを浮かび上がらせる。
» 基地と原発のニュースをフクナワでも
 翁長雄志知事が名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消したことに対し、沖縄防衛局は14日、行政不服審査法に基づき取り消しの無効を求める審査請求書と、裁決が出るまで取り消しの効力を止める執行停止申立書を石井啓一国土交通相に提出した。承認取り消しの翌日、間髪を入れず対抗措置に打って出た。
 埋め立て承認は公有水面埋立法によるため、同法を所管する国交相が、防衛局の意見と県の反論を聞いた上で結論を出す。しかし国の機関である防衛局の申し立てを、同じ国の機関である国交省が審査するというのでは、初めから結論が見えている。
 ことし3月に翁長知事が防衛局に出した海底作業の停止指示に対し、関係法を所管する農相が指示を無効にする執行停止を決めた時と同じ経過をたどることは容易に想像できる。
 そもそも行政不服審査法は、強大な公権力から「国民の権利利益の救済を図る」ものだ。辺野古の埋め立ては、国が米国に基地を提供するための事業であり、行政主体としての国が審査請求することを想定していない。
 「埋め立て承認は一般私人と同様の立場で受けた」とする政府の解釈は法の趣旨をゆがめる。
    ■    ■
 防衛局は取り消しを不服とする申立書の中で、普天間飛行場を県外に移設できない理由として「司令部、陸上・航空・後方支援部隊を組み合わせた海兵隊の一体的運用」を挙げている。
 だが現実には在沖海兵隊の主力部隊である第4海兵連隊はグアムに移ることが合意されている。残る第31海兵遠征部隊(31MEU)もアジア太平洋地域をローテーションで回っていて常時沖縄にいるわけではない。兵士を運ぶ揚陸艦の拠点は佐世保、戦闘機部隊の基地は岩国にあり、運用は既にばらばらだ。
 さらに防衛局は執行停止が必要な理由として普天間の危険性除去の「遅滞」を強調するが、前日の会見で翁長知事は「(新基地が完成するまで)10年間、普天間をそのままにしておくこと自体が固定化だ」と痛烈に批判した。
 前知事が安倍晋三首相と約束したという「5年以内運用停止」も既に破綻しており、移設計画の見直しこそが危険性除去の近道である。
    ■    ■
 普天間飛行場の返還を米側に提起した当時の橋本龍太郎首相は「地元の頭越しには進めない」との言葉を繰り返した。事件や事故、騒音、環境汚染など基地から派生する問題が県民生活に大きな影響を与えている以上、この約束は最低限の原則である。
 このまま移設が強行されれば、日本の安全保障のためだと言いながら安全保障の土台を崩すことになるだろう。
 政府はいま一度、「県民の頭越しには進めない」という原点に立ち返るべきだ。
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沖縄タイムス 2015年10月14日 05:30 
社説[知事 承認取り消し]国民的議論を喚起せよ


・翁長知事が強調してきたのは過重な基地負担の理不尽さだ
・民意を顧みず基地を造り他国の軍隊に差し出そうとする政府
・そんな主権国家があるだろうか。同じ事例が他府県にあるだろうか
 「本日、普天間飛行場代替施設建設事業にかかる公有水面埋め立て承認を取り消しました」。県庁6階で行われた記者会見。翁長雄志知事は前を見据えきっぱり言い切った。
 国の埋め立てを承認した前知事の判断を後任の知事が取り消すのは前例がない。取り消しを発表した翁長知事にとっても、沖縄県にとっても歴史的な重い判断である。
 翁長知事は会見で「日本国民全体で日本の安全保障を考えてもらいたい」「日本全体で安全保障を考える気概がなければ他の国からも尊敬されない」と繰り返した。
 翁長知事が就任以来強調してきたのは、沖縄の過重負担の上に成り立っている日米安保体制のいびつさである。翁長知事が退路を断ち、背水の陣で訴えたことを、本土の人たちはよそ事でなくわが事として受け止めてほしい。
 これを機会に米軍駐留と負担について国民的議論を巻き起こす必要がある。
    ■    ■
 2013年12月、仲井真弘多前知事が辺野古埋め立てを承認した。政府はこれを錦の御旗としてボーリング調査など本体工事に向けた作業を続けている。仲井真氏の選挙公約は「県外移設」だった。にもかかわらず承認直前、東京の病院に閉じこもり、政府と「裏交渉」を重ねた。県議会や県民に対する説明責任を一切果たさないまま埋め立てを承認し多くの県民の誇りを傷つけ、怒りを買った。その結果が14年11月の選挙である。
 今回の翁長知事の承認取り消しは選挙公約に基づく民意に即した決断といえる。
 翁長知事には忘れられない光景がある。那覇市長時代の13年4月、衆院予算委員会と南部市町村会の懇談会における自民党委員の発言である。「本土で嫌だって言っているんだから、沖縄で受け入れるしかないだろう。不毛な議論はやめよう」と言い放った。
 自民党議員のあからさまな発言は、中谷元・防衛相の言葉にも通じる。中谷防衛相は「(本土は)今はまだ整ってないから、沖縄が受けるしかないんですよ」と言った。
 基地を沖縄に押し込める思考停止ぶりは何も変わらない。海兵隊駐留が沖縄でなければならない軍事的理由はない。政治的に不都合だから沖縄に配備し続けているのであり、元防衛相の森本敏氏も現職時代に明言している。理不尽としかいいようがない。
    ■    ■
 翁長知事の取り消しは、新基地建設阻止に向けたスタートであり、むしろこれからが本番である。
 政府は新基地建設をやめる気がない。知事の取り消しを受け、中谷防衛相は行政不服審査法に基づき14日以降、石井啓一国土交通相に取り消し無効を求める審査請求と裁決が出るまでの執行停止を求める考えを明らかにした。
 行審法の本来の趣旨は、行政庁の違法な処分によって侵害された「国民の権利利益」の救済を図ることである。
 国民のための制度を国の機関の沖縄防衛局が使うのは法の趣旨を曲げており、国の機関が審査請求などの不服申し立てをすることはできないというべきだ。
 3月にも沖縄防衛局が投入したコンクリート製ブロックがサンゴ礁を傷つけた可能性が高いとして翁長知事が防衛局に海底作業の停止を指示。防衛局は、審査請求と指示の効力停止を当時の林芳正農相に申し立て、6日後に効力停止を決定している。
 国の機関である沖縄防衛局が国の国土交通相に不服審査を申し立てるのは政権内の「出来レース」である。三権分立の趣旨からしても行政府の中ですべてを決めるやり方は乱暴だ。第三者機関である国地方係争処理委員会や高等裁判所の判断に委ねるのが筋である。
 翁長知事は安倍政権について「沖縄県民に寄り添ってこの問題を解決していきたいという考えが大変薄いのではないか」と強く批判した。
 何度民意を示しても一顧だにせず辺野古の陸でも海でも公権力を強引に行使し、けが人が出ても問答無用とばかりに作業を強行する。そのようにして新基地を建設し、他国の軍隊に差し出そうとする主権国家がどこにあるだろうか。このような事例が他府県のどこにあるだろうか。
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